RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

文字の大きさ
3 / 205
幼少期編

02 領主の息子

しおりを挟む
私の――名はサイラス。ウィリス村の領主だというアイザック・ウィリスの息子、ということになった。孤児だった私には名前がなかったし、名前をもらえたのは、正直嬉しかった。その………性別が違う名前だったけど。

そう。私は、女だ。

けど、生きるために性別を偽った。だからサイラスとして生きてゆく。


私の家族は、父親がアイザック――茶髪に青色の瞳の背の高いオッサン――に、母親がキャサリンといってくすんだ金髪に灰色の瞳のおっとりしたオバサンの二人。息子もどきを探していただけあって、兄弟姉妹はいなかった。
後で知ったことだけど、領主夫妻に子供、つまり跡取りがいないのは、非常にマズいことなんだそうだ。子供ができないと、家が取り潰しになって領地を取りあげられる。だからアイザックは死体を漁ってまで、『息子と偽れる子供』を探していた、というわけ。
……どんだけ必死なんよ。お貴族様ってそんなにいいものかなぁ?生活水準が庶民並みの貧乏貴族なのにさ。解せぬ。


ここはウィリス村。大きな暗い森が迫る小さな集落。領地はこの小さな集落とその周辺の田畑のみ。子供でも半日で一周できる、笑っちゃうくらい小さな領地だ。
わかるでしょ?貴族とは名ばかり。暮らしは他の村人と大差ない。服は下着以外は何日も同じものを着ているし、当然いい服なわけがない。すり切れぎは当たり前。お風呂に入る文化もないから、袖口とかはあかで黒ずんでいる。それがフツー。誰も気にしない。

拾われた先が貧乏領主なんて運がない?いやいや、むしろ超幸運だよ。屋根のあるところで寝られて、とりあえず毎日食べられるし、何より親の前で裸にならなくてよかったんだから。
体を洗う場所は、近くの小川。村人は時間が被らないように適当に水浴びをしている。冬は家でぬるま湯を作って、布で体を拭くだけ。服を全部脱ぐ必要はない。

風呂なし生活に感謝する日が来るなんて、ねぇ…。

よって、性別詐称はバレることなく、私は領主の息子としてこの村で幼少期を過ごすことになる。

◆◆◆

アイザックに拾われて、数日が過ぎたある日。私はアイザックに連れられて、隣村を治める貴族に挨拶に行くことになった。
「いいか。私が話すからおまえは余計なことを言わず、話を合わせろ?な?」
と、アイザックから耳にタコができるほど言いつけられた。

曰く、跡取りが生まれると、隣近所の領主にお披露目の挨拶に行くのが通例だそうだ。戸籍というシステムはない。紙――羊皮紙は大変高価で、小粒貧乏領主にとっては贅沢品。ちょっとしたことを記録するために使えるものではないとのこと。だから、跡取りの有無は、定期的に挨拶に訪れ、各人の記憶に残す、という大変原始的な方法をとる。面倒くさいことこの上ないけど、重要な案件だというのだから仕方がない。


ニマム村までは、馬で半日もあればたどり着く。ここもウィリス村と同じような、森の縁に広がる小さな集落だった。民家のまわりに田畑があるそれ。領主、というか村長の家といった方がしっくりくる家で、アイザックはここの領主、ヘクターという爺ちゃんとぼそぼそ世間話をした。話の内容は、畑のこととか森のこととかいろいろ…お互いの近況報告だ。ちなみに、ヘクター爺ちゃんには既に成人した息子と娘がいて、彼らとも顔を合わせた。

話が終わると、アイザックは私をずいと前に出した。
「息子のサイラスだ。五つになる。」
サイラスは五歳という設定らしい。まあ見た目からしても妥当な歳だ。私自身、自分の正確な年齢も誕生日もわからないから、設定してくれるならそれに従う。
「アイザック・ウィリスが息子、サイラスと申します。以後、お見知りおきを。」
そう言ってペコリとお辞儀をすれば、なぜか周りにいた大人たちが黙りこんだ。
………あれ?
なんかマズいこと言った?フツーに『ご挨拶』しただけ……だよね?
「い…いやぁ、小さいのにしっかりした子だの。もう一丁前に挨拶ができるのな。」
数秒後、ヘクターの爺ちゃんが破顔して、私の頭をわしわしと撫でた。
「あ…ああ、それはどうも…」
しどろもどろになりながら、答えるアイザックは…小声で「以後、お見知りおきを…なんてどこで覚えたんだ?」と首を捻っている。
ハッ!そういや普通の五歳児はそんな小難しい言い回しなんかしないわ。ついうっかり『私(※大人)』の語彙を使っちゃったよ。いかんいかん…

◆◆◆

その日はニマム村に一泊し、翌朝、ヘクター爺ちゃん達に別れを告げて、私たちは次の目的地へと向かった。行き先はモルゲン。
「モルゲンはここいらでは大きな街だ。商人も来る。」
アイザックが説明した。心なしか緊張しているみたい。曰く、田畑の作物の売り先であり、村で手に入らない生活用品を買える街なのだとか。そして、何より強調されたのは、モルゲン領主は爵位持ちの偉い人だから、くれぐれも失礼のないように、とのことだった。挨拶は、ヘクター爺ちゃんにしたのと同じようにやれ、と指示された。


昼を回る頃、モルゲン領の市街地を取りまく城壁が見えてきた。
(おおっ!街だ!)
今まで貧相な柵で囲んだ農村しか見たことがなかったから、初めて見る城壁に興奮する。

中世だ!中世ヨーロッパだよファンタジーじゃん!

もう、わくわくの連続だよ。
三階建てのビルくらいは高さのある石の城壁。深く掘られた堀と、跳ね橋。馬上から見下ろすと、その深さに身体の芯がずくんと震える。そして城門の両脇に立つ衛兵。漫画やアニメに出てくるような軍服を着て帯剣し、背筋をビシッと伸ばして検問の列を睨む姿……

本物だよ!カッコイイ!

モルゲンの中心街は、ハーフティンバーの家々が建ち並ぶ、おとぎ話そのものの光景だった。田舎とは比べものにならない人の数、人の種類。
城門の近くに市場があって、露店の天幕が密集する中、所狭しと置かれた籠や敷物には、山盛りの野菜や肉、魚、チーズの塊。奥では羊毛かな。ふわふわした白いモノが見える。鳴き声が聞こえると思ったら、柵の中でガチョウやヤギといった家畜まで売られていた。

軽くヨーロッパ旅行に来た気分だね。

客を呼ぶ威勢のいい声に心が浮き立つ。
いいねぇ~、活気があってさ!
心躍るけど、領主への挨拶が先だ。見物なら帰りにもできるかもしれない。後でアイザックに頼んでみよう。
きょろきょろしては目を輝かせるニセ息子に、アイザックは、頼むから大人しくしておいてくれよと、心配そうに何度も念を押した。


モルゲンのメインストリートは、行き交う大勢の人でとても混雑している。時折、荷を山積みにした、見上げるように大きな荷馬車が人をかきわけるように進んでゆく。私はアイザックと馬に乗っているから平気だけど、あれは横を歩く歩行者は、一歩間違えれば轢かれかねない。前世でも、チャリンコに乗ってる真横を大型トラックがすれすれに走ってくとハラハラしたけど、それに似ている。しかも、人が多すぎて視界悪いし。事故とか頻発してそうだね。どっち側通行というのもなさそうだし、なんというか…カオス。馬でよかった。

そんな通りをカポカポと進み、私たちは領主の屋敷にたどり着いた。大型ホテルですか?ってくらい大きな邸宅の前には、門番。街が大きいだけあって税収豊かなんだろう。領主様は大金持ち。間違いない。

「アイザック・ウィリスが息子、サイラスと申します。以後お見知りおきを。」
胸に手を当て、ヘクター爺ちゃんにやったのよりも、より丁寧にお辞儀をする。推定五歳児のやることだから、様になっているかは怪しいけど。そんな私に、モルゲン領主ダライアス・フォン・モルゲンは、値踏みするような視線を向けてきた。
大金持ちな領主様――でっぷり肥った脂ギッシュ親父を想像していたけど、実際の領主様は痩身のナイスミドル。白髪の交じる黒髪を撫でつけて、片眼鏡というインテリアイテムがよく似合う。これで黒の燕尾服でも着ていたら、完全に執事様セバスチャンだね。
「小賢しい挨拶だな。しかし、付け焼き刃の知識だけ与えるといずれ痛い目を見るぞ、アイザックよ。」
ドスのある低い声でダライアスが言った。ぎろりと睨まれて、アイザックは萎縮したみたいに身をちぢこめる。

…なんか怖いんだけどこの人!なぜに??

どぎまぎしていたら、鋭い双眸が、今度は私に向けられた。
「サイラスといったか。試しに聞くが、このペンは…一本七ソルド半する。五本買うといくらになるかわかるか?」

……え?算数の問題?

なんだ簡単じゃん。見た目五歳児だけど、中身はアラサーだからね、私は。
「三十七ソルド半です。」
ぱぱっと計算して答えた。どうよ?
でも、返ってきたのは………沈黙。ダライアスは射殺さんばかりの視線を私に向けている。あれ?違ってた?
「計算は間違ってないと思ったんですが…。あ!税込で答えないといけなかったですか?だったら税率何パーですか?あ、それともソルドの上位単位でもありました?」
とりあえずそんなことを聞いてみた。すると、たっぷり十秒くらい間があって…
「……間違ってはいない。」
苦み走った声でダライアスが言った。
………合ってんじゃん。
なんでそんなコワイ顔するんよ、このセバスチャン。そのセバスチャン――ダライアスはその鬼のような顔を後ろにいるアイザックに向けた。
「アイザック、コレをどこで拾ってきた?」
「!?」
あ……。いやな予感。
そして。私たちニセ親子は屋敷の地下牢に放り込まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

処理中です...