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俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで ダイジェスト22-25
しおりを挟む猛き赤の獣は不機嫌に現れ……
「こうして見ると、まるで別人のようだな」
来たよ来たよ来ましたよ。
攻略キャラ様が。
「ごきげんよう、キルフェコルト様」
彼の名はキルフェコルト・タットファウス。愛称キルフェ。この国の第一王子だ。
陽光に寄っては真っ赤に見える赤に近い金髪と、黒に近い藍色の瞳。やはりお約束のように三高を実装し、嫌悪を交えた鋭い眼光で俺を見下ろしていた。
朝である。
日中は風呂関係でやることができたので、走ったり剣術の訓練をしたりという時間をあまり取ることができなくなった。
やっぱり剣術にハマりつつある俺には、もっともっと時間を忘れるほどに没頭したいのだが……さすがにそれをやる時間はない。しばらくは一日一回レンさんに棒で殴られるくらいで我慢しようと思う。いや、決して殴られたいわけではないのだが。
寮に戻り汗を拭き、制服に着替えて朝食を取る。レンさんも一緒に食べたらいいと思うのだが、使用人としてそれは受け入れられないそうだ。
その代わりに、自然と今日の予定を話す時間に当てられるようになった。
そんな、レンさんと俺の甘い……いや別に甘くはねえな。まあ穏やかな朝の時間、さて今日はどうするか、と話し合っていると、珍しく来客があった。
ノックの音にレンが動き、客に対応し――戻ってきた。
「下にお客様が来ているそうです」
「直接来ればいいのに」と思いながら一階の待合室というか休憩室のようなところへ行くと、その辺の女子たちの視線を独り占めしていた王子がいた、というわけだ。
キルフェコルト・タットファウス。
海の向こうの国から来ているラインラック王子とは、違うタイプの王子だ。
向こうは線が細い静かなタイプだが、こっちは対局にいるような野性味溢れる悪メン風である。日本なら視線を逸らしてうつむきがちで擦れ違いたいタイプだな。
……えっと、俺はよくわからんのだが、こういうのが俺様系っていうのか? とにかくやたら偉そうで強引で上から目線で、といった感じの男である。
当然、アクロディリアとは水と油という関係である。
「何かご用? 生憎わたしには、わざわざあなたの顔を見なければならない用事などないのですが?」
元からイラッとしているキルフェコルト王子は、更にイラッとした様子で、最早俺を軽く睨んでいる。
「フン。いつもの巻き毛はどうした? 派手なドレスは? そうしているとまるで普通の女のようではないか」
「巻き毛とドレスに飽きただけです。何より動きづらいですから」
そう言うと、王子は鼻で笑った。うわー感じ悪い。アクロディリアの三分の一くらい感じ悪い。
「光の聖女がそんな地味な装いでいいのか?」
あ、こいつバカにしてるな、光の聖女。
超同感です! こんな出会いじゃなければこいつとは友達になれていたかもしれない!
だが今の俺は、こいつを更に不愉快にさせねばならないのだ。許してくれ。
「はあ……」
俺は、わざとらしいほどに重々しく溜息を吐くと、左右に首を振った。
「――女の口説き方くらい、そろそろ覚えたらどうです?」
「なっ……!」
すまん! ごめん! 嫌いな相手にこんなこと言われたらイラつくどころじゃないよな! 本当にマジでごめんなさい!
俺の発言は、「好きな女性に意地悪をする子供は、そろそろ卒業してくれ」という意味である。これでかなり聡いキルフェコルト王子には、間違いなくそういう意味で通じたはずだ。
――わたしのことが好きなのはもう知ってるからそろそろ素直になれよ、と。
しかも上から目線での、年上の女性から諭されるような発言だ。プライドの高い王子だけに、とんでもないダメージを与えてしまったようだ。
「冗談です。あら、もしかして本気にしました? 相変わらず粗野……いえ、とても素直でいらっしゃること」
この辺で「失礼オッホホホホホー」と高笑いしながら去っていくのが、これまでのアクロディリアである。こいつほんと嫌な奴だよ。我ながら嫌になるレベルだよ。
「それで、なんの用です? まさかデートのお誘いというわけではないでしょう?」
怒りのあまり言葉を失っている王子――の、後ろに控えているメイドにチラリと目を向けると、意味を察したメイドが王子の耳元に何事か囁いた。
たぶん「早く話を済ませましょう」みたいなことを言ったんだろう。
あのメイドは、キルフェコルト王子付きの専属メイドだ。青い髪に金の瞳という、確か半精霊族の女子だ。人間にはない独特の透明感を持つ美女である。
王子は何度か深い深呼吸をして気を落ち着かせると、ようやく訪ねてきた本題に入った。
「そう言えばそうでしたわね」
話は簡単である。
このキルフェコルト王子、生徒会長なのである。
俺を訪ねてきた理由は、例の奉仕活動についてだった。
「学校側に頼まれた。おまえの企画の全権を任せるから対応してくれ、と」
「つまり、キルフェコルト様のお眼鏡に叶わないと企画が通らない、という意味ですか?」
「そういうことだ」
残念だったな、みたいな勝ち誇った顔をする王子。おーおー嬉しそうなこって。
別になんてことはない。
だって俺は、王子の人柄を知っているから。
荒っぽさと雑な態度が目立つプライドの高い面倒な男だが、芯は通っている。アクロディリアのように性格が曲がりくねっているわけではない。
こいつは、ただ「嫌いな相手」というだけの理由で、公私混合はしない。嫌いな相手でも困っていたら助けるという、器のでかい漢気溢れる野郎なのだ。そういうシナリオがあったしな。うろ覚えだけど。
「では企画の話をしましょうか。別段不都合もありませんし、むしろキルフェコルト様で良かった」
「……は?」
素直にそれを受け入れた俺に、嫌そうな反応を期待していたのだろうキルフェコルトは気の抜けた表情を浮かべた。いつも強気な表情を浮かべている王子には珍しい顔だな。
「俺で、良かった?」
「ええ。あなたなら言いたいことも言えますし、あなたもわたしに遠慮しないでしょう?」
気を遣うような相手とやりあうと余計疲れるし時間もかさむので、むしろこいつでいい。変化球じゃなくて直球で言葉のキャッチボールができるからな。
あまり主要キャラとは関わりたくないが、この場合は避けて通れないだろうしな。
そのまま居座り、周囲の目も気にせず話し合うことにした。
できた浴場は開放するつもりなので、隠す理由もない。昨日の段階ですでに噂が広まっているので、誰に聞かれても構わない。
「――以上です。昨日、学校長に許可を求めたくらいなので、まだ具体的な案はできていません」
腕を組んで背もたれふんぞり返り偉そうに聞いていたキルフェコルト王子は、ここまでで決まっている話を聞くに連れ、不機嫌そうな顔から真剣な表情に変わっていた。
「色々詳しく聞きたいが……三つ確認したい」
俺は「どうぞ」と言う代わりに軽く肩をすくめ、カップに手を伸ばした。これはレンではなく王子付きのメイドさんが淹れてくれた紅茶だ――あ、うまい。いつも飲んでるやつとは茶葉が違うんだな。
「一つ目は……フロントフロン家の金を使わないのか?」
「ええ」
「では、資金はどうする?」
「これから私が稼ぎます」
当然とばかりに答えてやると、王子……ではなく、周囲が小声でざわめいた。聞き耳立ててる女子たちの反応だな。
「……わかった。次だ」
王子もアクロディリアの発言としてはどこか納得がいかないようだが、筋は通っていると判断したのか、話を先に進めた。
「二つ目に、……男子用の浴場も作る、と?」
「ええ」
「なぜだ? おまえが入りたいだけなら、女子風呂だけでいいだろう」
「あら」
俺は少し驚いたような顔で、まじまじと王子を見た。
「そんな庶民じみたせせこましい真似を、フロントフロン辺境伯の娘であるこのわたしにやれ、と? このわたしがやるなら、ついでに男性浴場だって作ってあげますとも」
「ついで……か」
この主張はアクロディリアらしいと思うぞ。アクロディリアはせこくはないからな。
「では最後の質問だが」
と、王子は睨む以外の理由で、眉を寄せた。
「フルーツ牛乳やコーヒー牛乳とは、なんだ? エールはわかったが」
――おまえらの風呂文化の認識と執着を変える物だよ。
向かい風と追い風と……
決まっていること自体が少ないので、話すことも少ない。
手早く現状のみ情報を与え、
「どうですか?」
是非を問いてみた。
「うむ…………正直に言えば、鼻で笑ってやろうと思っていたんだがな。意外と現実的で、その、少し驚いている」
超わかるー。戸惑う理由もわかるー。昨日の学校長もそんな顔してたー。
「フロントフロン家の金を使わないなら、今のところ俺から言えることはないな」
あ、やっぱそこか。一番引っかかっていたのは。
そう、査定ってのはつまり、この七年間で学校で培った実力で何かを成せ、というテストに他ならない。
だが、家の財力は「家の力」であって、この学校で身につけた生徒個人の力ではない。筋が通っているかいないかで言えば絶対に否だ。
「それで、幾らくらい掛かるかわかっているのか?」
「それは専門家……町の大工などに相談して、見積もりを出します」
色々と金を稼ぐ方法と資金を浮かせる方法は漠然と考えているが、それを実行できるかどうかは、やっぱり未知数である。
「でもそんなにお金は必要じゃないとは思っていますが」
「なぜだ?」
それは、ここが魔法学校だからだ。
たくさんの魔法使いが……つまり有能な人材がたくさんいるからだ。
「石畳とレンガ。使用する材料をこの二つだけに絞れば、この学校の土魔法使いだけで材料は量産できます」
石畳は足場にするものだから、そこまできちんとしたものでなくてもいいしな。むしろきちんとしすぎていたら石鹸やシャンプーなどで滑る可能性があるので、あえてツルツルしてないのを俺は推奨したい。
「幸い難しい魔法ではありませんからね。それなりの実力を持った手伝いが十数名もいれば、すぐにでも揃えられます」
「……」
語る俺を、王子はじっと、厳しい目で俺を見ていた。
そして、一段落したところで、おもむろに口を開いた。
「おまえを手伝う生徒がいると思うか?」
はっはっはっ。
この王子め、抜かりがあると思うなよ?
「手伝う? このわたしが主導するのだから、下々の民は手伝わせてくださいと言って当然でしょう?」
本音・手伝ってくれる奴がいないことくらい最初からわかっとるわー。期待しとらんわー。
アクロディリアらしい頓珍漢なことを言うと、王子は勝ち誇ったような顔で、すごく嬉しそうに言ったね。
「馬鹿が。誰がおまえなど手伝うか」
よかったな、ちょっとくらい言いたいこと言えて。
「さて。今はこんなところですね」
と、俺は立ち上がった。
「キルフェコルト様と違って、わたしにはやるべきことが山積みなのです。茶飲み相手なら他を当たってください」
「誰が好き好んでおまえなどと話をしたいと思うか!」
王子もバッと立ち上がり、プリプリ怒りながら足音荒く寮を出て行った。……こえー。悪メンこえー。超怒ってんじゃん。
「それでは失礼いたします、フロントフロン様」
残されたメイドさんがお辞儀をし――
「紅茶ありがとう。美味しかったわ」
そんな礼を言うと、彼女は一瞬驚いたような顔をし、一礼して微笑み、去っていった。美人の笑顔っていいよな……王子、いや、アクロディリアの記憶に荒んだ俺の心が癒されるわー……
――あっ。
「でもレンさんの紅茶が一番好きよ?」
「そんな取って付けたように言わなくていいです」
まさか怒ってやしないかと振り返り小声で言えば、「くだらないことを言うな」と言わんばかりに、レンはいつもの七割増しくらいの冷たい視線と言葉で答えてくれた。
「それって嫉妬? わたしがあの子を褒めたから――」
「は? なぜ?」
「…………すみません。なんでもないです」
冷たい……視線が氷点下すぎる……でもそんなところも好きだよ!
朝から主要キャラが襲来したりレンさんに睨まれたりとにぎやかなものだが、今日やらなければならないことは変わらない。
そんなわけで、せっかく部屋から出たことだし、レンも制服姿だし、キルフェコルト王子を追いかけるような形でこのまま俺たちも外出することにした。
昨日、覗き魔ヴァーサスとレンさんの三人で話していて、ちょっと気になったことがあったのだ。なのでまずそこから当たることにした。
向かった先は、購買部である。
「意外と多いわね」
先日がらがらだった購買部だが、今日は生徒がたくさんいた。
今は変装用メガネを装着しているので、アクロディリアに気づいた者はいない。だが逆に見慣れない顔としてチラチラ見られてはいるようだ。
空いたテーブルにレンと座り、混雑が収まるのを待つことにする。
そんなに待つこともなく、店はすぐに落ち着いたものとなっていた。
二人並んでいる受付嬢――道具類の在庫確認をしているやや余裕がありそうな購買の受付嬢に話しかけてみた。
「何かご入用ですか?」
「いえ、ちょっとお聞きたいことがありまして。……ところでこちらの責任者の方は?」
「上の執務室にいますよ。どういったご用件でしょう?」
まあ隠すようなことでもないので、手短に要件を話してみる。
「魔法学校の敷地内に浴場を作りたくて、その相談に来たのですが――」
と言った瞬間、正面の受付嬢は当然のように、更には隣のカウンターで書類整理をしていた受付嬢の首までもがぐるりと周り、ぎらつく眼差しで俺を射抜いた。
「「その話は聞いてます!」」
声を揃えて、力強く。
俺が引くほどの勢いで、俺の要件に応えてくれた。
「「ぜひ作ってください! 応援していますから!!」」
は、はあ。ありがとうございます……
……意外なところで意外な味方ができていたものである。
これから旅立つ者に送る荷は……
「すんませんがねお嬢さん方。あんたらがこの学校の生徒である以上、一生徒以上の扱いはしねえぜ?」
そのおっさんは俺たちを応接用のソファに座らせ、自らも座ると、不機嫌そうな顔でいきなりそう言ったのだった。
予想外にも受付嬢たちの大歓迎を受け、すぐに上の応接間兼用と思しき雑多な執務室に通された俺とレンを待っていたのは……なんつーか、いかにも儲け話とシモネタが好きそうな、髭面のおっさんだった。
歳は40前後、背はそんなに高くないずんぐりむっくりな体格だが、これは太っているというより筋肉だろう。もしかしたらかつては冒険者だった、とかって背景もありそうだ。ドワーフっぽい体型と言えばわかりやすいだろうか。まあこのおっさんは人間ぽいが。
「マスター! ちゃんと対応してください!」
ここまで案内してくれた受付嬢が、俺たちにお茶を出しながら主人の悪い態度に文句を言うが、おっさんはしっしっと「さっさと仕事に戻れ」というジェスチャーで答えた。
しかし受付嬢は動かなかった。
……パワーバランスが読みづらいな。この受付嬢は今張り切っているから動かないのか、基本的に上司の言うことは疑ってかかるタイプなのか……それによっては「どっちに都合がいい話」に持っていくかで、成否が問われる気がするのだが。
「生憎、俺ぁ仕事中でね。暇な学生さんとは違うんですよ。つーわけでさっさと要件を済ませて帰ってもらえますかね」
「では単刀直入に。学校の敷地内に浴場を作りたいと思っています。その相談に上がったのですが」
「その話は聞いてますぜ。だが購買が関与する話じゃねえな」
去らない受付嬢が「マスター!」と、愛想一つない上司に文句を言うが、おっさんは不機嫌そうなままおざなりに対応している。
まあわからなくもない。
俺も購買部が関係するなんて、まったく考えてなかったからな。
だが、ヴァーサスに言われて考えれば考えるほど、購買部を無視することはできないという結論に達したのだ。
特に、フルーツ牛乳などの販売を本当にするのであれば、購買の手伝いは欠かせない。
それと、これは冒険者としてもそれなりに活動していた、ヴァーサスやレンだから気づいたことだが。
「実は、冒険から帰った生徒を直接浴場へと飛ばす転送魔法陣の設置をお願いしたいのです」
そう言うと……おっさんがぐっと前のめりになった。
「儲け話か?」
「それ以外の何に聞こえます?」
「ようやく気づいたの?」と言いたげに肩をすくめて平然と答えてやると、おっさんはニヤリと笑った。
「人が悪い嬢ちゃんだ。そうならそうと先に言ってくれりゃいいのによ」
おいおい。おっさん悪い顔してるぞ。少しは隠せよ。
手短に、と思ったのだが、随分話し込んでしまった。
俺たちが考えた結論や推論を、おっさんは容赦なく切り捨てたり拾ったり捻じ曲げたりして、より具体的な企画へと変えてくれた。
「――確かに儲け自体は少ねえ。だがそれは短期間で見た限りの話だ。たとえわずかでも毎日入る収入で、それが安定して何年も続くっつーなら、小さい取引じゃねえぜ」
おっさんは、「こっちはあくまでも風呂を作るだけだから、金が絡むことは全部任せる」と言った途端、そんな本音を漏らした。
俺たちが卒業したあとも収入として見込めるならかなり大きい儲けになる、というのがおっさんの見込みらしい。俺の持ち込み企画は手間暇かけて商談をまとめる価値があると判断されたようだ。
そんなこんなでじっくり話し、ようやく俺も具体的に何をすればいいのかが見えてきた。
購買部は、あくまでも「浴場に密接した商売」の提案に乗ってきただけ。実際に風呂場を作るのはやはり俺で、俺の企画が形になってきたら購買部も動くことになった。それまでは絵に描いた餅なのである。
形の上では、俺はただ購買部に利益と権利をもたらしただけ、ということになる。
だがそれはそれでいいのだ。
商品の管理とかも、素人には難しいからな。特に牛乳なんかは悪くなりやすいし、その道のプロが扱ってくれる方が絶対にいい。
俺はその代わりに、信頼のおける大工を紹介してもらった。
購買部を出たのは昼前だった。2時間くらい話していたかもしれない。
「じゃあ行きましょうか。昼食は町で取りましょう」
「はい」
おっさんが容赦なく取捨選択してくれたので、俺がやるべきこともくっきり明確になった。
これから町に出て、紹介状を書いてもらった大工……というか商会に行き、見積もりを作ってもらう。
それと俺しか知らないフルーツ牛乳などの開発。
おっさんはエール……ビール的なもの?を売り出すつもりのようだ。
やはり「風呂上がりのビール」というものにピンと来ていないようだが、まあこれは経験すればすぐにわかることである。
そして一番大事な、見積もり額を稼ぐこと。
ゲーム知識があるだけに色々と思いついてはいるのだが、ゲーム知識が適用されるかどうか、どこまで通用するのか、実現可能かどうかはまだ未知数である。
一番手近で手頃で初級冒険者でもできそうなのは、骸骨狩りなんだが……俺はできるのかなぁ……
まあ、とにかく、まずできることをこなしていこう。
正門付近にある警備室で外出申請を提出し、そのまま敷地外へ出る。
学校に戻ってきたのは夕方頃だった。
寮に直帰し、持ち帰った4枚の書類をテーブルに広げる。
「……うーん……」
全部併せて350万ジェニーか……あ、ジェニーってのはこっちのお金の単位である。作り込みが甘い制作の仕事なので、この辺の設定も甘いのだ。まあわかりやすいことはわかりやすいよな。
えーと、物価を見る限り、単純に1ジェニーが1円くらいと考えていいと思う。
だから350万ジェニーは350万円ということになる。
この見積もり350万ジェニーをどう削り浮かせるかで、俺が稼ぐ額が決定するんだが……
たとえば、この学校の生徒たちがこぞって手伝ってくれるのであれば、ほとんど金は掛からなくなる。俺個人の希望を言うなら、木造の風呂だけは外注ってことになるわけだ。
「……ま、色々手を打ってみるか」
まず考えるべきは、俺の収入だな。
ゲーム知識を利用して一日でいくら稼げるか確認しておきたい。
明日は早朝から「冒険」に出ることを告げ、できれば主人公を誘って欲しいとレンに頼んでおく。
初冒険……ではなく二回目なのだが、明日は実戦をメインに持ってくるつもりなので、まあ実質初めてのようなものである。
俺の事情を知っているアルカなら、同行しても大丈夫だ。あとはラインラック王子とヴァーサスも知っているが……安全を考えると連れて行くのがいいとは思うんだが、主要キャラとはあんまり関わりたくないしな……
……いや、そうだな。安全第一だな。
明日、朝一番に声を掛けてみよう。行けないっていうなら諦めればいいしな。
そして翌日。
意外な人物が同行することになる。
鼻で笑われたので舌打ちで返した爽やかな朝……
「――ラインラック殿下とヴァーサス様から返答を頂いてきました」
まだ彼方の空が暗い早朝……時間的には6時くらいだろうか。
いつもなら新しい日課であるジョギングだの剣術などにそそぐ時間なのだが、今日は冒険に出るので日課の代わりに準備をして、貴族用男子寮の前にいた。
昨日予定を立てたように、朝一番で王子とその従者に声を掛けてみた。
レンに頼んで男子寮へ向かわせ、彼女はすぐに戻ってきた。
「ヴァーサス様が同行してもよいと。殿下は用事があるので外せないそうです」
お、そうか。覗き魔ヴァーサスが来るのか。……というかこれはたぶん王子の采配だろうな。きっと王子が「ちょっと助けてこい」とばかりに従者に命じたのではなかろうか。
ラインラック王子はすげー優しいからな。アクロディリアの身を案じてのことだろう。……たぶん。よっぽど嫌われてなければ。
あとは監視の意味もあるのかな。俺は未だ不審人物でしかないからな。
「準備をするから少し待っていてくれとのことです」
「そう」
今日の予定を頭の中で反芻していると――足音が近づいてきた。
視線を向けると、昨日見た人物だった。
「おはようございます、フロントフロン様」
青い髪と金の瞳の、やたら人間離れした印象を持つメイドさん……半精霊族の美少女だ。
そう、あの俺様王子ことキルフェコルト・タットファウスの専属メイドである。
「おはよう」
返事をしつつ、俺はちょっと驚いていた。
というのも、使用人が公の場で貴族に堂々声を掛けるというのは、失礼に当たるらしい。アクロディリアの記憶ではそうなっている。
もちろん、根っこから貴族じゃない俺は全然気にしないし、俺の事情を知っているレンは臨機応変にやってくれてはいるが、問題は俺じゃなくて相手の方である。
まさか王族付きのメイドが、そう簡単に決まりごとを破るとは思えない。仮に会ったとしても、会釈して去っていくくらいだろうに。
「わたしに何か用事?」
つまり考えれば、声を掛けてきた理由など、用事がある以外ないわけだ。
「はい。今朝も主人がフロントフロン様を訪ねようと考えているのですが、どこかへお出かけを?」
えっと……キルフェコルト王子が今朝も女子寮に来る予定だった、と。でも俺たちが出かける格好をしていたから聞きに来たと。たぶん俺たちのことは偶然通りすがって発見したんだろうな。
なるほど、確かにそれは気になるな。女子寮に行っても会えないのであれば、行く意味ないしな。
「ええ。浴場建設資金を稼ぐために出るつもりよ。キルフェコルト様には、今日は会えないかもしれない、会えるとしたら夕方以降になりそうだと伝えておいてくれる?」
「わかりました。伝えてきます」
えっ。
言葉の意味を正しく理解するより早く、メイドさんは男子寮へと消えていった。
「レンさん、どう思う? もしかして……来るかしら?」
俺の危惧を正しく理解したレンは、周囲に漏れないような小声で囁いた。
「殿下が、昨日話したアクロディリア様がアクロディリア様らしくないと感じているなら、来るかもしれませんね。ヨウさんはアクロディリア様としては詰めが甘いですから」
レンとちょっとおしゃべりする時間――俺のそんな小さな幸福をぶっ壊すかのように奴がやってきた。
「どういうつもりだ」
やはり不機嫌そうな顔をしたキルフェコルト王子である。背中にデカイ剣を背負っていた。
もう説明がめんどくせーよ。
どうもこうも、おまえのメイドから資金集めって聞いてるんだろうが。それ以上の意味なんてねえよ。
面倒ながらももう一度同じ説明をすると、やはりというかこれまた想定通りというか、王子は言い放った。
「この俺が同行してやる。ありがたく思え」
思わず「結構です」と言いかけた言葉を飲み込む。
そうだよな……
印象は荒っぽい偉そうなだけの王子だが、これで結局お人好しなのだから男女隔たりなく人気があるのだ。
これは……ちょっと予定が狂うな。
断りたいのは山々だが、戦力面で言えば申し分ないのだ。当然のように三高を実装した上に、当然のように剣術ができる強い剣士タイプだ。ゲーム中でも末は最強クラスになるキャラだった。
おまけにメイドさんも制服姿で杖を持っているので、同行するつもりのようだしな。彼女も強いんだよな。
何より、この王子もなんだかんだ我侭だからな。断りきれる気がしない。
最悪、「俺が行く方向におまえたちが行くだけだ」とかいって堂々たるストーカーとなり果てるかもしれない。それはさすがに勘弁だ。
「仕方ないですわね。しょうがないので連れて行ってあげます」
「なんだと?」
「嫌なら結構。わたしがリーダー、あなたはただの連れですからね。現地で揉めるのは絶対に嫌なので、わたしに従えないなら来ないでください。これは互いの安全のためでもあります。ただの意地の張り合いではありません」
「……フン。今回だけだからな」
チッ。
「やだやだ俺がリーダーがいいーリーダーがいいのー」とでもごねてへそを曲げて諦めてくれればこっちも楽なのに……
もはや断ることをあっさり諦めた俺は、レンに囁く。
「――アルカさんに、悪いけど予定が変わったから同行はいい、と伝えてきて」
「――わかりました」
昨日の内に一緒に行くことを約束していたアルカは、冒険フィールドの現地で合流するつもりだった。
アクロディリアとアルカの関係を考えれば、公の場で仲良くするのは完全におかしいからだ。
まあ、仕方ない。
アルカ一人よりキルフェコルト王子とメイドさん二人の方が戦力になる、と考えれば、安全性はより増したことになる。そして事情を知らない奴が入ったおかげで俺の心労も増したことになる。
俺の心労は、いい。
俺の気遣いより誰かの命の方がよっぽど重いからな。やっぱり安全第一で正解だと思う。
伝令に走ったレンが戻る頃には、同行予定だったヴァーサスも合流した。
こうして、予定外にも5人パーティが出来上がっていた。
アクロディリア。
レン。
ヴァーサス。
キルフェコルト王子。
王子のメイドさん……クローナさん。
おお……何気に俺以外は強い人ばっかになってるじゃないか。これは安心できるパーティだ!
ただ、その……
これからやりたいことを考えると、若干オーバーキル気味というか、戦力過多というか、もったいないくらいなんだが……しかも一番初心者の俺が主導っていうのもおかしい面子だろ……
――いや、まあいい。
こいつらベテランにとっては鼻で笑うようなちっぽけな冒険でも、俺にとっては始めてだからな。今回は俺に併せてもらう。
腰に下げた袋に、昨日町で買ってきたアレがあることを確認して、俺は顔を上げて宣言する。
「今日は『アミマナの迷宮』に行きます」
「――フッ」
――案の定王子に鼻で笑われたわ! なんだよ王子こら! ……気持ちはわかるけど!
アミマナの迷宮は、基本的に1年生が通い、2、3年生になる頃には誰もが踏破するという、完全初心者用ダンジョンである。
現在、この全員が八年生。
それもこんな腕利きだらけで行くような場所ではない。
なんなら俺以外なら全員一人で踏破できるくらいの難易度だろう。ぶっちゃけ鼻で笑われるのも仕方ないくらいだ。
だが、そんなことはどうでもいいのだ。
踏破するのが目的ではない。
……というか、この反応に困っている連中の顔を見る限り、「骸骨狩り」の稼ぎ方は知られてないみたいだな。稼ぐのに初心者ダンジョンはないだろう、みたいに思っているはずだ。
…………
できないから知られてない、ってことでは、ないよな?
もしできなかったら、これだけの豪華なメンツを場違いなところに連れて行く俺は、とんだピエロになっちまうぜ?
ニヤニヤしている王子に一回舌打ちして見せて、俺たちは購買へ向かう。
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三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
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悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
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