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49.甘い香りに誘われし強者たち……
しおりを挟む習得していないパターンであるなら、もう少し話をする必要がある。
「ねえアルカさん。『ドラゴンの巣』に『光の大賢者』の石碑があるらしいの。知ってた?」
「光の大賢者……って、エレオン=キリーク?」
そう、この世界の住人なら誰でも知っているほどの有名な偉人・エレオン=キリークだ。史上もっとも有名な光属性持ちの魔法使いだな。回復に特化した光魔法を使って、いろんな人の傷や病を癒しながら大陸中を旅したという人だ。
光属性や闇属性が貴重な存在として扱われるのは、過去の偉人に寄るところが大きいらしい。数少ないから、ってのも加味してな。
「私、その石碑を見てみたいの。光魔法の始祖とも呼べる方でしょう? 気になってね」
「ふうん。石碑か。そんなのあるんだね」
このきょとんとした感じ、本当に何も知らないようだな。……この主人公は図書館とか縁がなさそうだもんな。やっぱり知能って大事なんじゃないかと思う。
「アルカさん、どう?」
「え? どうって?」
「もし光魔法に興味があるなら、一緒に行かない?」
『天龍の息吹』の習得は、高確率の死亡フラグになりかねない。
もしアルカがすでに使えるようなら、俺は使えないままで済ませることも視野に入れていた。だって俺はレンの弟が助かりさえすればいいからだ。誰が治すかってのはそこまで重要じゃない。患者第一だ。
ここでアルカが『天龍の息吹』を使えると割れるようなら、この場でレンの弟を治すよう交渉に入っていた。俺が使えるだけの金を積んでな。
だが生憎アルカは習得していなかった。
この場合、二通りの選択肢が存在することになる。
一、俺だけが習得する。
二、俺とアルカ、両方が習得する。
アルカにだけ習得させるって選択肢は最初からない。こいつにだけリスクを負わせるような、死の宣告を食らわせるような真似はできないぞ。人としてできない。それはさすがにクソ過ぎるからな。
俺が覚える――リスクを負うのは確定だ。アルカよりはアクロディリアの方が今後の生存率も高いしな。フロントフロン家も超強いからな。
しかし気になるのは、アルカの光魔法への意欲だ。
もし死亡フラグとリスクを理解した上で、それでも欲するなら、俺はアルカに『天龍の息吹』を習得させることを厭わない。
だって魔法自体に罪はないから。
それに、こんなアルカが使うのなら、悪用することもないだろう。苦しんでいる人をたくさん助けるだろう。貴族ゆえに大した身動きが取れない俺なんかよりもっとずっと多くの命を救うだろう。
習得だけさせておいて、使うかどうかはアルカが決めればいい。生涯一度たりとも使用しなければ、死亡フラグだって立ちようがないしな。
大事なのは使いどころを誤らないことと、そんな魔法があって習得していることを吹聴しないことだ。これを守るだけでもかなり死亡フラグを抑えられるだろう。
「そこまで行けば、思わぬ発見があったりするかもしれないわよ」
「思わぬ発見ねぇ……」
アルカは「んー」と唸りながら虚空を睨む。
「『ドラゴンの巣』か。確かにそこまでは行ったことがないから、気になることはなるんだけど。それにそこまで行けばいい骨もありそうだし」
……こうして話したり見ていたりすると、本当に普通の女子なんだけどな。制服着てるだけに、本当に現代日本のどこかの高校生にしか見えない。
でもやっぱり言うことはちゃんとファンタジーの住人なんだよなぁ。
普通の女の子は「いい骨ありそう」とか、骨目的で悩んだりしないからね。なんだよ骨目的って。
「ところで一つ気になってるんだけど、ヨウくんも行くの?」
「わたしが見たいのよ。なのにわたしが行かなくてどうするのよ」
「そっか。……レンちゃんと二人だけじゃ、キツいよ?」
そりゃそうだろ。
『ドラゴンの谷』はそこまでフィールド難易度は高くないが、それでも冒険初心者が行けるような簡単な場所じゃない。更にその深奥『ドラゴンの巣』は、片足くらいは高難易度に突っ込んでる場所だ。レンさん一人ならまだしも、俺というお荷物を抱えて行くには危険すぎる。
「場所が場所ですものね」
それに、今回は王子連中には絶対に知られてはならない、禁呪獲得を目的とした冒険だ。あいつらにバレて同行されると非常に困る。
だから決めていることがある。
「今回は、プロの冒険者を護衛として雇おうと思っているの」
というわけで、やってきました町ギルド。
アルカは光彩を欠いた瞳で絶望を見つめながら、「スケジュール調整もあるから……少し考えさせて……」と、放っておいたら飛び降りるんじゃないかと思わせるほどのローテンションで答えた。ちなみに何を見て絶望したかは、お礼の……とだけ言っておこう。甘いものって本当に女子を豹変させるよね。
寮を出た後、その足で町ギルドへとやってきた。
なんでもまともな冒険者なら、この時間にはギルドへやってきて自分に合う依頼を探し、そのまま仕事へ向かうらしい。
護衛として雇うのであれば、金額もそうだが、それよりも人柄や性格をちゃんと見ないと大変な目に合う――というもっともな説を唱えたレン。
まったくもってその通りだと俺も思うが、でも俺は、信頼できる冒険者を最初から知ってるんだよね……ごめんな、無用に気を遣わせて。
「この国の冒険者は気性も穏やかで、そこまで荒っぽい人はいません。しかしギルド内では決して勝手な行動は取らないでくださいね。気難しい方もいますので」
チョコレートの香りを漂わせるレンはそう言いおいて、先陣を切ってギルドへと踏み込んだ。チョコレートの香りを追いかけるようにして俺も続く。……今日も立派な食べっぷりだったぜ、レンさん。アルカ涙目だったしな。
ギルド内は……あ、そう言えば、内装は購買部と一緒だったっけ。なんか感動がねえな。
だが、中にいる人は、やはり違う。
購買部はどこかフレッシュ感があった。
どんな大柄でも、どんな年季の入った装備をしていても、同じ学校の生徒でだいたい十代だからだろう。
しかしこっちは違う。
人種も装備も千差万別なのは一緒だが、やはり決定的なのは年齢層だ。二十代から三十代くらいの、もっとも肉体に油が乗ってくるくらいのおっさんやお姉さんが多いみたいだ。
レンの言う通り、こんなに朝早いというのに、冒険者たちはすでに活動を始めていた。ぎゅうぎゅうとまでは言わないが、完全に空いているテーブルはなく、静かな賑わいを見せている。まあ中には二日酔いなのかテーブルに突っ伏していたり、やたら顔色が青いおっさんがいたりするのだが。
すげー……これがリアル冒険者かー。みんなめっちゃマッチョじゃねーか。
「行きますよ」
入った瞬間から、さりげない視線を感じている。
やはりみんなプロらしく、状況の変化や周囲の様子に気を配る癖がついているのだろう。そりゃそうだよな。冒険フィールドではそれこそ不意打ちのようにモンスターに襲われることもあるだろうから。
レンの先導に続き、カウンターまでやってきた。……購買部では若く瑞々しい美しい女性だったが、こっちは「ザ・公務員!」みたいな横分けメガネで四十代くらいのおっさんである。細くて小さくて、とてもじゃないが元冒険者とか、そういうのには見えない。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件ですか?」
おお、受け答えも公務員っぽい。
「護衛として冒険者を雇いたいのですが、リストを見せていただけますか?」
「商団ですか?」
「いえ、個人です」
――護衛の仕事を請け負う冒険者は、誰でも選べるというわけではない。口下手で人と関わりたくない人とか、その美貌を目当てに不埒な輩が護衛以外の仕事を頼んだりとか、特定の人物としか仕事をしないと決めている人とかいるらしいので、護衛の仕事OKなら事前にギルドに登録しておくのだとか。
商団は、よその街まで荷物を運ぶ仕事。個人はそのまま。商団の護衛だとパーティや傭兵団やチーム単位での仕事、個人だと一人二人のバラ登録の冒険者も候補に入る。と、道中に説明された。
一応、アクロディリアは護衛付きで冒険に出たこともあるんだが、その時は全部レンに任せたらしい。
まあ、現実的に考えるなら、今回は少なくとも二人、できれば三人か四人雇えれば充分だと思う。
「ところでレンさん」
「はい」
「この囲まれてるの、どう思う?」
なんというか、囲まれているのだ。冒険者たちに。じりじりと距離を詰められているというか。
てっきり、よくある例の「チンピラ冒険者による新入りへの洗礼」だと思っていたのだが、なんかちょっと様子が違うんだよな。
「……なんなんでしょうね?」
レンさんもわからないのかよ。なら冒険者関係特有の行動ではないんだな。
「匂いでしょう」
リストを用意して差し出してきた受付公務員 (仮)が、レンを見ながら言った。
「それチョコレートの匂いですよね? 困るんですよねえ、そういう高級品の匂いを持ち込まれると。普段我慢してる人は色めき立っちゃうから」
え? 高級……?
「あ、……それは失礼」
レンさんは心当たりがあったのか、恥ずかしそうに口元を押さえた。
――ちょっと感覚の違いでまったく気づかなかったが、この世界ではお菓子はやや高級品になるそうだ。特にチョコレートはお菓子の中でも高級品で、普通の冒険者にはかなり無理をしないと手が届かない嗜好品になる、らしい。
アクロディリアの生活しか知らないので想像もつかなかったが、一般人の感覚だとそうなんだな。そう考えると貴族街にチョコ専門店があるってのは、背伸びした場所に開店したんじゃなくて、むしろ相応しい場所に開店したってわけか。
…………
あれ!? ちょっと待って!
「レンさん」
「何も言わないでください」
いや、言わずにはいられないだろ。
「高級品だとわかっていて、アルカさんのチョコレートの横取りを……?」
そりゃアルカも涙目になっちゃうよ……相手が相手なら殴り合いじゃないか……
「……私にとって、数年に一度食べられるか食べられないかという贅沢品なんです。大好きなんです。チャンスは逃せなかったんです」
お、おう……乗るっきゃなかったんだな、ビッグウェーブに。
……まあ、それに関してはもういいとして。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
…………
……レンさん、屈強な女冒険者たちに囲まれて、すごい匂い嗅がれてるんだけど……
こんな光景初めて見るわ。なんだこれ。モテ系制汗料のCM?
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