俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

文字の大きさ
61 / 184

77.三人と三人と……

しおりを挟む






 これって恋じゃないー恋じゃないよーゼンゼンチガウヨーでもこれって恋ってことじゃないーチガウヨーマジチガウヨーシツコイヨシャチョサンー恋恋恋ーブットバスゾオラーみたいな不毛すぎる押し問答を二十分ほど続けただろうか。

「違うの?」

 不毛な押し問答をぶった切ったのは、マリエルだった。
 珍しく口を開いたと思えば、こいつも誤解していた派の人間だったのか。三馬鹿のブレインなはずなんだが……それにしても声もかわいいな! 何この天使? なんだただの天使か。

「最近、殿下たちと仲が良いって聞いたから。アクロ様の気持ちが通じたんだと思ってた」

 あ……そう、か。三馬鹿の指摘は、無根拠じゃなかったのか。

 そう、アクロディリアはラインラックが好きで、ずっとアタックしてたんだよな。そしてマタドールよろしくラインラックはアクロディリアの猛攻を華麗にかわし続けていた。
 そんなラインラックと、最近仲が良いのは、確かなことである。

 だってあいつは中身が別人だって知ってるからな。
 その上、「もう口説かないよ」って手紙の証拠付きで証明したから、今はかなり気安く付き合ってくれている。腹の中はまるで見えないけど、あいつはいい奴だぞ。アニキと同じくらいな!

「そうよ、アクロ様。ラインラック王子はともかく、どうしてキルフェ様とも仲が良いの? あんなに嫌っていたのに」

 ああ、はい、ミーアさんはキルフェコルトのファンでしたよね。……さっき憧れの男がスピーチしてたのにガン無視だったけど。

「別に仲が良いわけではないわよ」

 嘘だけどな! もうアニキもクローナも友達だけどな!

「じゃあ何がアクロ様を変えたんですか?」

 そうだよねー。「恋で変わった!?」を否定したら、「じゃあなぜぜよ?」というそこに戻るよね。
 うーむ……話は不毛に回り続けるなぁ。

 だが、恋を否定した辺りから雰囲気は明るくなった気がする。
 貴族の色恋沙汰って社交界では格好のスキャンダルになり得るせいか、慎重に振れるべき案件なんだと思う。ましてや未婚だし、婚約者もいない辺境伯令嬢の話だからな。

 ……そういや、婚約者と言えば、アクロディリアには婚約者はいないんだよな。三馬鹿には一応いるみたいだけど。
 まあ、たぶん、没落必至の悪役令嬢キャラなので、そこまで設定してくれなかったのだろう。制作の作り込みは激甘だからな! カレーのプリンスレベルにな!

 それから不毛な会話を半端に混じえた女子トークが始まり、雨音をBGMにしてキャッキャウフフと過ごした。とにかくマリエルがかわいかった。

 


 昼食もその場で取り、そんな穏やかな時間がどれくらい過ぎただろうか。

「アティー様、招待状が届きました」

 俺たちのどうでもいいだらだらした話が激変したのは、アティー付きのメイドが持ってきた手紙のせいである。

「ああ、そう」

 招待状?
 ああ、アクロディリアの記憶にあったわ。

 えーっと、毎年夏休みと冬休み開始直前に、今日集まった体育館で立食パーティー的なものが行われるらしい。あくまでも有志……時の最上級生の貴族が催すもので、ここの生徒であれば貴族だけではなく全員参加が認められている。まあ自由参加らしいけどな。
 一応貴族主催だから、身分のある者にはこうしてちゃんと招待状が届けられるのだ。たぶん俺の部屋にも来てると思う。

 まあ、問題なのは、男女ペアでしか入れないってことだが。

 アクロディリアは毎年毎年、毎回毎回懲りることなくラインラックを誘い続けていたが、やはりというか当然というか、一度もペアで参加したことがない。
 「ラインラック殿下と共に過ごせないのなら、参加する理由がないわ」と強がって……いや、本音だな。学生主催のパーティーなんぞどうでもいいわと見下して、一度も参加したことがないみたいだ。この辺はアクロディリアらしくはあるな。

 一応ゲームにも似たようなイベントがあった気がする。最初の内は自分から誘うけど、後半になると男たちが主人公を誘ってくれるんだよな。俺はサブキャラ方面が好きだったから、学校イベントは詳しく憶えてないんだよな。

「アティーは誰を誘うの?」
「いつも通りよ。さすがに婚約者を放っておけないし。ミーアは?」
「何人かお誘いは受けているけれど、返事はまだしていないの」
「相変わらずモテるわね……」
「……」

 アクロディリアはいつも通りだろうという思いがあるのか、まるで話題を振られない。振られても困るので静観し、お菓子を食べるマリエルでも眺めていよう。ああ癒される……

 ――この時の俺は、まるで自分には関係ない乙女ゲーのイチャイチャイベント、くらいにしか思っていなかった。
 だが、すでに問題は起こっていて、俺が帰るのを今か今かと待ち受けているのだ。




 終業式が終わった時点から、夏休みは始まっている。早い者はもう帰郷の徒についているはずだ。
 夕方頃、ようやく解放された俺は部屋に戻ることができた。

「疲れた……」

 椅子に座り、脱力する。
 基本が女子トークだからな。多少合わせることはできたとしても、さすがに何時間も付き合うのはきつかった。マリエルがいなかったらきっともっと早く逃げていただろう。

「レンさん、お風呂の前に身体を動かすから、少し待ってて」
「はい」

 お茶を淹れようとしていたレンにいらないと告げ、俺は体操服に着替えて腕立てとスクワットと踏み台昇降と素振りに没頭する。朝もやったが、やはり圧倒的に運動量が足りない。闘技場が使えればなぁ……

「ところでヨウさん」
「ん?」

 腕立て中の俺に、レンは言った。

「招待状が届いていますよ」

 あ、やっぱ来てたのか。

「学校のパーティのでしょ? 行かないからいいわ」

 普通のパーティならちょっと顔を出すくらいはしたかもしれない。だがペア参加が義務となれば、俺の出る幕はないだろう。
 アクロディリア自身も、これまで一度も参加していないのだ。だったら悪役令嬢として参加する必要もない。

「そうですか。でもお誘いのお手紙も来ていますよ」
「え?」

 何? お誘いの手紙?

「ちょっと待ってて。腕立て済ませるから」

 俺は急いで腕立て50、光魔法を挟んで拳立て50を済ませて再びテーブルに着いた。魔法で身体は癒せるが、出ている汗はどうにもならないので放っておく。

「え? これ?」
「はい」

 さっきまで何もなかったテーブルの上に、今は八通ほどの封筒が並んでいる。

「八人もだと……」

 この嫌われ者のアクロディリア・ディル・フロントフロンをパーティに誘うような豪の者が八人もいる……だと? おいおい正気かよ。命いらないのかよ。

「何通かはいつもの社交辞令ですね。辺境伯令嬢としてのあなたと確かな縁を結びたい方は少なくないですから」

 あ、そうか。立場な。あーびっくりした。アクロディリアがモテてるかと思った。こいつの持つフロントフロンの財力とか権力とか家とかか欲しい連中な。
 ……ん? いつもの?

「いつもの社交辞令って?」
「毎回パーティの前にお誘いの手紙が届いていましたよ。アクロディリア様はラインラック殿下にしか興味がなかったので、一瞥して破棄していましたが」

 あ、そうなんだ。いつもそうしてたんなら、今回だけ特別何かをする理由もないな。俺もそうするか。




 だがしかし、手紙は三通ほど残ってしまった。
 あいつらなんで……いや、まあ、それぞれ思うことはあるんだろうけどな。

 ほか五通はいつもの・・・・社交辞令らしいからどうでもいいとして、残りの三通は、ちょっと問題がある。

 要するに、ちょっと仲良くしてる男どもから誘われたわけだ。
 キルフェコルト、ラインラック、そしてグランから。

「レンさん、どうしよう?」
「お好きになさったらいいと思います」

 ……あれ? レンさんなんかちょっと嬉しそう? いつもの無表情ではあるが、なんかこう、こっちを見る目に好奇心的なものがあるような……

「それで、誰にするんですか? やはりラインラック王子に?」
「レンさん、忘れてるかもしれないけど、俺男だからね。これ色恋沙汰じゃないからね」
「…………」
 
 あ、レンの瞳から輝きが失せた。

「なら誰でもいいんじゃないですか? 適当に決めてしまえばいいでしょう」

 投げやりになった!

 ああそうかい、やっぱり揺れる男心にちょっと期待してたんだな! 誰に誘われようが男に誘われてる時点で揺れねーよ! むしろレンに「一緒に実家に帰りましょう」とか誘われた方がドッキドキするわ! トキメかせたいならおまえが誘え! 俺を! ご両親と弟に挨拶させろ!

「……めんどくせーなぁ」

 女の縄張り争いも面倒だったが、こういうのもかなり面倒臭い。なんだってあいつら俺を誘うんだよ。……まあ確かに俺も気安く付き合えている分、向こうも気軽に付き合っているんだとは思うけどよ……









しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました

八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。 乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。 でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。 ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。 王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

処理中です...