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113.そして戻る……
しおりを挟むやはりというかなんというか、ウルフィテリアはお忍びで見て回りたいそうだ。
「と言っても、見る場所なんてあるの?」
アクロディリアの記憶では、特に目新しい観光地があるわけじゃなし、この地でしか入手できないような特産品があるわけじゃなし、そこそこ大きいだけの田舎の街って感じらしいが。
「まず作物だな。畑を見たい」
ほう。畑を。
「次に冒険者ギルドにも顔を出したい」
ほほう。冒険者ギルドか。
「あとは市場と、できればこの街で有名な何かを食べたい」
ふむふむ。
視察なんて何すんだって思っていたが、言われてみればちょっと気にはなるな。
畑は土壌だろ? どんな作物をどのように育てるか……は、まあこいつなら知ってるだろうけど、畑の規模みたいなものは俺も気になる。何人くらいでやってるかーとかな。この世界のものと俺たちの世界のとではまた違う可能性もあるし。
冒険者ギルドは、ここら周辺の動物とかモンスターの情報がほしいんだろうな。アクロディリアはそういうの本当に興味も縁もなかったので、まるっきり知らないんだよな。
まあRPG的に言えば、果たして何レベルあればこの辺のモンスターに対抗できるのかって話だな。リアルに考えたら色々おかしいけど。なんで最初の街の周辺は弱いモンスターしか出ないんだ、とかって話になるけど。
市場と食い物屋は、活気だのなんだのの調査ではなかろうか。
市場に活気があるならそれだけ経済が回ってるってことだし、食い物なんかは……文化か? 「うまいものを求める」って心理は、ある程度安定した生活から求められる一種の刺激……いわゆる贅沢なのではなかろうか。現代日本であれほど多彩な食べ物があるのは、やっぱり安全で平和で生活の余裕があったからこそ発展してきた……のではないかと、普通の高校生は愚考する。
まあそんなことはどうでもいいか。
第二王子が何を見たいのか、見た上で何を思うのかなんて、俺にはわかんねーし。
それより俺はやることがあるしな。
――なんてことを話しながら、ダリアベリーが御者を務める馬車に揺られることしばし、街に到着した。昔取った杵柄というべきか、ダリアベリーは色々と器用である。やっぱベテランの冒険者ってすげーのかもな。
とりあえず畑が見たいそうなのでその旨伝え、馬車は大通りを行き街外れへと向かう。
そんなこんなで、時間が飛ぶように過ぎていった。
気がつけば夕方で、彼方の空が赤く染まる。うーむ……なんだが俺まで普通に視察していた気がする。
畑では採れたて野菜がすげーうまいの。農家のおっちゃんに勧められるまま、畑に生ってるのをもぎって洗ってそのまま食ったよ。ナスみたいな奴。そのままでも甘かったけど、網で焼いたのがまたすげーうまいの。中身がトロットロで瑞々しくてさぁ。見た目もナスだし、ありゃ焼きナスだな。……名前は違うっぽいけど。
冒険者ギルドでは、やはりこの辺の動物やモンスターの話になった。大きな依頼はないが、なかなか厄介な中堅どころの依頼が多いらしい。アクロディリアの記憶にはまるでない話なのでかなり興味深かった。俺もいずれ外の世界に飛び出すことになるかもしれないからな。……まあ本音を言えば、行きたくはねえけどな。やっぱ命の取り合いとか普通に怖い。
で、食い物はダリアベリーに聞いた焼き鳥的な屋台へ行ってみた。うん、普通の焼き鳥っぽかった。ただ、俺は普通だと思ったが、この世界では甘辛いタレというのがちょっと珍しいようで、第二王子は屋台のおっさんにタレの生成方法を聞いていた。案の定断られていたが。秘伝のタレの作り方を聞くなよ。
「お嬢様、そろそろ……」
屋台から馬車に戻るも、さっきからダリアベリーがそわそわしている。わかってる。これ以上遅くなると時間的にまずいよな。
「ウルフィテリア様、ちょっとよろしいかしら?」
「なんだ? そろそろ行くか?」
ん? ……ん!?
「あ、そうか」
そういやこいつ、ダリアベリーとの話も聞いてたし、次に俺がやろうとしていることくらい読んでてもおかしくなかったな。まあこのメンツで出かけるとなれば丸分かりか。
ってことは、この視察……というか外出も、俺の要望を含んだものだったのかもしれない。……いや考え過ぎか。あくまでも自分の希望と利害が一致しただけに過ぎないのだろう。ウルフィテリアはロジカルな奴っぽいからな。
「行ってこい。私はそこの店で紅茶でも飲んで待つことにしよう」
あれ?
「一緒に来ないの?」
「関係者を増やしたいのか?」
お、おう……そうだな。そりゃそうだな。向こうだってまさか王子様がひょこっと現れるなんて考えてもいないだろうしな。
「あ、じゃあそれ貸して」
「それ?」
これはウルフィテリアの予想を超えた発言だったようだ。無表情ながら疑問符を浮かべる王子はちょっと可愛い。フン! 女子だったら「かわいい! 結婚して!」ってなるんだろうけど、生憎俺はなりませんね!
「メガネよ。メガネ」
さすがにこの期に及んで仮面を装着するとかマヌケも過ぎるからな。でもノーマルのまま顔を出すのも少々問題がある、気がする。だって辺境伯令嬢だからな。辺境伯令嬢がその辺フラフラしてるのはちょっと世間体とか悪い気がするからな。こういう小道具でもあればまだいくらかマシだ。きっと。
でも一応仮面は持ってきてるんだよね。一応な。
「私からこれを奪おうと言うのか。……まあいい。こんなところで知り合いに会うこともあるまいし、会ったところで問題もない」
久しぶりにメガネを掛けて、第二王子と別れた。
ダリアベリーの案内で路地裏を走る。馬車では入れない、少々入り組んだ場所を拠点としているらしい。昨夜とはまた違う場所になっているようだ。
まあ、強いて言うなら、フロントフロンの屋敷にちょっと近くなったんじゃなかろうか。
そんなに遠くもなかったようで、すぐにその場所に辿りついた。
「あ、ダリア」
古ぼけた普通の民家だ。ドアの前には昨夜会ったジェスがいた。見張りだな。……こいつも冒険者関係の奴なんだろうな。あんまり強そうじゃないけど。
「連れてきた。通して」
「うん」
ジェスは俺を一瞥し、ドアを開けた。
「――で、すぐに戻ってきたと」
そういうことである。
話が通っている以上、大した話をする必要もなかったし、俺も話したくなかったからな。患者のじいさんは……今起きれる状態にあるのかどうかもわからないが、とにかく寝ていたしな。
面倒を見ているらしき迂闊な大男と二、三言、挨拶的なものを交わして、治療して、すぐに戻ってきたというわけだ。
ま、やることをやれば長居する理由もないしな。
「もしかして早すぎた?」
喫茶店でお茶していたウルフィテリアは、当然のように女子の視線を独り占めしていた。もうね、俺が合流したらね、すげー視線が痛いの。女子の敵意がいてーの。
「理屈が通らない。むしろ早く貴女を屋敷に戻さないと私が叱られてしまう」
いや、むしろ俺が怒られる方だと思うが。こっちがホスト役として同行してる以上はな。
「では戻ろうか。早く土産をフリーマン氏に渡した方がいいだろう」
ああ、土産な。
農家で野菜を少し貰ってきたのだ。そのままでもうまかったが、フロントフロン家の優秀なコックなら更においしくしてくれることだろう。
それにしてもだ。
「あなた野菜好きね」
俺は味見程度だったが、第二王子は本当に色々食ってた。
「そうか? 味を見ていただけだが……しかし否定する理由もない。下手な果物より好きかもしれないな」
草食系とでも言って欲しいか? 言わねーよバカヤロー! ……なんて思っているとは思うまい。まあうまかったのは確かだしな。
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