俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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97.誕生、仮面の使者……

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 事の次第を話してみると、メイド二人は非常に戸惑っていた。

「本気ですか?」
「本気よ」

 要点をまとめると、こういうことになる。

「一、わたしだと知られない。二、できれば誰にも会わずに事を済ませたい。三、もしもの時の協力者は必ず必要になるから、それをあなたたちにやってほしい。
 そしてわたし的には、もし正体が知れたら即終了した方がいいと思う」

 俺の提案に、二人は悩んでいた。
 そうだな、悩むよな。悩むと思うよ。

 ただの我侭なら堂々と難色を示せるのに、ただの我侭とは言いづらいからな。少なくともこれで迷惑する人はほぼいないだろうしな。

「なぜバレてはいけないのですか? 私にはお嬢様がやろうとしていることは善行だとしか思えませんが。誰に憚ることもないでしょう」

 キーナの疑問は、わからんでもない。
 ただ、まあ、色々思うところもあるわけよ。

「まず、辺境伯の娘がやることではない、という声が上がるかもしれない。それがお父様の仕事の妨げになる可能性があるわ。
 それにわたしの名は広まるのはクレイオルがいい顔をしない。フロントフロン家の後継は弟だから。それに異を唱える声が上がるのは非常に困る」

 あとは、まあ、身の危険があるかもしれないから、だ。目立つのはいいことばっかじゃないからな。

「どうかしら? はっきり言ってわたし一人ではやらないし、やれない。あなたたちの協力が絶対に必要なの」

 ――結果として、二人は首を縦に振った。
 実際にはどんな想いを抱いていたのかはわからないが、しかし、了承はしてくれた。

 俺が最後に加えた「あなたたちの指示ややり方に従うから」というのが、決定打になった。……と、思う。




 そして翌日、全てはここから始まった。




「お嬢様、聞きましたよ」

 朝食の後、協力者であるキーナとダリアベリー、そしてジュラルクが部屋にやってきた。

「聞いたの?」
「すみません。話しました」

 キーナが謝るも、俺は全然気にしていない。むしろジュラルクかハウルには話をして協力を仰ぐべきだと思っていた。
 
「言ったでしょ? 指示にもやり方にも従うわ。あなたがそれが正しいと思ったのなら謝ることもないわ」

 ぶっちゃけそんなことはどうでもいいのだ。
 俺はやるべきことをやりたい。できれば無理の少ない方法で。本当にそれだけだ。

「ジュラルク、反対してもやるわよ」
「もちろん止めませんとも。フロントフロン家のためになることだと私も思いますから」

 お、そう?

「特に『バレず目立たず』をモットーに事を進めたいというのがいい。ぜひ私にもお手伝いをさせてください」

 だろ? そこだろ? そこがいいだろ?

「ではお嬢様、まずこれを」

 と、ジュラルクが差し出したのは……お、おう……なんて言えばいいんだ? マスク、でいいのか? 目元だけ隠すタイプのいわゆる白い仮面である。それと真っ黒のフード付きマントだ。

「手袋は確か乗馬用のものがあったと思います。これら一式を着ければ、少なくとも一目でお嬢様だと見抜かれる心配はないでしょう」

 そうだな。こんな怪しいもの着けた奴が領主の娘とは思うまい。

「昔の知り合いに声を掛けてみたところ、何人か治療が必要な者がいることを聞き出しました」

 ダリアベリーは標的・・を見つけてきてくれたようだ。

「それなりに面が割れているので、私は同行できかねます。なので妹を連れて行ってください」

 そうね。ジュラルクは身長のせいもあるから目立つしな。キーナだったら街に紛れることくらい簡単だろう。俺はアクロディリアの美貌に気をつけないと……こいつほんと見た目だけはいいからな。すげー人目引くからな。

「私は少し離れて付くことにします」

 後方支援か。頼もしいことだ。

「じゃあ早速行きましょうか」




 昨日買った私服に着替え、深く帽子をかぶる。これですぐバレることはないだろう。同じく私服のキーナと一緒に屋敷を出た。
 ちなみに今日も朝からパパと弟は視察に出ている。忙しい人たちである。

 街に下り、ふと振り返ると、これまた私服のダリアベリーが少し離れたところにいた。すげーな。まるでつけられてる気配は感じないのにな。やっぱプロは違うな。

「お嬢様、こちらです」

 キーナの案内で路地裏を行く。「もっと早くでもいい」と言うと小走りになった。そうそう、こういうのは手早く済ませて消えるのが一番だからな。
 折れたり登ったり下ったりと複雑なルートを通り、いよいよボロ小屋が目立つスラム的な場所に出た。そうか……そういう安定志向っぽい街でも、こういうところがあるんだな。まあでも、想像してたスラムよりは綺麗な感じはするけどな。

 そして、目当ての小屋に辿りついた、すきま風も激しかろうという小さな小屋……フロントフロン家なら納屋としても狭く小さいだろうっつー年代ものだ。

「見張りお願いね」
「あ、お一人で大丈夫ですか?」
「ええ。早く済ませるから」

 幸いひと目がない。俺はその辺の物陰に隠れると、持ってきたマントと仮面を装着した。

 よし……行くぞ。

 仮面で顔を隠し、黒いマントで身体を覆い、深くフードをかぶった絶対にあやしい人物となった俺は、二度三度と深呼吸し――ボロ小屋に突入した。




「――な、なんだおまえは!?」

 小屋に人がいることは、気配でわかっていた。
 そして向こうも、俺の侵入にすぐ気づいた。この朝っぱらから押し込みが来るとも考えていなかっただろうな。何せドアに鍵……つっかえ棒的なものがなかったからすんなり開いたしな。

 家人の男は、狭い小屋の中、ベッドに横になっていて……俺が踏み込むとほぼ同時に上体を起こし立ち上がろうとしていた。

 俺は無言のまま近づき――男が振るったナイフの一閃をきっちりかわし、男を組み敷いた。
 元はそれなりに稼いでいた冒険者って話だったはずだが……すっか鈍っているようだ。今の一撃もまるで精彩を欠いていた。

 まあ、仕方なくもあるか。それなりに若くして夢も生活も奪われた男だ。自暴自棄に陥る気持ちもわからなくもない。

「お、おい待て! せめて……せめて、なんで殺されるのかだけ教えてくれ!」

 あ?

「そりゃ確かに俺は善人じゃねえ! 冒険者時代はそれなりに色々やってきた……でも殺されるほどひどいことはしてねえつもりだ! だからせめて……もう殺すなとは言わねえから、理由を教えてくれよ!」

 う、うーん……なんか懺悔始めちゃったけど……どうやら俺のことを、怨恨からの訪問者だと思っているようだ。

 ……まあいいか!

 こいつが善人であろうがなんであろうが、ひどい悪人ならとっくに捕まってるだろう。こんなとこで暮らせるわけがない。とっくにどっかの収容所にブチ込まれているはずだ。

 だいたい、今俺は、目的は違うが押し込み強盗かけてるのに間違いはないからな。
 善意の押し売りでもなく、ましてやこの男を助けに来たわけでもない。

 あくまでも俺の目的のために、この男を利用しに来たのだ。
 たとえそれで男が喜んだところで、感謝したところで、それを受け止めるつもりもないからな。

 ――俺は、冒険者として生きてきて、怪我の後遺症で日常生活にも苦労するようになったこの男の古傷を、奪いに来たのだ。




 男の主張を無視して、回復魔法を施す。

天龍の息吹エンジェルブレス』は病を癒す魔法だが、ゲームでは「状態異常回復」だ。恐らくではあるが、「怪我の後遺症」にも効果があると睨んでいた。
 というか、感覚的に「それもいける」とわかっていた。もしかしたら使い込めばもっと色々わかるようになるかもしれない。

 ――これが、色々考えた末に捻り出した、『天龍の息吹エンジェルブレス』の熟練度を上げる方法だった。

 まあ、なんというか、病気泥棒である。
 病気などで弱ってる人に無理やり『天龍の息吹エンジェルブレス』を掛けて経験値に変える、古典的RPG的な行為を行うのだ。

 あんまり抵抗感なく行動に移せたのは、俺にあまり罪悪感がないからだろう。そんなに悪いことをしていると思っていないからだ。
 でも……相手の意思を無視してやるって、あくまでも俺の都合俺の我侭でやろうって決めているから、やっぱり悪いことではあるんだと思うけどな。実験も兼ねてるし。理屈だけなら北斗の拳のアミバ様とそう変わらない。

「な、なんなんだおまえ!? 目的は……え?」

 だから、礼もいらないし、感謝もされたくない。

 古傷のせいで立てなかったはずの男が思わず立ち上がって、そして戸惑っているのを見て、俺はさっさと現場を離れた。






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