RISE!~男装少女の異世界成り上がり譚~

た~にゃん

文字の大きさ
199 / 205
建国~対列強~編

198 王か女か

しおりを挟む
夕暮れが鮮やかになる頃、私はウィリスに辿り着いた。
勢いで駆けだして、途中でお腹が張って走れなくなり、とぼとぼ歩いての帰還。頭の中は空っぽだった。

アルを失うかもしれない…。

言いようもない不安が胸を埋めつくす。

だって、私はぜんぜん可愛くない女で。魅力のない恋人で。親切を無碍にするヤツで。

また、涙が頬を伝う。
情けない、とは思う。上に立った今、感情をさらけ出すことは愚かでしかないと、わかっているのに。心が無駄な想像をして、不安を掻き立てる。私は、いつからこんなに情けない人間になったんだろう。

そんな心ここにあらずな状態で、帰宅したのがダメだった。
「おかえりサイラ…?!」

ドッシーン!

妖怪チビデブスなまま帰還した私。目の当たりにした父さんは、驚きのあまり尻餅をついた衝撃でぎっくり腰になってしまったのだ!
丘に打ち上げられた魚のごとく口をパクパクしながら、父さんは尻餅をついた姿勢のまま、メリッサおばさんの元へと運ばれていった。

何やってんだろ…私は。

なんとなく家には入りづらくて、私はきびすを返した。目的もなく、今は町となったウィリス村を彷徨う。
子供の頃は、崩れ落ちそうな粗末な木造家屋しかなかったウィリス。家と家との間もずいぶん見通しがよくて、畑や道ばっかりという印象だった。それが今では、畑は緑彩る果樹に囲まれたこじんまりとした家庭菜園と花咲く庭になり、粗末なぼろ家は大半が石積みに漆喰を塗った頑丈なものに、人口が増えて家の数も増えて、何もない空き地は皆無。あるとすれば、広場や、避難所として残した公園くらいだが、もうすっかり街だ。

これでよかった。大切な故郷は豊かに、そして平和になった。でも、これで終わりじゃないんだ。私はこの平和を、安寧を護っていかなきゃいけない。わかっている。でも…

嗚呼…また、堂々めぐりだ。

懊悩する私を前に、ウィリスは夕暮れから夜に色を変えていく。冬を前にした北の辺境の夜は冷えこむ。身体がぶるりと震えたけど、家に帰る気分にはならなかった。見つめたのは、闇の蟠る街道。この先に、このまま闇に紛れてしまえば、私は『サイラス・ウィリス』ではなくなるだろうか。

無意識に、そんな現実逃避を夢想した。

どれくらいぼぅっとしていただろう。見つめる先の闇に、小さな淡いオレンジ色の灯りが現れた。
「……。」
ややあって。闇の中から、カンテラを持った青年の姿が浮かび上がった。俯く私の前まで歩み寄ってきた気配が動いて、肩を温もりが包んだ。
「サアラ、」
低くて優しい声が壊れそうな心を揺らす。カンテラを足許に置いた青年――アルが、私の前で片膝をつく。自分の毛皮のコートを私にかけたアルは、黒っぽいベストにシャツを着ているだけだ。その手が、すっかり冷え切った頬に触れた。緑玉の真摯な瞳に、情けない顔の私が映る。
「冷えるぞ。風邪をひく」
見た目が妖怪チビデブスから戻っていないのに。躊躇うことなく横に腰かけ、アルは毛皮のコートで私の身体を包み直し、腕を回して抱き寄せた。
「私は…」
言いかけた私を遮るように、温かな手がごわごわの金髪を撫でた。されるがままに、彼の胸に頭を預ける。
「アル…ごめんね」
ポロリとそんな台詞が零れ落ちた。
「たくさん想いを貰っているのに、私、ぜんぜん、応えられて、なくて…」
私を抱く腕に力がこもる。
「恋人らしいこと、何も、してあげられなくて。可愛くなくて、秘密ばっかり…」
弁解の続きは、口づけに吸いこまれて消えた。啄むような優しい口づけの後に。
「ごめんね…」
蚊の鳴くような声で呟いて、私は恋人の肩に顔を押しつけた。幻惑魔法は、いつの間にか解けていた。

◆◆◆

寒い秋の夜に、外に居続けたサアラの身体は冷え切っていた。家まで送り届け、灯りの元で見た彼女の目は赤く、頬には幾筋も涙のあとがあった。
心当たりはある。
帝国の貴族位を手に入れたと話したからだ。隣に立ってほしいとも伝えた。あれ以来、彼女は何かにつけて自分――アルフレッドを避けていた。
彼女が背負うモノを、忘れていたわけではない。メドラウドに連なる家名なら、安心して受け取ってくれると考えた。新皇帝も人柄を信用できる。だから…

「ごめんね…」

でも、彼女には通じなかった。謝罪の言葉は、まるでアルフレッドへの拒絶のようで。このままではいけない…。

◆◆◆

朝、目が覚めると傍らにアルがいた。
「アル?!えっ?!」
ガバッと身を起こした私は、慌てて魔法で体型を誤魔化した。ちょ…いつからいたんだよ?!
「サアラ、俺の前で男装しなくてもな、」
苦笑するアル。え……と、気づかれていないのかな?内心でビクビクする私をどう見たのか、アルは困ったように眉を下げた。
「ちゃんと話し合おう」
まっすぐ目を見つめられて、私はたじろいだ。
「着替えてくるよ」
立ち上がろうとすると、アルに肩を抱かれて押しとどめられた。逃げられない。
「サアラ、」
昨夜と変わらない真摯な眼差しが私を射る。
「政略なんかない、ただの恋人として話したい。おまえを悩ませているのは…後継のことじゃないのか?」
静かに問われて、ぎくりと肩が震える。だって…答えようによっては、アルと恋人以上にはなれないって言っているようなものだから。この世界ではね、それは酷い拒絶なんだよ。
でも…。
私はコクリと頷いた。
いつまでも、目を逸らしていい問題じゃない。遅かれ早かれ向き合わなきゃいけないものだから。
「アルは…メドラウドは格上で、且つ皇帝の傍系よね。私が貴方の血をひく子を産めば、必然その子は帝国皇帝の血も継いでいるよね。ウィリスが飲まれてしまう可能性を否定できないの。だから…」
「なら、俺はサアラの子を認知しない」
「え…?」
潤みかけた目を見開いてアルを見つめた。今、なんて…
「この身が死を迎えるまで、決して『俺の血を継いでいる』とは認めない。それなら、帝国はウィリスに干渉できない。少なくとも血筋に関しては」
アル…それ本気で言っているの?だってウィリスは…それに、アル、君から大切なものを奪ってしまう…
「おまえの大切な故郷だ。何よりも前に。おまえが望むように、下らない戦争とは無縁の、平和で穏やかな地であって欲しいよ」
緑玉の瞳を和らげ、アルは穏やかに微笑んだ。
「だから、サアラ。俺の隣に立ってくれないか。血筋がなくても、俺たちは俺たちの在りようでいいと思うんだ。俺は欲張りだからな」
フフッと、耳元で彼は笑った。
「おまえだってそうだろう?建前はどうあってもいい。全部、守れる方法を探そう」
「本当に…?」
縋るようにアルを見上げる。そんなこと、本当にできるんだろうか。
「約束だ。もとより、全部守ると決めたから」
彼の声には、揺るぎない力。見つめていると、心の中で暴れ波打っていた不安が不思議と凪いでいった。

なに、動転しているんだ。

冷静に、答を諭されたような気がした。
目を背け、逃げたところで、何も変わらないし変えられないんだ。だから…
「アル…」
今度は、本来の私――強い『サイラス・ウィリス』で。今一度恋人の顔を見上げた。
「一緒に、足掻いてくれる?」
問いかけに対する答は。
「当然だ」
爽やかなイケメンにやや似合わない、不敵な笑みだった。

◆◆◆

「武道大会?」
心の整理がついた、その日。
「参加者はペレアス王国貴族位の男子限定。でもって、優勝者には王族に連なる家名が与えられるらしいぜ?」
フリッツからそんな話を聞かされた。ペレアス古参派たちが、急に開催を決めたという。
「なんのために…」
パァーッとイベントしようっ!てだけではあるまい。
「褒章が王家に連なる家名…。ねえ、兄の代わりを作ろうとしているのかな?」
ほら、前に議席に座る条件を出すとき、『王族もしくはそれに準ずる位の男子』って指定したから…と、エヴァが眉間に皺を寄せる。
「私は、将軍経験って言ったんだけど」
「優勝者に軍船渡して、テキトーにルドラとか攻めるんじゃね?」
まあ、その辺が妥当な線だろう。また、ややこしいことに…。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...