俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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127.幾ばくかの回り道から……

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「お嬢様」

 お?
 屋敷の廊下を歩いていると、食堂から出てきたメイドに声を掛けられた。えーと、この小○女○ーラのミ○チン先生みたいなばあちゃんは……あ、ヘザー婦人だ。フロントフロン家のメイド長だわ。……つかほんとにそっくりだな! メガネで細面で髪上げてて! 俺の記憶が確かならかなり似てるぞ!
 
「どうかした?」

 アクロディリアとはあまり関わりがないんだよな。
 この悪役令嬢はだいたいのメイドと接してはいるが、ヘザー婦人はメイドを指揮する人ゆえに、接点がほとんどなかったみたいだ。
 立場は違えど、同じ屋敷に住んでいながら、よく知らない人も多いのだ。

「私を城へ出したらどうだと、お嬢様が進言なさったのでしょう? どういうつもりなのか聞いておきたくて」

 あ……あー、あれか! 
 そうそう、弟が学校に帰った直後、裏庭の日課で世間話してそれとなくアクロママに話したんだよな。チラッと。
 どうやらママからパパに、そしてヘザー婦人に話が伝わったようだ。

「どうも何も、理由も聞いているでしょう?」
「新人の教育をさせるために、という理由は聞いておりますが」
「それよ。まさに」

 監視者メイトから来た話だ。あいつ自体が軽いから怪しいところもあるが、冗談言ってる感じじゃなかったからな。

「ねえ婦人。あなた最近楽しそうじゃない」
「はい? 楽しそう?」
「新人の育成が楽しいんでしょ?」
「……いえ。そんなことは」

 一瞬言葉に詰まったな。なるほど、メイトが言っていたのは本当だったらしい。すげー楽しそうに説教くれるとか言ってたからな。

「うちは、あなたが教育してくれたおかげで、優秀なメイド揃いよ。だからこそあなた自身がやることも少なくなってきた。違うかしら?」

 これもメイトからの受け売りだけどな。

「あなたは優秀で、あなたという優秀な人材をこのまま埋もれさせていいのか、という話よ。あなたがここにいることで、この国に損害が出ているくらいよ。……たぶん」
「そんな大げさな……」

 うん、俺自身もちょっと大げさだと思ってる。でも多少の国の損害にはなると本当に思う。視察の時に第二王子といろんな話をして、「国でも店でも、経営が上手く行っているところは下働きが優秀だ」と聞いた。

 言われて見ればその通りだと思ったよ。
 何せ、支えてくれてる人だからな。
 縁の下の力持ちたちだからな。

「……しかしお嬢様、私は前旦那様に拾われてこの屋敷に勤めました。結婚相手も世話していただきました。子供が独り立ちし、夫が先立ちし、一人になった私を今の旦那様がまた拾ってくださってここにいます。
 前の旦那様にも今の旦那様にも、一生かかっても返せないほどの恩があります。私がここを離れるなんて考えられません」

 そうか……決意は固そうだな。
 
「じゃあ一緒に行きましょうか」
「はい?」
「返事は早い方がいいわ。わたしもお父様に呼ばれているから」

 そう、朝食の後にお呼び出しがかかっているのだ。そして向かう途中なのだ。

 ――これから、二度目のアクロパパとの対話なのである。




 というわけで、ヘザー婦人とともにパパの部屋にやってきた。

「まず婦人の話を聞こうか」

 連れ立ってやってきた俺たちを一瞥し、パパは的確に「早く用事が終わる方」から話を促した。まあなんの話をするかまで予想済みだろうしな。

「先日の話のお返事をしに来ました。私は城へは行きません」

 あの殺し屋にしか見えないアクロパパを前にして、ヘザー婦人は毅然と、だがいつも通りの態度で答えた。途中抜けたらしいが、先代から仕えるだけあって、この人もすげー度胸ありそうだよなぁ。

「先に言ったはずだ。フロントフロン家の恩や義理など捨てなさい。その上で出した結論なら構わない。どうかね? 捨てたのかね?」
「お言葉ですが、捨て切れるものではありません。旦那様やこの家への想いは、私の半身に等しいのです」

 おお……パパの言葉に真っ向から反対を……伊達にミンチ○先生に似てねえな!

「気持ちはわからんでもない。だが婦人のやりがいのある仕事は、ここにはないのだ」
「仕事は仕事です。やりがいなど必要ありません」

 あれ……なんかすぐ話は終わると思ったんだが、なんかこじれてきてね?

 ……しかもなんか睨み合いみたいになってんじゃん! 黙るな黙るな! 話せ話せ! ……嘘だろ、なんだよこの重苦しい沈黙……

 …………

 わかったよ! 俺が代案出すよ! なんか考えるよ!

 くそっ、えっと、なんだ?
 とりあえず話し方からして、パパは行かせたいんだよな? やりがいのある仕事場に行かせたいんだよな? 新人育成してこいって言ってるんだよな?
 で、ヘザー婦人は、この家に恩があるから動く気はないっつってんだよな? さっき話した感じでは、少し迷ってるような感じはあったよな。内心ちょっとは新人育成したいと思ってるんだろう。

 ……つまり、フロントフロン家から半分出して、半分城に行けばいいんじゃねえの?

「七日に三日くらい行けば?」

 いきなり口を挟んだ俺を、怖い人たちが見た。実はヘザー婦人もマジの視線怖い。迫力あるわ。さすがパパに意見できる数少ない使用人だわ。

「七日に三日。泊まり込みで。……ふむ。どうかね婦人?」
「……そうしていただければ、私が拒む理由はありません」

 お、決まった? 決まった!? 妥協案通った!?

「わかった。そもそもまだ打診も来ていない話だが、来たらそのように返答しよう」

 あ、まだ正式な話は来てなかったのか。……まあそりゃそうか。あるとすればメイトが帰って報告してそれから、って感じだろうしな。




「――君も面白いことを言うな」

 婦人が出て行くと、椅子を勧められた。あの夜のように向かい合って座る。

「まずかったですか?」

 正直俺は、俺が思いつく程度のことをパパが考えないとは思えないんだよな。パパがそれを出さなかった理由があるんじゃなかろうか。

「半分はな。使用人を送り込むという行為は、同時に間者の容疑を掛けられる」

 かんじゃ? ……あ、スパイか。

「住み込むならまだしも、中途半端に住むとなると話は更に胡散臭いものになる。きっと婦人は歓迎されないし、常に監視されることだろう。城に潜り込むのは容易ではないからな」

 ……そっか。なるほどな。城には機密がいっぱいありそうだもんな。大臣とか悪巧みしてそうだしな。

「だが婦人はそれでもいいと応えた」

 良い職場環境じゃないと知った上で「行ってもいい」とヘザー婦人は判断したと。だな、あのばあちゃん貴族界隈の色々を見てきた上に頭良さそうだしな。わからないとも思えないしな。あと度胸すげえしな。

「タイミングも良かったな。一言ウルフィテリア殿下の言葉が添えられるだけでもだいぶ違うだろう。ぜひ頼んでおこう」

 お、打算入った! さすがパパ、そこまで考えての俺の案採用だな!? キレ者め!

「さて。少しばかり回り道をしてしまったが、そろそろ君の話をしようか」

 お、おう……ついに呼び出しのご用件に入るわけですね。了解でーす。

「昨夜は随分と派手にやってくれたようではないか。その辺の話もゆっくり聞くとしよう。なあ、ヨウ君?」

 ……パパの厳しい視線が、更に厳しく尖った気がした。





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