俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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――.エピローグ

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「――それでそれで!?」

 それでも何も、なんつーか、アレだ。

「罪と向き合ったアクロディリアは、普通にいい子になってましたよ」

 レンへの謝罪は、己が今までどれだけ愚かで浅慮で無意味で、我侭で、レンに対して無礼を働いたことへの気持ちだった。
 第一声でそれが出るなら、もうアクロディリアは悪役令嬢じゃないだろ。

「あとは簡単でしたよ。本当に猛省したみたいでしたから。世間知らずな点も多々あったけど、その都度教えて方向を修正しました。だから本当にまっとうな辺境伯令嬢になってましたよ」

 それに、だ。

「レンにも心境の変化があったみたいで、本気でアクロディリアのメイドを始めたんですよ」
「というと?」
「悪いことをしたら注意する。そういうことをやり始めたんです。もっともそんなに出番もなかったようですが」

 レンは、金のために働いていた。弟の薬代な。
 だからアクロディリアの不評を買ってクビになるわけにはいかなかった。アクロディリアが悪いことをしても、心象が悪くなるかもしれないからと、注意できなかったのだ。

 十代前半で、これほど破格の稼げる仕事はなかったから。
 万が一にもクビになったら弟が死ぬ……そう思うと保身せざるを得なかったのだ。

 だが、レンは言った。

「あの時ひっぱたいてでも我侭を許さなければよかった」と。

「アクロディリア様がああなった原因は私にもあった」と。

「フロントフロン家に仕える者として仕事をするべきだった」と。

 レンはそう思ったようだが、俺としては……何とも言えないが。
 それで本当にクビになったら目も当てられないだろ。最悪弟死ぬだろ。

 ……いや、突き詰めれば、俺のそういう懸念を含めて「アクロディリアを信じる」という意味があるのかもしれない。

「じゃあ、大団円で終わった、ってことでいいのかな?」

 俺は首を横に・・振った。

「どっちかと言えばそっちかもしれませんが、手放しで喜んでいいのかどうか……
 結局フロントフロン家は滅亡したし、色々あったラインラックは王族であることを捨てて旅に出ました。なんか遠くで料理屋とかやりたいな、とか言ってましたよ。――もちろんゲームにはない進路ですよ」
 
 いざという時は俺が逃げるつもりだったのに、まさかのあの金髪王子が逃亡ですよ。すげー晴れやかな表情で、創業式を待たずに学校を出て行ってしまった。

 アクロディリアと、将来を約束して。

 そう、心を入れ替えたアクロディリアが、マジでラインラックを落としたのだ。

 王族の身分を捨てた王子と、没落した辺境伯令嬢。
 お似合いと言えるのかどうなのか……俺にはよくわからないが。

 アクロディリアは、俺がいなくなった後……まあ本人の肉体に戻ってから、先に行った王子とどこかで合流し、二人だけの生活を始めるそうだ。
 すげー嬉しそうに教えてくれたっけ。
 もちろん護衛はレンだ。行った先でどうするかはわからないが、合流地点までは一緒に行くらしい。

 ……実は金髪王子、ヴァーサスにも黙って出て行ったみたいで、あいつも後を追うようにして慌てて学校を出て行ったんだよな。

 あの後三人がどうなったのかはわからない。
 まあラインラックはバカじゃないしな。それなりに身を寄せる心当たりもあるんだろうと思う。いきなりの思いつきじゃないだろうから、準備もしただろうしな。

「え、没落しちゃったの?」
「しちゃったんですよ」

 あれはひどかったな。本当に。

「それも気になるけど、アルカと魔王の関係が私は気になるなぁ」

 さすが女子、恋バナ好きだねぇ。

「実は聞いてないっす」
「は?」

 うわ怖っ。一瞬で目が据わったぞ。

「まあ幸せそうではあったので、上手く行ったんじゃないすかね」

 時々「どうなんだ」と聞いてはみたが、アルカは恥ずかしそうで答えないし。
 ベル様には聞きづらいし。
 リアに聞いたらガチギレするし。情報源がなさすぎたのだ。

「あとは特筆するようなことはないっすね。キルフェコルトは第一王子として城に戻ったし、グランは正式に騎士見習いとして雇われたし。――あ、やべっ」

 話したいことは山ほどあるし、まだまだ詳細は話していないが、もう時間切れだ。

「すんません、そろそろ『今夜の準備』があるんで」

 俺が悪役令嬢から戻ったのは、つい今朝のことである。
 そして弓原陽として許されたインターバルは、たった一日。

 今夜、これから、ハイロゥと約束した「次の人生」が始まることになっている。「純白のアルカ」ではゲームという予備知識があったが、果たして次は適応するのかどうか……まあ世界観は同じになるらしいが。

 正直、かなり不安である。

「えー!? ちゃんと全部話せよー!」
「いいじゃないすか。先輩たちにとっちゃたった一日待つだけでしょ」

 俺なんか、ここから死なない限り、最低一年は戻れないのだ。
 しかもまた女性になる予定なのだ。
 今度はお付きの人がいるのかどうかわからない。早い段階で俺の心の支えになってくれたレンもいない。もう不安しかない。

 それでも、やるしかないのだが。

「あ、弓原くん」

 鞄を持って立ち上がる俺を、黒髪の先輩が呼び止めた。

「その……ハイロゥさん? その神様に会う機会があったら、『どうして入れ替わり現象が起こったのか』って聞いてみてくれる?」

 あ、そうだったな。まだその謎が解けてないのか。
 正直、これまでそれを気にする余裕があんまりなかったんだが……次の一年で、探してみるかな。

「憶えておきます。じゃあ俺はこれで。おごってくれてありがとうございました。『また明日』会いましょう」

 俺にとっては一年後となる再会を約束し、俺はファーストフード店を後にする。

 ――さて。

 寝ればすぐに「次生」だ。
 それまでに「純白のアルカ」でしくじったことを反省し、少しでもいいから復習して知識を蓄えておこう。……まあその前にボクシングジムに行かなきゃいけないんだけどな。

 準備できるか?
 疲れ果ててとっとと寝ちまいそうだけど。




 心配通り、帰って風呂に入ってすぐに就寝……それもベッドではなく、勉強机の上で寝落ちしてしまった。
 本を読んでいたはずだが、まるで記憶には残っていない。なんの本を読んでいたかさえ憶えていない。

 かなり早い段階で落ちたようだ。




 そして、次の人生が始まる――








「――いってぇ!?」

 意識が途切れた、と思えば、全身に強烈な痛みを感じて、その辺を転げる。
 状況もわからないままだが無詠唱『光の癒しライトヒール』を使用し、何もわからないまま身構える。

 口の中がじゃりじゃりする。砂を舐めたようだ。
 周囲を観察する。明るい。空は青いな。昼か? 腹減ったな。

 ……うん、だいたいわかったな。

 時代錯誤の金属の胸当てを装着したファンタジー丸出しの女子が四人、木剣を持っていやらしい笑みを浮かべている。

「……」

 訓練中だ。
 それも、しごきだな。
 今まさに可愛がられている最中の女になったようだ。……腹減ったな。

「マル! 早く木剣を拾いなさいよ!」
「そうそう! せっかく私たちが個人指導してるんだから、時間を無駄にしないでよね!」
「グズなんだから!」
「もう少し痩せたら!」

 と、女子たちはキャッキャはやし立てる。うん、いじめだね! でも今はどうでもいい!

 えーっと……誰も見覚えねえし、この女の記憶……名前を思い出すも、やはり知らない女だ。
 マルビスタ・スターってのは、俺……この女の名前だな。

 鏡で見た記憶によれば、マルビスタはとにかく丸い。
 名が体を表すのかっつーくらい丸い体型だ。いわゆるブーデーだ。ぽっちゃりでは済まないレベルだ。背は低くてコロコロしている。愛嬌だけは抜群って感じだな。

 亜麻色の髪は肩口で切り、青い瞳は険の欠片もないほどこれまた丸い。あの悪役令嬢とは正反対な感じだな。
 美人……とは、とても言えないが、本当に愛嬌だけは抜群にあると思う。可愛いと思うぞ。恋愛感情云々は別として。まあ、身体は非常に重いが。

 ここは、女性騎士育成機関のようだ。女子専門の訓練学校か。タットファウス王国ではないようだが、タットファウスの名は知識にはあるので、世界観は同じなのかな。

 …………

 この国営の訓練学校に入れば、食費も生活費も免除される。

 田舎から出てきた庶民であるこのマルビスタって女は、見た目通りによく食うようで、生活費の枯渇から訓練学校に入ったようだ。背に腹は、みたいな感じで簡単に決めたらしい。ちなみに水属性の魔法が使えるようだ。俺のも含めたら今度は二属性持ちだな。できることの幅が広がりそうだ。

 それにしても何だな。

 俺はむしろ、いじめてる方の気持ちがわかるわ。
 こんな「メシ目的」なんて動機で入学したような奴がいたら、本気で騎士を目指している連中からしたらムカつくだろ。目障りだと思うよ。本人がいたら説教してやりたいが……また魂はハイロゥのとこかな?

 それでも本気でがんばってるならまだわかるけど、この女はそうでもなかったみたいだしな……訓練学校始まって以来の落ちこぼれ、とか呼ばれてるみたいだし。
 それもそのはず、全力で手を抜けるところは手を抜くタイプみたいだ。そら嫌われるわ。追い出すつもりで可愛がられもするだろ。

 うむ……またしても偉い女にされてしまったもんだ。今回もダイエットからのスタートだな。ちょっと桁違いに頑張らないといけないようだが。このままじゃ燃費が悪すぎる。
 だがまあ、とりあえずやるべきことは、アレだな。

 ――俺は木剣を拾い上げた。

 訓練してくれるっつーなら、思いっきりしてもらわないとな。それに可愛がってくれたお礼もしないとな! 超痛かったからな!




 ささっと女子四人の脛をぶっ叩いて転がしてやってから、考える。

「さて……どこを目指すかな」

 今度は、「女性騎士見習いの落ちこぼれ」の汚名返上か。
 ゲーム知識がないから、どこまでやれるのかわからないが、まあちょっと頑張ってみようかな。




   俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで 完




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感想 9

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みんなの感想(9件)

黄美
2024.06.12 黄美

この作品、かなりお気に入りです。主人公が内心は男言葉なのに、アクロディリアのフリして喋る時は綺麗な女言葉になるギャップがたまりません!ネズミになって〜の妹視点から見た主人公達の話も、凄くおもしろかったです!できればマルビスタになった主人公の話も続編で書いて欲しいです。

解除
唯我
2024.01.28 唯我

最近なろうでクノンとメガネを一気読みして、過去作の中からこちらが気になって読みました!

この作品もめっちゃ面白かったです!!
第二王子と結構良い感じだったのに、学校が違うからか最後いなかったのが残念でした。(よく考えたら、あの面子の中に第二王子との仲を知る人いなかったですけど)
王子たちと同性の友達のノリだったのが面白くて良かったです。

解除
meni
2022.12.14 meni

ナロウからきました、面白かったです

解除

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