俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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140.今こそ好機! 我走り出す時……

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 大叔母と十年来の再会を果たした翌日。

 今夜の予定を考えて、今日は控えめに訓練を……しようと思ったんだが、いつも通り白熱していつも通りにこなしてしまった。
 まあ訓練時間自体を短めで済ませたから、魔力なんかは充分温存できたが。
 
 まだ空が明るい夕方頃に風呂に入り、購買部で夕飯を済ませた。……生徒が戻ってくるにつれ、購買部の利用者が増えてきている。そろそろここで食事は難しくなるかもしれない。すでにチラチラ見られてるし。まだ全員ではないが二割くらいの連中には絶対バレてるし。視線いてーし。

「――おいおまえ! 勝負しろよ!」

 あと全然どうでもいいが、先日ここで投げナイフ勝負をした三人組がよく絡んでくるんだが、こいつら未だに俺のことわかってないんだよな。なんというか……真・三馬鹿って感じだな。残念な奴らだよ。周囲も可哀想な子を見る同情的な目で見てるよ。

 今日も軽くひねってやって、しっかり謝らせて、寮部屋に戻ってきた。

「じゃあ昨日話した通りだから」
「わかりました」

 レンには、今日俺はクレーク大叔母のところに泊まると伝えてある。いつもなら護衛であるレンも一緒に来て泊まるはずなんだが、家が小さいとか大叔母が嫌がるからとか適当に言って、俺一人で泊まることになった。
 明日の朝一に迎えに来るとのことなので、一晩時間ができたことになる。
 
 この一晩で、ルーベル村まで行くのだ。今夜。

 レンの弟のことさえ終われば、レンには折を見て全てを話すし、天使活動の時には大叔母のところに一緒に世話になってもいいと思う。まあ先の予定はまだまだ未定だけどな。

「一晩だけだけど完全オフでしょ? レンさんは何をして過ごすの?」
「内職ですかね。ロープでも編むことにします」

 堅実というか、真面目というか。しっかりしてんなぁ。俺もしっかりしなきゃな。……俺がしっかりとか一生無理な気もするけどな。

 荷物をまとめ、しっかりしてない俺は、もう一度忘れ物がないかチェックしてみた。「魔力水」にリバーシブルマント、仮面、指輪、手袋……おっと! 運動靴忘れてた! あっぶね!

「私がやりましょうか?」
「大丈夫。もう終わったから」

 これらのアイテムを、レンに見せるわけにはいかないからな。まだ。自分で巾着的な麻袋に詰めたさ。幸い必要な物だけに厳選したら、そんなにかさばらなかった。マントなんかもちゃんと綺麗に折りたためば小さくできるしな。

「じゃ、明日の朝会いましょう」
「いってらっしゃいませ」

 麻袋を担ぎ、レンに見送られて、俺は寮を出た。




 完全に太陽が彼方に消える前に、大叔母の家に到着した。
 我ながらだいぶ体力ついてんな……小一時間走ったくらいじゃあんまり息が上がらなくなっちまった。『光の癒しライトヒール』もいらないしよ。

 まあ、これくらい身体ができてないと、先が不安だけどな。むしろもっとできるようになりたい。体力だけじゃなく色々な。

「こんばんは」

 開けっ放していた玄関ドアから家に入ると、薄ぼんやりしたランプの下で、大叔母は食事していた。「座りな」と向かいの椅子を勧めてきたので座る。
 そして目の前には、簡単な軽食がすでに用意されていた。シチュー的なものとパンだ。

「食べてきたのですけど、いただきます」

 飯のあと大叔母の家まで走らなきゃいけないってことで、腹八分以下で抑えたからな。ぶっちゃけさっき食ったばっかなのに腹はすでに減っていた。
 出発まで時間がありそうだし、腹ごしらえしてもいいだろう。

「腹が減ってないなら無理に食わなくていいよ」
「あ、おいしい」

 大叔母の言葉は無視して、俺はパンをシチューに浸した。この食べ方うまいんだよなー。貴族の食卓ではちょっと許されないんだけどな。

「大叔母様、お料理上手なのね」

 本当にシチューうまいんだよな。学校でいつも食ってた味の薄いスープなんかとは比べ物にならない。つかあれほんとなんなんだろうな? レンの手作りってわけじゃないよな? 食堂ではいつもあのスープ出てるの? ……まずくはないからそんなに不満もないけど、よく考えたら不思議な気がするぞ。毎日同じスープが出るってどうなってんだ?

「余り物ぶちこんだだけだよ」

 あーそうなんだ。うまけりゃなんでもいいっすわ。

 そんなこんなで、食事をしながらこれからの予定を話し合う。

 昨日話し合って出した結論のまま、特に変更はないようだ。大叔母の準備も済んでいるらしく、今すぐでも転送魔法陣を起動できるとのことだ。

「身につけるものは持ってきたかい?」
「ええ、ここに」

 俺は天使活動の時は着けようと決めた、「龍と華」が掘られた古い指輪をテーブルに置いた。

「――ほれ」

 大叔母はそれを手に取り、何事かぶつぶつつぶやくと、またテーブルに戻した。

「『強制帰還』の魔法を込めたよ。期限は明日の日の出までだ。時間になったら勝手にここに戻ってくるから注意しな」

 マジかよ! 物に魔法を吹き込むって相当難しい技術だってのは有名なんだが、この国一番の空魔法使いと自称するだけあって、ばあちゃんに掛かればものの数秒じゃん!

「任意に使用することもできるようにしといたよ。『帰還の魔石』は使ったことあるね? 同じ要領で発動するから、操作ミスでの暴発なんてつまんないことするんじゃないよ」
 
 これも昨日話し合って作ったルールだ。俺は忘れないよう、この場で指輪を着けた。
 日の出がタイムリミットだ。それまでにレンの弟……っつーか、とにかくまずはルーベル村まで行かねばならない。

 実は大叔母、田舎も田舎のルーベル村には行ったことがないらしく、最寄りのそこそこ栄えている街の外れに送ってくれるという。
 というわけで、やはりそこから走ってルーベル村まで行くことになったわけだ。

「今回は試しの意味合いが強い。アクロディリア、もし些細なトラブルでも発生したら、迷わず帰ってきな。あんたさえ無事ならいくらでもやり直せるんだ。わかったね?」
「ええ、もちろん」

 無理する気なんてさらさらないからな! やべえと思ったら速攻帰ってきますよマジで!

 ばあちゃんの言う通り、まだやり直しが利くからな。夏休みはもう少しあるし。いっそ今回は現地の様子見とルーベル村までの下見、と割り切ってもいいくらいだ。
 もちろん、今夜で片をつけたいって気持ちも強いけどな。




 二度目の夕食を平らげ、ばあちゃんの安楽椅子でゆらゆらしながら少々うとうとして食休みを取り、夜空を三日月と星が支配する頃に行動を開始した。
 持ち歩いても荷物になるだけなので、変装はここで済ませておく。つってもマント羽織って各アイテムを仕込んで靴を履き替えるだけだが。

 ばあちゃんに案内された二階の一室には、すでに魔法陣が描かれており、緑色に淡く発光している。

「じゃあ送るよ」

 魔法陣の中央に立つ俺を確認し、大叔母は詠唱を開始し――

「――あ、ちょっと待って」

 いよいよという段になって、言い忘れていたことを思い出してしまった。

「あ?」

 中断させられたばあちゃんはイラッとしたようだ。ごめんよ。ここまでで余裕で話す時間があっただけに、土壇場で止められたらそりゃイラつきもするよな。先に言えって言いたくなるよな。ほんとごめんよ……

 でも、「まあいいか」で流せないくらい、大事なことなんだ。

「大叔母様。実はわたし、病気を治す魔法……『天龍の息吹エンジェルブレス』というのですが、それを習得してから王家に見張られていまして」

 ――俺の監視理由は、正確には入れ替わり現象の疑惑のことだけどな。でも今はこれも監視の理由の一つになっているはずだ。

「このまま、王家になんの断りもなく行ってしまって、大丈夫でしょうか?」

 問えば、イラッとしていたばあちゃんの怒りはいつの間にか消え失せ、代わりにさもおかしそうに笑った。

「あっはっはっはっ! 何かと思えばそんなことが心配かい!」

 笑い事じゃねーだろ。超大事なことじゃん。変に疑惑を煽るような行動を取ったら、自分の首を絞めかねないだろ。罪のでっちあげで捕まったりするかもしれないんだぞ。大権力に逆らっていいことなんてねえだろ。

「安心しな。そんな心配はいらないさ」

 ……あ、なんか、続き聞くのやだな。嫌な予感しかしないんだけど。
 俺はそう思ったのだが、俺の気も知らず、ばあちゃんはドヤ顔でいうのだった。

「――あたしも監視されてるからね。もうあんたのこともバレてるよ。だから心配するだけ無駄なのさ」

 ああ……やっぱ聞きたくなかったわ。

 ……いや、まあ、そりゃそうだわな。こんな危険な魔法を簡単に使用できるような人物を、野放しにはできねえよな。

 なんとなく、クレーク大叔母がなぜ貴族嫌いになったのか理由が見えてきたところで、俺は転送された。




 軽い目眩に目を瞑り、空気の流れを感じてまぶたを開けば、そこは満点の星空だった。

「おお……」

 マジで転送魔法陣がが作動したのか。いや別に信じてなかったわけじゃない、ただ個人の力だけでこんなことができるってことに驚き、感動しているだけだ。
 やっぱ魔法ってすげーよな。まさに奇跡だわ。

 周囲を見回すと、街の影が見えた。この時間だ、もうみんな寝ているのだろう。

 ……で、ここから北に行くと、ルーベル村があるんだよな。この道を直進だ。一本道だから迷うこともないだろう。

 星の配置で方角を確認しつつ、フードをかぶる。仮面はまだ必要ない。あれは一応、見せパンならぬ見せ顔って奴だからな。人前に出る時用だ。

 遮るものがないおかげで、月と星の光だけでも、結構明るい。
 でも転ぶの嫌なので、前方に『照明ライト』を、俺から等間隔の場所に「置いた」。こういう風に「置く」と、俺の動きに反応して、ずっと同じ間隔で照らし続けてくれるのだ。

 よし、じゃあ――行くか!

 俺は、ルーベル村に向かって猛然と走り出した。





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