175 / 184
191.もう一つの未来予想…… 後編
しおりを挟む「それでディスオラ、さっき言ってた『世界を超える方法は一つ』って言うのは?」
脱線した話を先輩が戻す。
俺と北川先輩が何度も何度もやっているだけに、もう天堂先輩も慣れたもんである。
「リカも知ってるでしょ? 誰もがこの世界を超えて行く場所のことよ」
……あ、そういうことか。
「死の世界、か」
確かに、誰もがいずれこの世界を超え、行くだろう場所だな。何人たりとも逃れられないからな。
「そう、死ねば魂は世界を超える。そしてまた世界へ戻るの」
猫の紫の瞳が、じっと俺を見ている。
「死んで戻る。いわゆる転生という現象よね。『この世界』に戻るかどうかはわからないけれど、この流れだけは不変なのよ。
希に越えられない者……地縛霊とか怨霊なんかは、執念や未練でこの世に残っているけれど、それもいずれ回収されたり勝手に行ったりするわ。遅いか早いかはあるけれど、必ず行く場所なのよ」
ふうん……
「それが天国とか地獄とかいう場所になるのか?」
「その一歩手前ね。宗教なんかによっても行く場所が違うから、名称も呼ばれる場所も結構バラつきがあるのよ。日本で言えば『賽の河原』とか、その辺がメジャーかしら? 一概に言えないのよね」
要するに、死後の世界だよな?
……うーん……かなりオカルトめいた眉唾もんの与太話にしか聞こえないが、その説明をしているのが猫って時点で、疑う余地がないよな……今俺の目の前で超常現象待ったナシ、って感じだし。
「ディスオラ、弓原くんの状況はわかってるよね? どうしたら『あっちの世界』に戻れるの?」
「基本的に無理ね」
え、マジか。
「おい猫様、頼むよ。ドーナツ三つ貢ぐからさ」
「貢がれても無理なのよ。魂をどうこうって話になるなら、もう神の領分に入るもの。私はただの闇の精霊で、少しばかり死と馴染み深いだけ。あんたを『違う世界』に送るなんて力はないわ」
そ……そっか。
今の返答ではっきりしたな。少なくともこのままじゃ俺は、『あっちの世界』には戻れないみたいだ。たぶんこのまま「九月」を迎えても、もう戻れないだろう。
俺が向こうへ行ったのは、色々な要素が重なった「偶然」って可能性が高いらしい。
だからその偶然が再び巡る可能性がどれだけあるかって話だ。
それこそ「はずれしかない宝くじで一等を当てる」くらい難しいだろう。
イレギュラーってのは正道ではありえないって意味だからな。正攻法では絶対無理って意味だからな。
猫の話を信じるなら、そうなる。でも嘘をつく理由はないからな……少なくとも猫がそう考え予想してるってのは間違いないのだろう。
「私からアドバイスするなら、諦めなさいってことになるわね」
突きつけられた言葉に、言葉を失った。
紫の目が、まだ俺を見ている。先輩も俺を見ている。「どうするんだ?」と言わんばかりに。
「……本当に、無理なのか?」
「さっき言った通りよ。私にはそんな力はない」
…………何度聞いても答えは変わらないんだろうな。
「それってさ」
と、天堂先輩が口を開いた。
「ディスオラ以外の『何者か』ならできるって意味?」
「そうね。神ならできるんじゃない? ユミハラ、神に知り合いいる? 頼んでみたら?」
いるか! そんなもん知ってたらディスオラより先に相談しとるわい! つか神ってどこにいんだよ! トラックにひかれる以外で会う方法知らねえよ! でもロト6でキャリーオーバー当選するより会える可能性低いだろうから絶対やんねえ! 痛いし! トラック運転手もかわいそうだし!
「ディスオラさんどうっすか? 神様に知り合いは……?」
「下手に出て媚びるのはいいけど揉み手はやめなさいよ。リアルでやる奴はじめて見たわよ。
私、『この世界』の出身じゃないから知り合いは全滅よ。そもそも神にも等しかった闇の女王は、リカが倒して消滅させちゃったし」
闇の……あ、先輩が行ったアニメのラスボスか。
「先輩、すげーのと戦ったんすね」
「……正直、すごくがんばって命を振り絞って、何度も何度も死にかけて、やっと倒したんだけど……今改めて言われると、なぜだか少し恥ずかしい……」
闇の女王と戦って勝った。
――うん、完全に中二病の領域だもんな。
当時は超必死だったとしても、あとから振り返れば正常な人にはアレかもな。必殺技とか大声で叫んじゃったりしたんだろ? ……言ったらまた心をへし折るかもしれないから言わないでおくが。
「何が恥ずかしいのよ。私からすれば男漁りにしか興味がない女の方がよっぽど恥ずかしいわよ。あ、そうそう、リカ、あのバカ男とはどうなったの? あの男はダメよ。顔はいいけど、意識せず平気でモラハラかますタイプだわ。一度付き合ったらきっと生半可なことじゃ別れられなくなるわね」
ああ、あのストーカーイケメン先輩のことな。
「じゃあ俺は?」
「え?」
うわ、猫が真顔で俺を見たよ。……猫の真顔ってこんなんなんだな。
「……性格は嫌いじゃないけど、顔がいまいちなのよね」
ひ、ひどい……こんなストレートにフラれるなんて……しかも猫に品評されるなんて……
「やめなさい、ディスオラ。なんであなたが私の付き合う相手を決めるのよ」
「じゃあ先輩は俺のことどう思ってるんすか!? ちなみに俺はかなり好きっすけど!」
「え?」
うわ……なんかとっても既視感な真顔で見られた。
「……うーん……まあ……うん………………まあ、その…………あっそうだ! 景が君のこと『かわいい後輩』って言ってたよ!」
迷い。
間。
気遣い。
違う女の名前と発言。
更に言うなら違う女の発言も。
そのすべての要素が、どう好意的に解釈しても、「ごめんなさい来世に期待してね」としか受け止められないんだが。
……今夜は枕を濡らすかな。
それからしばし、元気がなくなった俺を、先輩は必死で元気づけようとしたりしてくれたのだが。
「――ユミハラ」
先輩の味がしない言葉をぶった切るような遠慮のなさで、猫が割り込んだ。
「そんなに『違う世界』に行きたい?」
底の抜けた桶から元気が全部こぼれた俺だが、しかしその問いには「もちろん」と即答できた。
もちろんだ。諦めろと言われて簡単に諦められなるか。
「そう。さっきからずっと考えてたんだけど、もしかしたらなんとかなるかもしれない」
「え……マジで!?」
嘘だろ。
さっきの話、もう終わったもんだとばかり思ってたのに……まだ続くのか?
「ただ、どう考えても危険だし、一歩間違えば『こっちの世界』でも死ぬかもしれないわ。目当ての『向こうの世界』に行ける保証もない。オススメはしない。
話そうかどうか迷ったわ。さすがにユミハラを死なせるような提案はしたくないもの」
「でも」と、猫は笑った。
「昔のことを思い出したわ。私は昔、リカの身を案じて、『戦うのをやめよう、遠くへ逃げよう』って言ったの。それをリカは拒み、戦うことを諦めなかった。このまま闇の女王を放置したら、彼女から生まれたディスオラがいつか消されるかもしれないからって。
バカよね。私なんて厳密には生命体じゃないのに、こんな私に命を賭けたのよ」
天堂先輩が「やめて~」と恥ずかしそうに身をよじるが、……うん、俺はかっこいいと思うよ。その判断が正しいかどうかはわからないが、かっこいいとは思う。
「結局、周囲がどれだけ心配しようが、最後に決めるのは本人だものね。
で、どうする? あんたも命を賭けてまで、無茶なことをしてみたい? もう一度言うけれどオススメしないわよ? そして責任も取らないわ。リカが気に入っている分だけ私もあんたには死んで欲しくないし。自己責任だからね」
…………
「話を聞かせてくれ」
命懸けになるとかならないとかも気になるが、とにかく詳細を聞いてからだろう。
――そして俺は、命を賭ける覚悟を決め、「九月」を待つことにした。
24
あなたにおすすめの小説
断罪済み悪役令嬢に憑依したけど、ネトゲの自キャラ能力が使えたので逃げ出しました
八華
ファンタジー
断罪済みの牢の中で悪役令嬢と意識が融合してしまった主人公。
乙女ゲームストーリー上、待っているのは破滅のみ。
でも、なぜか地球でやっていたオンラインゲームキャラの能力が使えるみたいで……。
ゲームキャラチートを利用して、あっさり脱獄成功。
王都の街で色んな人と出会いながら、現実世界への帰還を目指します!
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。
彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」
お嬢様はご不満の様です。
海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。
名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。
使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。
王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。
乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ?
※5/4完結しました。
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる