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67.嫌われを超えられたら……
しおりを挟むはぐれていた二人とも合流し、目的も達成した。
色々と濃い時間を過ごしたものの、落下からはそんなに時間は経っていない。洞窟内だから空で確認はできないが、まだ夕方くらいのはずだ。
崖の上に置いてきてしまった荷物は、レンとゼータが回収してきてくれていた。
「マジ? 俺の分もあんの? ありがとな」
ジングルも落下事件の際に荷物を置いてきてしまったらしいが、奴の荷物も一緒にあった。
「では、もう帰るだけか」
酒を欲しているゼータは、早いところギルドに帰還して飲みたいようだ。
「そうね。目的は果たしたから」 長居したい場所でもないし、俺も異論はない。落下だのドラゴンだので、身体はともかく心は非常に疲れている。とっとと帰ってさっさと寝たい。
でも、問題は「帰還の魔石」が使用できないことだが――あっ!
「そうか!」
俺はポケットに突っ込んでいた魔石を取り出す。
今なら、たぶん使えるだろう。
ここがゲームの世界だと考えると、「普通の魔法は使えるけど帰還魔法だけは使えない」という一貫性のないパターンがあったことに思い当たる。
さっき使えなかった理由は、きっと、「『天龍の息吹』獲得のイベントに入っていたから」だ。イベント中やボス戦直前とかな。使えない時があるゲームがあったはずだ。
「純白のアルカ」では試したことがなかったから正解ではないかもしれない。が、そう考えるとしっくり来るし、逆に違うのであれば、もう本当に理由がわからないってことになる。あの場所だけ特別な理由があってそういう仕様になってるって可能性もあるしな。
あとは、何者かが強制的に使えなくしていたとか。……何者って誰だよ。こえーな。
ま、とりあえず使えばわかることだし、試しに使ってみよう。
「『帰還』」
唱えた瞬間、視界が歪んだ。
――お、成功だ!
「えらく急に使用したな」
確かに急だったかもな。試しに使っただけに、「今から使うぞ」的なアナウンスをしていなかった。
まあでも、用事は全部済んでるからな。問題はないだろう。
歪んだ視界に目が回り思わず目を瞑り、開けてみれば帰還を果たしていた。
肌寒かった空気が温く感じられ、遠くに人の喧騒が聞こえる。冒険フィールドから離れたせいか、空気だけじゃなくて雰囲気も温かく感じられた。
魔石の力で、冒険者ギルドの転移魔法陣の部屋に戻ってくることに成功した。握っていた魔石は消滅していたが。
「まあいい。酒だ酒だ」
ゼータはさっさと行ってしまった。そう、ちゃんと登録したパーティ五人で帰ってこれたのだ。やはり不良品ではなかったってことだ。
ジングルはいなかった。
俺たちとパーティ登録してないってのもあるが、たぶん「最初に転移した場所が違う」んだと思う。ほら、あいつキルフェコルトの使いだからさ。きっと王国関係の公務員専用みたいな魔法陣が、ここ以外のどっかにあるんだろ。
「先に帰るね」
一緒にいるところを見られると不自然に思われるので、アルカも行ってしまった。
止めようかとも思ったが……ここは落ち着いて話せる場所でもないので、後日改めて話すことにする。ささっと済ませられる話ではないからな。落下事件とかドラゴン戦のお礼とか『天龍の息吹』のこととか、ちゃんと話しておきたいしな。
「――フロントフロン様」
薄ぼんやり光る魔法陣に囲まれたここで、グランが俺の前に立つ。
今朝出発した時と比べて服はボロボロ、自身の血が染み込んだりしていて、見るからに「苦戦しました!」という感じだ。
だが、不思議と、もう初心者には見えなかった。
今朝までは確かに未熟者の冒険者で、しかも弱そうにしか見えなかったのに。
「今日は、誘ってくれてありがとう」
そして違うのはもう一つ。
背中に、ベッコベコのジャンク寸前の鉄の盾を背負っていることだ。持ち込んだ皮の盾は再び装備している。
「その盾、直すの?」
「どうするかはまだ決めてないんだ。ただ、直すよりは買い換えた方が安いだろうってジングルさんも言ってたし、俺もそう思う」
だろうなぁ……見るも無残な有様だからな。穴も空いてるくらいだし。
「紋章が入ってたでしょ? 鳥の」
「ああ、そうだったわね」
なんか見覚えがある……つーか、おぼろげにそれに似た物をどこかで見ているってアクロディリアの記憶にあるのだ。もやっとしてはっきりしないけどな。
「恐らく、どこかの貴族の紋章だと思うわよ」
たぶん幼少時の貴族用英才教育の中で見たんだろう、と思う。記憶がだいぶ古いみたいだからな。
「紋章か……」
えーと、日本で言うところの家紋的なものである。
現存するのは、大昔に王より賜った貴族の家に代々継がれているとか、そんな感じになるらしい。フロントフロン家にもあるぞ。古くから伝わる由緒正しき辺境伯の家だからな。
ただ、ここ百年以上はそういうのはやってないからな。紋章を与えられるって文化はもう廃止されているのかもしれない。今はタットファウス王国の紋章のみ、掲げることを許されているみたいだ。
だからあの鉄の盾、それなりの骨董品になるのか、骨董品のレプリカとして作られたのか、または勝手にそれらしい絵を描いただけなのか、アクロディリアの知識を遡ってもちょっとわからない。
「もし持ち主が辿れたら、返そうかな。俺は確かにこの盾に救われたから」
うーん……持ち主と言われても、あの巣で死んでるんじゃねえの? あ、遺族とかに返すパターンもあるのか。
あの盾があそこのドラゴンの巣に置かれたのは近年、どころか今年中だったりっつーくらい最近だとは思うけどな。
サビ具合から見て長く野ざらしってことはないだろう。ちゃんと調べればかつての持ち主までは辿れるかもな。持ち主以上のことがわかるかは何とも言えないが。
「あ、まあ、盾のことはいいんだけど」
と、グランは顔を引き締めた。
「俺、結構長く冒険者やってたんだ。でも今日の冒険が一番すごかった。いっぱい失敗したし、いっぱい成功もした……と、自分では思うんだけど。とにかく本当に密度が濃かった」
そうだな。濃かったよな。飛ぶ系のドラゴンと遭遇するなんて想像もしてなかったよな。わかるわー。
「そして、成長もできたと思う」
だろうね。俺がビビるくらいには急成長したと思うよ。
「もう諦めてた冒険だったけど、俺、見つけたんだ。やっと。やっと俺にできることがわかったんだ」
ぼんやり輝く光を受け、しかしグランの瞳には更に強い光が宿っていた。
「フロントフロン様が俺の剣を捨てた時、はっきりわかったよ。俺には剣はいらなかったんだ、って」
一応グランは捨てた剣を拾ってきてはいるようだが、……たぶん剣を腰に帯びるのは、これが最後になるんだろうな。
これからグランは、盾しか持たないだろう。そう、盾を武器にしていくのだ。独自して独特の攻防一体の盾術を編み出し、体現していく――それが俺の知っている『大盾の騎士』だ。
「――ありがとう。俺、もう一度がんばってみる」
うん、まあ、アレだ。
……これから俺は、ちょっとつらいことを言わなければいけない。
深く深く息を吐き、止める。
そして悪役令嬢の仮面をかぶり、冷ややかにグランを見据えた。
「勝手になさい。ちょっとした気まぐれで雇ってあげたけれど、案の定の役立たずだったわ。わたし、役立たずって嫌いなの。元々住む世界も違うのだし、もう話しかけないで」
……うぉおおおおおおおお! 胸が痛いー! 超胸が痛いーーー!!
覚悟はしていたのに、その覚悟が簡単に揺らぐほど胸が痛い。
正直もうすげー言いたくないセリフだが、でも、言わないわけにもいかないんだよ! ゼータは学校関係者じゃない、アルカは事情を知っている、レンは味方、ジングルはお互い秘密を握り合うことで牽制できている。
だが、グランだけは、俺の身バレ事情のすべての条件からズレてるんだ!
さっきグランは「いっぱい失敗した」とか言っていたが、それは俺も一緒だ。俺の場合は冒険以外、身バレ関係の失敗もだ。かなり素が出ていたはずだ。嫌われ者の悪役令嬢として相応しくない言動も多々あったと思う。なんかもう、今更誤魔化せないだろってくらいやらかしている。
これ以上グランと関わると、絶対にバレる! というかすでにバレててもおかしくない!
こうなったらもう理屈じゃない、力技で押し切るしかないだろう!
ここで完全に関係を絶って、できることなら嫌われて、噂の拡散を防がねば……!
「ああ……その……」
グランは……すごく言いづらそうに、言った。
「……なんか色々事情があるんだろうなって思ってる。だから俺は何も聞かないし、何も言わない。誰にも言わないよ」
「誰がそんなことを望んでいるの? わたし? 冗談じゃないわ。勝手に決めないで」
ずきずき痛む心をねじ伏せ、俺は続ける。
「あなたのせいで死にかけたわ。何度も。それだけの事実でも極刑ものだわ。――早くわたしの目の前から消えて。永遠に」
辛辣な言葉を投げる俺に対し、……グランは笑った。
「俺、あんまり頭よくないけどさ。でも一緒に命懸けで戦った『仲間』のことは疑わない。嫌いにもなれないよ。そうしてほしいならそうするけど。でももう嫌いにはなれない。
誰でもいいんだよ。あんたが誰かなんて関係ないし、知らなくてもいい。フロントフロン辺境伯令嬢であろうとそれ以外であろうと、もう俺は『仲間』だよ」
くっ……くはっ……
やばい、涙腺がちょっとアレだ! 泣きそうだ!
――やっぱりあれだけ失態を重ね、素を出し、仕方ないとは言えタイキックまでかましたんだ。おまけに一緒に戦ったりしたしな。グランだってそりゃ気づくだろう。俺の行動の多くが「嫌われ者の辺境伯令嬢」の域を余裕でぶっちぎっている。
そして今、グランはアクロディリアを素通りして、俺を見ている。
アクロディリアではなく、俺を。弓原陽を。
「それじゃ、俺も先に帰るから。またね、フロントフロン様」
言葉を失った俺を置いて、グランも行ってしまった。
「……まあ、正体が見抜かれるのは必然なんじゃないですか? ヨウさんは間が抜けていますから」
レンさんは容赦ねえな……でも言い訳もないわ。まったくその通りだ。
「どうしたらいいと思う?」
「普通に接していればいいと思いますよ。向こうだってそれなりに合わせてくれるでしょうし。取り繕ったってもう遅いみたいですし」
そっか。そうだな。その辺の事情まで汲んでる感じだったもんな。
「私たちも行きましょうか。早く帰ってお風呂に入りましょう」
「そうね」
「そこでゆっくりじっくり、私がいない間に何があって何をして、その大切な身体をどれだけ乱暴かつ無神経に使ったのか聞かせていただきましょうか」
「……あれ? 怒ってる?」
「怒ってないですよ。別に。自ら崖下に飛ぶような馬鹿な人に何の怒りを覚えろと?」
やべえ、ガチで怒ってる……
「いや仕方ないじゃない! あいつ落ちたし!」
「はいはい。その辺のこともあとでゆっくりと聞きますよ。ゆっくりとね」
…………
長い夜になりそうだ。
こうして、禁呪『天龍の息吹』を獲得するための冒険は終わった。
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