俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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78.あなたを今すぐ張り倒したい、そんな気持ち……

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 とりあえず、だ。
 貴族、それも王族が公の行事について関わってきた問題である以上、一個人の感情で返事することはできない。アクロディリアとしてな。辺境伯令嬢としてな。

 この問題は、俺の意見と感情は抜きだ。
 辺境伯令嬢としてもっとも相応しく、そしてもっとも高い利を取るか、もしくは不利益を最小限にする方向で考えねばならない。

 まず考えるのはこっちの都合じゃなくて、向こうの都合ってことだ。それを知らないと利益不利益なんてわかるわけもないからな。

「レン、いつもの四人と会食の約束を取り付けてきて。私は運動してお風呂に行くから、そこで会いましょう」
「わかりました」

 直接聞いた方が早いだろう。そして隠す必要もないだろう。
 だって、アニキとラインラックに限っては、絶対に恋愛感情ありきで誘っているわけではないだろうから。個人的なことだから積極的に話すことはしていないかもしれないが、別にお互い隠し合っているってわけでもないと思う。
 だから一度に顔を合わせた上で話してもいいだろう。

 もし不都合でも関係ないしな。
 誘うのは向こうの勝手だが、いつどこで返事するかはこっちの自由だ。恋愛沙汰なら気を使ってやるけど、どうせ営利目的だろうしな。賭けてもいいぞ。

 そう、恋愛関係のことではない。絶対にな。だからこそ、直接理由を聞かないとわからないことが原因で誘っているんじゃないかと俺は思う。
 数日前に集まってメシ食ったばっかだけど、まあいいだろう。しばらく会えなくなるんだし。

 …………

 ところで、グランはなんだって誘ってきたんだ? 誰が見ても圧倒的な身分差だぞ? 最初から答えなんてわかりきってるだろうに。
 こいつも返事がてら、直接真意を聞いた方がいいかもなぁ……



 
 風呂場で合流したレンとひとっ風呂浴びて、購買部で牛乳を飲む。

「勝負だ!」
「ふふん。返り討ちにしてやる」

 終業式の後である。すでに夏休みに入っているせいか、今日は「王子たちが始めたナイフ遊び」に熱中している少年少女が非常に多い。まあ、これまでは八年生のみだったけど、今日は学年問わず集まっているからな。

 盛り上がるナイフ投げを横目に、テーブルに着いた俺とレンは今夜の相談をする。

「何か持ち込みたいわよね」
「そうですね」

 なんだか自然と「それぞれの組が一品持ち込む」みたいな習慣ができてしまった。なくてもいいだろうけど、ならばあっても悪くないはずだ。

「食材さえあれば、クローナさんと私で何か作れますけど」
「そうねぇ……任せていい?」
「わかりました。ではしばらく別行動ということで」
「ええ――あ、ちょっと」

 席を立つレンに手招きする。

「実家に帰るのよね?」
「はい」
「お土産代に一万ジェニーあげるから、ついでに何か買ってくるといいわ」
「……」

 ……あれ? レンの動きが止まったな。

「え? 少なかった?」
「いえ。ものすごく妥当な額だと思ったので、少し驚いてしまって」

 妥当って……ああ、そうか。辺境伯令嬢が出す土産代としては多くもなく少なくもないちょうどいい額って意味な。

「すみません。下世話なことを言いました」
「いや別に。本当はもっとあげたいんだけど、あんまり多いと断れそうな気がして」
「そうですね。それ以上は断りますね」

 「ありがたく頂戴します」と、フッとかすかな笑みを浮かべたレンは一礼して行ってしまった。

 ……実家にお呼ばれされなかった身としては、せめてお土産代を出すことしかできないというだけの話である。頼めよー。俺によー。弟の治療をよー。

「さて」

 このままここで考え込んでいると、落ち込みそうだ。俺も行くか。

 今できることは、とりあえずグランに返事だな。返事は決まっているが、話くらいはしとかないとな。




「フロントフロン様」

 というわけで、庶民用の男子寮へとやってきた。手近な奴を捕まえて呼ぶように言えば、目当てのグランはすぐにやってきた。

 女子二人同伴で。

「……」

 おまえそのモテっぷりどうなの? 言葉を失うくらい、その、なんつーか……今すぐ張り倒したいくらいイラッとするんだけど。こっちはわざわざおまえの要件で雨の中やってきたっつーのにこの野郎。

 例のパーティーがあるせいか、庶民寮のロビーには恋人らしきペアがたくさんいるのだ。パーティーイベントに向けてみんな忙しいってことだな。俺が来ても眼中にないってくらいに。
 今またグランが俺の名を迂闊に呼んだけど、周囲は多少反応を示したがそれ以上の動きがない。ずざざっと離れることもないし、もはやガン無視である。恋人同士の世界に入っているってことですな! 羨ましい!
 で、パーティーが終わったら、みんな里帰りするんだよな。騒がしいのは今だけだ。

 それにしてもグランである。
 女子同伴だけならまだしも、二人も連れてくるとは思わなかった。

 片方は、今朝見かけたエイルちゃんだ。もう片方は獣耳の獣人少女だな。何系だろう? 耳の形からして犬? 狼? ふさふさしてるので非常に触りたい。

「……忙しそうだから手短に行きましょう」
「いや俺は全然忙しくないよ!」

 でも左右の二人は、明らかに敵意ある視線で俺を見てますよ?
 この二人、辺境伯令嬢だとわかっていてこの態度なんだよね? わかっていて「グランに手を出したらただじゃおかねえ」って態度なんだよね?
 だったら、前に浴場建設の時に絡まれた時とは、事情が違うってことだな。わかっていてやっているんなら、俺から言うことはない。もちろん手を出すつもりもないしな。何があっても取らないからそんな目で見ないでくれよ。

「あの手紙、なんなの? どう考えたって無理ってことくらい、出す前からわかっていたでしょう?」

 「あの手紙」という意味深なフレーズに、グランを挟む女子二人が何事かと反応する。俺とグランを交互に見たり考え込んだりと忙しない。

「いや、ゆっくり話とかしたいだけなんだけど。まだまだ話したいことたくさんあるし」

 グランが言うには、あの冒険からまったく俺に会えなかったから、らしい。
 まあそう言われればそうなのかもしれない。学年が違うから生活リズムも違うし、そもそも貴族と庶民だからな。会える状況が限られてくるというのはわからなくもない。身分差も明確だから、貴族用の女子寮に単身乗り込んで辺境伯令嬢を呼び出す、みたいなこともなかなかできないだろうしな。

 だからグランは、イベントにかこつけて会えないだろうか、とパーティーのお誘いを出したそうだ。

「話がしたいだけなのね?」
「うん。別に、どうしても一緒にパーティーに出たいわけじゃないよ」

 あ、そう。だったらいいや。

「さすがに身分差があるから、一緒には行けないわ。わたしはよくても周囲が許さないと思うの」
「そっか……」
「話がしたいだけでしょう? そうね……」

 要するに、グランと会う機会ができればいいんだよな。俺もグランの成長とか気になるし、主人公ではない人物が起こしたフラグから「グランのストーリー」がどこまで進展するかは確かめたいところだ。言い方は悪いがモルモットとして観察はしておきたい。

 ……会える機会なんて、一つしかないかもな。

「今は雨が続いているから無理だけれど、やはり早朝の訓練かしら。あなたの都合の良い朝に、闘技場で会いましょう」
「あ、そうか。その時なら会えるね」

 そう、その時なら気兼ねなく会える。雨が続いているから今は休んでるけどな。

「まったく。誘う相手が違うわよ」

 と、俺はモテ後輩に背を向け、さっさと退散することにした。このまま見てると渦巻く嫉妬に任せて張り倒しそうだ。

 後ろで「手紙って何?」だの「パーティに誘ったの?」だのと、刺々しい女子の声が聞こえたような気がするが、まあ気のせいだろう。








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