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動乱編
105 決意
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「なあ…マジでそのカチューシャの正体教えてくれよ。怖ぇよ」
ヴィヴィアン領。反乱を起こしたという小村にて。フリッツは引き攣った顔で、傍らの王女サマを眺めた。
「ん~……とある魔道具?」
「ざっくりしてんなぁ?!」
当初の計画では、フリッツとイライジャが口八丁でイヴァンジェリンを反乱軍のリーダーの所まで連れていき、その先は彼女が王権振りかざして武器を譲るよう説得するハズだった。いや、確かにフリッツとイライジャは計画通り、イヴァンジェリンを反乱軍の首領の所まで連れていったのだ。……美人でグラマラスな娘を貢ぎ物に捧げます、と言って。
「コイツ、どーなったんだよ?!元に戻るのか?!」
差し出された王女サマは、反乱軍の首領ににっこり微笑むと、無言で彼の頭に件のピンクのウサギカチューシャを取りつけた。
……シュールな画が出来上がった。
いや、そうじゃなくて。
ウサギカチューシャを取りつけた首領の目が死にました。
ショックで、とかではない。マジで目が死んだ。でもって、王女サマが「武器を全部運ばせてね♡」と頼んだら、無言で言うことをきいた。怖えよ!!なにこのカチューシャ呪いかなんか憑いてるの?!見た目はガキの玩具そのものだから余計に怖え!
「ほら、不自然に見えたらマズいよ~」
私たちはぁ、友好的にぃ、武器を譲ってもらったんだからぁ。
王女サマはニコニコしながら、フリッツの背中をバシンと叩いた。
「ハイ、笑顔!!」
笑えるかぁ!!
◆◆◆
夕刻になって、ウィリス村にサイラスが戻ってきた。何故かその服は土に汚れ、たった一人で。
「サイラス!おい、どうした?!」
魔道具の手入れをしていたジャレッドは、ふらふらと危なっかしい足取りの彼に駆け寄った。
「サイラス…?」
俯いた顔からは、表情が抜け落ち。そして彼の左手は…
「?!」
肘まで真っ黒な鱗に被われていた。
「おい、とにかくこっちに来な」
兵士の勘だ。何か、マズいことが起きた。ジャレッドは咄嗟に自分の外套を脱いで、サイラスの左手を隠した。そして、彼を担ぎあげた。
この地のことは、自分にはよくわからない。村人からは、森に近づくなとだけ言われ、その理由は告げられなかった。
あくまでも勘だ。サイラスから話を聞けるのは唯一、アイザックだけだ。
「すまねぇ!みんな外してくれ!」
サイラスを抱え飛びこんだ部屋は、たまたま主だった面々が集まっていた。その中にアイザックの姿もあることに安堵して。ジャレッドは己の外套に包んだサイラスを示した。
「あまり大勢に知らせたくねぇんだ。下手したら、混乱を招く」
居合わせたフィルに囁くと、すぐに察して人払いをしてくれた。残ったのは、カリスタ姐さん、ダライアス様、アイザック殿、ザカリーさん、そしてギデオン様だ。本当はアイザックと二人きりの方が良いのだろうが、仕方ない。今は非常事態だ。
「サイラス、何があった」
アイザック殿が俯くサイラスと視線を合わせて問うた。その目が不意にサイラスの左手に向けられる。ぽたり、ぽたりと外套を伝って滴り落ちる紅に。
「おまえ、怪我を…?」
アイザック殿が外套を取り除け、露わになった腕に息を呑む。
「湖が…」
俯いたままのサイラスがポツリと呟いた。床に散った紅に重なるようにぽたぽたと透明な雫が零れ落ちる。
「湖が…暴れて……私、ブルーノ様を、みんな、を……助け……られなくて…」
その後は嗚咽になって聞き取れなかったが、その言葉だけで十分だった。
ニマム村が『悪食の沼』に吞まれた
沈痛な面持ちで皆、黙り込んだ。
「ここは、そういう土地だ」
ややあって、ダライアス様が言った。
「いくら戦場を森から離れた原野にしたとはいえ、刺激したに違いない」
アイザック殿の胸に顔を押しつけて、サイラスは子供のように泣いていた。嗚咽交じりに「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返しながら。
「アレを責めるな。所詮、人ではどうにもできぬのだ、『魔の森』は」
ダライアス様は続けた。その目をチラとサイラスの左手に向けて。
「このことは内密にせよ。ニマム村に向かった面々は、別の任務を与えた故村には戻らなかった。サイラスは、任務中に魔獣に襲われ負傷した。よいな?」
「御意」
即座にカリスタ姐さんが頷いた。その言葉に頷いて、
「わしはしばし休む。後を頼んだ」
ダライアス様は席を立った。サイラスが落ち着かねばことの詳細はわからない。けれど確かに、ダライアス様は我が子を喪ったのだ。それを思うと、かける言葉もない。
「俺たちはできることをやろうぜ。要はこれ以上の戦闘はマズいってことだろ」
答は返ってこない。だが、ジャレッドはロシナンテ傭兵団が誇る頭脳職だ。考える時間はまだ、ある。
(まいったぜ。まさかサイラスが、『女の子』だったとはな…)
感情が振り切れて、声変わりの魔法を忘れたのだろう。泣きじゃくる彼女を見て、ジャレッドは仲間のフィルに目配せをした。
◆◆◆
ニマム村消滅の悲しみも癒えぬまま。
書状の回答期限はきた。使者たるブルーノ様はニマム村と共に吞まれてしまったため、こちらからの使者は送らず、原野に布陣することで敵にモルゲンの意思を伝えた。
もう、これ以上悲劇を続けるわけには、いかない。
常よりひやりとした森の冷気を身に纏いながら、私は彼方の敵兵を睨んだ。
泣いたところで、何も変わらないんだ。死んだ人たちは戻ってこない。助けられなかった過去も変えられない。
だから…
無意識に、包帯で隠した左手を押さえた。
コレさえ解き放てば、リミッターを外してしまえば――
まだ、望みはある。
感傷的になるなら、その弱い心ごと捨てて。
人間ではない、バケモノになるんだ…!
ヴィヴィアン領。反乱を起こしたという小村にて。フリッツは引き攣った顔で、傍らの王女サマを眺めた。
「ん~……とある魔道具?」
「ざっくりしてんなぁ?!」
当初の計画では、フリッツとイライジャが口八丁でイヴァンジェリンを反乱軍のリーダーの所まで連れていき、その先は彼女が王権振りかざして武器を譲るよう説得するハズだった。いや、確かにフリッツとイライジャは計画通り、イヴァンジェリンを反乱軍の首領の所まで連れていったのだ。……美人でグラマラスな娘を貢ぎ物に捧げます、と言って。
「コイツ、どーなったんだよ?!元に戻るのか?!」
差し出された王女サマは、反乱軍の首領ににっこり微笑むと、無言で彼の頭に件のピンクのウサギカチューシャを取りつけた。
……シュールな画が出来上がった。
いや、そうじゃなくて。
ウサギカチューシャを取りつけた首領の目が死にました。
ショックで、とかではない。マジで目が死んだ。でもって、王女サマが「武器を全部運ばせてね♡」と頼んだら、無言で言うことをきいた。怖えよ!!なにこのカチューシャ呪いかなんか憑いてるの?!見た目はガキの玩具そのものだから余計に怖え!
「ほら、不自然に見えたらマズいよ~」
私たちはぁ、友好的にぃ、武器を譲ってもらったんだからぁ。
王女サマはニコニコしながら、フリッツの背中をバシンと叩いた。
「ハイ、笑顔!!」
笑えるかぁ!!
◆◆◆
夕刻になって、ウィリス村にサイラスが戻ってきた。何故かその服は土に汚れ、たった一人で。
「サイラス!おい、どうした?!」
魔道具の手入れをしていたジャレッドは、ふらふらと危なっかしい足取りの彼に駆け寄った。
「サイラス…?」
俯いた顔からは、表情が抜け落ち。そして彼の左手は…
「?!」
肘まで真っ黒な鱗に被われていた。
「おい、とにかくこっちに来な」
兵士の勘だ。何か、マズいことが起きた。ジャレッドは咄嗟に自分の外套を脱いで、サイラスの左手を隠した。そして、彼を担ぎあげた。
この地のことは、自分にはよくわからない。村人からは、森に近づくなとだけ言われ、その理由は告げられなかった。
あくまでも勘だ。サイラスから話を聞けるのは唯一、アイザックだけだ。
「すまねぇ!みんな外してくれ!」
サイラスを抱え飛びこんだ部屋は、たまたま主だった面々が集まっていた。その中にアイザックの姿もあることに安堵して。ジャレッドは己の外套に包んだサイラスを示した。
「あまり大勢に知らせたくねぇんだ。下手したら、混乱を招く」
居合わせたフィルに囁くと、すぐに察して人払いをしてくれた。残ったのは、カリスタ姐さん、ダライアス様、アイザック殿、ザカリーさん、そしてギデオン様だ。本当はアイザックと二人きりの方が良いのだろうが、仕方ない。今は非常事態だ。
「サイラス、何があった」
アイザック殿が俯くサイラスと視線を合わせて問うた。その目が不意にサイラスの左手に向けられる。ぽたり、ぽたりと外套を伝って滴り落ちる紅に。
「おまえ、怪我を…?」
アイザック殿が外套を取り除け、露わになった腕に息を呑む。
「湖が…」
俯いたままのサイラスがポツリと呟いた。床に散った紅に重なるようにぽたぽたと透明な雫が零れ落ちる。
「湖が…暴れて……私、ブルーノ様を、みんな、を……助け……られなくて…」
その後は嗚咽になって聞き取れなかったが、その言葉だけで十分だった。
ニマム村が『悪食の沼』に吞まれた
沈痛な面持ちで皆、黙り込んだ。
「ここは、そういう土地だ」
ややあって、ダライアス様が言った。
「いくら戦場を森から離れた原野にしたとはいえ、刺激したに違いない」
アイザック殿の胸に顔を押しつけて、サイラスは子供のように泣いていた。嗚咽交じりに「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返しながら。
「アレを責めるな。所詮、人ではどうにもできぬのだ、『魔の森』は」
ダライアス様は続けた。その目をチラとサイラスの左手に向けて。
「このことは内密にせよ。ニマム村に向かった面々は、別の任務を与えた故村には戻らなかった。サイラスは、任務中に魔獣に襲われ負傷した。よいな?」
「御意」
即座にカリスタ姐さんが頷いた。その言葉に頷いて、
「わしはしばし休む。後を頼んだ」
ダライアス様は席を立った。サイラスが落ち着かねばことの詳細はわからない。けれど確かに、ダライアス様は我が子を喪ったのだ。それを思うと、かける言葉もない。
「俺たちはできることをやろうぜ。要はこれ以上の戦闘はマズいってことだろ」
答は返ってこない。だが、ジャレッドはロシナンテ傭兵団が誇る頭脳職だ。考える時間はまだ、ある。
(まいったぜ。まさかサイラスが、『女の子』だったとはな…)
感情が振り切れて、声変わりの魔法を忘れたのだろう。泣きじゃくる彼女を見て、ジャレッドは仲間のフィルに目配せをした。
◆◆◆
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書状の回答期限はきた。使者たるブルーノ様はニマム村と共に吞まれてしまったため、こちらからの使者は送らず、原野に布陣することで敵にモルゲンの意思を伝えた。
もう、これ以上悲劇を続けるわけには、いかない。
常よりひやりとした森の冷気を身に纏いながら、私は彼方の敵兵を睨んだ。
泣いたところで、何も変わらないんだ。死んだ人たちは戻ってこない。助けられなかった過去も変えられない。
だから…
無意識に、包帯で隠した左手を押さえた。
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