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121.その身、黄ばんだ光に包まれて……
しおりを挟む「天使さまだ!」
「天使さま!」
――お……お、おいおい……マジか……
いつぞやのように、夜も深まった無人の街を行く俺たちは、目当てにしていた病院に辿りついた。
そしていつぞやのようにダリアベリーを先行させ、鍵開けと安全を確認してもらい、それから乗り込んだ。
で、なんだか非常に落ち着いている看護師のおばあちゃんの案内で、まずは子供部屋に向かい。
囲まれた。
5歳6歳くらいの小さい子から、10歳くらいのそこそこ大きい子たちに。
「ちょっ……ちょっと待ちなさいっ」
俺は一旦、ガチでマントやら手から腕やら足やらにすがりついてくる子供たちをなだめ引き剥がし、離れた。
こういう「めっちゃ歓迎ですやん」ってケースは想定外だった。これもクリフのじいさんの仕込みの内なのかもしれない。
その、アレだ。
そういうアレで待ち構えられているのであれば、俺にも相応の準備がいるわけだ。
「やり直すから待ってなさい」
子供たちは言葉の意味からしてなんだかよくわかってないようだし、正直俺も裏事情に触れるようなことを言っているが、……とにかく動揺しているのだ。すげードキドキしてる。悪い意味で驚いたっつーか……本当に想定外のことだったから……
熱烈歓迎なんて望んでなかったから考えもしていなかった。その分だけ、かなり、心臓に悪い一事だった。
気持ちをリセットする意味も込めて、看護師のおばあちゃんやダリアベリーやキーナを置いて、一度部屋を出た。
準備がいるんだよ。ちゃんと「天使」やらないと意味がないからな。
帰り道だけやりゃいいと思っていたが、ここからもうスタートしなきゃいけないらしい。
俺は黒いマントを脱ぎ、リバーシブル仕様にした白いマントを装着した。
そして、唱える。
「――『照明』」
明かりを生み出す魔法を、全身に覆うように発動する。薄暗い建物内で俺は淡い光に包まれた。
実はこの『照明』、その名の通り、明かりを生み出すだけの魔法なんだが――ただの光を生み出すだけの魔法のくせに、恐ろしいまでの可能性を秘めている。
まず、基本として空中に「置ける」。
次に、「まとえる」。
更には「残せる」し、「変形させられる」。
好きな時にオン・オフもできるし、何より消費魔力が異常に低い。
これがどういうことかと言えば……まあ、それは追々でいいだろう。とにかくこれは非常に応用が利く、俺の切り札の一つである。
全身が薄ぼんやりと発光し、更にはただの『照明』で作った光輪を頭の上に浮かべれば、はい天使のできあがり!
仮面とかは付けっぱだからよく見ると怪しいのだが、残念! 顔部分だけは光を少し強くして直視するが難しくなってるのです! この今の俺を見て「あっ、アクロディリアだ!」とか「不審者じゃね!?」とか思う奴は少ないだろう。
ズバリ、マジで天使にしか見えないはずだ。
――よし、見た目の準備も心の準備もできたし、行くぞ。
きちっと仕切り直したところで、改めてドアを開けた。
「わたしは暇を持て余した天使だ」
よし、決め台詞もバッチリだ! ……なんかみんな呆然としてるけど、完璧な天使すぎて言葉もないに違いないな!
なぜかちょっとよそよそしくなった子供たちを治療する。うーん……結構重症っぽい子もいるんだが、意外と魔力に余裕があるな。
なぜだろう。アクロママとか弟とかじいさんとか治したことで、熟練度が上がったのか? 最初期の熟練度レベル1から上がるならわかるが、今の熟練度でそんなにポンポン上がるものなのか? それとも、単純に身体が小さいから消費魔力も少なめで済むのか? ……なんとなく後者っぽい気がするな。
「……ねえ天使さま」
最後に見ることになった女の子が語りかけてきた。
肺に病を持っていて、ほぼ寝たきりだという女の子だ。じっと輝いているだろう俺の顔、仮面……いや、目を見つめてくる。弱い光だがさすがに眩しいだろ。見んなよ。
「これで、みんなとおなじように、歩いたり、走ったり、できる?」
「今晩ゆっくり休めばね。わたしの魔法は、夜ふかしする悪い子には利かないのよ」
などとマジお姉さんみたいなことを言って諭してみた。夜も遅いのにテンション上げて走り回られてもみんな困るからな。
まあ、でも、その心配はなさそうだが。
子供が起きているにはつらい時間なのだろう。治療が終わって騒ぐかと思えば、みんな速攻で寝ちゃうんだよね。……案外睡眠香も効いているのかもしれないな。
たぶん俺のことも、目が覚めたら夢か現かってくらいにしか、記憶に残らないのだろう。
――もう忘れとけ忘れとけ! もしなんかの形で正体がバレて悪名高いアクロディリアの仕業でしたーなんて知ったら幻滅するだけだからな!
さてと。
子供たちの歓迎なんてドッキリ大成功もあったが、大人たちはすっかり熟睡していたので、速やかに治療を終えることができた。
「魔力水」を数本消費したが、なんとか魔力は足りた。もうこの病院に来ることはないだろう。
……なんとなくだが、大人たちも何人かは寝たふりして、子供と同じく起きてる奴もいた気がするが……ま、確かめようもないし、今となってはどうでもいいか。仮に今の俺を見られたところで、どう見ても「天使」だし。子供と違って大人は気を遣ってくれたのだろう、と思うことにする。
「もう行くのかい?」
状況がわかっているのかさえ疑問に思えてきたのだが、一応ゆるくだが拘束されているおばあちゃんは、やはり落ち着き払って聞いてきた。うーむ……もう70歳を超えるほどの年齢ともなれば、人間何事にも動じなくなるのかもしれないな。酸いも甘いも噛み締めまくってるだろうからな。
「ええ。お邪魔しました」
「これ持っていき」
え?
おばあちゃんがポケットから差し出したのは、……指輪だな。銀細工の。ちょっと暗いせいで細かな細工がよく見えないが、何かしら柄が掘ってあるのはわかる。
「その指輪は?」
「あたしが若い頃に造ったお守りだよ。魔法効果なんてものはない安物だけど、想いだけはこもってるさ。なに、いらんなら捨ててもいいよ」
と、おばあちゃんは俺の手を取り、包み込みようにして指輪を握らせた。
「――あんたは立派なことをしたんさ。お駄賃代わりに取っておき」
は、はあ……うん……
お礼やらなんやらは断ると決めているのだが、……でも、これはちょっと断りづらい……
……仕方ないな。安物っていう言葉を信じよう。あとで鑑定してもらって、高い物なら返そう。
「ありがとう。お礼に――」
触れてわかった。このおばあちゃん、かなり目が悪い。日本でも歳食ったら白内障になる人が多いらしいから、そういうのかもしれない。
ついでってわけじゃないが、『天龍の息吹』で治しておいた。
「へ……ひゃあああああっ!」
おい。終始落ち着き払っていたおばあちゃんが、目が治ったとたん悲鳴上げて後ずさったぞ。……「俺天使」がよく見えてなかっただけってオチかよ……
もういいや。帰ろ。……いやいや拝むな拝むな。本物じゃないから。
――光りながら走って帰途に付いた。たぶん何人かには見られたと思う。仕込みは上々な模様である。
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