俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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74.それは蝶と呼ぶべきかその他と言うべきか……

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 周囲の目は痛いものの、たった一人でも友好的な人物が隣にいるだけで、何も気にならない。
 そんな行路ではあったが、終点はすぐにやってきた。

 二重の意味で。

「――グラン! 何してるの!」

 体育館に到着する直前……出入り口付近で、女子に声を掛けられた。グランが。

「あ、エイル」

 何事か言おうとしているグランの腕を取り、女子……エイルは引っ張った。

「早く来ないと席なくなるよ! ほら!」
「え? え? でも俺」

 グランが俺を見る。なんだよ。女子が誘ってるんだから行かない理由ないだろ。俺のことなど気にせず女子と行けばいいじゃねーか。女子と行けばいいじゃねーか! 俺にはレンさんがいるし、別に女子に誘われなくたって平気なんだからな!

「早く行きなさいよ」

 俺はシッシッと手振りまで添えて、後輩に「行け」と急かした。
 別に平気だしな。別に後輩が可愛い女子に誘われたからって別に俺はどうでもいいしな。攻略キャラ様はモテモテで大変結構ですな! ……生まれながらの勝ち組ちくしょうめ……

 ……まあ、冗談はともかくだ。

 出入り口近くでこんなやり取りしてると迷惑だろ。俺を中心に妙なスペースが空いてる分だけ、端はぎゅうぎゅうなんだぞ。
 それに嫉妬はするが、グランはモテて当然だろう。ルックス良し性格良しだからな。俺も可愛い後輩だと思ってる。好きになる女が出てきても不思議じゃない。

 もう一目でわかったわ。エイルちゃん完全にグランに気があるよ。俺もあんな風に腕取られて「こっちだよ」とか言われてどこぞに誘われてみたいなぁ……

 何度も後ろ……俺を振り返りながら、グランはエイルに引っ張られて体育館へと消えていった。あいつ俺に気ぃ遣いすぎだろ。俺にはレンさんがいるから気にすんなよ。マジで。
 それよりあの女子、こっちには一目さえ視線をくれなかったな……グランしか眼中にないってことだろうか。ヒューヒュー熱いねぇ! もう付き合っちゃえば!? そしてその場合はなんの理由もなくグラン殴っとくけどな!




 さてまた孤立したし、俺も行こうか――という絶妙なタイミングで、奴らがやってきた。

「アクロ様!」

 お?
 声に振り返ると……三人の女子が俺の前へとやってきた。

「……あ」

 誰かと思えば、アクロディリアの取り巻きである、通称三馬鹿令嬢じゃないか! 気づかなかったのは、奴らがダイナミックなドレス姿ではなく、余裕で群衆に紛れ込むような制服姿だったからだ。

 おーおーなんとも普通の女子らしいこと!
 まあ今は人のこと言えないけどな! アクロディリアこっちもいつものメガネに制服だしな!

 えーと、右からミーアハンズ・カナテリモ。カナテリモ伯爵の次女。甘いものが大好きで、いつもダイエットダイエット言っているダイエット戦士だ。努力の甲斐あってグンバツのプロポーションである。アクロディリアの方がバランスはいいと思うが、胸なんかはミーアの方がデカい。

 真ん中がアティー・ミルセオリア。ミルセオリア伯爵の末っ子で長女だ。
 三人の中では一番家格が上で、一番アクロディリアと気が合う。……と言うと語弊があるか。アクロディリアは性格がすごく悪いが、こいつは家格や爵位を第一に考えて立ち回る。それは突き詰めれば「自分の家を守る」ということに繋がる。打算的と言えばそれまでだが、本質さえわかればそう悪い奴ではないと俺は思う。接し方さえわかればな。

 で、左のがマリエル・クレンソン。クレンソン男爵の一人娘。家格は一番低い。えーと……マリエルに限ってはよくわからん。あんまりしゃべらないし、小柄なせいか二人の妹みたいな扱いになっている。実際人形のように綺麗で可愛いしな。アクロディリアも愛玩動物くらいに思っていたみたいだ。
 でも、確かこいつが一番頭が良いっつー設定があったっけ。
 ゲーム中では、アクロディリアが主人公アルカに向けた嫌がらせの失敗は、だいたいこいつのせいだったはずだ。
 今ならなんとなくわかるが、こいつは「嫌がらせを失敗」させることで、マリエルなりにアクロディリアを守っていたんだと思う。
 だって嫌がらせの数々が全部成功していたら、問題になっていただろうからな。主人公アルカを学校を追い出せればいいが、追い出せなければ命に関わるような事件になっていても不思議じゃないからな。

 ……まあこの辺はあくまでも「ゲームの設定」なので、本当にそんな意図があるのかはわからないけどな。本当にただの三馬鹿なだけかもしれないし。

「久しぶりね」

 何度か部屋に訪ねてきていたはずだが、全部会わずに済ませていたしな。擦れ違うような再会は何度かあったが、ちゃんと言葉を交わすのは、俺が悪役令嬢になって以来かもしれない。
 まあ、身バレが怖いから、あんまりアクロディリアと親しい人とは会いたくないってのが本音だけどな。

 でも、俺はそうでも、向こうは用事がある……ような気がする。

 だってほら、真ん中が俺のこと睨んでるし。え、そんな顔でアクロディリアを見たこと、一度もないよね? なんなの?

「『久しぶり』じゃないです! いったいどうしたんですか、あなたは!」

 ……え? 何? 何この流れ? 説教?

「その姿はなんですか!」

 え、普通の制服だけど。……先日の冒険でボロボロになった制服はマジックアーマー効果が勿体ないけど破棄して新しいものにしたし。デフォでスカートが短いこと以外どこも変じゃないよな?

「そのメガネはなんですか!」

 変装ですけど、何か? まあ最近は見慣れられてきてるせいで、あんまり意味なくなっちゃってるぽいけど。

「いつものあなたはどこへ行ったんですか!」

 それは俺にもわからんよ。正直俺だって好きで悪役令嬢やってるわけじゃないんだぞ。文句はこんな現象起こした奴だか事象だかに言ってくれ。

「……ねえレンさん、これ何?」

 なんか言っている内にどんどんヒートアップしてきたらしく、アティーは睨むどころかすげー怒った顔をしている。
 さすがに今すごく激おこな彼女に呑気に「どうしたの?」とは問えず、すぐ傍に控えてくれているレンに小声で助言を仰いでみた。

「手短に話しますが――縄張り争いで大変らしいですよ」

 は? 縄張り?

「一応言っておきますが、あなたのせい・・・・・・でもありますからね」

 ……え? 俺のせい?




 ただでさえ注目を集めているのに、かつての取り巻きに責められるというオプションまで付いてきて、俺に向けられた白い目の数は大変なことになっている。何せ通り道のど真ん中での出来事でもあるからな。みんな通行の邪魔してごめんね! でも今は移動できる雰囲気じゃないから勘弁な! イベント中っつーことで勘弁な!

 まあとにかく、最近はこの状況より、もっと大変なことが裏で起こっているらしい。

「……何それ……」

 レンから手短に事情を聞くと、途端になんだかバカバカしくなった。
 女の世界には色々ある、というのは聞いているが……なんつーか、男はつまらないことに没頭するけど、女は面倒臭いことが好きなのか? 

 女の感覚はわからん。
 そこにお貴族様のお家事情まで加わると、もっとわからん。ついでに言うと女心もわからん。

 ――まあ、わからんわからん言ってても始まらないので、レンから聞いたことを噛み砕いてみよう。

 結論から先に言うと、レンの言った通り、縄張り争いだ。
 そして、確かに俺のせいでもあるようだ。

 このタットファウス魔法学校で一番の問題児であったアクロディリア・ディル・フロントフロンは、……まあ飾らず言えば、この学校の女社会のボスだったらしい。
 爵位は高い、希少な光魔法の使い手、比類なき美貌と、「光の聖女」だの「学校の女帝」だのという苦笑いしか浮かばない名称がそれなりに似合っていた。俺には失笑ものだが、周囲にはそれなりの泊がついて見えていたそうだ。

 そんなこんなで、いつからか自然と、アクロディリアを頂点とした君主制じみた女社会が形成された。
 七年も八年も同じ学校だから、いつからどうとか明確なことはわからないが、本当に自然とそういう風に落ち着いたんだそうだ。まあアクロディリアの悪評の数々を聞けば、「この女には逆らえない」「この女には関わりたくない」と思われて当然だからな。そういうのが効いているのかもしれない。

 だが現在。
 そのピラミッドを以て均衡を保っていたタットファウス魔法学校の勢力図だが、最近になって、頂点に君臨するアクロディリアの威勢に陰りが見えてきた。

 ――つまり、俺が悪役令嬢になってしまったせいで、女社会のボスとしての仕事を怠ってしまった。だからパワーバランスが崩れてきているらしい。

 だから、要するに「女たちの縄張り争い」だよ。
 ピラミッドの頂点にいるアクロディリアがなぜだか腑抜けたから、その座を狙って動き出した貴族女たちがいるよーってことだよ。

 な? どうでもいいだろ? 面倒臭いだろ?

 学校内で誰が上とか下とか、ほんとどうでもいい。それより将来の心配だろ。フロントフロン家ってもうすぐ没落しちゃう予定なんだよ? どうすんの? 学校の権威より家の方が大事だわ。余裕で。

 ……って俺は思うんだけど、三馬鹿は律儀に、アクロディリアのボスの座を守ろうと奮闘していたらしい。

「しっかりしてください、アクロ様!」

 感極まったか、アティーはついに泣き出してしまった。ミーアが彼女を慰めている。

 う、うーん……しっかりしろって言われてもなぁ……
 なんて言っていいのか本当に困っていると、

「何事なの!? 道を空けなさい!」

 キンキン響く女の声が、俺たちを囲むギャラリーたちを無遠慮に引き裂いた。
 引き裂かれたその道を、すげーふりふりのドレスを着た四人の女子たちが優雅に歩いてやってきた。

「お、おう……」

 思わず唸ってしまった。そのケバくきらびやかな輝きに。

 こ、これは……蝶と呼ぶべき、なんだろうな。優雅な蝶と。
 その、行き過ぎて半周回って夏場に火に飛び込む系のアレに近くなってしまったのではないか……と言うのは、さすがにちょっとアレなんだよな?

 ……つーか、アクロディリアチームだけじゃなかったんだな。ドレス組って。

 






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