俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

文字の大きさ
68 / 184

84.責務は斯様に果たされ……

しおりを挟む






「よう」

 頭一つ大きなそいつは、誰しもの頭を超えてこちらに視線を向けてきた。おいおい気さくだな。一応公の場に近いイベントなのに。
 まあ、キルフェコルトは王子ではなく生徒会長として参加しているつもりなのだろう。「キル兄やんチョリース!」と普段通りの挨拶をしても悪い顔はしないはずだ。まあそんなぞんざいな挨拶自体しないけど。したいけど。

 普通に話していたカップル二組は、俺たちの登場を見てそそくさと離れていった。制服姿で見ない顔なので、貴族ではないのかもしれない。

「やあキルフェ。立派なパーティだね」
「だろ? 意外とがんばってるだろ?」

 まあ、パーティ云々に関してはトップクラスの催しを知っている王子同士である。案外本音なのかもな。だってアクロディリアの記憶にあるパーティと比べてもがんばってる感はすごい伝わってくるからな。

「本日はお招きいただきありがとうございます」

 と、俺はお約束の挨拶をしてみた。

「ああ、立場上誘わないわけにはいかないからな」

 なんだとこの野郎。ニヤニヤしやがって。

「――おまえら、なかなかお似合いじゃねえか」

 あ、ニヤニヤの理由それ!? まあ八割冷やかしてるんだろうけどな!

「そちらこそ。確かシャロ・ジャングートさんだったかな」

 イラッとしている俺とはまるで正反対に、金髪王子は平然と返した。くぅー! これが王子の余裕ってやつかね! なんつーか、たぶん俺、この社交場の雰囲気にちょっと緊張してるんだよね! いやだってこういうきらびやかな場とか初めてだからさぁ! 知った顔見つけるだけでなんか安心するっつーかさぁ!
 ……なんて思ってても仕方ないので、ちょっと落ち着こう。ここで取り乱したら色々台無しだ。ラインラック王子にも恥かかせちまう。

 えーと、なんとなく見たことがある気がしていたアニキの隣にいる女子は、シャロ・ジャングート。武家として有名なジャングート家の末娘だ。ジャングートは伯爵らしい。……アクロディリアの記憶にはこれ以上のパーソナルデータがないんだよな。学校生活ではほとんど接触がなかったようだ。確か一学年下だったと思うが。

 アニキより強い色を含んだ赤毛混じりの長い金髪を、首の後ろで一つにまとめている。あとは……なんだ。凛々しいというか、精悍というか。まったく飾り気を感じさせない抜き身の刃のような美少女……だと思う。切れ長の灰色の瞳は揺れることなくまっすぐラインラックを見ていた。
 なんて言えばいいんだろうな。女子には褒め言葉にならないかもしれないが、シンプルで美しいって表現が思い浮かんだ。特徴らしい特徴は髪の色くらいではなかろうか。身長も女子にしては少し高いくらいだしな。

「あれ? 顔合わせるのは初めてか? こういう場にはなかなか出ない奴だから、そういうこともあるか」

 キルフェコルトに視線で促され、シャロは少しだけ頭を下げた――俺たちの世界ではお辞儀になるが、この世界では略式の騎士同士の挨拶だったはずだ。武家の娘の挨拶らしいとは思うが……この場には相応しくないとも思う。まあ細かいことを言うつもりはないが。

「シャロ・ジャングートです。今宵は場違いなところに来てしまいまして……申し訳ありません」

 おい。謝ったぞあの女子。

「いや、謝ることはないと思うが」

 さすがのラインラックもこれには困ったのか、困った女子をエスコートしている男を見た。

「あー……俺の幼馴染で、この学校では冒険仲間なんだ。五人兄妹の末っ子で女でな。だから家を継ぐ可能性もないから貴族らしい教育もほとんど受けてない。――要するに庶民に近い」

 へえ。アニキの幼馴染で冒険仲間か。

「気楽にしろ。そこの女はともかく、この場でおまえを咎める奴はいない」

 はーい。そこの女たる俺は咎めまーす。でも今は咎めませーん。だって中身が違うからー。

「お言葉ですが、私が気を遣っている理由は、殿下が女一人誘えなかったのが原因なんですが」

 ほう? その話詳しく聞きたいですな。

「――よしおまえら、挨拶はもういいだろ。行け。……行けって!」

 いつもニコニコしている金髪王子と、珍しく不覚を取った筋肉王子をニヤニヤ見ていた俺。
 特に俺の視線は効いたらしく、まさに仲間に背中を斬られた筋肉王子に追い立てられるようにして、その場を後にした。
 少しして振り返ると、あの大きな筋肉が背を丸めて女子に言い繕っている姿があった。アニキにもああいう、頭の上がらない女子的な存在がいたんだな……なかなか衝撃的だったな。




 キルフェコルトに挨拶した後、見習いの紳士淑女は俺たちにも挨拶に来た。まあ、主に異国の王子にだが。俺はちょっと挨拶される添え物程度の扱いである。充分充分。ボロが出ないのが第一だ。腫れ物扱い上等だわ。
 そんな感じで、しばらくラインラックの横で飲み物を飲んだり遠くでガン飛ばしてくる女子にメンチ切り返してビビらせたり意味もなく意味深にニヤリとして偶然通りかかったお手伝いさんをビクッとさせてみたりして時間を潰していると、

「アクロ」

 王子が囁いた。やべえ遊んでたのがバレたか? 

「一曲どうかな? 一度踊れば君も少し自由にしてくれていいよ」

 え、ダンスの申し込み!? マジで!?

 ……そうか、ついに来たか。
 いや、さっきから、挨拶に来る女子連中が「殿下、私と一曲お願いできますか?」とか、すげー誘われてたんだよね。その度に「まだアクロと踊ってないから」と断っていた王子だが、さすがに断る回数が多くなりすぎてきたことを懸念したのだろう。つか俺の方が懸念してたから。そろそろ離れないとラインラックも俺も悪い噂が立つかもな、と。

 ここは社交場である。特定の相手がいるというのはわかるが、それでもその人だけに固執するのは色々礼儀に反するようだ。
 もしパートナーが誘われたら、そのパートナーを快く送り出すだけの器量とか相手を信じる心とか、そういうのも問われるのだろう。悪い噂が立たない程度にはな。
 
 ……もし何か問題があるとすれば、やはり、男と踊るのは嫌だなぁという俺の個人的な想いのみだ。

 わかってるよ。
 やるしかねえってことくらい。

「ではお願いします」




 文字を書いた時と同じである。
 身体に染み付いていることなので、俺の意識に関係なく、「俺として踊ろう」と思わなければ、この身体は勝手に動いてくれる。それも「辺境伯令嬢でござい」と毎日のように威張り散らしていただけあって、この手の「貴族の嗜み」は高いレベルで身につけているアクロディリアである。

 繋いだ手の暖かさ。
 腰に回された腕の力強さ。
 密着する身体、そして近すぎる顔。
 
 今すぐ「うひぃ! もうやめろ! 男同士でこれはきつい!」と逃げてしまいたい要素満載だが、そこだけは我慢して踊り続ける。身体は勝手に動くからな! まるで目の前の男を必要としているかのように!

「すまない。退屈だったかな?」
「え?」

 早く曲終われ早く曲終われと念じながら身体任せに動いていると、またしてもラインラックが耳元で言う。

「先程のことだよ。私だけ話し込んで、君は所在無さげにいたから」

 あ、ああ……いろんな奴に挨拶されてた時な。よかった、遊んでたのバレてねえわ。

「お気になさらず。殿下の責務のようなものですから」

 異国の王族として、貴族付き合いは大切だろうからな。そんなの俺みたいな異世界の庶民でもわかるわ。なんだ? 突き詰めるともう個人じゃなく二国の外交ってことになるんだろ? おざなりにはできないもんな。

「この曲が終わったら、一度別れよう。帰る時は一緒に」
「わかりました」

 イケメン王子は女子と踊りまくってくださいね! どうせアクロディリアが誘われることもないだろうし、俺は隙を見てなんか食おうっと!








しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました

八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。 乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。 でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。 ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。 王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

処理中です...