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96.油断せしメイド、己が失態に気づき……
しおりを挟むしまった……完全に油断してたぜ……
パパと弟が出て行ったのを確認してから、俺もメイドのキーナとあと一人――外出時はほぼついてくるメイド・ダリアベリーを連れて街に繰り出した。
キーナもそうだが、ダリアベリーも護衛も兼ねた武闘派のメイドだ。キーナは家系的に幼少から戦闘訓練を受けていて、ダリアベリーは……詳しくは知らないが、冒険者から転身したって話だっけな。アクロディリアが五、六歳の頃に屋敷に来て、自己紹介もその時にその程度聞いただけなので、いまいちよくわからない。外出時もよく一緒に来ていたようだがあまりしゃべらないタイプらしい。
まあ、もしくは、アクロディリアが嫌いだからしゃべりたくなかったのかもしれないが。
そんな二人を連れて街に下り、服屋を回り始めたのだが……俺は早々に来たことを後悔した。
「お嬢様、こちらはいかがですか?」
あっという間に、キーナの着せ替え人形にされてしまった。目が回るほど服を持ってきては脱がして着せて脱がせて着せて……俺ほんと何も言ってないのに、もう十着近く購入予定になってしまっている。
めまぐるしく動くキーナに対し、もう一人のメイドであるダリアベリーは興味なさそうにその辺に立っている。……こうして見ていると、確かに佇まいに隙がないな。いやまあ、それはいいのだが。
どうやらこっちの世界の女子の買い物も長いようだ。
異世界だーゲームの世界だーと油断していた。
どこであろうとなんであろうと、だいたい女子はおしゃべりが好きで買い物が長くて甘いものが好きだ! 間違いない!
「ダリア」
キーナが傍を離れたわずかな隙をついて、暇そうにしている彼女に声を掛けた。彼女は「はい?」と特になんの感慨もなさそうに答える。なんつーか気がない感じだ。
「これが終わったら甘いものでも食べに行きましょう」
「はあ。お好きに」
「あなたのおすすめの店は? どこでもいいわ」
「どこでも?」
お、ようやくちょっと気が引けたようだ。
「ええ、どこでも。高いところでも庶民向けでもどちらでも。そう言えば王都では――」
例のベルヴェルド先生から入れ知恵された超たっけー高級チョコレート関係の話をしてみる。脱いだり着たりしながら。
「チョコレートですか。いいですね」
もう三十を超える冷静なダリアベリーも、やはり甘いものが好きなようだ。ちなみに独身。
護衛兼業のメイドだけに、屋敷の外に出ることは少なくない。それにフロントフロン家の用事で街に来ることも多いようで、それなりにこの街のことには詳しいらしい。
色々と候補の店を上げるのを着たり脱いだりしながら聞き、これからの予定を詰める。……どうやら午前中は着せ替え人形として過ごさなければならないみたいだから、昼中心にな。
――結局、自分でも何をどれぐらい買ったのかわからないまま二件三件とハシゴして、昼食には少し早い時間にやっと落ち着いた。
フロントフロン領の特産品は、扶養の大地に育つ野菜や果物だ。珍しいものはないがどれも品質が高く、王都やあらゆる街に輸出されているそうだ。
アクロディリアはそれくらいしか知らなかったようだが、実際本当にそんなものらしい。
あのパパを鑑みれば、博打性の低い非常に堅実な政で、この街は少しずつだがはっきりと発展してきたんだと思う。まあ、パパの親たちの功績だと思うが。
率直に言えば、田舎なんだろう。
やってることは地味だし、観光や娯楽目的ならそんなに魅力はないのかもしれないが、民に安定した生活を送らせるために作った街だと言うなら、俺は結構魅力的に思える。東京のように華やかで全てが目まぐるしく動くわけじゃないが、のんびり平穏に暮らせる地ではあるんだろう。
そんなわけで、時間が押したので少々予定を変えて、昼食である。
メイド二人の希望でフロントフロン家御用達のレストランで(一度食べてみたかったらしい)、特産品をふんだんに使ったコースを食べた。メイドがメイド服なので個室で一緒に食べたぞ。今日は買い物に付き合ってくれた礼も兼ねてるからな!
ついでにここでデザートも頼み、ケーキを食べた。
――で、本題である。
アクロディリアの皮をかぶった者である以上、「メイドにお礼」なんてありえないからな! 個人的にはしてもいいと思うけどな……ほら、アクロさん基本辛辣だから。
「ちょっと聞いてほしいことがあるの」
和やかにケーキ食ったりお茶飲んだりしているメイド二人に、話を切り出す。
やれ「そっちのケーキどう?」とか「味見する?」とか「もう一つ頼んじゃおっか(チラッ)」とかやっていたメイドたちは、……生まれた頃から付き合いのあるキーナは特に過剰反応を示さなかったが、ダリアベリーは露骨に「しまった」という顔をした。性格の悪いお嬢様に一瞬でも心を許していたことに気づいたのだろう。しかも自分はワイロまで食べてしまった。食べてしまっている。これは非常に断りづらいぞ、と。
「そんなに身構えないで。無理難題ではないから」
これはほんと、マジでだ。
「あの、聞く前に質問なんですが、お嬢様のお父様やセントン家の者はご存知で?」
さすがキーナ、先に釘を打ちに来たな。「いざとなったらパパに言いつけてやるぞ」と。
「あえて言わない」
ここで変にごまかしたり嘘ついたりしても仕方ないので、自分の意向を伝えておく。
「どうせ言わなくても耳に入るでしょ? この街で起こったことでお父様に伝わないことなんてないじゃない」
昔からそういう統制が取れているからこそ、辺境の地で発展できたのだ。きっとパパの仲間は表社会にも裏社会にも多いはずだ。
「――それに、お父様の立場上、表立って許可できない可能性もあるわ。わたしはどうしてもやらなければならないことをやりたいのよ。そして二人には協力してもらいたい」
メイド二人は明らかに気が進まないという表情を見合わせ――仕方ないと溜息を付いた。
いや、本当に、そんなに無理難題じゃないからな! そんな顔すんなよ!
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