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138.埋もれし過去より届いた手紙の中に……
しおりを挟むレンと合流して、四日が過ぎた。
ルーベル村への出発の準備はできる範囲で済ませているが、計画書の肝心の部分にはまるパズルのピースが足りていない。
どうひねっても、力ずくではめてみようとしても、上手く行かない。俺が納得できないくらいだから、傍目には絶対に不自然極まりない計画書であることは間違いない。だって俺が「抜かりなし!」っつっても頭いい奴から見たら穴が見えるだろうしよ……
毎日毎日、訓練と闇魔法の調べ物を進めているが、ぼちぼち生徒たちが寮に戻り始めている。できればレンの弟のことは夏休み中にどうにかしたい。
が、肝心の待ち人が来ないんだよなぁ。
アルカもまだ帰ってこないし、ジングルもいないし、王子連中もまだだしなぁ。
やることがあるにはあるのだか、やりたいことは手詰まりだった。
――そんな状況を打破したのは、一通の手紙だった。
「ヨウさん。お手紙が届いてますよ」
さーて今日のお昼は焼肉もどきだいっぱい食べるぞーと、いそいそとキャンプ用の鉄板と薪を準備していると、購買部で肉やチーズや野菜各種を買ってきたレンが戻ってきた。
「手紙?」
これは視察の時に学んだアレである。めっちゃくちゃうまかったからさー、どうせ食堂やってないしたまにはいいだろってことで採用した。
一応「貴族らしくない昼食風景だから」ということで、風呂の排水なんかをしている小川の近くでやっている。この辺はあまり人も来ないのだ。レンがいるからあまり関係ないが火事の危険もあるから、やっぱ水の近くでやらないとな。
「クレーク・ベルトゥラン様からです。お知り合いですか?」
クレーク? ……あ、クレーク大叔母か。アクロママのお母さんの妹、だな。……ややこしいな。アクロディリアのおばあちゃんの妹だ。祖母の妹な。
記憶によると、もう七十過ぎのおばあちゃんだ。アクロディリアは詳しく知らないみたいだが、生涯独身を貫いている人で、今は王都の外れの別荘的なところで余生を過ごしているとかいないとか。
アクロディリアが小さい頃に会ったっきりで、ほぼ交流はなかった人だ。
なんか貴族社会のしがらみとか人間関係にうんざりして、家族や親類さえ遠ざけてきた、らしい。
かなり記憶がおぼろげなんだよな……顔だって思い出せないし、十年以上会ってない。そもそも家族間で話題に出たことさえなかったようだ。
「あと頼んでいい?」
「むしろ私の仕事ですけどね」
キャンプの火と焼く準備をレンに任せて、俺は手紙を受け取った。
――クレーク・ベルトゥラン
貴族らしい……っていうのも違和感ある日本語カタカナ表記だが、教養の伺える達筆で名前が書かれていた。宛先はアクロディリアだ。押された封は間違いなくアクロママの家系のものだな。
まあ、不思議っつーか、不気味な手紙だよな。十年以上会っていない、音沙汰もなかった遠い親戚が、急に手紙を出してくるなんてよ。
しかもアクロママに出すならともかく、なぜこっちに来るよ?
……まあ、読めばわかるか。
あんまりよろしくないが、幸い今ここに肉や野菜を切るためのナイフがある。ペーパーナイフの代わりに使わせてもらおう。
さて、内容は……
「……ふうん」
内容は、極々短い――貴族社会の面倒事が嫌いと言うだけあって、余計な装飾を省いた要件のみが書かれていた。
十年来交流がない……姪? いや違うな、それはアクロママに当たるはず。えー……又姪だっけ? まあとにかくすげー関係が薄い親戚に、挨拶さえ抜きで要件だけだからな。気難しい人なのかもなぁ。
「……ヘイヴンに聞いた。手伝いが必要なら会いに来い、か」
本当にそれだけ書かれていた。それだけしか書かれていない。あと住所な。
これはパパの支援なんだろうな。天使活動を含めた俺の諸々に対する、味方の紹介だ。
……正直クレーク大叔母に何ができるのかわからないし、何をどう手伝うかもさっぱりだ。それこそ会って話してみないとわからないことだな。
けどまあ、アレだな。
「準備ができました」
「ええ」
俺は手紙を封筒に戻し、ポケットに突っ込んだ。
今現在が手詰まりだからな。メシ食ったらダメ元で会いに行ってみるか。
「よし、肉を焼きましょう!」
だがまずは肉だ! 肉を焼くのだ!
焼肉もどきな昼食が終わった。うん、うまかった! レンさんと食う肉もいいな!
――さて、行くか。
「レン、これから出かけるわ」
「そうですか。後片付けをするので待ってもらえますか」
これは、恐らく、一人で行った方がいいんだろうと思う。レンの弟のことが済んだら、レンにも天使プロジェクトのことを話すつもりだ。この順番は厳守だぞ。レンの弟の病気が先だ。
それに、大叔母がどの程度力になってくれるのかがわからない。そもそもどんな人かもわからない。パパが協力を仰いだ時点で疑う余地はなさそうだが……それでも会ってみて役に立ちそうになければ、単独でやった方がマシだ。
話は『天龍の息吹』絡みだからな。用心深いに越したことはない。
「一人でいいわ」
「はい?」
片付けていたレンの動作が止まり、振り向いた。
「さっきの手紙の差出人であるクレーク・ベルトゥランって人、大叔母なのよ。会いたいらしいから会ってくるわ。で、すぐに戻ってくる予定だから」
「大叔母ですか。……祖父母のご兄弟?」
「ええ。祖母の妹」
王都の外れにある住所を伝える。
「なるほど。ここからそう遠くないんですね」
みたいだな。十年以上会ってないし家もよく知らないけど。
「本当にすぐ戻りますか? 基本的に単独行動させるわけにはいかないんですが。構内だからまだ融通が利くのに」
ああ、うん、護衛も兼ねてるからな……
てゆーかレンさんのことだから、俺が何か隠しててどうしても一人で行かなきゃいけない事情がある、というところまで考えてるだろうな。だってこんなこと言い出すこと自体が不自然だからな。
「正直に言うけど、今レンに話せない秘密を抱えてるわ。その類の話をしに行くの」
「秘密ですか」
「興味ある? 俺に興味ある? ねえある? どうしても興味あるって言うなら話すけど俺に興味あるって言って?」
「……」
イェー。すげえ嫌そうな顔されました。レンさんの表情としてはなかなか味わい深いレア顔である。
「どうしても話したくない秘密だ、ということだけはわかりました」
あ、そうですか。……あえてノーガードで前に出た意図まで簡単に見抜かれてたか。
「では……夕方までには戻ってきてくれますか? 夕方になったら探しに行きますし、夜になったら実家に行方不明だと告げますよ? それでもいいですね?」
「それでいいわ」
マジで帰る予定だからな。
「あ、秘密って、絶対に浮気じゃないからね? そこは安心していいからね? わたしレンさんだけだからね?」
「早く行けばいいのに」
……今すげー冷たい目で見られたわ……いいもん貰ったな。行くか。
キャンプの後片付けはレンに任せ、一度部屋に戻って着替えることにした。
実家から少しだけ持ってきた服の中から、動きやすい茶色でタイトなチノパン的なのと、少しレトロなデザインのYシャツをチョイスした。髪型とメガネはそのままでいいだろう。
よし、これなら一見して貴族っぽくは見えないだろ。そして身内に会うにはラフ過ぎない、はずだ。
少し距離があるから、走っていく予定である。
たぶんこれから馬車を用意するよりは早いだろうし、何より王都の地理を知るためには、自分の足を使った方が頭に入るだろうからな。
こんな都会で天使やると大騒ぎになるだろうな。でも、きっと待っている病人はいるはずだ。いずれ活動する時のためにも少しは下地を作っておかないとな。
というわけで、俺は学校の敷地内から出ると、おもむろに走り出した。
――時間にすると一時間ほどだろうか。
大通りから荷馬車や人の往来が少しずつ減っていき、ついには彼方に荷馬車が見えるほどの外れまでやってきた。旅人っぽいのも歩いているが、王都在住の都会っ子どもはまるで見えなくなった。
通りすがりの奴らにちょくちょく住所を尋ねてきたので、この辺で間違いないはずだ。
……あれか?
隣の街まで続いているのだろう道から少しだけ逸れた場所に、ポツンと赤い屋根の家があった。家の周辺には花が咲き乱れていて、家主のガーデニング趣味が伺える。
うーん……残念ながら、俺には草花はよくわからないんだよな。そういう美的センスもたぶんないし。アクロディリアならわかるかもしれないが……
ただ、近くに寄ってみると、無造作っぽく見えるがちゃんと計算している庭なのだろう、ということはわかった。すごく手を入れているな、と。……正直「綺麗だな」くらいしか思えないけどな。
赤い屋根の家は二階建てで、決して大きな家ではない。だが一人暮らしなら充分すぎるほど大きな家だと思う。
周囲には人が住んでるようなところはないし、たぶんここが――
「――この家が珍しいかい?」
人の気配は感じていた。俺はゆっくりと首を横に向けた。
そこにはツバの広い麦わら帽子を被り、安楽椅子に座ったおばあさんがいた。
「そうですわね。木造ですから、少し珍しいわね」
建物や家は、基本的に石造りだからな。だがこの家は木造だ。古めかしくて、見ようによってはボロっちいけど、どこか懐かしく感じられる古い木造の家だ。屋根のペンキは所々剥がれているし、壁板も元の色がわからないくらい煤けている。
だからこそ、だろうな。
花に囲まれたこの家は、遠くから見ても温かい。近くで見れば懐かしい。俺の場合は田舎のじいちゃんばあちゃん家っぽいな。
「早かったね。手紙は今朝出したばかりなんだが」
と、おばあちゃんは立ち上がり、帽子を脱いだ。
年輪を重ねた顔としわだらけの手。だが青い瞳は澄み切っていて強い意思を感じさせ、背筋はピンと伸びていた。年寄りと言えば年寄りだが、こう、精気に満ちているというか……とにかく元気そうだ。弱々しいイメージなんてまったく感じない。
それにしても大柄だな。アクロディリアと同じくらい背が高いぞ。
「久しぶりだね、アクロディリア」
「お久しぶりです、クレーク大叔母様」
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