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134.一日千秋の待ち人来たりて……
しおりを挟む結局二人にチョコレートを勧めて、というか箱を置いて、十冊ほど本を抱えて寮部屋に戻ることにした。
一度くれてやると言った手前リアに上げないわけにもいかないし、ベルヴェルド先生が質問に応えるというのは魅力的だし。間を取ってそういう形にした。先生もそれでもいいって言ってたしな。
先生への質問は後日、厳選したものをぶつけてやろうと思っている。だって一つか二つしか答えないっつーなら、どうでもいい質問したって仕方ないからな。
寮の管理人の部屋を訪ねて鍵を受け取り、約二週間ぶりに寮部屋へと戻ってきた。
「…………」
たった二週間いなかっただけなのに、懐かしい場所に感じられた。
そして寂しい。
あたりまえのようにここにいたはずのレンがいないせいだ。
……考えないように考えないようにしてたけど、ここに来ると嫌でも考えちまうなぁ。まさに現実を突きつけられたって感じだわ。
二週間か。
まだ別れてたった二週間しか経ってないのに、半年くらい経ったような気がする。
「……仕方ないよなぁ」
レンは戻ってこない可能性が高い。頭ではちゃんとわかっている。どうしてもまた会いたい、なんて我侭を言うつもりはない。
ただ、わかっていても、やっぱり寂しいものは寂しいってだけだ。
やれやれ……余計なことを考えないように、早速本を読んで過ごそうかな。キーナが来るまでまだ時間がありそうだしな。
というわけで、陽が傾き始めた頃、キーナがやってきた。
「寮にはまだお嬢様しかいないようですね」
え、そうなの?
……まあそうだな。夏休みはあと二週間くらいあるし、せめてあと一週間くらいは実家でのんびりしたいだろ。貴族なら尚更な。
庶民だったら転送魔法陣の料金がネックとなり、帰郷も泊まり掛けの旅になったりするんだよな。賢い奴は冒険なんかで稼いだ金を積み立てたりするらしいが、まあそれでも実家がどこかってのに関係するしな。
「夕飯はどうしましょう?」
そういや食堂はやってないのか。俺はいつもここでレンさんが持ってくるパンとスープ食ってたけど……ところでフロントフロン家のメシを食った今ならはっきり言えるけど、俺ここではかなり粗食だったんだな。
「どこか食べにいく?」
「お嬢様のお好きに」
「じゃなくて、あなたも一緒に食べなさいよ。あなたの夕食も必要でしょ」
「しかし私は使用人なので」
レンさんだったら、こういう時はさくっと率直に合わせてくれるんだけどなぁ……まあ彼女の場合は中身が違うって知ってるから気持ち的にも違うんだろうけどな。
「二人きりの時の外食では同席しなさい。一人だけ近くに立たせておくのが嫌なのよ」
「そう言われましても……」
「いいじゃない。ここは王都よ? 都会よ? 何か食べたいものとかないの?」
フロントフロン領は住みよい田舎。王都は人も物も流れてくる流通の要。現代日本を知っている俺でも珍しいと思える物がたくさんあるのだ。……知っているからこそ異文化を強く感じるのかもしれないが。
「何があるかもわかりませんし……」
「だったら王都で一番人気のレストランとかどう? 行ってから決めればいいじゃない」
なんやかんや渋るキーナを連れて、夜は食事に出た。移動時間が面倒だから、明日からは自分たちでなんとかしないとなぁ……
なお、最近王都で流行しているという冷製しゃぶしゃぶ的な料理にキーナのテンションがややおかしくなったことは、一夜の幻ということにしておこうと思う。「なにこれすごい!」って言ってたからな……冷たい肉料理というのが初めてだったのだろう。
食事から戻って軽く筋トレし、あたりまえのようにキーナを連れて風呂に行く。
普通に湯船に浸かった段階ではたと気づく――そういえば誰がお湯を張ったり抜いたりしているのか、と。
二週間前は、俺が入るときはいつも一番風呂で、用意はレンがしてくれていた。今は……誰だ? こうして湯の用意がしてあるってことは、確実に誰かが用意してるんだよな。恐らく自分が入るために。
でも今は完全に無人だ。湯の温度もちょうどいいから、俺たちが入る直前に誰かがいたのかもしれない。
ちなみにキーナは風属性持ちなので、風呂の準備はできない。もし水属性持ちだったら、レンの代わりにキーナがお付のメイドになっていたのかもしれない……と思ったが、その辺はもうゲーム設定ありきだろうから、そういうわけでもないのかなぁ。
「これがお嬢様が造ったお風呂ですか……」
この世界、風呂の文化は浸透していない。だがフロントフロン家には使用人用の風呂があるので、キーナもちょくちょく入っていたようだ。
どうだとにかく頑丈そうだろ、みたいな自慢話を一通りしてみた。……使用人の風呂より大きいが、きっと無骨さはこっちが上だろうな。予算の都合上装飾なんて絶対無理だったしな。とにかく予算と実用性のみ追求した結果だしな。
で、風呂上りの牛乳を堪能してから部屋に戻る、と。
「明日の食事の準備、頼んでいい? 購買部に行けば素材も朝食も普通に買えると思うけれど」
「あ、はい。……ちなみにメニューは」
「なんでもいいわ。こんな時だから贅沢言わない」
食事も風呂も済ませた夜、早々にキーナを隣の使用人部屋に追い立て、俺は借りてきた本を読みふけった。
王都でも天使活動したいな、と思いながら。
そして翌日のことである。
「……え?」
朝、普通に起こされて、目を開ければ。
「お久しぶりです、ヨウさん」
すぐ目の前に、レンがいた。
気がつけば、俺は彼女を抱きしめていて。
その直後には見事に張り倒されていた。
この容赦のなさ。
加減をしない、来るとわかっていても避けられない速度の攻撃。
与ダメージを考え抜いた的確な弱点部位の肉をえぐり、あるいは骨を軋ませる拳。
回避する前に、ただただ獲物をねじ伏せることだけを追求した追い打ち。
さてこれで終わりかと思わせておいての追い打ち二発目、三発目。入るのであれば延々と。
――今この身を襲った容赦なきエグさ。
――心でも身体でも、理性でも痛みでも確信した。床に転がっている状態で確信した。
――今俺を踏みつけて押さえ込んでいるのは、間違いなく、レンさんだ。
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