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116.その約束は月に照らされ消えていく……
しおりを挟むそういえば、ウルフィテリアの課題がまだクリアできてなかったな。
えーと……なんだっけ?
俺の解釈では、「キャ○ツ中の変装が甘い」って感じの話だったな。仮面とマントだけじゃ誤魔化しが弱いから、もっともっと掛け離れた格好になれと。そんな感じだったよな。
例のじいさんの治療も終わるし、ママの治療は昼辺りにさっと済ませられるし、夜は空くんだよな。じいさんの治療用に残していた力を、また病気泥棒に当てられるだろう。
もうこの際だ。
帰郷している間は剣術訓練は絶対にできないので、この期間は『天龍の息吹』の熟練度上げに専念したいと思う。
使えば使うほど、使いやすくなっていっている。効力も上がっている。より洗練されていっているのがちゃんとわかる。きっとまだまだ伸びるはずだ。
そして、とりあえずの目標として、レンの弟の治療である。これは俺の中で確定事項だからな。
……そういやレンはどうしてるだろうな。レンも弟の病気も気になるな……
明かりを消した真っ暗な部屋は、淡い月明かりだけが差し込んでいる。ちょっと雲が出てきたな……近い内に降り出すかもしれない。
椅子に座っている俺は、夜空を眺めながら、いろんなことを考えて時間を潰していた。
――おっと、そろそろ出動してもいいらしい。
荷物を持って静かに部屋を出……いや待て。こんな薄着で弟の部屋に行ったところを誰かに見られたらすげー色々誤解されちまうかもしれないぜ! マント羽織っとこ!
改めて、衣を正して部屋を出た。
なんとなくの頼りないぼんやりしたレーダーだが、人の気配がわかるようになってからは、隠密行動も楽々である。
夜の廊下には壁掛けランプが掛けられ、これまた頼りないながら薄ぼんやりと屋敷の中を照らしている。そんな廊下をするする歩き、誰に会うこともなく弟の部屋の前に到着。
ドアノブを回せば、抵抗なく開いた。隙間から滑り込むようにして侵入し――
「いらっしゃいませ」
「お、う……!」
突然声を掛けられたせいで驚きの声を上げそうになり、しかし口を押さえて声を声を殺した。
マ、マジでビビッた……気配で察知できなかっただけに、本当に無警戒だった。
「ジュラルク?」
暗い部屋の中にぬぼーっとそびえる黒い影は、まさに見慣れた顔であった。
俺より先に部屋にいたのは、第二執事ジュラルク……と、この部屋侵入の共犯である俺の監視役メイトだ。まあメイトは奴に襟首掴まれている状態だが。
「お嬢様が不要なことをするとも思えませんがね。しかしフロントフロン家次期当主に断りなく接触するというのであれば、たとえ身内でも見て見ぬ振りはできませんから」
ああ……つまり弟のボディガードとしてここにいるわけか。
「どこで計画が漏れたのかしら」
メイトはその辺はプロだから、恐らく俺だと思うが。その計画にしても部屋で話しただけだし、聞かれたとも思えないし。
「計画が漏れたわけではなく、常にお嬢様もこの子も、私が監視しているだけです」
……お嬢様も、か。
こいつも薄々、アクロディリアの中身が違うって感づいているのかもしれないな。
まあいい。
はっきり問われたら「無礼者!」と逆ギレ風に返してやろう。パパ以外に指摘されたところで俺は絶対認めねえからな!
「まあ、だいたいの理由はわかっていますが」
と、ジュラルクはメイトを離した。
「この私に見届けさせてください。そしてこの夜私たちが会ったことは……この部屋に来たことは、墓まで持っていく秘密ということでお願いします」
ビシッと一礼するジュラルク。おう、デキる執事っぽいなぁ。
「好きにしたら? 言いふらす気なんてさらさらないし」
これはあくまでも俺の都合だけで行われることである。弟に貸しを作るつもりでやるわけでもないし、後継の座を狙うつもりもない。というか俺の立場上継げるわけがないしな。
弟に世話になった覚えはまったくないが、不本意ではあるが姉の身体を借りているものとしての恩返しというか、罪滅ぼしだ。理由が必要だっていうならそれでいい。
――ただ、問題があるとすれば……
ベッドに歩み寄ると、弟は静かな寝息を立てていた。うーむ……寝顔もイケメンだな。落書きしてやりたくなる顔だ。額に肉とかな! ほっぺたにグルグルとかな!
メイトに協力を仰いだのは、部屋の鍵を開けさせるためでもあるが、弟に深い眠りを与えて欲しかったからだ。少々話し声がするくらいでは起きないくらいにな。
「ドラゴンの谷」で合流したジングルが眠り香……つったっけ? なんか睡眠薬的な物を持っていたのを憶えていたから、もしかしたらメイトも持っているかもしれないと思って聞いてみたのだ。
案の定持っていたので、そこで協力するよう求めたのだ。
いくらか労働に対する報酬を払うつもりだったが、立場上金品のやり取りやワイロはまずいらしい。監視対象から貰うとなればもっとまずいらしい。代わりに帰りの土産を要求されたので、チョコレートでも持たせようと思う。
ちなみに睡眠薬は、身体に負担がかからず後遺症もないという、眠気を誘発し深い眠りに誘う程度のものなんだそうだ。即効性はなく、気を確かに持っていれば防がれもする。更に言うと眠りの浅い人が日常的に使うこともあるという、薬というには程遠いものらしい。なかなかの安全設計である。
更にちなみに、「そんな睡眠薬とも言えない睡眠薬がなんの役に立つのか」と問えば、臭いも痕跡も悪影響も薬品が残ることもないという、バレていなければ非常に隠密行動向きな小道具なんだとさ。
効果はこの通りだ。頬を軽くつねったり叩いたりしたところで起きやしねえ。「こんなことされるわけがない」と油断している奴にはめちゃくちゃ効くわけだ。
それにしても、やっぱりだった。
弟は深い眠りに着いていて、ちょっとやそっとじゃまず起きない。
壁際で控えているジュラルクと、ポーズなのか本気なのか床に倒れ……いや寝ているメイトは邪魔にはならない。
しかし問題があるのは、やはり、弟自身だった。
――やはり先天性の病は、重いようだ。
確かにママよりは軽いが……もしかしたら瀕死だったあのじいさんと同じか、それ以上に治療が困難なレベルかもしれない。
弟がここにいるのは、明日の朝まで。
治療するタイミングは今この時しかない。
できればもう少し早めに知っておきたかったが……いや、やめておこう。
そもそもアクロディリアには知らせないよう口裏を合わせられていた情報である。本来なら知ることさえできなかっただろう問題を教えてもらい、こうして治療するチャンスにこぎつけられた。手の届かなくなる前にな。それだけで充分だろう。
「何にしろやるしかない」
病が重いパターンは想定していた。準備はできている。
「ジュラルク、手伝って」
「ええ、もちろん。何をすれば?」
俺は持ってきた荷物を差し出す。
「わたしが手を出したら、この中にある『魔力水』を渡して」
――魔力を回復するアイテムをしこたま持ってきた! 時間もチャンスもこの時だけだ、もうなりふり構わずやってやるからな!
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