俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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107.第二王子の攻撃はとにかく回避すべし……

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 急遽決まった視察だが、その理由はリナティスらしい。弟が連れてったお姫様だよ。

「いくら婚約者の家とはいえ、王族が正式な手続きもなく外出や自領を離れることはできないからな。仮にできたとしても世間体は悪い」

 というパパの説明で、一応話が繋がった。

 ――要するに、視察に便乗してリナティスが弟に会いに来たかった、というわけだ。
「一家が揃っている方がいい」ってのもあながち嘘ではないのだろう。肝心の弟がいないとなれば来る理由も激減だからな。 

「それにしても急ね」

 俺がこぼすと、いつもの視察員のおっさんが答えた。

「今回は色々と都合が付き、かつ細々と来る用事もありましたので」

 つまり、たとえば発端がお姫様の我侭であっても、特に不都合はなかったと。

「しかし確かに急でしたな。辺境伯にも無理を言ってしまって……」
「息子の婚約者と言えば身内も同然、拒む理由はない。そしていつ誰に見られてもフロントフロン領土に恥じるところはない」

 ヒュー! パパかっこいい!

「うちのコックは大慌てでしたけど。急な来客の予定に、食材の仕入れに料理の仕込みと厨房は戦場のようだったわ」

 ママの小粋なジョークが入った。まあ確かに大慌てだっただろうなー。あの太ったおっさんは大味な性格だが、こと料理に関しては妥協しないし細部にまでこだわるからな。

「フリーマン氏ですね。王都でも噂はかねがね」

 と、再びメガネを装着した第二王子が口を挟んだ。

「あら、そうですの? 王子のお言葉ならフリーマンも喜びますわ」

 …………

 この第二王子ウルフィテリアって、今もっとも次期国王に近い男ってことでいいんだよな? いつかの晩餐でアニキもそんなこと言ってたし、アクロディリアの記憶にもそうあるし。

 ……すごくね?
 そんな王子相手に、パパもママもマジで普段通りの対応しかしてないんだよな。「ただの客人の貴族」くらいなもんだと思う。

「それより、驚いたわ。王子は何をしに来られたの?」

 このメンツ、この雰囲気、特にパパの目が光っているこの状況で……言ったぞ! 俺言った! おまえどうしたの、ってさ! 内心超ドキドキしてんだけど! 誰かほめてくれ! 

「可愛い妹の付き添いだ。いくら婚約者に会うためでも嫁入り前の娘だ、さすがに目付け役がいない状態で連れては来れない」

 あ、パパも言ってた世間体ってやつな。王族も貴族もそういうのすげー気を遣わないといけないんだよな。まさに外交の初歩というか、鉄則というか。

「ましてや外泊などさせられない」
「え?」

 続いた言葉に、またしても普通に驚いてしまった。

「泊まるの?」
「視察に来た時、いつも屋敷に部屋を用意してもらうと聞いているが」

 ……マジかよ。何日か滞在すんのかよ。

「アクロ」

 やべ、パパの視線が痛い。

「いくらウルフィテリア殿下が気になるとは言え、ストレートすぎる」

 気になるってなんだよ! ……フォローありがとうございます。

 そうだな、今の俺の発言はまずいな。あの聞き方じゃ「泊まるなんて心外」みたいな意味に捉えられかねない。

「失礼しました。いささか気が急いたようです」
「気になさらず。急に決まったことゆえ、知らなかった事実に戸惑うのは当たり前だ」

 ……お互い本心はわかっている気がするが、まあ、形式上やっておかねばならないやりとりである。

「アクロ、殿下にお庭でも見せてあげたら? 若い人同士気も合うことでしょう」

 え?
 ママ、ちょ……今のお見合いのお約束みたいなセリフじゃなかった?

「そうしなさい。私たちなどと話してもつまらないだろうからな」

 パパ……あ、はい。その方がいいんすね。了解でーす。

「ヘイヴン卿。私は小さい頃から貴殿の政治手腕に興味があった。ぜひ時間を頂きたい」

 うわ、次期国王っぽいこと言いやがって……

「フッ……無論」

 な、パパが……殺し屋が笑った、だと……? アクロディリアの記憶の中にも二度三度しかないパパのレア顔を、こんなに簡単に引き出しただと……?

「『冷徹のウルフィ』の名は有名ですからな。私も貴方と言葉を交わす機会を待っていた」
「礼を言う。未熟者なりに学ばせていただく」

 目礼し、第二王子は立ち上がった。

「庭を案内してもらえるか? アクロディリア嬢」

 まあ第二王子のお誘いはともかく、パパにもママにも行けって言われたからな。行きますよ。

 ……それにしても、色々と釈然としねえな。




「なんで黙っていたのよ」

 庭に出ると同時に、俺は覗き仲間だった・・・アイドル系に言った。

「さすがに黙ってていい身分じゃないでしょ。どうするの。初対面があんなのだったからわたしこんな対応になってるわよ。どうするのよ。あからさま過ぎて今更猫とかかぶれないわよ」

 いやほんとどうすんだよ。
 「はい今から外面のいい辺境伯令嬢モード入りまーす!」とか、俺できねーよ。普段がもうバレてるからよ。

「それで構わない。今回私は、第二王子ではなく視察団の一員として来ているつもりだ。貴女には見抜かれたが、クレイオル殿に名乗るつもりはない」

 え? そうなの?

「そのつもりのメガネ?」
「これは貴女から習ったことだ。一目で見抜かれないための仮装なのだろう?」

 教えた覚えないっすけどね! ほんと釈然としねえな!

「……キルフェコルト殿下も苦手だけれど、あなたもなんだか苦手だわ」
「そうか? しかし兄は相当貴女のことが好きなようだが」

 えー? 好きなのー?

「信じないわよ」

 ――友達としては仲良いつもりだけどな! アニキ! 俺は密かに慕ってるよ!

「あ、そういえばキルフェコルト殿下は今どうしているの? 城に?」
「末の兄妹を連れてウィートラント王国に観光に行っている」

 ウィートラント? って、金髪王子ラインラックの国だよな? 海の向こうの。

「つまり旅行に行っていると」
「そうだ」

 なるほどな。面倒見のいいアニキは、たまの休日には家族サービスをしていると。……違うか! でもそんな遠くないだろ!

「ところでアクロディリア嬢」
「何? クレイオルとリナティス様の邪魔をしに行きたいの? 行きましょう!」
「やめなさい。たまにしか会えないのに可愛そうだ」

 ……冗談言ったつもりなのに、すげー冷静に注意されたぞ。やっぱこいつ苦手だわ。覗き仲間だった・・・彼はもういないようだ。

「それより、色々と気になる話を聞いて来たんだ。ぜひ聞いてくれ」

 …………

 嫌な予感しかしねえよ。こっちはぜひとも聞きたくねえわ。

「――なんでも、最近フロントフロン領地では、病の者を襲い病気を奪って逃げる強盗が出るらしい」

 ほらみろ聞きたくねえこと言いやがったよ……

「この話、貴女はどう思う?」

 確信があって言っているのか? それとも揺さぶっている段階か?

 どちらにせよ、何にしろ、俺の答えは「否定して誤魔化す」以外にない。

「庶民のことなど知りません。それよりほらあそこ、クレイオルとリナティス様がいますよ。邪魔しに行きましょう」

 我先に行く俺の背後で、無表情が売りのウルフィテリアがかすかに笑ったような気がした。


 


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