俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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60.悪役令嬢は強気に笑い……

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「ん……?」

 俺の次に目覚めたのは、グランだった。

「起きた? なら手伝って」
「え……ええっ!?」

 荷物などは全部崖の上に置いてきてしまったので、その辺に落ちている誰かの荷物・・・・・をあさってロープを取り、謎の男を縛ろうとしているところだ。

「な、何してるの?」
「縛ろうとしてるの」
「なんで?」
「知らない男だから」
「いや……その人、同じ学校の、フロントフロン様の同級生でしょ?」

 え? そうなの?

「誰なのか知ってる?」
「八年生のジングル先輩。……その、ちょっと不良なのかな。授業さぼって寝てるところよく見るけど」

 え、不良? この世界にもヤンキーの概念みたいなのがあるんだな。……まあそれは置いといて。
 そうか、グランは知ってる奴なのか。というかなんとなく見覚えがあったのは正しかったんだな。俺もきっと学校ですれ違ったりしていたんだと思う。

「というか、ここは……?」
「奈落の底、ってところね」
「――うわっ、骨っ!」

 自分が何の上で横になっているのか気づいて、グランは慌てて飛び起きた。
 はっはっはっ、後輩がビビってやがるぜ。俺? 俺は平気だよー。スケルトンで骨関係は慣れたよー。腐乱した肉は見ない。……見ない!

「……あ、そっか。俺……」

 グランも遠くに見えるわずかな空を見上げ、状況を思い出したようだ。

「……俺のせいで……」

 うん……まあ、確かにその通りだしな。あそこまであからさまだとごまかしようもないしな……変に慰めるとこじれそうだし、少し放っておこうかな。できればアルカに任せたい。あいつ攻略キャラ様だからな。アルカと相性いいだろうしな。

 それより問題はこの、……ジングルだっけ? こいつのことだよ。
 たとえ同級生でも知り合いでも、敵じゃないって保証はない。ここにいることも相変わらず疑問だしな。

 よし、やっぱり縛っておこ――

「へえ? それで俺を縛るの?」

 うわ、目ぇ覚ましてやがった!

「アハハハッハハ、まさかぁ!」

 と、俺は悪役令嬢懇親の飛びっきりの笑顔で答えた。ロープは後ろに投げておく。持ってませんよ? あなたを縛る物など持ってませんけど何か?

「ちょっと前から意識はあったけどな。あんたが墓場泥棒してる辺りから見てたよ」
「あら、なんのこと? 頭を強く打ったみたいだし、きっと幻覚でも見えたのでしょう」
「ふうん。まあそれでもいいけどよ」

 男は立ち上がった。おっと、意外と背が高いな。

「ここはドラゴンの巣の一つだよ。もうすぐ雨期が来るだろ? それを過ぎたらドラゴンがここに卵を産むんだ」

 あ、ここって巣なのか。言われてみれば形状はそうかもな。枯れ木なんかでも補強してあって、山頂部が凹んだ山……火山みたいな形になっている。俺たちが落ちたのはその山頂部分で、一番クッションの効いている場所だったんだろう。

「あなた誰? なぜここにいるの?」
「え?」

 男は目を見開いた。

「憶えてねーの? 俺結構がんばったと思うんだけど」
「がんばった?」

 何それ? なんかあったのか?

「……うわ、マジか。マジで知らねーって反応じゃん。なんだよ、久しぶりにやる気出したっつーのに……」

 なんか勝手に拗ねだしたんだけど……え? 何? マジで何?




 男は、ジングル・ハールと名乗った。
 グランの言った通り、タットファウス魔法学校の八年生で、アクロディリアやアルカと同じ学年になる。そら見覚えもあるわな。アクロディリアにとっては七年間を過ごした級友じゃないか。いくら接点がないとは言え、憶えていない辺りがひどいもんだ。本当にこの女は庶民なんて目に入らない生活してやがったんだな……

 俺から見た感じ、ジングルは脱力系の不良である。ガツガツ行かないしケンカもしない、ただただ気だるげに授業をサボる感じのな。でもこういう奴が意外と強いってのはありがちだよな。

「それで? そのジングルくんがなぜこんなところに?」
「簡単に言や小遣い稼ぎに来てたんだよ。ほら、あんたらドラゴン倒しながらここまで来ただろ? でも倒したドラゴンは手付かずだったろ? そこを俺がちょちょいと皮を取ったりウロコを取ったり爪を取ったりよ」

 あ、え、ハイエナ? いや違う、いわゆる寄生プレイみたいなこと?
 ……そっか。つまりこの男は、俺たちの後から付いてきて、俺たち……というかゼータが倒したドラゴンから剥ぎ取りをしつつ付いてきたのか。

「好きに罵れよ」
「え?」
「人のおこぼれにたかって付いてきたんだ。我ながらケチくさいとも思うしよ。だから罵ってくれて構わないぜ」

 ジングルは軽薄そうにヘラヘラしている。
 まあ確かに、ゲームの寄生プレイは腹が立つ。モンハンなんかでまともに戦わず他人任せにして、モンスターを討伐したあとに剥ぎ取りだけ参加する奴とかな! 腹立つよな!
 これがゲームでのことなら、俺はジングルをめちゃくちゃ罵ったことだろう。二度と携帯ゲーム機を持つ気がなくなるほどにな! たとえ友達でも、もう今後お互い「ひと狩り行こうぜ」とは気軽に言えない間柄になったに違いないね!

 けど……リアルだと、ちょっと感じ方が違うんだよな。

「罵るつもりはないわ。まあ、褒めるつもりもないけれど」
「あ? そう?」
「ええ。なんていうか、……正しいって感じ?」
「は? ただしい?」

 いや、なんか、上手く言えないんだけどさ。

「だって、ドラゴンって害獣かもしれないけど、生き物じゃない。それを自分の都合で殺してきた。確かに仕掛けてきたのは彼らだけれど、でもそれは生きるための捕食行動じゃない? ……上手く言えないけれど、命を奪う以上は、その命を無駄にしたくないっていうか……無駄な殺生にはしたくないっていうか……」

 ……やっぱり上手く言えないんだけどさ。
 奪った命が何かの、誰かの役に立つなら、その死はまったくの無駄ではないというか……殺す以上は何かしらの益に繋げたいというか……やっぱ上手く言えねーわ。

「とにかく、無駄に殺したわけじゃないなら、むしろその方がいいわ。心境的にね」
「……そうかい」

 ジングルはなぜだか視線を逸らして頭を掻く。やっぱ俺の言っていることが要領を得なかったのかもしれない。俺自身にもよくわからないしな。

「それで? 結局なぜあなたはここにいるの?」
「あ? ああ、そうか。……あとは簡単だよ。そうやって付いてきたらあのワイバーン騒ぎだ。で、あんたらが落ちそうになったから助けようとした。その結果ここにいるってわけ。俺は風属性持ちだからよ」

 風魔法――つまり飛べるってことか! ようやく繋がったな!

「ということは、あなたが助けてくれたの!?」
「たぶん。三分の一くらいはな」

 ジングルの話では、「飛ぶ魔法」は一人用で、ほんの短い時間しか作用しないらしい。

 俺とアルカとグラン、そして自分自身。
 完全に重量オーバーで定員オーバーだったので、落下スピードを落とすので精一杯だったんだとか。

「グランの土魔法と、ジングルくんの風魔法のおかげか……」

 二つの魔法の力で、今生存を果たしているのか。
 おまけに俺の場合、落下した時はアルカに庇われていたからな。……「アミマナの迷宮」の時と同じく、また俺は大した役にも立てなかったのか。

「ま、俺がいなくても生存できてたかも知れねーけどな。下がコレだったしよ」

 確かに、落下地点がドラゴンの巣だったのは幸運だった。完全にクッション代わりになったしな。
 だが、ジングルがやったことが無駄とは、俺は思わない。

「そんなことはないわ。あなたは必要だった」

 死亡はおろか、誰も大怪我していなかった。それこそが証明である。もっと落下スピードが早かったら、それこそ胴体をぶち抜くほど深く骨が突き刺さっていたかもしれない。
 たらればの話をすればキリがないが、何一つ欠いてもこの結果は生まれなかった。そう考えれば不要なものなど一つもなかったのだ。

 強いて不要を探すなら、俺だしよ。くそっ。俺もなんかの役に立ちてえな……

 ……あれ? ちょっと待てよ。

「こう言っちゃアレだけれど、あなたは人を助けるようなタイプなの?」

 いくら風属性持ちでも、普通親しくもない人を助けるために崖から飛ぶか? 空飛ぶ魔法は一人用って、それこそ風魔法使いならわかりきっていることだ。完全に重量オーバーなのがわかっていて、助けようとするか? 自分だって危ないのによ。
 どっからどう見ても、ジングルは進んで人を助けるようには見えないんだが。それも命懸けでだぞ? ……まあ咄嗟に身体が動いちゃうってのはわかるけど。俺もグランの時は後先考えず動いていたしな。

「そりゃあんたがいたからだよ。辺境伯令嬢を助けたとなりゃ、ちょっと小遣いくらい貰えるだろ?」

 なるほど。わかりやすい。

「じゃあ、はいこれ」

 と、俺はジングルに「帰還の魔石」を渡した。

「望むなら報酬は出すわ。でも今は持ち合わせがないの。帰ったらあげるから、もう帰っていいわよ」
「お、おう……」

 ちょっと微妙な顔をして、ジングルは魔石を受け取った。

 さてと。

「ねえ、ジングルくん」

 俺は腕を組み、思いっきりあの女・・・の顔で勝ち気に笑って見せた。

「ここから先も一緒に来たいなら、報酬はなしよ。だってあなたはあなたの仕事・・・・・・をこなしただけだものね?」

 ジングルがここにいる理由。
 それは、本人が語ったこととはまるで違う――と、俺は看破した。








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