俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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69.悪役令嬢の暇をつぶす一日  前編

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「暇ね」

 飛燕魚の月 (七月)が、あと数日で終わろうという差し迫った頃である。

 もうすぐ一学期が終わり、夏休みに入るのだ。
 七年生以下は、最後の最後まで普通に授業があるが、俺たち八年生は違う。

 ある者は八年生第一回目の査定の追い込みや、その査定関係で必死で方々に頭を下げて査定内容の相談に駆け回り、またある者は普通に冒険に出たりしているようだ。
 だが、それらは少数派である。

 この時期の八年生は、多くが暇を持て余している。
 査定も済ませ、あとは夏休みを待つばかり――という状態なのだが、問題は天気だ。

 七月か八月、この土地には雨期というものがやってくる。ちょうど俺たちが『ドラゴンの谷』の冒険を済ませた次の日から、数日に渡って振り続けている。
 激しくはないが、昼夜問わずずーっと降っている。よく降るなーと思ったのだが、毎年こんなもんらしい。

 車だのなんだのと、雨が降っても関係ない交通手段が馬車くらいしかない世界である以上、雨の日というのは俺が思った以上に、この世界の住人の行動を制限してしまうようだ。

 舗装されたアスファルトなんてないから、道はすぐにぬかるんだり、水溜りができる。足元が悪いだけならまだいいが、実は「傘」という文化がないようなのだ。
 いや、正確には「浸透していない」か。あの呑んだくれでお馴染みの大酒姫ゼータは、武器としても使用できる傘を持っているからな。でも確かゼータはこの土地の人じゃないからな。あいつが持っている傘は一種の異文化だ。

 じゃあ雨よけには何があるのかと言われれば、雨合羽……ああ、レインコートの方が世界観的には相応しいだろうか。水をはじく油だかロウだかを塗ったコートを着て外出する。あとある程度の腕がある風魔法使いなら雨よけの魔法が使えるらしい。

 そんな有様なので、基本的に「雨の日は用事がないなら外出はしない」というのが普通なのだとか。

 だから暇なのだ。
 日々の訓練も、雨のせいで中止になっている。部屋で木剣を振り回すわけにもいかないので素振りしかできないし、素振りも含めて筋トレばかりしている。ぶっ倒れるほど踏み台昇降とかしてみたりもしている。やりすぎて死ぬかと思った。踏み台昇降死とか嫌すぎる死因で死ぬところだった。

 だがやはり暇だ。筋トレはあくまでも筋トレであって、やはり剣術訓練より楽しいものではない。それに一日二日ならまだ我慢できるが、もう三日目だ。さすがに部屋にいるだけなのはつらい。

「図書館にでも行ってみてはどうですか?」

 向かいの椅子でなんかチクチク針仕事をしているレンは、……暇ではないんだろうな。何してるんだろう? 刺繍か? 女子じゃないせいか単に趣味にないせいか全然興味湧かないんだよね。

「そうねえ……」

 一応、嫌われ者の自覚があるので、部屋の外に出るのはできるだけ控えているのだが……このままだと暇に身体を溶かされてしまうかもしれない。エロスライムじゃないスライムのように!

「……こういう時は友達と適当に遊びたいところよね」

 だが、娯楽が少ないんだよなぁこの世界。テレビゲームなんてあるわけもないし、ゲームと言えばトランプかチェスくらいである。
 トランプもなぁ……二人で遊ぶには限界があるからなぁ。というかそもそもレンさんはメイド仕事があるから、俺とは違って暇ではないんだよね。

 確か転生ものの小説なんかでは、オセロとか開発して流通させたりしていたっけ。オセロかー。そういう気分じゃないしなー。チェスはアクロディリアの記憶にもないから、いまいちルールわかんないしなー。だとしたらトランプしか選択肢がないんだよなー。

 他になんかあったっけ? 娯楽だろ? この世界にあるもので、室内でできて、ルールも単純で誰もがわかりやすくて…………あ。あった。あるわ。

「あれなら行けるか……?」

 俺の知っているものとは違う形になりそうだが、だがそれがいい。
 友達と一緒に遊べるし、暇つぶしになるし、俺にとっては新たなスキルを得る訓練にもなるし。誰がやってもわかりやすいルールにできるし、室内でも余裕でできるし。

「レンさん」
「何か暇つぶしを思いついたのですか?」

 うん、思いついた。

「ちなみにレンさんは暇じゃないのよね?」
「そうですね。付き合えと言われれば付き合いますが、私は私の仕事がありますから。お友達と遊んできたらいいと思いますよ」

 ヨウさんと同じように暇している人もいるでしょうから、と。
 そんなレンに見送られて、俺は寮部屋から出て……ちょっと首を傾げた。

「あれ? 俺友達いるか?」

 アクロディリアの友達じゃなくて、俺のな。俺の友達だ。

 …………

 俺の事情を知っている、ラインラック王子とヴァーサスくらいしかいないじゃないか。ああ、あとグランもいいかな。あいつは俺の正体がどうとか気にしないだろうし。キルフェコルトも問題ないか? 文句言いながら付き合ってくれそうだし。

 うーん……あいつらいるかな? あんまり暇してるイメージないんだよな。常に自分を磨いているだとか、そんなタイプだろ。
 まあいいか。どうせ断られても暇つぶしにはなるし、行ってみよう。




 貴族用の女子寮で風魔法使いのメイドを捕まえ、雨よけの魔法を掛けてもらい、貴族用の男子寮へとやってきた。

「おい、あれ見ろよ……」
「あれって辺境伯の……?」

 女子寮でもそうだったが、暇を持て余した連中がロビー兼談話室でチェスしたりトランプしたりで暇つぶしをしていた。だよね。やっぱ暇だよね。
 そして女子寮でもそうだったが、男子寮でも注目を集めると。この制服メガネ姿もついに見慣れられてきたんだな……学校内では変装の意味がなくなってしまったか。この姿で色々やってきたしこれも必然か。

 まあもうどうでもいいか。勝手に見てろ。そして悪口を囁いてろ。ただし聞こえないように言えよ。傷つくからな! 聞こえたら辺境伯令嬢としての権力を使って絡んでやるからな!

 暇な男たちとは違い、こんな日でもあくせく働くメイドを捕まえ、とりあえずヴァーサスを呼んでくるよう頼んでみた。
 ほとんど待つことなく、黒髪の覗き魔のあいつがやってきた。

「どうした? 何か用か?」

 いつか初めて来た時はめちゃくちゃ険悪で不機嫌だったのに、今は普通の顔で普通に対応をされている。やっぱ好感度って大事だと思うよ。嫌われないってすごい大事なことだと思うよ。

「暇でね。遊びに来たの」
「暇……」

 用事があったから来たんだろうと思っていたのか、ヴァーサスの武人のような覇気満ちた目から力が抜けたのが見て取れた。

「毎日この天気でしょう? 訓練もできないから暇なのよ。あなた暇してない? ラインラック殿下は何してるの?」
「殿下も俺も、本を読んで過ごしている」

 あ、貴族っぽいわ。優雅だし、ラインラックにお似合いの休日の過ごし方って感じだわ。

「……まあ、言われてみればな。部屋では素振りくらいしかできないし、そろそろ身体を動かしたいところだ」

 だよな! だよな!

「遊びに来たと言ったが、何をするんだ?」
「運動……にはならないかもしれないけれど、少し身体を使う遊びを考えてきたわ」
「ほう。ちなみにそれは、王族や貴族の品位を問わないものだろうな?」

 え? 品位?

「そういうの気にする?」

 今更だろ、って思うんだが。

「俺のことじゃなくて自分のことだろう。貴方は気にしろ」

 ……あ、はい。辺境伯令嬢ですものね。はい。すいません。失念してました。

「品位は……どうかしら? ただの訓練と言い張れるし」
「聞くだけ聞こう。その遊びとはなんだ?」

 たぶん、この世界には、違う名前で存在するはずだ。

「ダーツよ」
「…?」
「言い換えると、投げナイフね」









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