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76.女子の勢い、止まることを知らず……
しおりを挟む知らぬ内に失っていた三馬鹿の信頼を特にその気はなかったけど取り戻してみた結果、溜まっていた鬱憤と愚痴と遠まわしな文句を長々と聞かされるはめになった。
生徒数千人を超える学校なのに、それ以上が入るというとんでもない広さの体育館は……まあ強いて言うなら、いつも訓練に使っている闘技場に屋根が付いたような場所だった。まあさすがに外の方が大きいみたいだが。
ほぼ正方形のそこには扇状に長椅子が並んでいて、焦点に当たる場所には教壇のようなものがあった。きっと椅子も教壇も終業式のために準備されたのだろう。
どこに座るかは自由なようだ。クラスごとって区分はないみたいだしな。
まあそんな場所の片隅に座らされ、三馬鹿に左右を挟まれて逃げ場を失い、就業式の間ずっと三馬鹿の話を延々聞かされるこの状況……どう思います? 軽い拷問な気がしませんか?
「夏休みこそ己を見詰め、磨くに適した期間であり――」
ほら、アニキがスピーチしてるぞ。聞けよ。こっちじゃなくて向こう見ろよ。こいつら見やしねえよ。
学校長なり国のお偉いさんなりが夏休みの過ごし方などを話し、生徒会長としてアニキがスピーチしているのもお構いなしで、俺の耳には遠まわしな恨み辛み嫉みしか入ってこない。おい……一応これだって異世界のイベントだし、オタク的には貴重なんだぞ。先生方やアニキも色々話すこととか考えてきてるのに……聞けよ。話をよ。俺に話すんじゃなくてよ。
……うん、なんかね、アクロディリアが大人しくしてる間にね、さっきのレヌエッタを筆頭にね、色々あったらしいのね。
嫌味から始まり、最近はやれ「アクロディリアさんが制服なのに、なぜあなたたちがドレスを? もしかして、それってアクロディリアさんより自分たちの方が上だという意思表示なのかしら?」とか言われて制服にしたり、「最近アクロディリアさんは土遊びがお好きなようね? もちろんあなたたちも好きでしょう? ほら、あの辺の草むしりでもなさったら?」と無用な雑用を押し付けられたりしたらしいのね。
「どう思います? どう思います?」
「う、うーん……」
なぜか二回問うアティーに、俺の返答ははっきりしない。
似たようなことをさせていた記憶があるだけに、言葉に詰まるというか。アクロディリアはもっとひどいこともしてるからなぁ……これも結局は恨みを晴らしたくなったから嫌がらせが始まったんじゃないの?
……あ、そうか。じゃあ確かに俺のせいでもあるのか。
因果応報って言葉もあるから、こっちに来るなら多少我慢する覚悟はできているが、三馬鹿はちょっと違うからなぁ。ただの取り巻きだからなぁ。実行犯かもしれないが、アクロディリアがやらせてるばっかだからなぁ。
やっぱり、今後はもう少しこいつらのことも考えるようにしよう。
……正直アティーやミーアは自分たちでどうとでもしそうだが、マリエルがかわいそうだ。こんなに小さくて可愛いのに嫌がらせなんて。どいつだ。マリエルに関しては個人的にちょっと許せねえぞ。
もう何が何やらわからない間に終業式も終わり、ようやく解放されたとほっとした瞬間、強烈なカウンターが飛んできた。
「ではアクロ様、続きは私の部屋で」
え、嘘だろ……?
どうやらアティーは、これで終わりにするつもりはさらさらないようだ。
……しばらく放置していた罰として、今日だけはとことん付き合うことにするか。どうせ夏休みに入ればみんな帰郷だし、しばらく会えなくなるからな。わだかまりがあるなら解いておきたい。
「道を空けなさい。アクロ様が通るわよ」
え、嘘だろ……?
終業式が済み、出入り口に集る群衆が混雑している中、それに向けて放ったミーアの一言に耳を疑った。
まるで色々漏らしちゃった小学生を避けるかのように、ずざざざっと道ができた。
こ、こんな時にこんなところで悪役令嬢の威光をかざすとは……取り巻きがこんなことをするってことは、これまでアクロディリアがやらせていたことでもある。
これが、これまでのアクロディリアのやり方か! 嫌な奴だな、嫌われて当然じゃねえか!
……三馬鹿の、周囲への態度と対応については、ゆっくりと改善を目指すことにしよう。あんまり急に言うと身バレが怖いからな。
意図せずできた道を歩き、スムーズに体育館を出て――出入り口から少し離れた廊下で待っていたレンと合流する。レンさんは制服は着てても生徒じゃないから、例外を除いて学校イベントの参加は認められていないのだ。
「レン」
「はい?」
合流したその場で、「これからアティーさんの部屋に行くから、あとは自由にしていい」と告げておく。俺たちと違ってレンは暇じゃないからな。
本当ならレンさんと部屋に帰って、里帰りの準備とかする予定だったんだけどな。まあ仕方ない。
間取りなんかは俺の部屋と同じだが、やはりこっちも調度品やらちょっとした小物なんかが高そうな上にオシャレである。アクロディリアの部屋もこんな感じなんだよな。
「――それで、アクロ様」
アティーの部屋に通されテーブルに着いてすぐ、話は核心に触れた。
「その格好といい、近頃のおかしな行動といい、いったい何がありましたの?」
アティーは訝しげな表情で、ミーアは少し心配そうだ。マリエルは……お茶請けのクッキーをポリポリかじっている。小動物みたいでかわいいな!
「何がと言われても……聞いているでしょう?」
と、俺はアティー付きのメイドが淹れてくれた紅茶を口に含む。おお、いつものと茶葉が違うな。これはこれでいいな。
「ええ、まあ。ご実家から手紙が届いたとか」
あ、よかった。浴場建設の時に学校長に話しておいた言い訳が、俺の知らないところでちゃんと広まってくれていたようだ。
「それで?」
「は?」
それで、ってなんだよ。先を促されたって続きなんかねーよ。
「もう! アクロ様ったら、私たちにまで隠すことないのに!」
え? 隠す? ……え!? ま、まさかもう身バレしてんのか!?
まさか、いきなり心臓を鷲掴みにされるとは思わなかった。
いや、気づいていても不思議じゃない。
アクロディリアに異変が起こったあの場に、この三人はいたのだ。
これまで長い付き合いのある三人だ。アクロディリアの様子がおかしいことくらいすぐわかるだろう。いくら実家から指導の手紙が届いたからって、ほぼ真逆ってくらいに生活態度が変わるというのも、腑に落ちないはずだ。
「いつから気づいていたの……?」
慎重に行けよ、弓原陽。ここで判断を誤ったら致命傷を負う。
秘密を握る者は少なくないと、外部に漏れる危険が飛躍的に増す。それぞれの付き人もプラスして、この場に六人いるのだ。六人も秘密を握る者が増えるなんて冗談じゃない。
最悪、この夏休みで姿をくらますことになりかねない。
さすがに「中身が違う」とは気づいても、「中身が男」とは気づくまい。この点だけは絶対に秘めておきたい。いろんな意味でまずいからな。
そして、俺の心臓を鷲掴みにしたアティーは、それを握り潰さんばかりに心臓に悪いことを言ってのけた。
「あの時ですわ」
やっぱりか! 右も左もわからず、想像してた異世界転生とはまるで違うことに動揺と戸惑いと不満を隠しきれなかったあの時には、もう異変に気づいて――
「フフッ……女を変えるものなんて一つでしょう?」
アティーはずばりと言い放った
「――ずばり恋ですわね!? 好きな男性のためなら自分を変える……これぞ乙女心だわ!」
…………
三馬鹿だもんな。どこか抜けてるのはお約束だよな。
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