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131.絡まれし悪役令嬢、華麗に返り討ち……
しおりを挟む気がつけば一人だった。
よくよく考えてみれば、まるっきり一人、まるっきり単独行動というのは、初めてである。
フロントフロン領から転送魔法陣にて一瞬で王都に戻ると、出口となる魔法陣にはポツンと俺一人だった。
第二王子と監視者メイトは国で用意してある魔法陣に飛んだのだろうと思う。入口は一緒だったんだが、俺とは違う場所に行ったみたいだ。俺が利用しているのは一般用だからな。向こうは一応公務で動いてるしな。
「ようこそ、お嬢様」
一般用の魔法陣を管理しているお偉いのおっさんが、いつも通り出迎えてくれた。もちろん顔パスで、料金は実家にツケである。あとここは一応旅行会社という名目になっている。な、一般用だろ?
「……お一人ですか?」
こんなこと初めてなのだろう、おっさんは少し遅れているだけであとから来るのかと思っているようだ。まあそうだよな、辺境伯令嬢を一人でほっぽり出すなんてありえない出来事だからな。
でも、そのありえない状態なのである。
「構わないでいいわ」
と、俺はさっさと建物を出た。
――実は、フロントフロン家からメイドを一人連れてこようと思ったのだが、急すぎて都合がつかなかったのだ。
元々予定では、レンさんが来てから学校へ戻るって話になっていたからな。でも俺が待たずに帰るって言い出したから、ちょっと混乱させてしまった。
まずアクロパパが選別したメイドで、次に第二執事ジュラルクが各メイドに割り振っていた仕事と照らし合わせると、すぐ抜けられる者がいなかったってわけだ。
一応夕方から夜くらいに、仕事を済ませたキーナが来ることになっているが、それまでは一人なのだ。
ま、やることがあって予定を前倒ししただけなので、半日くらいメイドがいなくてもさして不都合もないけどな。
とりあえず魔法学校に戻ろう。……え? 馬車の用意がある? いいよいいよ歩くよ! 少し距離あるけどそんな遠くねえよ!
幸いこっちは晴れだしな。ちょっと陽射しが強いがのんびり歩いていこう。
歩きながら、これからの動向を確認する。
――とりあえずやるべきことは二つだ。
1、アルカにレンの弟のことを訊く。
2、闇魔法について調べる。
優先順位としては、やはり今はレンのことが気になるので一番に上げた。が、こればっかりは俺の努力でどうにかできるかわかんないんだよな。
まず、まだ夏休みの真っ最中だ。
アルカがまだ学校に帰っていない可能性が普通に高いし、帰っていたとしても今のところ接触する方法が見つかっていない。王子連中はまだ戻ってないだろうし、なんとかグランとかジングルとか、俺が頼めそうな奴がいればいいんだが……
まあ、接触方法については考える。まだ学校に戻っていないってパターンはどうにもできないがな。
闇魔法については、これは普通に行けるだろう。
図書館で文献を漁るのもいいし、例のアルカといちゃいちゃしているベルヴェルド先生に質問してもいい。あの人、闇属性みたいだしな。
……先生か。
あの人に頼むのであれば、手土産にチョコレートでも買っていった方がいいかもしれないな。寄り道するか。
ちょっと寄り道して土産を購入し(実は財布どころか現金を持ってないのでここでもツケた)、学校へ戻ってきた。
門番に学生証を見せて通してもらい、、約二週間ぶりに懐かしの母校へと到着である。
――よし、とりあえず購買部だな。
まずアルカが今学校にいることを確認したい。色々考えた末、確実に俺が知っている人がいる場所、つまり購買部から尋ねることにした。
牛乳やら風呂やらの件で、受付嬢や責任者のおっさんとも顔馴染みだ。夏休みもきっと誰かはいるだろうしな。
それにしても、さすが夏休み中である。構内はがらがらで人気がまったくない。気配自体はポツポツ感じるが、やはり多くはないみたいだな。
無人のような構内を行き、開けっ放しの購買部のドアをくぐった。
「お……」
ここは意外と人がいた。生徒らしき若い冒険者風の連中が六人ばかりが食事を取っていたり、ちょっと前にちょっとしたブームになった投げナイフで遊ぶ連中が三人ほどいたり。受付嬢は一人しかいなかった。えー、依頼とか受ける方だな。物販じゃない方だ。
学年が違うのか今まで接点がなさすぎたのか、生徒たちは俺を見ても特に反応を示さなかった。一応制服姿でメガネ着用、「最近の地味な辺境伯令嬢」のスタイルそのままなんだが。まあ過剰反応されても面倒だからいいんだけどさ。
「あ、お久しぶりです」
暇そうな受付嬢はさすがに反応してくれた。よかったー。他人みたいな顔されたらどうしようかと思った。
「もう里帰りから戻られたんですか? 早かったですね」
しかもフレンドリーだぞ! どうだ見たか! 敵ばかりではないのだ!
「今し方戻ってきたの。夏休みも仕事なの? もう一人は?」
「交代で夏休みです。夏休みでも里帰りしない生徒もいるので、受付のどちらか一人は常に詰めてますよ」
へえ、そういう体制でやってんのか。……住み込みだっけ? 教職員用の寮に住んでるのか? それとも仕事が終われば校外の家に帰るのだろうか。
……まああんまり突っ込んだこと話すほどの仲じゃないから、聞かないでおこう。
「アルカさん帰ってるかしら?」
挨拶もそこそこに、俺は本題に入った。
この学校で二人しかいない光属性持ちの一人で、辺境伯令嬢に嫌われていて嫌がらせされている不幸な生徒として、アルカはそこそこ有名なのだ。
実際冒険者としても強いみたいだし、腕がいいことでも有名なんだろうと思う。まあ主人公だしな。
「アルカロールさんは……帰っているかどうかはわかりませんが、ここでは見てませんね」
あ、そう。ということは帰ってない可能性の方が高そうだな。あいつのことだから暇さえあれば冒険してるイメージしかねえし。
レンの弟のことが気になるが……こうなっちまうと確かめようがないな。できれば一刻も早く確認して、必要とあらば今すぐにでもレンの弟の元へ行きたいのだが。
仕方ない。
アルカのことは一旦保留にして、闇魔法の方を調べてみようかな。
「――おいおまえ」
あ?
声を掛けられたので振り返れば、いかにも年下って感じの男二人女一人……投げナイフで遊んでた三人が、並んで立っていた。ちなみに声を掛けてきたのは真ん中のいかにも生意気そうな奴だ。
「何か?」
正直、年下にいきなり「おまえ」呼ばわりでイラッとしているのだが、一応要件を聞いてみる。
「おまえ、キルフェ王子にまとわりついてる女だろ」
この時点で握り拳を固めたのだが、必死に理性が俺の肩を押さえつける――思わず殴りそうになったからな。俺の理性は働き者だな!
「投げナイフが下手とか悪口言ってただろ」
それは言ったけど。指差して笑ってやったけど。キルフェコルトは筋力が強すぎるせいで、軽い物を投げるのが苦手みたいだからな。たぶん剣とかそれなりに重量がある物なら命中率もいいと思う。
「許せねえ! 勝負しろ! 俺が勝ったら思いっきり馬鹿にしてやるからな!」
……えー……こいつらアニキのファン? アニキは人気あるからなぁ……つかこいつら俺の正体ほんとにわかって……ないんだろうなぁ。この悪役令嬢にここまで上からの態度で絡む奴とかいないしな。見たところ普通の庶民っぽいし。
「あ、あのね君たち、この人は――」
いきなりの居丈高な態度と暴言に、受付嬢が焦りながら口を挟んできたが、俺はそれを手で制した。
「別にいいけど、負けたら『絡んでごめんなさい』って言いなさいよ。三人で」
帰郷中はまったくできなかったが、これでも室内でできる訓練としてそれなりに磨いているスキルだ。……ちょっと勘を忘れているかもしれないが、これで結構上達したんだぜ? こんな下級生どもに負けてたまるかよ。……負けたら「無礼者! わたしを誰だと思っているの!」と恫喝して切り抜けよっと。
まあ心配するまでもなく、余裕で普通に勝ちましたが。
絡んでおいて謝るという屈辱を味わった悔しそうな三人組と呆れた顔の受付嬢に見送られて、俺は購買部を後にした。
さて、次は図書館か。先生いるかな?
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