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114.可能性と真意と本心と……
しおりを挟むそれに気づかされたのは、キーナの一言だった。
「王子との仲はどうなんですか?」
「え?」
弟の婚約者であるリナティス王女と、その付き添いでやってきた第二王子ウルフィテリア (といつもの視察員)がやってきた日から二日が経った。
いよいよ弟が明日帰るという朝、風呂の用意ができたと呼びに来たキーナがやたらニヤニヤしながら聞いてきたのだった。
――王子との仲はどうなんですか、と。
「……あ、すみません。今のは聞かなかったことに……」
きっと、よっぽど俺が驚いた顔をしていたのか、それとも尋常じゃない長さのフリーズ現象を起こしていたのだろう。
両方かもしれないが、とにかく、踏んではいけない地雷に近い物を踏んだと悟ったのだろうキーナはそそくさと去ろうとし――俺はその腕を反射的に掴んでいた。
「待ちなさいよ」
「いえ、あの、仕事もありますし、忙しいので」
「黙って待て」
「……はい」
キーナの一言で、ある可能性と、その可能性を指し示す様々な要素に、気づいた。
気づいてしまった。
今更。
ついに。
……もしこの可能性が当たっているのであれば、確かに第二王子は「貴女は甘い」と、本気で言っていたのだろうと思う。
「……もしかして外堀を埋められたのか?」
ここ数日は、パパの指示で第二王子のお供をし、方々の畑や施設や鍛冶場などを見て回った。見る場所が違っただけで初日と同じだ。
俺は渡りに船とばかりに外出し、ゆったりした異世界観光的な気分で気楽に見て回り、例のじいさんの治療に当たっていた。何も問題はなかった。普通に楽しかったし。……そうだな、むしろ問題がなさすぎたことを疑問に思うべきだったのかもしれないな。
「キーナ、そういう意味でいいと思う?」
「さ、さあ? 私にはなんとも」
「言え」
「……はい。あの、旦那様が推し進めた案件なので、私の読みでは九割間違いないかと……」
マジか。
あの殺し屋、娘の中身が違うと、俺を男と知って、その上でこんなことを……
…………
うん、とりあえず、事故を装ってシャイニングウィザードとかドラゴンスクリューとかかましてやりてえな。今の俺ならパパにビビることもねえしな。
とりあえず意味なくキーナを睨み倒したあと、風呂に入って朝練の汗を流すことにした。
湯に浸かり、ずっと考えていた。
思えば、あの夜ウルフィテリアに会った時から、布石は用意されていたのだろう。いや、もっと遡るなら、キルフェコルトからダンスパーティーに誘われた時から、だな。
俺も可能性だけは考えていたはずだ。
誤算があったとすれば、やはりパパだろう。
俺と娘の事情を知ったパパが、まさか知った上で話を進めるなんて、想像もしていなかった。だって俺男だって話したんだぜ? 中身男ってパパ知ってんだぜ? 知った上で話を進めるとかありえなくね? ありえなくね!? これ通りすがりのアックスボンバーか通り魔ライダーキックくらい許される所業じゃね!?
…………
アクロディリアにとっては悪い話じゃない。
あの時、キルフェコルトの誘いに乗らなかった理由であり、それは俺も理解できる。
……うん、ひとまず、キーナの読みでは一割は違う可能性があるらしいから、その一割に賭けてみるか。
よっぽど俺らの考えすぎって可能性も多々あるしな! あらゆる要素が可能性への布石に思えるのも「そう考えればそう見えるだけ」って、いわゆる枯れ尾花的なものかもしれないしな!
よし、思い切って本人に確かめるぞ!
「驚いた。そこまで意識されていないとは思ってもいなかった」
あ、確定でしたー! やっぱ九割の壁ってすげーわ! ほぼ確の名は伊達じゃねーわ!
「お父様はどこ? ちょっと殴っていいか聞いておいてもらえる?」
「気を確かに」
うるせーな! 元凶めが!
「何? じゃあそういう目的で来ていたの?」
「それもあったと言うべきだな」
それも、あった、だと。
「むしろメインの目的に持ってきなさいよ! 所用のついでに親睦深めとこうって失礼すぎない!?」
俺別にアクロディリアのことは好きでもないし、むしろちょっと嫌な面ばかり見てて微妙な感想しかないけど、一人の女に向ける意識として問題提起せざるを得ないわ! 今俺だし!
「それをメインに持ってきていたら、それは本決定ということになるが。そちらの方が良かったか?」
……よくない! 非常によくない!
「とにかく行こう」
すでに朝食は済み、さて今日も視察に行こうとしている矢先だ。今日の視察の同行者もダリアベリーのみで、さっき俺が錯乱して言った「お父様はどこ?」を完全に聞き流してスタンバイしている。冗談だと思ったのか、たとえ俺が本気であっても聞き入れることのできない類の命令だったんだろう。
「その前に教えてほしいのだけれど、あなたは本気なの?」
「……」
第二王子は、メガネを外してじっと俺を見詰めた。
「この数日、私はちゃんと貴女を見てきたつもりだ。数多ある悪い噂にそぐわぬ健全にして健常な女性だと判断した。今この時点で私に不服はない」
おいやめろよ。マジでやめろよ。やめとけよ。
「ヘイヴン卿も私を止めることなく、貴女にも私に近づくことを禁じることはなかった。彼も賛成しているかはわからないが、少なくとも反対はしていない」
マジでやめろよ……
「要するに、問題なのは貴女の意志だけだ」
……マジかよ。
「一応確認するわよ?」
もし何かそっくりな事例でお互い勘違いしたまま認識している、勘違いコント的な可能性も……もうなさそうだが、それでも確認だけはしておかねばなるまい。
ちゃんと、しっかりと。
「――あなた、私と結婚したい?」
そう、ここ数日全ての要素が、この可能性に繋がっていた。
あの夜の出会いは、第一印象というか、最初期の確認だったんだと思う。
噂通りのアクロディリアなら王族の嫁なんてとんでもねえからな。俺はあの時普通に対応し、まあ可もなく不可もなく程度に審査をパスしたのだろう。普通に接しただけなのに。
次にパパの指示だ。これは考えるまでもないだろう。
「第二王子の視察に同行しろ」なんで、それこそ視察にかこつけて親睦を深めなさいと言っているわけだ。
そして互いを知るための、視察という名のデート。
その気なんてまったくなかった俺は、迂闊にも無警戒に色々な受け答えをしてしまっている。ウルフィテリアを遠ざけるようなことも強いてしなかったし、本当に何も考えていなかった。
……うーん……思い返せば俺の無警戒がこの状況を生み出したのか……それとも家柄的に避けられない流れだったのか……
ただ言えることは、この世界で貴族なら、この歳まで婚約者がいないというのは、珍しいということだ。
ということは、だ。
「もしかして、キルフェコルト殿下かあなた、どちらが王になるか決めたの?」
それが決まってないからアニキもこいつも、今も婚約者がいないって話だったはずだ。まあゲームの設定と言われればそれまでだが。
ちなみにアクロディリアに婚約者がいない理由は、異国の王子ラインラックにずっと片思いしていたからである。あいつ元気かな? 今頃海の向こうでのんびりしてるんだろうな。……俺と違って……
「決まってない。ただ貴女ならどちらでも構わないのではないか?」
うん、どうでもいい。どっちでもいい。最初からその気がないからな!
「まあ強いて言うなら、王の嫁は色々と大変そうよね」
「そうか。貴女はなりたくないのか」
「いや強いて言えばだから! どっちかを選ぶしかないって言うならって話だから!」
結婚なんかできねーよ! 男だぞ俺! おまえも女子っぽいけど男だろ! ぜってー無理よ!?
「やはり権力には興味ないか。そうだろうとは思っていたが」
と、ウルフィテリアはメガネを装着した。
「――なぜだろうな。時々貴女と話していると、どうしようもないほど気が抜ける時がある。まるで気心の知れた同性の友と一緒にいるかのような……」
…………
「私は貴女のそんな不思議なところが嫌いじゃない」
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