俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

文字の大きさ
92 / 184

108.こうして恋のレクチャーが始まる……

しおりを挟む






「――なんですか? お姉様」

 花壇の前で戯れる弟とお姫様に声をかければ、弟が「おまえ何邪魔してんの?」と言いたげな冷たい視線を向けた。

 ええ、お察しの通り、邪魔しに来たんですよ!
 日頃の恨みって怖いよねぇ、こういう時に回ってくるからさぁ!

「わたしもリナティス様とお話がしたいと思って」
「婚約者同士の仲に割って入るなんて無粋ですね」
「そんなに独り占めしたいの? 大好きなのね、リナティス様のことが」

 この時点で弟は悟る――あ、こいつ色々わかった上でからかいに来たんだな、と。無粋とか空気読めないとかじゃなくて確信してやってやがるんだな、と。

「まあ、お姉様ったら。恥ずかしいわ」

 予想外はお姫様だな。照れながらも笑顔でかわされた。あれは「そんなこと知ってます」って感じだし……意外と肝が据わっているかもしれない。
 というか、「何も知らない無垢なお姫様」ではなく、「それなりに女子力高い系姫」みたいな、そんな感じがする。俺の知ってる女子校生っぽいというか……いや、あくまでも俺の直感だ。はずれてるかもしれない。

「――お姉様」

 と、弟が顔を寄せて囁いてくる。

「昨今の非礼は詫びます。お願いですから行ってください」

 うわ、こいつ泣き入れやがった! ……マジで本気でお姫様が好きなんだな。ここでムキになったり俺の機嫌を損ねるのは相当まずいと思ったようだ。うむ、やはり馬鹿ではないようだな。
 そういう態度で出られると、そりゃもう行かざるを得ないだろ。一応身内にはそれなりに優しい悪役令嬢だからな。

「それではリナティス様、またあとで」

 お姫様ともうちょっと話したいってのは本心だが、まあ、焦る必要もないだろう。数日泊まるって話だからな。

 俺の後ろで控えていた(来ているのは弟には秘密の)第二王子を連れて、今頃食事の準備に忙しいであろうと裏庭に誘ってみた。

「貴女は本当に人の邪魔が好きだな」

 すごい誤解をされてしまった。

「失礼ね。邪魔なんてしないわよ」

 他に見るとこなんかないからだよ。咲き誇る花壇関係は弟たちがいるし、あとは馬とか走らせる草原みたいな裏庭しかないのだ。もしくは少し離れたところにある小さな森とかな。

「落ち着いて話でもしないか」

 おまえと話したくねえから色々行こうっつってんだよ! ほんと苦手だわ! ……わかっててやってんのか?

「早めに腹を決めた方がやり口も多いと思うが」

 ……あ、はい、わかっててやってたパターンだったわ。




「そもそも隠し通せると思っていた貴女に驚いた。無理だろう。どう考えても」

 ……くそー。やっぱ無理だったかー。

「ほら、騙されてるふりしてくれるとか……」
「なぜ?」

 気ぃ遣ってだよ! 気ぃ遣ってくださいよ王子! アニキは遣ってくれましたけどね!

「そもそも貴女は密偵と話しただろう。その時点で両者の間に明確な了解が取れたものだと判断したのだが」

 あ、昨夜のメイトの。
 ……言われてみればそうだったな。あいつキルフェコルトが送り込んできた監視だけど、大きな括りで言えば「王家の密偵」なんじゃねえの? だとすれば第二王子とも繋がってても不思議じゃないわ。

 むしろ、考えてみると、確かに隠せると思ってた俺がおかしい。

 昨夜メイトに声を掛けていなければ「暗黙の了解」として、お互い薄々気づいているけど黙っている、いわゆる「曖昧な関係」を続けることができた。でもメイトと話してしまった以上、もう「暗黙の了解」では済まない……と、判断されても仕方ないだろう。

 俺はてっきりメイトはアニキだけが関わっている密偵だと思っていたが、個人ではなく王族の密偵だったってことだろ。だったらウルフィテリアに話が伝わっているのもおかしいことではない。

 そう、か……ってことは、アレか。

「あなたが来たのは、わたしと話をするためなのね?」
「いや、妹の付き添いだ。本当に。そのついでに・・・・貴女と話しているだけに過ぎない」

 マジかよ。

「仮にリナティスがこんな要望を出さなければ、私もここにはいなかっただろう。貴女と言葉を交わすこともなかったと思う」

 つまり、アレだ。

「要するに、遊び半分でわたしの事情に首を突っ込もうとしていると。そう解釈していいのね?」

 第二王子はメガネを押し上げた。

「一応、兄の代わりに関わるつもりでいるのだが。第一王子が関わってもいいくらい、貴女が今やっていることは、露呈すれば大事件に発展すると私は考える――要するに貴女の考え方は一つも二つも甘い。故の接触だ」

 ……やっぱこいつ苦手だわー。甘いかー。俺甘いかー。

「わかった。わかったわ」

 ウルフィテリアが言っていることは、全部正しい。俺が「まあいいか!」で片付けた大事なところを突き付けてきやがった。
 そう、甘いんだよ。俺は。自分でもよくわかってる。俺は天才の類じゃないし、思慮深い方でもない。面倒なことは考えないようにしたり流したりしている。例の病気泥棒だって勢いでやり始めた感が強い。そして「バレたら謝ればいい」くらいにしか思ってない。

 そして、どれだけ深く考えても、こういう「出来る奴」には敵わないというのも、昔からよくわかってる。だから俺は自分のことを普通だと思っている。決して出来る方ではない。

「話しぶりからして、あなたも協力する気がある。そう思っていいのね?」
「ああ。貴女のしていることに賛成はしないが、興味はある。微力ながら手伝いをさせてほしい」

 手伝いねぇ……

「わたしより露呈したらまずい立場じゃないの?」
「違う。私の場合は足元が揺れないからな。むしろ王族がやっていたと露呈すればいくらでも美談にできる。だが貴女の場合はいささか処理が難しい」 

 そ、そうか……そうだな、それくらいは俺にもわかるわ。

「貴女には少し座学が必要なようだ」

 座学って、授業? マジか。

 ……そうだな。
 もう少し突っ込んだ物の考え方とか、身につけた方がいいのかもしれない。肉体的な強さだけじゃなく、頭も強くなっておきたいな。

「じゃあちょっと教えてよ」
「私がか? 父上に頼んだらどうだ」
「忙しい人だから」

 それに怖いし。中身が違うのもバレてるし、あんま甘えられないのよね。

「私は数日しか時間がないのだが……まあ、基礎の頭くらいはできるか。では貴女の活動と問題を共に考えつつレクチャーしていこうか」

 ――こうして超美少年王子による恋のレクチャーが始まった。

 …………うん。

 ぜんっぜん! 嬉しくないですね!! だいたい恋のレクチャーってなんだよ! 乙女ゲーかよ! ……乙女ゲーだけど!






しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました

八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。 乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。 でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。 ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。 王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

処理中です...