俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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80.まるで応えを知っている返答であるかのようで……

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 会食を終え、部屋に戻ってきた。
 例の立食パーティーは明日の夜なので、明日の朝までには決断しなければならない。

 キルフェコルトを選ぶか、ラインラックを選ぶか。

 双方それなりにアクロディリアを誘う事情があって、正直どちらを選んでも、アクロディリアからすればメリットとデメリットが生じてしまう。

 あえて「どちらも選ばない。そもそもパーティーに参加しない」という第三の選択肢を思い浮かべるも、それも現実的ではない。
 もしどこかから「二人の王子に誘われて、どちらの誘いにも乗らなかった」なんて事情が漏れたら、「辺境伯令嬢は王族なんて眼中にない。下に見ている」という噂が流れてしまうかもしれない。

 普段の言動から敵が多い悪役令嬢である。「王族を下に見る」という単純明快な事実が、もしかしたら果てには「反逆罪」にまで祭り上げられてしまうかもしれない。
 ないと思うか?
 意外とあるんだぜー。貴族界隈の足の引っ張り合いはよくあることで、辺境伯を引きずり下ろしたい連中も少なくないだろうしな。案外こういうのがフロントフロン家滅亡に繋がるかもしれないしな。

 ……なんて考えてはみたものの、なんつーか、アレだよね。

「答えなんて最初から出てるんだよなぁ……」

 やれやれと溜息を吐き、温くなった紅茶を口に運ぶ。

「結論は出ましたか?」

 向かいの席で、細紐を編んでロープにするという購買部から請け負った内職をしているレンが、慣れた手つきで編み上げながら視線を向けてきた。……編むの超はえーな。熟練の技だわ。

「結論が出たというか、最初から選ぶ余地がないというか、ね」

 アクロディリアとして、辺境伯令嬢として、最大の利を求めるのであれば、間違いなくこちらである。

「ラインラック殿下よね」

 ――アクロディリアの片思いがどうこう、なんて関係ない。俺は別にアクロディリアの意向に沿って結論を出したわけではないからな。

「どうしてですか?」

 ……まあ、こちらの話・・・・・が少し絡むだけに全ては話せないが、しかしレンも少しは事情に通じていた方がいいかもしれない。

「まず、アクロディリアの最大の利益を考えたわ。何が最善だと思う?」
「……そうですね、やはり王族との婚約だか婚姻だか、でしょうか」

 そう、その通りだ。

「どこまで信じていいかわからないけれど、キルフェコルト殿下が話した理由が本当だとすれば、むしろ彼を選ばない方が可能性が上がる」
「そう言っていましたね。第二王子であるウルフィテリア殿下が、アクロディリア様と婚約するかもしれないとかなんとか」

 まあ俺としては、男と婚約とか聞かされている時点で色々アウトなんだが。
 しかし、この話に俺の意見は含んではいけない。

 何せアクロディリアの婚約だかなんだかってのは、アクロディリアの問題じゃなくてフロントフロン家の問題だからな。

 いったいなんだってこんなことになってるかはさっぱりだが、アクロディリアの身体を借りている以上、俺が率先してこいつの不利益を選ぶわけにはいかないのだ。だっていずれ返すつもりだしな。さすがにもう色々愛着が湧きまくっているが、それでも返さないわけにもいかない。

 そして「いずれ返す」からには、それまではできるだけアクロディリアらしく、そしてアクロディリアの財産と責任と存在を守りながら過ごさねばならない。
 決して好き勝手やってアクロディリアの評判を落としたり、財産を食いつぶしたり、責任を放棄したりしてはいけないのだ。

 最優先で考えているのがフロントフロン家没落回避だから、アクロディリア個人のことはどうしても二番目以降に回してしまっているが、だからって捨てていいわけじゃないからな。

「婚約まではいいと思うの」

 結婚そして初夜! そう、俺が本気で危惧するのは次の次のステップだ! 婚約まではいいんだよ!

 そもそもを言えば、婚約だのなんだのを決めるのは、きっとアクロディリアじゃないからな。パパが決めることだからな。この辺もキルフェコルトが言っていた通りだ。
 アクロディリアだって、色々と問題はあるが、それでも辺境伯令嬢だ。望まない結婚をすることだって考えていたようだしな。こいつは自分勝手で我侭だが、フロントフロン家を大事に思っていた。数少ない美点と言えるだろう。

「なるほど……そうですね。アクロディリア様からすれば、王族との婚約は悪い話ではないですよね」
「アクロディリアというか、フロントフロン家だけどね」

 ――そしてここからは俺の事情になるが。

 中身が違うというネタバレを知っているラインラックなら、もし俺が国を捨てることになっても、あいつの国で保護してくれそうだしな。仲良くしといて損はない。売れる恩なら売っておけばいい。

「では、明日の早朝、そのように返事をしておきますね」
「よろしくね」




 このパーティーの誘いは、果たして「突然」だったのか、それとも「必然」だったのか。
 もしこの時の俺が「突然」ではなく「必然」だと考えていれば、もしかしたら、話の流れは変わってきたのかもしれない。

 少なくとも、この時点では間違いはなかった……と、思う。

 強いて問題があったんだとすれば……そう、俺が俺なりの利を求めたように、「必然」を担う人物も利を得ようと動いたことにある。

 そいつはとても迅速に、まるで外敵に気づいていない草食動物に忍び寄る肉食獣のように。

 草食動物であるところの俺に、近づきつつあった。

 






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