74 / 184
90.明日への疑惑……
しおりを挟むジュラルクに荷物を任せて、中庭に来てみた。
うわ……いた。いるじゃんアクロママ。
「おかえりなさい」
日傘の下で優雅にティータイム中のマダム、ファベニア・ディル・フロントフロンはそこにいた。……やべえ、アクロディリアを倍キツくしたような、すげー美人な悪女顔だわ。記憶にあったから知ってはいたけど、リアルに見ると超こええ……
もう四十近いはずだが、二十代後半くらいに見える。たぶん張りのある白い肌と異常なまでにキツい目つきのせいだろう。生命力が強そうというかなんというか。だが実際はちょっと身体が弱くて、月の三分の一は熱出したりしてるんだよな。
なんていうんだ? タイトめの派手じゃない白いドレスを来ていて、アクロディリアよりスレンダーな身体付きである。
うむ……綺麗な金髪も青い瞳も母親譲りってわけだ。それにしてもすげえ。美しすぎて怖いとか、どういう感想だよ。だがそうとしか言いようがないんだよ。
「只今戻りました、お母様。体調はいかが?」
「いつも通りよ」
あ、ちょっと悪いみたいだ。
――そう、辺境伯の家だからな。言い方は悪いが、跡取り候補は多いに越したことはない。フロントフロン家はクレイオルが継ぐはずだが、もしクレイオルに何かがあって家を継げなくなったら大変だからな。
だから名のある貴族の家では、普通はもう少し、子供が多かったりするんだけどな。王家なんかもそういうアレがあるから、だから妾とか娶るんだぞ。
で、フロントフロン家は、アクロママの体調のせいで、子供はアクロディリアとクレイオルの二人だけってわけだ。
この人は本当に命掛けで二人の子供を産んだんだ。
そして、そんなアクロママに応えたいのか、それとも単に惚れ込んでるだけなのか、アクロパパは愛人を作ったりよそで子供を作ったりはしなかったそうだ。まあこれからもないだろうしな。
「……痩せた?」
「絞りはしましたが、痩せてはいませんわ」
そんなに変わって見えるのか? さほど体型は変わってないと思うぞ。
一応アクロディリアの名誉のために言っておくが、太っていたわけじゃないからな! ちょっと気になってきたかなーくらいだったからな! 数字で言うと3か4くらいだからな! ……肉換算だとめっちゃ塊だけど。
「その格好は?」
今までドレスドレス派手に派手にのアクロディリアだったせいだろうか、もしかしたら今の俺はよっぽどアクロディリアらしくないのかもしれない。
でも、今更取り繕っても間に合わないからな。せめて「不思議なことなどない」という顔で堂々としておこう。
「最上級として下級生の模範でありたいと思いまして。こういう格好もいいでしょう?」
「そうね。すっきりしていていいわね」
だろ!? 前がコッテコテの悪役令嬢スタイルすぎたんだって!
「ではお母様、また後ほど……あ」
挨拶もそこそこに、ボロが出る前に退散しようとして……ふと思いついた。
「お母様、手を貸していただける?」
「手?」
不思議そうに小首を傾げ、アクロママは俺が差し出す右手に手を重ねた。うお、指輪すげえ……宝石でけえ……あー怖い怖い! いくらするとか考えたくもない!
それより、ふと思ったのだ――先天的な虚弱体質に『天龍の息吹』は効くのだろうか、と。
もし効果が現れるようなら、それこそできることの幅が増えることになる。
「少しだけ回復魔法が強くなりまして」
表向きは『光の癒し』を装い、俺は禁呪『天龍の息吹』を施してみた。
と――
「ぐっ……!?」
途端に視界が歪み、身体中に激痛が走り、意識が遠くなり――すぐに異常は失せた。
「アクロ? どうしたの?」
「……いえ」
本当に一瞬の出来事だった。アクロママには俺が少しふらついた程度にしか見えなかったはずだ。
原因は、すぐにわかった。
魔力の枯渇だ。
いつもは少しずつ消耗し限界に達するおかげで完全に枯渇する前に使用できなくなるが、しかし今経験したのは、一気に根こそぎ持ってかれた。正確には持って行かれかけた。フラついたせいで手を離したから中断されたのだろう。
……つまり、効果はあるってことだ。
ただし相手の病と魔力の消耗量が比例するらしい。
要するに「生まれつきの病」は『天龍の息吹』であっても簡単には治せない、ってことか。いや、結論を出すのは早いか。ストレートに使用したのはアクロママが初めてだからな。もっと検証しないとはっきりしない。
だが、もしそうなら……あれ? マジで?
レンの弟を診ることになっているだろうアルカは、大丈夫か? あいつ脳筋、いや、剣士タイプだよな? たぶん魔力は強くないと思うが……
――この辺も、ちょっと考えた方がよさそうだな。つか俺も本格的に魔法の特訓した方がいいだろうな。
「お母様、体調はどう?」
黙り込んだ娘から目をそらさず見守っていたアクロママに問うと、
「そう、ね……あら。なんだかすごく身体が軽いわ」
お、効果出てんじゃん! さすがに全快はしてないだろうが、一時的には良くなったみたいだな! うん、倒れかけた甲斐はあったな!
アクロママと別れて、自室に……正確にはアクロディリアの部屋に行く。
「へえ」
寮部屋も無駄に広かったが、こっちはもっと広々としている。巨大な衣装タンスにテーブルや椅子等々、一目で高いだろって調度品がいっぱいだ。アンティーク調が好きな人は惚れ込むかもしれない。
ただアクロディリアの性格上、そこまで柄物が好きってわけではないようだ。おかげでいかにも成金な部屋って感じではなく、とても品良くすっきりまとまっていると思う。
さて。
こうして帰省したものの、特にやることはないんだよね。
例年のアクロディリアも暇を持て余していたようで、何の目的もなくメイドを何人か連れて街に繰り出すってのが定番の暇の潰し方だったらしい。でも貴族の、それも領主の娘として、そう頻繁に行くことも控えていたようである。
うーむ……俺は時間があるなら剣の訓練とかしたいけど、許されないだろうなーさすがに。「やっていい?」と聞くのも無理だな。
じゃあ家事をなにか手伝う……できるわけねーか。あんだけメイドがいるんだから、俺の出番なんざ一切ないだろ。
テーブルに飾られた花を眺めながらぼんやり考え事をしていると――何か声が聞こえた。外からだ。たぶん庭先の声だろう。
アクロディリアの部屋は二階である。窓を開け、ちょっとしたテラスのようになっているそこに出て階下を覗いてみた。
「おっ」
暇が潰せそうなものが見つかった。
そこでは金髪の少年と革鎧で固めた兵士風の男がいて、木剣で訓練をしていた。
――と、思ったんだが。
「ハハハ! 弱いなおまえ!」
どうも訓練ではないみたいだ。金髪の少年が一方的に兵士を打ち据えているだけだからな。
なんつーか……考える必要もなく見たまんま、みたいな。そんな感じだ。
金髪のガキが、アクロディリアの弟のクレイオル・ディル・フロントフロン。兵士の方はたぶんフロントフロン家の門番だ。このお嬢様は興味ないのかうろ覚えみたいだが。
接待剣術かぁ……それで強くなれるなら楽なんだけどな。俺だって痛い目見ずに強くなれるならそうしたいよ。
弟の方は大したことないな。力も技もまるでなってない。あれは木剣を振ってるんじゃなくて棒を振り回してるだけだな。俺が片手で勝てる程度だよ。なんなら素手でも勝てる。……あいつ小さい頃から剣術やってるはずなんだがなぁ。それにしたってひどい動きだ。
むしろ、見るべきは兵士の方。
弟の攻撃を一発残らず受けている――きちんと鎧で。一見ボコられているようにしか見えないが、その実ダメージはまったく入っていないだろう。
腕利きと見るか、フロントフロン領では平均的な練度の兵士と見るべきかはわからないが、少なくとも俺と同じかそれ以上は強そうに見える。手合わせしてえなー。レンさん以外との剣術訓練なんて滅多にしなかったからなー。色々新鮮で面白いんだよなー。
しばらく見守っていると、いい汗かいた弟が俺が見ているのに気づき、剣を下ろした。
「お帰りなさい、お姉様」
大声を張り上げるのは淑女としてアレなので、俺は手を振って答えた。兵士は一礼だ。
弟は、見た目はフロントフロン家に恥じないイケメン小僧である。だがいかんせん性格が非常に悪いようだ。言い過ぎか妥当かわからないが、男版アクロディリアと考えたら早い。
学校が違うから帰省した時くらいしか接点がないみたいだが……奴の学校での素行とか評判とか、聞くまでもなさそうだな。
……意外とあいつなんじゃね? フロントフロン家潰すの。
22
あなたにおすすめの小説
断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました
八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。
乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。
でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。
ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。
王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。
彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」
お嬢様はご不満の様です。
海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。
名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。
使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。
王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。
乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ?
※5/4完結しました。
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる