俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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91.小競り合い、見守る母、そして……

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「お帰りなさいませ、お嬢様!」

 お、おう。
 暇だー暇だーとうだうだやっていたら、ようやく昼飯時となった。

 呼ばれて食堂へ行けば、すげー上にも横にもデカいおっさんがエネルギッシュに挨拶してきた。
 この家のコック長だ。名前はフリーマン・ガット。アクロママが嫁いできた時に一緒にやってきた使用人で、執事一家のセントン家の次にこの家の古株となる。子供の頃からこのおっさんのメシで育ってきたアクロディリアは、特にこのおっさんには気を許していたようだ。
 特に、外でどんなにうまいものを食べても「でもフリーマンの料理には敵わないわね」と感想を抱くくらい、その腕を買っている。

 おっさんの味が理想なのか、おっさんの味が理想になるよう育ったのか……まあ思い出の味ってあるからな。思い出補正を加味しての、アクロディリアにとっては世界一のコックってわけだ。
 ちなみに、本当に腕は良いようだ。わがまま放題のアクロディリアに好き嫌いがないのは、どんな食材も超おいしく仕上げてきたおっさんの力が大きいのだろう。

「ただいま。また太ったの?」
「これは手厳しい。……おや? お嬢様はお痩せに?」

 みんな言うな、それ。そんなに違って見えんのかよ。じゃあもうそれでいいよ。

「大変だ。ちゃんと食べないとぶっ倒れちまいますよ」

 そうそう、過保護なんだよな、このおっさん――アクロママと一緒に来た理由でもあるからな。アクロママの体調に併せて食事を提供できる人材なんだ。うまい病人食も得意なんだよ。

「大丈夫よ。ちゃんと食べてるから」

 なんか田舎に帰省した時のおばあちゃんみたいだな。……いかん。下手に日本のこと思い出すとまたホームシックがぶり返しそうだ。忘れろ忘れろ。

「それより早く食事にして。あなたの料理は久しぶりのわたしを、これ以上待たせる気?」
「ああ、そうでしたな! すぐ用意しますので!」

 踵を返そうとした巨漢が、「おっと」と急に立ち止まる。

「奥様、どうかしましたかい?」

 あ、肉の壁に隠れてで全然見えないが、アクロママが来たようだ。

「体調がよくなったのよ。ここで食べるから私の分も用意して」
「そりゃよかった。いっぱい食べてくださいね!」

 というわけで、食事である。貴族の食事風景として想像していた超長いテーブルではなく程々の長方形のテーブルだ。それぞれ指定の席に座る。ちなみに弟は先にいた。
 フロントフロン家は父、母、アクロディリア、弟の四人家族だ。よく来客があるのでむしろ家族だけの食事というのは珍しい。……まあパパは夜帰ってくるみたいだからいないけどな。

 今日のメニューは、パンは主食だとして、メインはアクロディリアの好物である一角鹿の頬肉のシチューだった。お嬢様の帰省と聞いておっさん張り切って作ってくれたんだろう。
 いや、これがまたうまいんだわ。
 ゴロッと大きな肉はホロホロと崩れるやわらかさ、全体に染み込んでいる肉と野菜の旨味、そして決して味がしつこくない。こってりしたドロドロの汁物でありながら後味がすっきりしている。

「やはり絶品ね。食べ損ねなくてよかったわ」

 気分も機嫌も良さそうなアクロママは白ワインを開けている。昼間からワインとか貴族っぽーい。それかフレンチシェフのメガネ。

「……」

 弟は黙々と食っている。すげーモテそうな金髪碧眼のイケメンだ。性格は悪いけどな。
 まあ俺も黙々と食ってるんだけどなっ。すげーうまいから言葉が出ないのよ! あとしゃべるとボロ出そうだから!

 あと、場違い感も、結構あるからな。
 だって考えてみろよ。一家団欒に見せかけて一人中身が違う奴がいるんだぞ。俺からすれば他人の食卓風景に混ざってるんだぞ。居心地悪いわ。

「お姉様」

 うお、弟に声かけられたぞ。

「その格好はどうしたのですか?」

 格好と言えば、未だに制服のままなのだが。着替えるって発想がなかったんだよな。だってアクロディリアの普段着って基本ドレスだけだったから……

「何か問題でも?」

 弟はフリルのついた貴族風のシャツを着こなしている。「おまwwwwフリルってwwwwww」って現代なら言うところだが、……いや、たとえここが日本でも言えないな。弟すげー似合ってるから。モテるんだろうなー。……そうでもないかー。容姿だけじゃダメってのはアクロディリアで実証済みだからな。

「問題と言えば、庶民のために風呂を作ったなどという妙な噂を聞きましたが?」

 うお、来たか! さらっと来たな! つーか俺それパパに聞かれると思ってたんだけど、おまえからか!

 チラリと向ける弟の横目は、非常に冷ややかだ。

「フロントフロン家の長女がやることとは思えませんね」

 それはよくわからんが、貴族の女子が肉体労働するもんじゃないってのはわかるぞ。たとえ「王子様が参加してたから」でも、理由としては弱いと思うしな。だからパパには責められると覚悟してたんだ。
 まあパパなら色々考えた言い訳を通すところだか、弟に弱味を見せるのは、アクロディリアらしくない。

 ――乗り切るぞ! 悪役令嬢として堂々とな!

「くだらないわね」

 俺は一笑に伏し、スプーンを置いた。

「お父様は常々『フロントフロン家の名を汚すな』と言っているわ。わたしにとってはフロントフロン家の人間としてやるべきことだと判断しただけ」
「その判断が間違っていたと言っているのですが」
「わたしは間違ってないと思っているし、そう信じている。だからくだらないのよ。あなたの剣術と同じくらいくだらない話だわ」

 おい弟、今度はこっちから行くぞー。姉の愛を受け止めろよー。

「棒立ちの兵士を打ち据えるのがそんなに楽しい? まともにやったら勝てないからって抵抗できない者を相手にするなんて、フロントフロン家の長男として恥ずかしいわね。いえ、むしろ男子として恥ずかしいわ」
「お姉様に剣のことはわからない」

 お、今イラッとしたな。顔には出てないけどそういうのわかるぞ。男してな!

「そう? すごく弱そうだと思ったけれど」

 ニヤニヤしながら言うと、奴はテーブルを叩いて立ち上がった。

「そこまで言うなら――」
「失礼」

 何かしら言おうとした弟とそれを受け止める用意ができていた俺たちの間に、すっと大きな影が入り込んだ。
 ジュラルクだ。

「クレイオル様、お代わりはいかがですか?」
「……もういい。失礼する」

 空気も読まずに発せられた呑気な質問に、弟は折れて食堂を出て行った。
 もちろん空気を読んでの行動である。ジュラルクは引き金を引きかけた弟を止めて、弟自身も「これはまずい」と自分でわかったから折れたのだ。記憶ではそこまでバカじゃないって感じだからな。

「お嬢様は?」
「……そうね。少しだけいただこうかしら」

 やっぱこいつはデキる奴だな。ジュラルクには要注意だ。

「あら。もう終わり?」

 俺たちのやり取りを見ていたアクロママはつまらなそうに呟いた。
 あの人も生粋の貴族だからな。話の内容や展開で俺たちの成長具合を見ているのだ。決して全力で楽しんでいたわけではない……と、思う。

 ……いや、わかんねーわ。酒飲んでるしな。酔っ払いはわかんねー。






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