俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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133.闇のあれこれを探し巡り……

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『――人の意識が入れ替わる。

 古今東西の昔話を紐解けば、創作の物語ではそう珍しくもない。大小の差はあれど、どの地方にも一つくらいは転がっている程度には。

 原因も様々だ。
 富める王様になった飢えし者は悪魔との契約。
 片方による幽体化からの憑依現象。
 眉唾ものの笑い話なら、頭をぶつけ合えば入れ替われる、というものまで幅広い。一応信憑性の高い順に並べてみたつもりだ。

 理屈で考えれば、「魂 (意識)を肉体から抜き取る」という闇魔法だ。誰でも知っているほどに有名だ。お嬢さんもきっと知っていると思う。これが最も原因である可能性の高いものだと思う。
 だが生憎俺は、それを使える闇魔法使いに遭ったことがない。
 もちろん知る範囲ではそれを習得する方法も聞いたことがない。

 そこから考えるに、「魂を抜き取る闇魔法」は、古に失われた禁呪なんじゃないかと考える。
 これと似たようなのに「太陽を落とす」なんて最上級の火魔法があるだろ? 実際に見たことはない、使える者も知らない、だがみんなが知っているという、先の闇魔法と同じ系統のものだ。

 ただ、単に俺が知らないだけかもしれない。
 しかしそうであるなら、実際がどうであれ、使用できる候補者が少ないというのは間違いないと断言できる。
 俺なら、まず調査するなら、身近にいる闇魔法使いを徹底的に調べることから始めるだろう。

 あるいは。

 闇魔法が関係なかった場合も充分に考えられる。

 誰の仕業なのか? 誰の意図したことなのか?
 この現象で何が起こるのか? そもそも誰かがやったことなのか? 何かしらの事故や、幾つかの現象が重なって偶然に起こった出来事なのか?

 時間さえあれば一つずつ可能性を潰していくんだがな。
 今の所、入れ替わり現象のみを見るなら、神か悪魔が悪戯したって言った方が妙にしっくり来る気がする。人ができることじゃない、ってのは、あくまでも俺の感想だ。判断はあんたがしてくれ。
 
 大した情報も提示できず申し訳ない。要望があればもっと調べてみるつもりだが、今回はこれで一度打ち切る。手が必要なら連絡をくれ。

 この手紙は、読んだら焼いてくれ。
 俺にとってもあんたにとっても、存在しない方がいい手紙だろうからな。

                瀕死だった男より 』




 もう一度だけざっと読んで、手紙をポケットに収めた。
 
 クリフのじいさんからの手紙である。調査機関どころか詳しい話もしていないので、有力な情報はあまりない。具体的な情報もほぼないしな。
 ただ、とっかかりとしては充分だと思う。この手紙には「じいさんならここから調べる」みたいなことが書いてあるからな。言われて見れば納得できるところも多い。

 それに、はっきりわかったこともある。

 魂を抜く闇魔法。
 これは本当に誰でも知っているほど有名な魔法だ。あくまでも逸話としてな。有名な伝承や逸話で出てくるもので、誰でも一度は聞いたことがあるだろうと思う。なんせそういうのにも興味なかったアクロディリアでも知っていたくらいだからな。

 ただ、有名な割には詳しいことはわからないんだよな。じいさんの手紙の通りだ。
 なんて名前の魔法なのかもわからないし、実際本当に魂を抜くなんてできるのかもわからないし。あくまでも昔話ではそうなってるって話だ。
 ちなみに「太陽を落とす火魔法」は、俺はゲーム知識で知っている。火系最強魔法だ。イベントで手に入る。なお本当に太陽を落とすわけではなく、超巨大な火の玉を生み出して落とすって奴だ。……ゲームだからいいようなものの、現実でやられたらたまったもんじゃねえな。自然破壊も甚だしい。山火事とかになったらどうするよ。
 
 ……色々考えたいこともあるが、一つずつだ。

 まず俺は、闇魔法について調べてみることにした。
 もちろん「魂を抜く魔法」ってのは探していない。……まあ調査の途中にでも情報が出ればめっけもんだが、元冒険者ギルド長のじいさんが知らないっつーなら、そう簡単には新情報を発掘できないだろう。

 実際その辺の闇魔法使いが、どれくらいどんな魔法を使えるのか、ちょっと知りたくなったのだ。だって闇属性持ちなんて光属性持ちと同じくらい希少なんだぜ?
 で、アクロディリアで言えば、使える魔法は五つだ。こいつは努力も足りなければ魔法の才能を磨く気もなかったので、新魔法に対して意欲が低かった。普通の光属性持ちと比べれば少ない方だと思うが……いまいちスタンダードというか、平均がわかんねえけどよ。これはもうアルカに聞いてそれで平均ってことにする。……脳筋タイプだから参考になるか微妙だけどな。

 とにかく、闇魔法って本当によくわからないんだ。だからどんな魔法があるのか把握しておきたい。
 今のところ、入れ替わり現象の最大の容疑者だからな。調べられるものは徹底的に調べとこうってわけだ。

 ――というわけで、本棚に並ぶ背表紙をさらーっと見て歩いているのだが、闇魔法の闇の字さえ見つかりゃしねえ。同じく光もねえ。時々「おっ」ってなるのは大体「日光」とかだ。今は関係ねえ。

「そっちはどう?」

 結構チェックしてみたはずだが、さっぱりだ。どこぞにいるはずのリアに声を掛けてみると――あ、出てきた。

「……え!? あったの!?」

 奥の棚から出てきたリアは、二冊ほどハードカバーな奴を持っていた。
 差し出される本を受け取り、表紙を確認し……確かに闇魔法に関しての本だった。……確かに闇魔法に関しての本だったけどさぁ……

「『五歳からの闇の祝福』、『負けるな泣き虫闇先生』……」

 ……う、うん……一応、その、かなり遠いけど、俺が探しているジャンルの本では、あるのかな……

 『五歳からの闇の祝福』は、子供用の闇魔法についての本だ。絵が多くて子供でも楽しく読めそうな本だね! ……絵本っぽいな。でもどんな魔法があるか絵付きで載っているから、案外役に立つかもしれない。

 『負けるな泣き虫闇先生』は、念願の闇魔法の教員になったはいいが生徒が一人もいないという現実に直面し、その孤独と苦悩を綴った手記みたいだ。
 中盤辺りから初めての生徒ができて、失敗しては号泣、張り切りすぎて嫌われては酒に溺れて号泣、片思いの同僚の結婚が決まって大号泣…………俺の欲しい情報は微塵もなさそうだが単純に面白そうだな。

「これ読んだことある?」

 聞けばリアは頷いた。あんのかよ。

「いい大人がよく泣く話だった?」

 頷く。タイトルに偽りなしのようだ。




 他にもないかと探してみるが、それっぽいのはまるでなかった。
 気になったのは『闇のモンスター』という本で、アンデッド系のモンスターについて書かれているものだ。闇魔法についての本があまりにも少ないので、アンデッドモンスターも調査範囲に含んでみた。これまたあんまり数はないが、数冊ほど見つけることができた。

「――戻ったぞ」

 あ、ベルヴェルド先生の声だ。
 まだ陽が傾くには早い時刻だが、結構長く図書館をさまよっていた気がする。

「用事は済みました?」
「窓を閉めろ。館内の温度は魔法で下げる」

 おい。会話できない先生だな。

 開けた時と同じように、リアとともに窓を締めて周る。
 光を遮るわけでもないのに、窓を閉めるだけで図書館内が薄暗くなった気がする。まあ、俺は薄暗い方がちょっと落ち着くが。

 受付に戻れば、すでに先生は、俺が前見たポーズで本を読み始めていた。足組んでる例のあのポーズだ。既視感すげーわ。寸分違わぬってレベルに見えるわ。

「先生」

 あ、リアがしゃべった! リアは鍵を受付カウンターに置いた。

「用がないなら失せろ。邪魔だ」

 ああ……そうそう、そういえばこういう人だったな。本については饒舌に語ってくれたが、それ以外だとほんと無愛想でさ。

「先生、闇魔法に関しての本はどこにありますか?」
「そこにあるだけしか把握していない」

 そこに、というのは、一時的にカウンターに置かせてもらっている、借りる予定で俺とリアが集めた本だ。

「後は一般の観覧が禁止されている本が幾つかあるが、禁止されているので見せることはできない」

 あ、やっぱそういう本もあるのか。ここにあるのは生徒は自由に見てもいいって本で、危険な本はここではない場所に保管されていると。

 ……見てえな。ぜひとも。だがベルヴェルド先生を説き伏せるのは恐らく不可能だろうな。この人はきっと説得に応じる人ではない。

「そういえば先生も闇属性よね? 色々聞いてもいいですか?」
「駄目だ。答えるつもりはない」

 な? 説得に応じるようには思えないだろ? 本のことは教えてくれるけど、それ以外は取り付く島もねえわ。

 …………

 もしかして、ここでもアルカの出番なんじゃなかろうか。
 惚れた女の頼みなら、たとえこんな無愛想な先生でも、多少態度が軟化するのではなかろうか。

 うーん……とりあえず、わずかながら収穫もあった。今は探し当てた本を読むのが先決か。

 ――あ、そうだ。

「ねえリア。チョコレート好き?」

 今回CPU先生は役立たずだったからな。代わりにリアがすげー助けてくれた。
 どうせやるなら、やっぱこっちだろ。

「これ、元は先生のために買ってきたお土産なんだけど、あなたにあげるわ。探し物のお礼よ」

 簡単な手荷物と一緒にカウンター付近に置いていたそこから、さっき買ってきたチョコ入りの箱を出した。

「…………」

 うわ、先生超見てる。俺のことすげーガン見してる。

「……それをよこせ。一つ二つくらいなら答えてやる」

 交渉してきた! 本当に甘党先生だな!




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