俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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54.狭壁に住まう脆き末路……

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 学校の購買部と同じように、ギルドの奥に設置された転送魔法陣から冒険フィールドへ向かうことになる。ちなみに町ギルドの転送魔法陣は有料である。まあ冒険者割引なる制度があるらしく、ギルド登録している冒険者なら格安で利用できるんだとか。
 今回のパーティーは、俺以外は全員登録済みだ。が、登録してない人が一人でもいたら割引が効かないそうだ。

 割引が効かない?
 別にいいけど! 別になんの問題もないけど! フロントフロン家からのお小遣いなめんなよ! 毎月無駄にシャレになんないくらい貰ってますからね!
 ……まあいくら大金持ってようが、安くなるシステムがあるっつーならそっちが気になる小市民の俺だけど。
 貴族の感覚というべきか、金持ちの感覚は未だに理解できない。チョコレートとかマジでクッソ高かったもんなぁ……高いの知って腰が引けて、全然手が伸びなくなったくらいだからな。その俺の横でレンがバクバク食ってたけど。

 「冒険者登録すれば割引付きますよ」と言われて本気で登録するか悩んだ俺だが、まあ案の定レンにダメって言われてしまった。そこらの木っ端貴族じゃないんだぞ、辺境伯の令嬢なんだぞ、と。男で次男以降ならまだいいが、令嬢の身ではさすがダメだと言われてしまった。

 まあ、いずれもしかしたら身分も名前も偽って国外逃亡する可能性のある身としては、変に身分登録みたいなことをするのは避けた方が無難だな。痕跡を残すと手がかり足がかりになるだろ? 過去の出来事が、誰も知らない秘密のボスの正体をあばくきっかけになっちゃうこともあるからな。

 行ったついでにこなせそうな簡単な依頼を数点引き受け、俺たちは『ドラゴンの谷』フィールドへとやってきた。




 ――まず、暗かった。

 転送魔法陣が設置されている小屋から出ると、とにかく薄暗かった。
 それもそのはずで、両サイドには天高くそびえる岩壁があり、光を遮っている。どれぐらいの高さがあるんだろう。100メートルくらいか? 迫り来るような威圧感があって息苦しい。
 上空から、というか衛生カメラから見たら、きっと大地に亀裂が入ったように見えることだろう。この世界に宇宙とかそういう概念があるかどうかわからないけどな。

 次に、風の音がすごい。
 ここでさえ「谷底」と呼べるような有様なので、とにかく風が渦巻いているというかなんというか。吹き込む風が壁に当たって乱気流みたいになっている……のか? ちょっとよくわからないが、とにかくびゅうびゅうと風が暴れているのは確かだ。この辺は小鳥なんかは飛べないだろうな。

 そんな壁に挟まれた間……谷底っぽい場所が、『ドラゴンの谷』のスタート地点のようだ。崖すげー高さだな……これは地震でできたのか? それとも大陸移動説みたいなのでできた「隙間」なんだろうか? それとも天災レベルのモンスターが熱線でも飛ばしてズバーンと斬れたとか、そんなんか? 
 まあ、もし日本にこんな場所があったら、あの崖の上のいい感じの場所で毎週犯人が自供したりしていることだろう。エーイチローあたりに追い詰められて。

 おのぼりさんよろしく、自然の驚異をミステリーの帝王の顔を青空に思い出しながら見上げていると、傍にいたグランが言った。

「あ、ドラゴン」

 何!? マジ龍か!?
 グランの声に、弾かれたように振り返る俺。

 ――いた! 壁に張り付いてた! ガチドラゴンだ! 文献に載ってたあいつだ!

 …………

「……超トカゲだ」

 マジで寸分違わぬガチなあいつじゃねえか……感動ないわー。

 ファンタジーのドラゴンと言えば、やはり「夜を連れてくる」とかいう比喩が似合う巨体で日光を遮るように飛び、「全てを焦がす」という表現が相応しい強烈な炎のブレスを吹き、「大地をえぐる」という様を易々想像できてしまうぶっとい腕だか足だかと鋭い鉤爪。そんな感じだろう。

 実はこの世界では、ドラゴンはすごくありふれたモンスターである。

 この世界のドラゴンは、神話や伝承に残っている「神龍」、空を飛ぶ「空龍」、飛ぶことができない「地龍」、死してなお力が衰えない「死龍」と、その四種類に大分される。
 
 「神龍」は、まあ、神だよな。
 このファンタジー系のゲームの世界でさえいるのかいないのかわからないってレベルの、伝説上の生物だ。まあ存在しないものと思っていい。俺たちの世界で言えばネッシーとかビッグフットとかツチノコとか、その辺だろう。

 「空龍」が、俺たちがお馴染みの超つえードラゴンだ。
 天災レベルからワイバーンまで幅広いが、とにかく「飛べるドラゴン」はこれに分類される。

 「地龍」が、もっとも多い種……というか、世間で言われるドラゴンの九割以上がこれに当たる。
 この種は本当に多岐に渡る。飛べないドラゴンはほぼ全部これだしな。

  最後の「死龍」ってのは、名前は有名だと思う。ドラゴンゾンビとか言われる奴だ。
 強いドラゴンほど魔力が強く、魔素も多く内包している。そして強ければ強いほど、死後に魔力やら魔素やら失われることなく、生命活動が止まり朽ちた肉体に宿ったままになるんだとか。それが原因で動いたり動かなかったりするらしい。

 で、今見ている岩壁に張り付いているでっかいトカゲみたいなドラゴンは、地龍種のドラゴンである。
 ……まあぶっちゃけドラゴンというよりトカゲとしか言いようがないんだが。頭からしっぽまで入れれば2メートルくらいありそうな巨大なやつだがな。でも形は完全に黒いトカゲだ。

 だが、あのトカゲでさえ、生態的には例の「空を飛ぶドラゴン」と同じものになるらしい。というか原種が「空龍」になるらしい。
 ドラゴン種は、生命力が強すぎるせいで、ありとあらゆる環境で生まれて育つ。どんなに過酷な環境でも成長に伴い順応する。だから数も種類も多く、ありふれたモンスターとして認識されている。

 あのトカゲで言えば、「岩壁を登れるように安定した四足」で。
 この岩壁に挟まれた環境ゆえに「大型では動きづらい、だから小型化」し。
 小さくなった分だけ身体が弱体化したゆえに直接戦う機能は退化しブレス器官が順応発達、それから「炎で燃やすより毒液で原型を残して仕留める」という進化を遂げた――とかなんとか。
 昨日、金髪王子が力説していたんだよな。面白かったから俺真剣に聞いちゃったよ。

 まあ生態についてはともかくとして、ドラゴンは毒を持っている。
 これが世界の常識、共通認識である。血に混じってるらしい。
 だから全員俺の発言に驚いたのだ。「食えるよ」ってのにな。普通毒持った生物は食えない……ってわけでもないんだが、まあ、特殊な調理法が必要だからな。日本で言えば免許とかな。ほら、フグとかあるだろ。実はウナギも毒あるんだぜ? 知ってる? 知ってた? あ、そう。

 …………

 制作のモンスターグラフィック担当者の負担と作業を減らすための、色違いモンスターでモンスター数かさ増しするための体の良い設定……なんて、俺は言わないぜっ! 真実はいつも闇の中だからなっ!

「ふむ」

 壁に張り付いたまま動きがないので、まだこっちには気づいていないかもしれない。こっちから向かおうにも、10メートルは上にいるので届かない。俺としては無視して行きたいところだ。
 皆で何気なく見ていると、ゼータが動いた。
 足元に転がる石ころを拾い――トカゲに向かってブン投げた。

  ドン!

「「えっ!?」」

 力強く、そして目にも止まらない速さで、軽く振りかぶったゼータの手から石が飛んだ。風を切り裂き、というより、空を貫くような一投だった。
 トカゲは避けるでもなく向かってくるでもなくピクリとも反応せず、胴体に石つぶてを食らい、見事なえび反り宙返りを見せて石ごと地に落ちた。

 ものすごい打撃音がした。背骨くらい簡単にへし折れたことだろう。……あれ、絶対死んだだろ。岩陰に落ちたからここからじゃ見えないが……

 いやいや待てよ。
 腐っても「ドラゴン」の名の付いた生物だぞ。あんなトカゲな見た目でも、それでも中級クラスの冒険者が相手するようなやつなんだぞ。鱗は硬い、皮は厚い、噛み付かれたら骨も肉も持ってかれるし毒や返り血を浴びたら一時間以内に確実に死ぬとか言われてるんだぞ。それを石ころ一つで……

「身体がなまってる」

 ぐるぐると肩を回し、本調子じゃないことを愚痴るゼータ。

「もう少し酒が入れば……」

 言いながら、チラッと俺を見るゼータ。
 だがそれどころじゃない、唖然とする俺、グラン、アルカ。
 特に冒険者として経験を積んでいるグランとアルカには衝撃的だったことだろう。本で読んだ知識しかない俺でさえこんなに驚いているんだから。

「ほかにはいないようです」

 索敵や周囲の警戒に余念がないレン。

「もう少し酒が入れば調子が出るんだがなぁ」

 うむ……これは安全に進めそうだ! さすが大酒姫おおざけひめゼータ、俺の知ってるゼータに間違いないぜ!

「じゃあ行きましょうか!」

 色々と危険な場所だし、こんなところに長居は無用だ。さくさくっと進んで目的を果たしてさっさと帰ろう!

「さ、酒……」
「行きますよゼータさん。私たちは先頭です」

 ――ちなみに雇い主として、俺はゼータのご褒美にと、受付のおっさんから酒瓶を二本預かっている。これはゼータが働いた時に少しずつ与えるという、言わばエサである。
 でも俺としては、酒より金に執着した方が、意地汚いとは思うかもしれないが、よっぽど健全な気がする。マジでアル中じゃねえの? 鬼族はならないって言ってたけどよ……








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