俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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93.闇に潜む真実は、ただただ淡く脆く……

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 やべえ。超こええ。
 それが一目見ての感想だった。

 見る者を威嚇するかのような鋭い視線を送るあの男が、パパである。
 長身の痩身で頬はこけ、面長の顔には深いシワが刻まれている。マジでハリウッドスターのような、渋いなんて言葉が甘く聞こえるくらい渋いおっさんだ。
 やべえ……殺し屋みたいにしか見えねえ。すげえ。

「座りなさい」

 声も渋いな! やべえ……本格的に殺し屋みてえだ!
 夕飯前に帰ってきたアクロパパことヘイヴン・ディル・フロントフロン辺境伯と会うことになったのは、夕飯時の食堂で、である。出迎えでもした方がいいかと思ったがアクロディリアはそんなことしないので、俺もスルーした。

 現家長として椅子に着くパパの存在感と威圧感は、凄まじいものがある。うわあ……他人の食卓風景とは言え、こんな家庭だと息が詰まりそうだな。
 ――と思うのだが、アクロディリアにとっては子供の頃から見慣れた顔である。今更怖がる理由もない。

 ちなみにパパは、あんまりしゃべらないタイプのようだ。ますます殺し屋臭がすげえ。

「お久しぶりです、お嬢様」

 うわ、気がつけばこっちにも渋いおっさんが!
 こっちはガッチリした、おっさん……初老と言った方が相応しいであろう、六十過ぎくらいの白髪のじいさんだ。
 これがジュラルクの父親でフロントフロン家第一執事を務めるハウル・セントンだ。じいさんはパパの秘書も兼ねているので、パパが出かける時はだいたい同行する。だからこそ第二執事ジュラルクが屋敷内の担当で事務だの雑務だのこなしているわけだ。

 どうやら俺が最後だったらしく、家族はテーブルに着いていた。引いてくれた椅子に座ると、パパはおもむろに手を組む――食事の前の祈りだ。信心深くないアクロディリアはやったりやらなかったりだが、公の場や家長の行動には従うようにしていたようだ。
 この性悪女同様、信心なんてまるでない俺だが、形だけでも真似ておく。

 そして、静かに夕飯が始まった。

 これがフロントフロン家か。
 記憶にはあるんだが、実際経験するのと全然違うな。
 なんか……やっぱ場違い感がすごいよね。俺の居場所じゃない感がすごい。

 ……上流階級なんてあんまいいもんじゃねえな! いいもんじゃねえわ!

「アクロ」

 蛇に睨まれたカエルとはこんな気分だろうか――なんて微塵も表に出さず粛々と食事を続けていると、パパが呼んだ。

「食事が終わったら私の部屋に来なさい」

 おう……呼び出しか……

「ここでは話せないこと?」

 あくまでアクロディリアとしては、たとえ親でも上から命令されるのは不承不承でなくてはならない。俺? 俺なら二つ返事でOKだよ! 言うこと聞くから殺し屋みたいな目で見んなよ!

「早めに来なさい」

 だがさすがパパ、有無を言わさぬ断言で自分の意を通し、席を立って行ってしまった。ちなみにパパはちゃんと綺麗に完食していた。早食いにはまるで見えなかったが、食うの早いな。

「……」
「……」

 そして見向きもしないママと弟。すげー家庭だな!




 この時点で嫌な予感はしていたのだ。
 アクロディリアの記憶にあるアクロパパは、なんというか、身内補正がかかっていた。

 ――逆にな。

 この悪役令嬢は「ただのパパだけど?」くらいにしか思ってないが、とんでもない。あれはその辺の人間なんかじゃない、時代が時代なら天下取ってるような人だぞ。きっと。

 実際に会って見た俺の感想では、あれは相当……なんと言えばいいのかわらないが……なんか、なんというか、……なんだろう。俺の語録じゃ本当にうまく表現できない。
 ただ、圧倒的に、人としての格の違いのようなものを感じた。

 王子連中なんかはまだ反抗心が湧くが、こっちはもうそういう感情が生まれることさえ許さないような……本当になんて言えばんだろうな? マジで蛇に睨まれたカエルみたいなもんだ。ネズミにさえなれない。窮鼠猫を噛むこともできない。

 うーん……便宜上「悪のカリスマ」とでも名付けようかな。あの殺し屋みたいな目に睨まれたら、俺は果たして自分の意思を貫けるかどうか……
 まさかレンさんを超える脅威と出会うとはな……フロントフロン辺境伯の肩書きは伊達じゃないってことか。




 ――そう、嫌な予感はしていたんだ。
 ――出会った時から。




「君は誰かね?」

 パパの部屋を尋ねてみれば、開口一番そんなことを言われてしまった。
 しかし俺は、問答無用に近い真実を突きつけられても、大して動揺もしなかった。すげーフラットな心境だったよ。
 むしろ逆に「あ、やっぱり」と、全てが腑に落ちた気がした

 なんか、全部見透かされてる気がしてたんだよな。目が合った瞬間からずっと。
 いや、もしかしたら。

 怖い怖いと思っていた理由は、アクロパパは俺と会う前から・・・・・わかっていた・・・・・・からではないか。そんな気がした。

 






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