俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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92.明日の行方は未だ夕陽に……

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 食事も終わり、本当にやることがなかったので、ちょっと庭を散策してみることにした。

「……」
「……」

 護衛の兵士付きで。ちょっと庭先に出るだけなのに。
 しかも弟にボコられてた奴だよ。二、三年前にフロントフロン家の門番になった奴……だと思う。アクロディリアの記憶が曖昧なんだよ。名前は無理でも使用人の顔くらい覚えとけよ。

「最近何か変わったことはあった?」
「いえ、特に。至って平和です」

 話も弾まねえなぁ……二十後半から三十歳くらいだから、まあ、大人だよな。
 それにしても、おっさんと呼ぶべきかお兄さんと呼ぶべきか微妙な年齢層である。ここを間違えたら男は簡単に傷つくらしいから気をつけねば。……俺もいずれはその辺の境界線でデリケートな年齢になるのかな……

 それ以前の問題か!
 元に戻らないと無用の悩みな上に、そもそも俺の身体死んでるかもしんねーしな!

「ふう……」
 
 空が眩しいぜ。
 ……戻りてぇなー自分の身体に。

 なんてマイナス思考してても仕方ない。この口の固いおっさ……お兄さんに、散歩しながら色々聞いてみることにしよう。
 昨今のフロントフロン領のことはまるで知識にないからな。というかアクロディリアはまつりごと全般に興味がなかったようで、自分の家の仕事さえあんまり知らないみたいなんだよな。まあ後を継ぐのは弟ってことになってるから、知る必要もなかったんだろうけどな。

 知って役に立つかどうかはわからないが、知らないと困る局面に行く可能性は否定できない。ま、知らないよりは知ってた方が選択肢は増えるだろうしな。軽い気持ちで聞いとけばいいだろう。主に目的は暇つぶしなんだし。

「こっちの雨期はいつ終わったの?」

 地面は乾いているし、雨が降った形跡は一切ない。王都では昨日の昼くらいまで確実に降ってたけど。

「半月ほど前になります」

 十数日ってとこか。そりゃ乾くわな。

「どうだった? やはり流通とか滞ったりしたのかしら?」

 ちなみにチラッと聞いた話では、王都では少しだけ野菜不足になったらしい。

「そう、ですね……やはり商人の足は遅くなったようです。でも雨天で転送魔法陣が使えなくなるわけじゃないので、食糧などの生活必需品が滞ることはありませんでした」

 ああ、そうか。あれって人でも物でも移動させられるんだよな。便利だよなー。瞬間移動だぜ? 日本で言えばどこでもドアに近いもんな。

「それに、今年の雨期は短かったので」

 あ、そうなんだ。逆に王都は少し長い方だったみたいだけどな。

 ――そんな話を盛り上がることはなくとも途切れることなく続け、適当なところで切り上げて部屋に戻ることにした。

 一応、色々と有益っぽいことは聞かせてもらったしな。




 とりあえず筋トレしながら考える。こんなこともあろうかとちゃんと体操服も持って帰ってきた。

 どうせしばらく滞在することになるんだ。すげー暇でやることもないんだから、それならやりたいと思ったことを達成したい。そしてやらねばならないこともやっておきたい。

 ついさっきではあるが、俺に課題ができた。やりたいことがな。
 アクロママの治療だ。

 できることはやっておきたい。娘の身体を間借りしている者として、まあ、少しくらいは恩返しというか、罪滅ぼしもしておきたいし。

 問題は、魔力の枯渇か。
 あれはかなりヤバイ。本能的にすごくヤバイ感じがした。ただの疲労や病気とは違う、身体の芯が朽ちるような、腐るような。肉体の根幹にある生命力みたいなものが尽きるような……
 状況次第では倒れるだけじゃ済まなくて、最悪死ぬかもしれない。死ななくとも後遺症が残るかもしれない。それくらい異常な現象だったと思う。
 できれば「魔力の枯渇」について詳しく調べてみたいが……「魔法を使いすぎたら倒れる」くらいの浅い一般常識しかないからな。でも調べるにも学校ならともかく、ここでは無理かもな。

 話を戻すが、魔法の熟練度を上げる必要がある。

 「純白のアルカ」では、魔法の熟練度が上がれば威力が高くなったり消費MPが減ったり、効果範囲を広げたりすることができる。簡単に言えば魔法にもレベルがあるってことだな。
 今の俺なら『光の癒しライトヒール』だけ熟練度が高くなっているはずだ。かなり使ってるからな。その効果は……たぶん出てると思う。使い始めと今を比べれば、使用できる回数は確実に増えたし回復効果も上がっているからな。

 というわけで、『天龍の息吹エンジェルブレス』を使い込んで、熟練度を上げる必要があるわけだ。

 ……結構難題だよな。
 実は健康体おれに使用したって、なんか、効果がないし魔力も消耗しないんだよな。魔法を使ってるって感覚がないんだ。手応えがまるでない。
 だから、たぶん異常がない者に使用しても、熟練度は上がっていない。そもそも魔法が発動していない。光りはするけどな。無駄光りはするけどな。

 話をまとめると、アクロママの虚弱体質を治療をするために『天龍の息吹エンジェルブレス』を強化する。強化するためにどんどん使わねばならない。
天龍の息吹エンジェルブレス』を使う患者を探す必要があるってわけだ。

 それと、MPの上げ方だが、基本的にレベル依存だったはずだ。HP・MPは冒険で経験値を稼ぎ、レベルアップとともに少しずつ最大値を増やしていくという、RPGでは常識的な方法だったと思う。あまりにJRPGの常識すぎて意識さえしたことがなかった。

 統括すると、『天龍の息吹エンジェルブレス』を使い込みつつ冒険でレベルアップを目指す、と。この二点をこなすことでアクロママを完治に導けるはずだ。

 …………

 立場的に言えばすげー難題だな。特に冒険は無理だろ……




 風呂に入ってのんびりし、やっぱり暇だったのでシャドーボクシングでもして時間を潰し、いよいよ空も赤くなってきた。
 なんか白熱してきたシャドーのせいで、あと夏のせいでまた汗を掻いたので、二度目の風呂はさっと済ませた。

 今度は、ドレスだ。地味目のな。コルセットなしでな。
 なんかついにパパが帰ってきたらしいのだ。娘の身体を間借りしている男としては、こう、かしこまる気持ちも強いわけで。失礼がないようにできるだけ正装に近づけたかったりな。

 いよいよフロントフロン辺境伯――ヘイヴン・ディル・フロントフロンと面会である。








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