俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

文字の大きさ
107 / 184

123.黄色い彗星は小雨の中に走り抜け……

しおりを挟む





 クリフのじいさんが仕掛けた細工は、素早く着実に効果を上げていた。

 じいさんと打ち合わせをして、三回目の夜である。
 一昨日、昨日は、見る限りではあまり変化はなかったが……しかし三日目のこの夜は、はっきりわかる。

 フロントフロン家から坂を下ってきたところで、思わず俺の足は止まってしまった。

 小雨が地面を打つかすかな音が心地よい、だが静寂に包まれた街。
 だが、わかる。
 そこかしこに多数の人が潜んでいる気配を感じる。これまでにはなかったこの気配――言うなれば獲物を待つ狩人だろうか。まあ獲物に察知されるくらいだから、野次馬根性だけの素人だろうが。
 しかし、中にはきっと、プロもいるんだろうな。

 ――ぼくらの街に天使がやってくる! 病院のベッドで天使と握手! 

 ついにこんな噂が街中に広まり、証人も証言もいくつか出てきて、いよいよ本当らしいと信憑性が高まってきたせいだ。
 じいさんの言っていた期待ってのが集まっている証拠なのだろう。
 問題は、住人は何目的かって話だけどな。いきなり捕獲……とまでは行かないと思うが。都会や治安の悪いところならともかく、この街は善良な田舎者が多いからな。一目見たい、くらいの好奇心か。あるいは病気関係の直談判か。

「お嬢様、安全ルートを確保しています」

 お、さすが。こうなることをクリフのじいさんは見越していたらしく、安全に病院 (正確には違うけど)まで行けるルートを用意し、ダリアベリーに伝えているようだ。

「いつも通り任せるわ」

 ダリアベリーが先導し、真ん中が俺で、殿をキーナだ。
 行きは隠密、帰りは天使。
 そして帰りの天使は、きっといろんな奴に見られるに違いない。というか追いかけられるかもしれない。

 ……そろそろ終わりにした方がいいのかもな。捕獲なんてされたら正体がバレちまう。そのケースは完全アウトだからな。パパに申し訳が立たねえ。
 引き際を見極めないと。こういうのは時間が経つにつれて野次馬も多くなっていく。中にはとんでもない実力者が混じることもあるだろう。

 まだ日程に余裕はあるが……今日の様子を見て、明日か明後日か。この二択は決定だな。




 さて。
 こう連日病院を襲っているだけに、街中の病院に待ち伏せがいることが予想される。
 なのでじいさんの指示で、今日は病院関係じゃない、自宅療養に努めている患者を一つの空き倉庫に集めてある、らしい。
 ダリアベリーから聞いた話なので何をどうやって集めたのかはわからないが……まあ、この時間に出歩く人がいる方が珍しいのに、やはりたくさん気配を感じるからな。
 この街の様子を予想していたなら、キレッキレの読みと判断である。これで病院なんて行こうものなら格好の餌食だろう。ちょうどチーズを仕掛けたネズミ捕りみたいな感じで罠にハマるのだろう。

 人の気配は感じるのに、まったく人がいない路地裏を走り、目当ての倉庫に辿り着く。

「『照明ライト』」

 マントを裏返しにして、仮面を装着し、抜かりなく天使風味の光をまとう。
 俺の変装を見届けたダリアベリーは、不規則にドアを六回ノックした。

「――来たか」

 ドアを開けたのは、俺を誘拐しようとしたあのおっさん……確か、ブルムっつったっけ。かつてダリアベリーと冒険者やってたおっさんだ。

「……眩しい」

 だろうな。だいぶ光は抑えてるけど、暗い場所に目が慣れていたら、眩しいだろうな。

「早く入れ。俺は見張る」

 と、俺たちと入れ違いでブルムは倉庫から出ていった。

「お嬢様」
「ええ。始めましょう」

 だだっ広い倉庫である。いくつかのランプだけで照らされ、簡易ベッドが整列するように並んでいる。

「本当に天使だ」
「天使さま……」

 で、何人か起きている患者が、俺を見て控えめな驚きの声を上げた。

「わたしは暇を――うっ」
「それはいいですから。お早く」

 せっかくの決め台詞なのに、ダリアベリーに脇腹をつつかれて中断されてしまった。

 ……遊んでないでやるか。




 手紙、だそうだ。
 ここに集まっていた患者たちは、突然家に届けられた手紙で、「今夜ここに天使が来る。治療を受けたければ誰にも知らせず○○に来い」みたいな、日本で言うならチェーンメール張りに怪しい手紙に導かれたようだ。
 ちなみに「○○」は、人それぞれ行くところが違ったらしい。
 更に言うと、患者たちは各々行った場所で目隠しをされて連れてこられ、今どこにいるのか自分たちではわかっていないそうだ。

 なお、ブルムだけは顔を晒してこの計画に噛んでいるらしい。患者たちの世話と、元冒険者でこの街の住人が関わっているという安心感を与えるため、だそうだ。

 藁にもすがる思いでやってきたのだろう患者たちである。きっちり治療してやったとも。

 新事実と言えば、俺もどうなるかわからなかったのだが、部位欠損……事故だかなんだかで左腕を失った若者の治療だ。
 動作を阻害する古傷は治せたが、果たして欠損は治せるのか? 触って感じても、はっきりしなかったんだよな。

 ――結果から言うと、治せました! しかもあんまり魔力を消費しませんでした!

 感覚で「治療できる・できない」がはっきりわかるようになっただけに、「治せるかはっきりしない」ってイメージは初めてだったからだいぶ不安だった。初期の頃はそんな感覚さえなかったしな。
 ……案外熟練度によってできたりできなかったりも、するのかもしれないな。

「い、いてえ……でも、俺の腕……俺の……」

 ――なお、「無理やり再生させた」かのようにじりじり生えてきただけに、患者の若者はかなり痛かったようだ。
 でも痛みを我慢してでも再生を選び耐えた彼は、涙を光らせて「新しい腕」を見詰め、掌を握ったり開いたりしていた。うん、嬉しそうでなによりだ。……腕が生えたらこっち見向きもしなくなったけど。まあいいさ。

 内心、治せるかどうか不安だったが……ま、天使の面目躍如ってところだな。




 速やかに治療を終え、最後に魔法の言葉――「安定するまで一晩掛かるから、今夜は大人しく寝なさい」という嘘を残し、倉庫を出た。今ここで騒いだり追いかけられたりすると困るからな。

「終わったか」

 外を見張っていたブルムは、聞く前に「異常はない」と報告を述べた。うーん……肉体的にも強いが、頭も良さそうだな。最近冒険者を引退したんだよな? 今何やってんだろな?
 まあ、さほど興味もないから聞きませんけど!

「――お嬢様、だいぶ多いぞ」

 ん? うん、そうね。かなりの人数がうろうろしてるね。
 この監視者だらけの街を、これから走り抜けなければならないわけだ。この時ばかりはキーナもダリアベリーもついて来ない。俺一人で走ることになる。

 いや、まあ、厳密に言うと一人ではないと思うけどな。たぶん王族の監視役メイトは今もどこかから俺たちを見てるだろうし。
 あいつという保険があるからこそ、俺も思い切ってやっているのだ。

 ……ま、潮時は近いだろうけどな。

「じゃあここで解散ね」

 俺は道をよく知らないので、基本大通り付近を屋敷方面に走り、屋敷に向かう坂の下辺りで『照明ライト』を解除、白マントを黒マントにリバースしてステルスしながら帰るのだ。メイドたちは目立たないルートで帰るんだろうな。

「お嬢様、お気を付けて……」

 ダリアベリーはよくわからんが、キーナは心配そうである。そんな彼女に言ってやる。

「通常の三倍のスピードが出るから大丈夫よ」

 ――よし。行くか。

 真っ赤な彗星ならぬ黄色い彗星、アムロ張りにいっきまーす! 節操なしに混ぜてまーす!






しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました

八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。 乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。 でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。 ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。 王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。

彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」 お嬢様はご不満の様です。 海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。 名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。 使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。 王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。 乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ? ※5/4完結しました。 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

処理中です...