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30.廻る旅の果てに出会う可憐な花……
しおりを挟む二人の王子で苦労も二倍になって、三日が過ぎた。
女子の敵意むき出しの視線が痛いので、「女子寮に来られると迷惑だから」と主張し、男子寮で待ち合わせすることにした。
今日も朝早くに、ここのところずっと一緒のいつものメンバーが揃った。
ラインラック王子と従者ヴァーサス。
キルフェコルト王子と侍女クローナ。
そして俺・アクロディリアと超かわいいメイドのレンだ。
「来たか。行くぞ」
キルフェコルト王子は浴場建設企画の全責任者として、同行するのはわからなくもないのだが。……さも我が主導、我が企画とばかりに先導したがるのも性格上わからなくもないのだが。
「それで、今日はどこから?」
しかしラインラック王子は、何が楽しくて毎日来るんだかな…………まあ俺も、このメンツと一緒でつまらないわけでもないけどさ。
「今日は近くですね。貴族町のお店に行きます。午後から材料を買い込み、とある民家の台所を借りる手筈ができています」
「そうか。いよいよ開発を始めるのだね」
「ええ」
三日も費やしたけど、それなりの収穫はあったからな。
「貴族町か。知り合いに合うかもしれんな」
「あら。別にキルフェコルト殿下は一緒に来なくてもいいのですよ? クローナと財布だけ付いてきてくれればわたしはとても満足なのに」
「クローナはやらんし、財布もやらん」
「はいはい。行きましょう、財布様」
「財布と呼ぶな!」
俺もアニキに悪態つくのも慣れてきたしな……最初は謝りたくて仕方なかったのにな……
まあいい。色々問題もあるんだが、今は目を瞑ろう。
ごねてもいいことなんて一つもないだろうし、それより企画の実現が最優先だからな。
この三日、毎日町に繰り出した。
そして喫茶店を中心に、飲み物を提供している有名店を片っ端からハシゴしたのだ。
露店では、果物の果汁と砂糖を交ぜただけの子供によく売れている安価な砂糖水や、寸胴鍋で最初から大量に作られたミルクティーもどき。味は薄いし雑だが不思議とよく身体に馴染んだ。
喫茶店では、名前は違うがコーヒーに近い飲み物があることがわかった。材料があるのであればコーヒー牛乳が作れるかもしれない。あとレモンティーは普通にあったので、レモンも確実にある。
あと、精製した牛乳も、あった。
チーズもバターもあるのであるかもしれないとは思っていたが、まあ、作り込みの甘い制作の仕事なので好都合と言えば好都合だ。
飲んでみたら俺の知っている牛乳そのままだった。だがこの世界ではこれをそのまま飲むという文化はなかったようだ。料理に使ったり飲み物に混ぜたりってのが主な使い方らしい。
「なんだか不思議な味だね」
「そうだな。……これがなんとかなるのか?」
始めて牛乳を飲んだ王子二人は、そんな感想を漏らした。
とにかく、ここ数日はこの世界の果物や乳製品、飲み物を知るために行動した。何かを作りたいなら、やはりまず何があるのか知らないといけないからな。
……レンと二人で回りたかったんだけどな……いや、今更もう言うまい。悔やんでも過ぎた時間は戻ってこないのだから。レンさんとイチャイチャしたかった。そしてレンさんに冷たい眼差しで見詰められたかった……
普段口にしない、それも好みや好物とは違うものを注文しろという俺の要望に従い、王子たちは町に溢れる庶民の味をそれなりに楽しんでいたようだ。
王子たちが楽しむ横で、俺とレンとクローナは、一つ飲み物を頼むごとにメモを取り、意見をすり合わせ、新しい飲み物の構想をたくさん考えついた。さすが王族付きのメイドさん、クローナも優秀である。……え? ヴァーサス? あいつは飲み物自体にあまり興味がないんだとさ。水でも飲んでろ。
そして、喫茶店巡りの最終地点として、今日は学校近くの貴族町へ向かう。遠いところから調査に当たったので、最終日と考えている今日は近場で済む予定だ。
で、購買のがめついおっさんに相談して、市場に近い民家の台所を借りられるように話を付けた。ドリンク開発はそこで行うのだ。
飲み物の構想は10を超えるが、最有力なのは4つである。なんとか物になればいいが……
「あら! あらあらあらあら! かっこいいお兄ちゃんばかりじゃない!」
お、おう……
貴族町の喫茶店巡りとついでに昼食を済ませ、購買のおっさんに言われた住所を訪ねてみると、いかにも井戸端会議が好きそうな恰幅の良いおばちゃんがいた。
「あんたいい男だねぇ! うちの娘と結婚しないかい!? まあうちの娘はまだ8歳だけどねぇアハハ!!」
お、おいおい……
バッシバッシとラインラック殿下の腕を叩きながら、おばちゃんの下町ジョークは止まらない。
「なんならおばちゃんと結婚するかい? 昔はタットファウス王国の可憐な花と呼ばれるほど引く手あまたでねぇアハハ!!」
おばちゃん。おばちゃん落ち着け。ヴァーサスが気安く触るなとばかりにイラッとしてる。レンとクローナが抑えているのを見てくれ。
……しかし王子はすごいな。かつてないレベルであろうぞんざいな扱いに対しても、笑顔が崩れない。まさか下町のおばちゃんにも揺るがないとはな。恐ろしい男だぜ……
「あんたは若い頃のダンナにそっくり!」
調子に乗ったおばちゃんは、標的をキルフェコルト殿下に切り替えた。……やべえ。俺の後ろにいるクローナが殺気を放ち始めやがった……俺を挟むなよ……
「まあまあ、おばさま。落ち着いて。――話は聞いていると思いますが、これを」
これからマシンガントークが始まろうという隙間に、俺は見事割り込むことができた! 俺すげえ! 下町のおばちゃんの隙を突いたぞ! これも剣術修行の賜物だな! ……ちょっと悲しい実感だが。
購買のおっさんに書いてもらった紹介状を渡すと、おばちゃんはろくに見もせず「はいはい」と頷く。
「ここは空家でねぇ。おばちゃんが定期的に掃除しに来てるんだよ。今日は念入りにやっといたから好きに使いなさいな」
あ、掃除しに来てくれてたのか。ここの住人ではないんだな。
「それにしてもあんた」
ん?
おばちゃんは、まじまじと俺を見る。……なんだ?
「あんた、若い頃のおばちゃんそっくりだねぇ」
今度は俺かよ! もういいよ下町ジョークは! ……あれ? レンさんなんで無視して家の中に? あれ!? 王子たちの従者は絡まれたら怒ってたよ!? あれ!? おーい!
まあそんなこんなで10分ほど絡まれたものの、無事おばちゃんを帰すことに成功した。
予期せぬ強敵との遭遇にごっそり気力を奪われたものの、ここでダウンするわけにはいかない。
レンに台所の準備をしてもらい、ほか五人はこれから市場で材料に繰り出すことになる。必要なものはすでにメモに書き出してあるので、総出で当たってすぐに戻ってくる予定だ。
「殿下、お願いします」
「おう」
いつもと違い、今回はクローナがキルフェコルト殿下を引っ張っていった。ちなみに殿下は荷物持ちとしての同行である。
「では私はアクロと行こうかな」
え? 王子俺と来るの?
「……わかりました」
従者ヴァーサスは少し迷ったようだが、それを容認して一人で出て行った。え? わかっちゃうの?
「行こうか、アクロ」
……うーん、まあ、アレだな。
たぶん二人きりで話したいことがあるんだろうな。
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