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128.その視線は刃のように煌き、この身は視線の刃に晒されて……
しおりを挟む「――と……まあ、そんな感じで……」
突き刺さるようなパパの視線に萎縮しながら、最近巷を騒がせた病気泥棒からの天使プロジェクトの話を、させていただきました。ご拝聴ありがとうございました。
……いかん、思考まで萎縮してどうする。
いきなり殺されることは、さすがに、ない、はずだ……よな?
パパの見た目からすれば、まばたきの間に首を掻っ切られそうだけどな……いやいやないない。さすがにないって。なんせ身体だけは実の娘なんだから。さすがに殺さないって。落ち着け落ち着け。
たぶん話すまでもなくパパには伝わっているとは思うが、俺の口からちゃんと説明した。最初から最後まで。やったこととやった意図を。
「…………」
パパは俺をじーっとじーっとじーっとじーっと見て、視線で殺しかねないくらいヤバイ視線で見て、見つめて、小さく息を吐いた。
「見ていた」
静かに、小さく、呟いた。
「昨夜、空一面を染めた光を、ここから見た。確かに『天使が消えた』ようには見えた。なるほど君の言う通り、終わらせてきたという言葉は納得できる。あれはそういう演出だと言われれば頷くことができる」
あ……そうか。昨日の見てたのか。
あれから現場を離れてメイドたちと合流した辺りから本格的に雨が降り出して、今も降ってるんだけどな。降り出す前だったからな、さぞ遠くからでも見ることができただろう。
「だがなんにせよ、どう考えても辺境伯の娘がやることではないと思うがね。君はどう思う?」
「そ、そうっすね……ちょっとやりすぎかなーとは……はい……」
「思ったのか。でもやったのか」
ただでさえ針のような眼光が、更に鋭く尖る。うおおおおおお……超こえーよぉぉぉおお……!!
「……困るな。こういうのは」
「はい、すいません……」
謝る俺に、パパはゆるく首を振った。
「辺境伯の娘らしくない。だが君の行為は領主として叱ることはできない」
「はいすいま……はい?」
「叱れないと言っている。怒ってはいるがね」
お、おお……やっぱ怒ってはいるのか……
「全てが私の妻を癒すため……という目的で行動した君を叱るのは難しい。ましてや人を助け見返りを求めないのは、人として尊いことでもある。私の立場から言えば、私が守るべき民に惜しみなく手を差し伸べたことも無視することはできない。
……辺境伯の娘じゃなければ、私は君を褒め称えただろうな。」
う、うーん……父親としては複雑なんだろうな……
「過ぎたことは仕方ない。小言はこれぐらいにしておくか」
ほっ。思ったより軽傷で済んだな……パパの威圧感で息苦しいのは変わらないけど。
「それにしても、任せるとは言ったが、あそこまで派手にやるとはな……君はあれかね? 教会に入りたいのかね?」
教会? あ、光の女神のな。光属性持ちを集めてるんだよな。
「いえ、そんなことはないですけど……」
「では医者になりたいとか、献身的な気持ちが強いのかね? 気を悪くしたなら謝るが、そういう性格でもなさそうだが」
「いえ、それもないです」
謝る必要ないです。そういう性格じゃないです。
「それではどういうつもりで街の人の病気を癒したのかね? 妻の病を治すため、という本音と建前は抜いて、正直に答えてほしい」
本音と建前を抜いて、か。やっぱパパにはバレてるなぁ。
そう、『天龍の息吹』を使い込むことで熟練度を上げ、アクロママの治療をする――というのが一つの目的だった。病気泥棒はそれで始めたことでもある。ジュラルクとかメイドとかを説得した理由でもある。
だが数ある目的の一つだった。
他にも目的があったから、確かに建前でもあったわけだ。
ほかの目的と言えば、やはりレンの弟の治療だ。まあでも、俺はあくまでも控え投手で、エースはアルカだけどな。俺の出番があるかどうかはまだわからない。
…………まあでも、今となってはなぁ。
「アクロディリアの力はすばらしいと思います。苦しんでいる人を助ける力がある。目的と言えば、苦しんでいる人を助けられるから。それも簡単に。……これじゃ理由になりませんか?」
本当に深く考えてないからな。しかも患者本人の意思を問わずやってきたから、献身ってのも絶対違うもんな。
「善意かね?」
「それとも若干違う気が……だって無理やりのように治してきましたから……」
自分でもなんて言っていいのかわからないんだよな。善意の押し売り? ○ミバ様? それとも経験値稼ぎ? でも善意がまったくないのかと聞かれればさすがにノーだわ。これで患者が楽になればいいとも思って魔法を使っているからな。
「はっきりしないが、いいだろう。善意に近いものということにしておく」
うん、あるいは偽善かなぁ。100パーセント善意ではないしなぁ。……まあ別に俺はなんでもいいけど。偽善と呼びたきゃそれでもいいや。やりたいことやっただけだし。
「ヨウ君、はっきり言っておこう」
パパはぎらりと、名刀かっつーくらいの鋭い決意を瞳に帯びた。
「アクロはそんなことはせん。意味はわかるね?」
…………
「ど、どうしても……ダメっすかね?」
切れ味ヤバそうな刃を突きつけられ、それでも俺はすがるような気持ちで言葉を搾り出す。ここで引いちゃダメだと思ったから。
「どうしてもだ」
だが、パパは刃の前に身を晒した俺を、切り捨てた。
「それをやれば、どうしてもフロントフロン家の後継問題に関わってくる。後継はクレイオル、これはもう決まったことだ。そしてその決まり事に沿ってタットファウス王国はすでに動いている。
それにアクロにとっても、ヨウ君、君にとっても、よくないことが起こる。必ずだ。金輪際やめなさい」
……マジだ。
これはどうやっても揺るがせない決定事項だ。
どれだけ食い下がってもパパは絶対に許可しないし、退かない。
――パパはもう『天龍の息吹』を使うな、と言っている。アクロディリアは絶対に使わないから使うな、と。
納得は、できねえ。納得したくない。でも逆らえない。無理だ。
「…………君は本当に凡庸だな。先が思いやられる」
ずーんと落ち込んだ俺に、パパは本当に、心底がっかりしたような溜息を吐いた。
「私の立場を考えてくれたまえ。これ以上の言葉を言わせないでくれ。察しなさい」
……え?
「君はすでに答えを出しているではないか。アクロではない姿になることで」
あ……ああっ!
「そっちはいいの!?」
「だから察しなさいと言っている。私からは言えん。――できないならやらない。やるからには絶対に隠し、逃げおおせなさい。忘れないでくれ」
マジか……天使活動の許可が降りたぞ! アクロディリアとしては使えないけど天使……つーか正体を隠せばOKだってよ! すげえ!
つまり、これから天使は、この世界を飛び回ることができるってわけだ。何も言われなければこそこそやろうと思っていたが、少なくとも「天使」が有名になることは許可された。
なんつーか……本人も「察しろ」と言うだけあって、かなりの英断だと思う。最悪自分の首を絞めかねないくらいの決断だ。あるいはアクロディリアの身の危険もな。捕獲されたらアウトだしな。
そう考えると……まあ、気軽にはやれないな……パパの決断って要するに俺を信じるって意味だからな。この人の期待だか想いだかを裏切るのは嫌だしな……
「願わくば、天使の名の通り、誰も利益を得ない気高い存在であってほしいものだ。……難しいか」
ん? なんか第二王子も似たようなこと言ってたような……
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