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168.幻の一時に告げる答えを……
しおりを挟む「この辺で待ってる」という面々を置いて、俺と弟とメイドたちは歩き出した。
早々に大通りに出て、にぎやかな道を行く。
朝が早いせいか、まだ夕方だというのに仕事上がりの者が多いようだ。早い者はもうほろ酔いで歩いているし、千鳥足な者もいる。そしてこのタトゥー率の高さ。超こええ。
活気のある……というか、ありすぎる街である。どこそこで怒鳴り声くらい普通に聴こえるし、歓声が上がっているのはケンカが始まってはやし立てているからだ。
この分だと、夜はもっとすごいのかもしれない。まさに小悪党の街である。
「お姉様」
しばらく肩を並べたまま黙って歩いていたが、いよいよ弟が口を開いた。やはり話したいことがあったようだ。
「お姉様とキルフェコルト殿下は仲が悪いと聞いていました。その煽りで、私も数回しかお目通りが叶っていませんでしたが」
ああ、やっぱアクロディリアとの不仲のせいで、弟とキルフェコルトとはほとんど接点がなかったのか。
弟にとっては、あいつは婚約者の兄……義兄になるんだよな。それにしては異常なほどに顔を合わせる機会がなかった、らしい。アクロディリアの知らないところで、というのもなさそうだし。
「聞いていた話と違いますね。すごく仲がいいではないですか」
だろ? あいついい奴なんだよ。今はそこそこ良好な関係だと言えるだろう。
「え? どこが?」
だがアクロディリアとしては、認めるわけにはいかないと。
母親譲りの美貌で平然としらばっくれる俺を、父親譲りの鋭い瞳で俺を見据える弟。
「『どこ』じゃないでしょう。部分的なものではなく『すべて』ですよ。ただのケンカ友達にしか見えません」
……そうか。もうごまかすのも限界なのかな。
「――ラインラック殿下から乗り換えたのですか?」
「な」
殴るぞこの野郎、と言いかけてしまった。危なかった。
「……違うようですね」
殺気走った眼光でも発してしまったのか、弟はとっととひどい妄想を引っ込めた。よかったな、追い打ちかけてたら殴ってたぞ。マジで。
「くだらない話しかしないなら、ここでお別れよ」
見送りだからな、このまま旅行会社まで行くつもりだが、こうつまらん話をされるなら付き合わないぞ。ボロが出るからな。
「前のお姉様ならもう別れてますけどね。まあいいです」
……やっぱ弟も、薄々は感じているのかもしれないな。姉の中身が別人だということに。うーむ……パパにもママにもバレたしなぁ。
「お姉様、私はあなたが怖かった」
「知ってるわ。お父様に聞いたもの」
そうですか、と弟は前を向いたまま、かすかに笑った。
「虚弱体質ゆえに、幼少から明日かも知れない命だと恐れていました。剣も満足に振れない、走ることさえ叶わない。リナと婚約が決まってから、更に怖くなった。この体質を子供が受け継ぐのではないか。そもそもこの欠陥のある身体で子供を宿すことができるのか。
極めつけは、私が後継者として発表されたにも関わらず、あなたが剣術など始めたから。私にはどうしてもあなたがフロントフロン家を継ぐための準備を始めたとしか思えなかった」
そうか……ある程度は聞いてたが、本人から聞くとまたちょっと心に来るな。
「お姉様、正直に答えて欲しいんですが」
「継ぐなんて気ないわよ。王族の前で認めたのに、それでもまだ不満?」
「それはもう知ってます。さすがに信じますよ」
弟は足を止め、身体を俺の方に向けた。
「私はこのままで大丈夫だろうか?」
…………ん?
「どういう意味?」
本気で質問の意味がわからなかった。このままで大丈夫、って……え? 大丈夫なんじゃねえの?
「お姉様、どうかこの時の出来事は一時の幻だと思って欲しい」
「はあ」
本当によくわからない俺に、しかし弟は真剣な眼差しで、どこまでも本気で告げた。
「あなたが格好良く見えた」
は……お、おう?
「女性らしさはまるで感じなかったが……私は今日、あなたに憧れた。政を動かすお父様と同じものを感じた。少なくとも、あなたの方が今はお父様に近いのだと思う。私よりもずっと」
……い、いやあ……どうかなぁ……
やばい。
生まれもいいし実家金持ちで今は持病もなくなった健康体のこんな人生勝ち組のイケメンに「カッコイイ」とか「憧れてる」とか言われて、俺なんか一瞬でテンパッてる。
「正直に答えてほしい。私はこのままであなたのように、そしてお父様のようになれるだろうか?」
なるなーーーーー! むしろなるなっ! 俺みたいになるなっ!! え、なんで俺みたいになりたがってるの!? ダメだろ!! お父様みたいになるのはいいけど!!
「ちょっと待ちなさい」
なんか色々まずいことを口走りそうなので、弟には「待った」を掛けて、気を落ち着かせる。
……パパに言われたしさぁ、俺も納得してるしさぁ。
ダメだろ。俺みたいな普通の奴なんかになったら。
俺はパパみたいな政治家を目指すでもないし、思慮深い王族を目指しているわけでもない。むしろやってることを数えれば浅慮でそこそこバレたらヤバイことしかやってねえ。
……俺の何がかっこよかったんだろう。まるでわからん。
わからんが、ちょっとしたチャンスだというのはわかった。
今の弟になら、俺の言葉がちゃんと届く。
長々なると絶対ツッコミどころとか矛盾点とか発生するだろうから、こう、手短にまとめて…………そうだ!
「紳士でありなさい」
俺は、さも重要であるかのように言った。
「わたしたちは、庶民と比べて、生まれも育ちも違い過ぎるわ。だから選民意識を持つのはあたりまえよ。
でも、だからこそ庶民を守りなさい。お父様のように。そして知りなさい。結局わたしたちは庶民に支えられているのだと。周囲をないがしろにしたら、そのツケは必ず回ってくるわ」
半分はウルフィテリアの受け売りだが、さも己で悟ったかのようにもっともらしく告げる。
「紳士は相手に敬意を払うものよ、どんな紳士になるかはクレイオル、あなたが決めればいい。あなたらしい紳士のあり方を見つけなさい。わたしから言えるのはそれだけよ」
よし、こんなもんで……あ、もう一つあったわ。
「あとメイドには敬意をもって優しくしなさいよ。女の子に威張り散らす男はみっともないわよ」
じゃないと、クローナみたいに避けられるんだぞ……あれは傷つく。傷つくんだ。
「相手に、敬意を……わかりました。心に刻んでおきます」
おう、刻んどけよ! メイドに嫌われるってのがどんだけ辛いかなんて知らなくていいんだからな! あとメイドに無視されると生きる気力をごっそり持ってかれるんだ……気をつけろよ。俺もレン以外に無視されると泣くほど悲しくなるんだぞ……
弟は、昨日再会した時とはまるで別人のように検の取れた晴れ晴れした表情で、帰っていった。
夕飯は、浜辺で魚介系のバーベキューをした。我ながらリア充チームの一員すぎて少し複雑な気分になったりもした。本当の俺じゃこの美形連中の中に混じれないからな……リア充など滅びればいいのに。
まあ、魚も貝も甲殻類も、めちゃくちゃうまかったけど。
そんなこんなで観光ホテルに一泊し、「まだ目録作りに掛かりそうだ」という情報も入り、そのまま待たずに一旦学校へ帰ることになった。
寮に戻り、やれやれとテーブルに着く。
宝探しも首尾よくいったし、意図せず弟にも注意できたし、なかなか有意義な数日感だったと思う。
――夏休みも残りわずかだ。
――この時の俺はまだ知らないが。
――激動の時も、もうすぐだ。
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