罰ゲームで告白されたはずなのに、再会した元カレがヤンデレ化していたのですが

星咲ユキノ

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罰ゲームで告白されたはずなのに、再会した元カレがヤンデレ化していたのですが

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「あっ…あっ…」

オレンジ色のライトで照らされたラブホテルの一室に、菜々香の甘い声が響く。

親指と人差し指に捕らえられた胸の先をぐりぐりと捻られると、自分の口から聞いたこともない甲高い声が出た。
一点から甘い毒が流されるように、全身に快感が広がっていく。

「さっきも思ったけど、ここ、すごく敏感なんだね。もっと触ってあげる」
「っ、やめ…ああっ」

片方の乳首に吸い付かれ、もう片方を爪でカリカリと引っ掻かれると、逃げられないほどの快楽に脳が支配されていくようだ。

「あっ!…だめ!…吉川君、やめてっ!」

(なにこれ、なにこれ!こんなの知らない!)

訳がわからない。
何故自分は、10年ぶりに再会した元カレにえっちなことをされているのだろう。

事の発端は、数時間前まで遡る。

***

吉川よしかわ遥希はるきです。よろしくお願いします」

(嘘でしょ!?何でこの人がここにいるの!?)

仕事終わりの居酒屋の個室。
奥の席に座る黒髪の男性を見た瞬間、驚きすぎて持っていたおしぼりを思わずテーブルの上に落としてしまった。

三原みはら菜々香ななか。25歳。
輸入雑貨を扱う小さな会社の営業事務として働いて5年。
社会人としてそれなりの対応を身に付けたつもりだったが、今は男の存在に動揺を隠しきれずにいる。

「三原さん!今日の飲み会に参加してほしいの!絶対!」と職場の先輩女性からお誘いを受けたのは数時間前のこと。
特に予定もなかったし、たまには職場の人たちと親睦を深めるのも大事だと思って何も考えずに受けたのだが、着いてみるとそこには職場の女性たちだけでなく、同じ人数の知らない男性たち。
その集まりが『職場の飲み会』ではなく『合コン』だと気づいた時には遅かった。
先輩にがっちり腕を掴まれて逃げられなくなり、「お願い!私を助けると思ってまだ居て!好きなだけ食べて飲んでいいから!」と何故か必死に言われて、仕方なく隅っこで食事をすることにしたのだが。

(まさか合コンだったとは。しかもこんなところで吉川君に会うなんて…)

お互いの自己紹介が終わって、席を交換したり自由に過ごしている中、菜々香は食事をしながら奥の席に座っている吉川をさりげなく見た。

吉川遥希は、同じ中学の同級生だ。
中学時代の吉川は、いかにも優等生という感じの真面目な生徒だった。
今の彼は昔からの面影は確かにあるけれど、短髪だった中学時代と違って、眉毛が隠れる長さの前髪があるツーブロックマッシュになっている。
ピシッと着こなしたハイブランドのスーツと、さりげなく身につけられた高級そうな腕時計が大人の雰囲気を醸し出している。

「え?吉川さんってG商事の課長補佐なんですか?すごぉい!」

吉川の隣にぴったりくっついて座っていた女性が、大きな声で甘えるように言った。

(あの女の子、確か可愛いって噂になってた新卒の子。別の部署だから話したことはないけど)

さらっと肩までのストレートな茶髪に、保護欲をそそる可愛いメイク。
水色ブラウスに紺色タイトスカートというビジネススタイルの菜々香と違い、ピンクのシフォンブラウスに茶色のフレアスカートという女子力の高い服を着ている。

(吉川君ってやっぱりモテるんだ。…あんな人に告白されて信じてたなんて。馬鹿だな、中学時代の私は)

そう。吉川と菜々香は、中学3年の春から秋までの数か月、恋人だった期間がある。
クラスは違うが同じ図書委員という接点で仲良くなり、以前から密かに想いを寄せていたので、告白された時は本当に嬉しかった。
買い物や映画や地元のお祭りなど、中学生だから自転車や徒歩で移動できる範囲でしか出かけられなかったけれど、とてもドキドキして楽しかった記憶がある。
恋に恋する時期の、よくある淡い初恋の思い出だった。
あの日、彼に裏切られるまでは。

---

それは、忘れもしない中学3年のある秋の出来事。
その日は、帰ろうと学校を出た後で忘れ物をしたことを思い出して、一人で教室まで取りに戻っていた。
教室のドアを開けようとした時、中から男子の声が聞こえてきたのだ。

「ほら、見ろよ!この写真!昨日のデート中の三原さん、やっぱりコンタクトにスカートだっただろ?賭けは俺の勝ちだな」

(写真?賭け?何の事?)

聞こえてきた自分の名前に知らんぷりすることも出来ず、そっとドアの隙間から教室を覗くと、男子二人が菜々香の席の近くの机に腰かけて話しているのが見えた。

(あれって、渡辺君と…もう一人は隣のクラスの…誰だっけ)

渡辺は去年からのクラスメイトで、以前から陰キャの自分を馬鹿にしている感じがあったので菜々香は苦手だが、吉川とは小学校からの友人で仲がよかったはずだ。
ちなみに、吉川と付き合っていることは誰にも言っていない。
目立つのが苦手な菜々香が、「内緒にしてほしい」と頼んだのだ。
だから、デートの事も彼らは何も知らないはずだが、どうして知っているのだろうか。
何だか嫌な予感がして、菜々香はそのまま息を殺して教室内の会話に聞き耳を立てた。

「負けたー!俺は絶対、いつもと同じ感じだと思ったのに!」
「馬鹿。お前、デートだぞ?絶対お洒落してくるに決まってるだろ!約束通り、ハンバーガーを奢れよ!『普段地味ブスな陰キャも、デートの時は別人になる』って俺の持論、当たってただろ?検証するために、嫌がる遥希を説得して告白してもらったかいがあったわ」
「それな。話した時はすげぇ嫌がってたけど、ボウリングでボロ負けした罰ゲームだからな」

(…え?罰ゲーム?)

さぁっと血の気が引くような感覚がした。
渡辺たちの下品な笑い声が耳元で木霊している気がする。

(告白するのを嫌がってたって、私のことは好きじゃなかったってこと?じゃあ、なんで…)

グルグルと湧き出る疑問に吐き気がこみ上げるのを、必死で堪える。
とにかくその場を離れたくて、重い足取りで移動して階段の踊り場までついた時だった。

「あれ?三原さん。先に帰ったんじゃなかった?」
「っ!?」

それは、菜々香が一番会いたくない男、吉川だった。
遠くからでもすぐに見つけられる姿勢のよさ。
白い長そでシャツに黒いズボン。その上に紺色のベストを着ているシンプルな制服姿なのに、胸が締め付けられるほどカッコイイ。
いつもならば思いがけず彼に会えたことに喜んでいたが、今は違う。
さっきの話が頭から離れず、目の前の男を本当に信じていいのか、頭が混乱している。

「俺は今まで日直の仕事してたんだ。あ、ちょうどいいから一緒に帰ろうよ!日曜日の詳細を決めたいし。楽しみだね、水族館」
「っ」

何事もなかったように笑顔でデートの予定を話す彼に、腹が立つ。

『検証するために、嫌がる遥希を説得して告白してもらったかいがあったわ』

教室で聞いた渡辺の言葉が思い出される。

(あの話が本当なら、これも全部演技ってことだよね?何も知らずに喜ぶ私を見て馬鹿にしてた?ふざけんな!)

自分にこんな感情があったのかと思うほど、どす黒い怒りの感情で、一気に体が熱くなる。
彼の顔を見たくなくて俯いた菜々香を、吉川は心配そうに覗き込んだ。

「三原さん?どうしたの?具合悪い?」
「っ」

もう我慢が出来なかった。
気付いた時には、自分の口から信じられないほど冷たく低い声が出ていた。

「…そうやって、ずっと演技するつもり?」
「え?」

何を言っているのかわからないといった感じのキョトン顔に、さらに腹が立つ。

「私知ってるんだから!さっき教室で、あなたの友達が話しているのを聞いたの。あなたが私に告白したのは全部罰ゲームだって!」
「っ!?」

罰ゲームの事を話した瞬間、彼の顔が一瞬で真っ青になる。

「だっさい私が精いっぱいお洒落してデートに来る姿を見て、さぞ、面白かったでしょうね?ご丁寧に写真を撮って友達に見せるなんて!」
「は…え…。ちがっ。俺は写真なんて撮ってない…」
「言い訳なんか聞きたくない!いつまで罰ゲームの期間か知らないけど、もう十分でしょ?二度と私に話しかけないで!」
「っ、三原さん!待って!話を聞いて!」

言いたいことを言って、追いかけてくる彼の声を無視して全速力でその場を去った。

それから、大量のメッセージや電話を全て無視し、学校でも彼を徹底的に避けた。
幸い数か月ほど我慢すれば卒業になり、彼とは高校も違ったからそのまま会うことはなくなったが、それは大好きだった初恋相手が、二度と会いたくない大嫌いな男に変わった出来事だった。

---

そして10年後の現在。
初恋のトラウマのせいか、恋愛に消極的になってしまった菜々香は、未だに彼氏はおらず、処女歴も更新中だったりする。

「菜々香ちゃん。連絡先を交換しようよ。おススメの映画を教えるからさ」
「いいですよー」

職場の先輩に無理やり連れてこられた合コンで、元カレと再会するという状況に陥った数十分後。
菜々香は現実逃避をするように、あまり強くはないお酒をかなり飲んでしまった。
意識を失うほどではないが、ふわふわして判断力が鈍っている気がする。
いつもならば不快に感じる距離感の近い男性にも、特に何も感じない。

(この人、吉川君の職場の同僚だっけ?チャラそうであんまりタイプじゃないけど、嘘つき元カレと話すよりマシかな。吉川君だって可愛い子に言い寄られてまんざらでもなさそうだし。私は私で好きにしていいよね?)

そんなことを考えながらスマホを出していた菜々香は、こっちを見つめる鋭い視線には全く気づいていなかった。

***

「…んっ…あっ」

甘えるような甲高い誰かの声が近くで聞こえ、暗闇にいた意識が浮上してくる。

(え?誰かいるの?)

ぼんやりとした頭で目を開けて、周囲を見ようとした時、胸から全身に伝わる突き抜けるような快感に、身体がびくんと震えた。
この時ようやく、先ほどの甘い声が自分から出ていた事に気付く。

「ああっ!…え…な、に?」
「あ、起きた?おはよう」
「っ!?」

聞こえた声に目を開けると、さらりと流れる黒髪と共に見覚えのある男の顔が視界に飛び込んできた。

「え、吉川君?」

それは、数時間前に再会したばかりの元カレの吉川だった。
眉毛が隠れる長さの前髪。長めの襟足。
二重の切れ長の瞳。すっと通った鼻筋に、少し厚めの唇。
その唇の右横にあるホクロは、昔と変わらない。
だけど、ぞくっとするような口角だけを上げるその笑い方は、初めて見る表情だ。
着ていたスーツのジャケットはいつの間にか脱いでいて、腕まくりした長袖のワイシャツだけの姿になっている。

「すごいね。寝てても気持ちよさそうに喘いでた。ここ、敏感なんだ?」
「あっ、ちょっ、ええっ!?」

ベッドに寝かされた自分の姿を見て驚いた。
水色のブラウスのボタンは全部外されて、かろうじて腕に引っ掛かっている状態。ピンクのブラジャーもずり上げられて、乳房が丸見えになっている。
ぷくりと主張したピンクの粒が透明に光っているところを見ると、どうやらそこはさっきまで彼に舐められていたらしい。

「な、なんで!?ってか、ここどこ!?」
「ラブホテルだけど」
「はぁっ?」

確かによく見たら、天井の大きなシャンデリアといい、自分が寝ている大きなベッドといい、ガラス張りのバスルームといい、どう見ても普通の家の部屋ではない。

「三原さんって、危機感がないよね。自分を狙っている男の隣でヘロヘロになるまで飲むなんて、お持ち帰りしてくださいって言ってるようなもんでしょ。特に君の隣に座っていた男は、彼女持ちなのに合コンにヤリモクで参加してるクズだし。…本当は違う後輩が来るはずだったのに、直前になってあいつが来るから焦ったよ。しかもよりによって三原さんが狙われるし。…ああ、でも安心して。俺、あいつの弱みを知ってるからちょっと脅したら逃げるように帰っていったし、君の連絡先も消させたからもう二度と関わることはないよ。ついでにこのスマホに登録されたあいつの連絡先も消しておいたから」
「っ、私のスマホ!」

何故か彼のズボンのポケットに入れられていた菜々香のスマホを、慌てて奪い返そうとするがひょいっと上に持ち上げられてしまう。
そのまま彼は、当たり前のように菜々香のスマホの画面を操作しながら言った。

「電話帳以外は見てないよ。ちなみに、俺の電話番号とアプリのIDを登録しておいたからよろしくね」
「…はぁ?」

(この人、誰?)

中学時代の吉川はこんな人ではなかった。
頭がよくて真面目で、陽キャグループに属してはいたけれど周囲と騒ぐタイプではなく、あまり表情を変えずに淡々と喋るタイプだったはずだ。

混乱する菜々香をよそに、吉川はベッドサイドにスマホを置き、再びベッドに乗ってくる。

「じゃあ、続きをしよっか」
「は?…え…んっ!?」

綺麗な顔が近づいてきたかと思ったら、ふにっとした感触と共にお互いの唇が重なる。
突然のキスに固まっていると、今度は唇の隙間から彼の舌が口内に侵入してきた。
もう脳内は大パニックだ。

(ちょっと待って!舌が入ってるんですけど!何で?)

逃げようにも、がっちりと頭を掴まれて身動きが取れない。
柔らかい彼の舌が口内の壁をなぞる様に撫でて、唾液が送り込まれる。
息をするために唇をあける度に、喉に彼の唾液が流れていく。
ようやく唇が離れた瞬間、彼の色っぽい吐息と共に、唾液が糸を引いた。

「はぁっ…」

初めての深いキスに、うまく思考が働かない。

(力が入らない。何が、起きているの?)

ぽーっとしている間にブラウスとブラジャーを奪われて、白い肌が露わになった。
晒された膨らみを彼の大きな手が揉むと、掌に乳首が擦れて小さな吐息が漏れる。
その些細な反応を見逃さずに、彼は胸の先を集中的に攻めてきた。

「…あっ…あっ…」

親指と人差し指に捕らえられた胸の先がぐりぐりと捻られると、自分の口から聞いたこともない甲高い声が出た。
一点から甘い毒が流されるように、全身に快感が広がっていく。

「さっきも思ったけど、ここ、すごく敏感なんだね。もっと触ってあげる」
「っ、やめ…ああっ」

片方の乳首に吸い付かれ、もう片方を爪でカリカリと引っ掻かれると、逃げられないほどの快楽に脳が支配されていくようだ。

「あっ!…だめ!…吉川君、やめてっ!」

(なにこれ、なにこれ!こんなの知らない!)

訳がわからない。
何故自分は、10年ぶりに再会した元カレにえっちなことをされているのだろう。

自慰では感じたことがない快感に戸惑いながらも、身体は素直に反応してびくびくと小刻みに痙攣している。
胸への愛撫で、自分の太ももをとろりと愛液が伝う感覚も生々しい。

「これも脱いじゃおうか?」
「だ、だめっ!」

彼の手が太ももに触れたかと思ったら、抵抗する間もなく履いていたピンクのショーツが足から抜けていく。
上半身は裸で、スカートだけ身に着けている状態が心もとなくて、近くにあったシーツを手繰り寄せようとするが、彼に阻止された。

「あ、そうだ。念のため聞いておくけど、初めてだよね?セックス」
「っ」
「ずっと彼氏がいないっていうのは、君の職場の先輩から聞いてたんだけど、処女かどうかまでは聞いてなかったから。あ、ちなみに俺は初めてだよ。最初は三原さんって決めてたし」
「は、え?」

(先輩と知り合いだったの?そういえば、私が帰ろうとしたのを必死で止めていたような…。ってか、吉川君、この顔で童貞?嘘でしょ!?…ちょっと待って。頭が追いつかない)

「ねぇ。聞いてる?答えてくれないなら、今すぐゴムをつけないで突っ込むけど」
「ひっ」

何を、と言わずともわかるところが怖い。

(なんて恐ろしい脅しをするんだ、この男は!)

「っ、初めてです!」

やけくそ気味に叫ぶと、彼は嬉しそうににっこりと笑った。

「そう、よかった。そりゃそうだよね。だって三原さん、初めては俺が良いって言ってたもんね」
「…は?」
「言ったでしょ。中学の時、一緒に花火大会に行った日。『これからも、色んな初めてを吉川君と経験していきたいなぁ』って顔を赤らめて。公衆の面前じゃなきゃ、押し倒すところだったのを覚えてるよ」
「あ、あれはそういう意味じゃなくて…」

デートはおろか、男子と出かけたのも吉川が初めてだったから、嬉しくなってつい言ってしまった言葉だ。深い意味なんかなかったのに。

「だから三原さんの初めてのことは、俺が全部してあげる」
「え?…っ、ちょっ!だめっ!!」

あろうことか、菜々香の股の間に顔を埋めた吉川に慌てる。
引き離そうと彼の頭を押すが、やはり男の力には敵わず、びくともしない。
そのまま彼は迷うことなく、膣口の上の突起に口をつけた。

初めて陰核に誰かの舌が触れた感覚に、目の前に星が舞う。
舌で陰核をつついたり、歯で甘噛みされるたびに、電流を流されたかのような快感が身体中に走る。
知らない。こんな感覚は知らない。
何かに掴まっていないと怖くて、必死でベッドのシーツを掴んだ。

「ああっ!!」

むき出しの陰核をじゅっと吸われたタイミングであっけなく達してしまい、ぐったりと体をベッドに預ける。

(嘘…。私、イッたの?…何がどうなって…)

「…はぁ…はぁっ…」
「可愛い。…好きだよ、三原さん。ずっと会いたかった」
「っ!?」

うっとりした表情で言った彼の言葉で、夢うつつの状態が一気に覚めた。

(『好き』?…何を、今更!)

「ふざ、けんなっ!」

ありったけの力を振り絞って、どんっと彼の胸を押す。

「『好き』?『会いたかった』?今更、何?馬鹿にしてるの?あの時、私がどれだけ傷ついてたかわかってる?好きな人とのデートに浮かれてたら、その様子を勝手に友達に見せたあげく、私に告白したのが罰ゲームだって知った時の気持ちわかる?あなたたち全員、ぶん殴ってやりたいと思った!特に、あなたには二度と会いたくなかった!なのに…なのにぃっ…」

あふれ出た怒りの感情と共に、涙が止まらない。
しん、と室内を静寂が包んだ後、吉川が静かに言った。

「…でもそれは、三原さんの気持ちだよね?」
「え?」

その言葉に思わず顔をあげると、まっすぐにこちらを見つめる彼と目が合った。

「俺の気持ちは?何で全然話を聞いてくれないの?俺、何度も言ったよね?『別れたくない』『話を聞いてほしい』って。なのに三原さんは、あいつらの言葉だけを鵜呑みにして、俺の話なんか聞いてくれなかった。一方的に決めつけないで、ちゃんと俺の話も聞いてほしかったのに!」

彼の言葉にハッとして、ようやく気がつく。
今まで自分はずっと被害者だと思っていた。
好きだった人に嘘の告白をされて陰で笑われていた被害者。
でも、もしかしたらそうではなかったのかもしれない。
本当は、彼の気持ちが本物だったらと期待していた部分もあった。
だけどあの時の菜々香は幼過ぎて、真実を知るのが怖くて、一方的に吉川を悪者にして逃げたのだ。
そうでもしないと、恋をしていた自分がみじめになってしまうと思ったから。

「…ごめんなさい」

謝ったのは菜々香の方だ。

「私、吉川君の気持ちを知るのが怖かった。だって、あなたの口からあの告白が罰ゲームだったなんて言われたら、もう立ち直れないと思ったから。だから電話も全部無視して、逃げたの。…ずっと傷つけられたのは自分の方だって思ってた。でも…。私も吉川君を傷つけてたんだって、今、やっと気づいた。…今更かもしれないけど、あの時の事、ちゃんと聞いてもいい?」

菜々香の言葉に、吉川は静かに頷いた。

話をするのにベッドの上では落ち着かないという事で、衣服の乱れを整えてからソファに移動する。
あんなことの後に真面目な話をするのは気まずい感じもあるけれど、必要なことだと思った。
2人掛けの黒い革張りのソファに、少し間を空けて座る。

「…罰ゲームのことなんだけど、あの話があったのは本当なんだ。でも、俺は引き受けていない。中学2年の時からずっと三原さんが好きだったから、自分の意思で告白したんだ。告白したことも付き合ったこともあいつらには言ってなかったんだけど、渡辺が俺たちのデートをたまたま目撃して、その写真を他のヤツらに見せて笑っていたらしい。後からそのことを知って、渡辺を殴っておいた」
「え!?殴ったの!?」
「三原さんを傷つけたんだから当たり前でしょ。好きな人を勝手に賭けの対象にされて、なおかつ俺の告白を罰ゲーム扱いされたんだよ?それが原因で三原さんに嫌われたんだから怒らないわけないよ」

びっくりした。温厚な彼は人を殴るようなタイプではないのに。

「でも、殴ったって…手を出したら大事おおごとにならない?傷害事件とか」
「そこは子供同士の喧嘩ってことで、騒ぎにはならなかったよ。前からあいつのああいうところは理解できなかったし。幼馴染っていうだけで一緒にはいたけど、あれ以来連絡はとってないんだ。風の噂で聞いたけど高校に入ってますますグレて悪い連中と付き合って警察のお世話になったこともあるって。つくづく、早めに縁を切っておいてよかったって思った」
「そうなんだ…」

知らなかった事をいっぺんに聞いて、少し頭は混乱しているけれど、彼の気持ちを知れてよかったと思う。
少しの間の後、吉川は菜々香を見て言った。

「さっきはごめん」
「え?」
「他の男と連絡先を交換したのを見てカッとなったとはいえ、無抵抗の三原さんにひどいことをしたって反省してる。…でも、俺の気持ちはずっと中学の時から変わってないから。ずっと会いたくて、話したくて。久しぶりに会って、美味しそうにご飯を食べるところとか、笑い顔も声も仕草も、全部可愛くて大好きだなって思った」
「あ…うん…」

突然の激甘発言にどう返したらいいか戸惑っていると、彼は真剣な顔で続ける。

「好きです。俺とまた、付き合ってくれますか?」
「っ!?」

嬉しいと思った時に、自分の感情にやっと気づいた。
さっき彼に触れられた時、驚いたけれど嫌じゃなかったことに。

(そっか。私、まだ、吉川君のこと…)

溢れ出る想いを抑えるようにぎゅっと唇を噛んで、彼に向き直って言う。

「…私も、好き。…今でも好きですっ…。あの時は逃げてごめんなさい。こちらこそ、お願いします…」

(ああ、もうぐちゃぐちゃ)

うまく言葉は出なかったし、感情が昂ってみっともない泣き顔になってしまったけれど、彼は嬉しそうに笑って菜々香を抱きしめた。

***

「ね、こういうのまだ早いと思うの。普通はもっと段階を踏んで…」

お互いに想いを確かめ合ってキスしたまではいい。
だけどそのまま雪崩れ込むようにベッドに押し倒されるのには抵抗があった。
初恋をこじらせて気づいたら処女だった菜々香には、何の準備もなく初体験に挑むのは怖い。
幸い、下着は勝負下着とまではいかなくとも新品の可愛いやつだったし、ムダ毛処理もしたばかりだ。
でも、好きな人と初めて過ごす夜というのは、もっと段階を踏むものだと思っていたから、突然やってきた機会に動揺してしまう。

「…でも、三原さん。すごくエロい恰好してるし…さっき中途半端で終わったからもう限界なんだけど」

言われて自分の姿を見れば、ブラウスのボタンをかけ間違えていて、少し屈めばブラジャーが見えてしまう状態になっている。

「こ、これは吉川君が勝手にやったんでしょ!」
「うん。俺のせいだから責任とらせて。いいよね?こっちは10年も待ったんだから」
「そんなの知らな…んっ」

彼の告白を聞いて受け入れたからか、その感触が、熱が、音が…すべてが気持ちいい。
くちゅりと唾液が絡まる音が耳に届き、もっともっとと強請るように自分から唇を合わせる。
何度も何度もお互いの口内を求めあって、息継ぎの為に唇を離すと口から甘い息が漏れた。

「ふぁっ」

(ああ。カッコイイなぁ。もう、世界一カッコイイ)

ほんのりと色づいた頬に濡れた唇が色っぽくて思わず見とれていると、彼が困ったように菜々香を見た。

「…あのさ。自分が今、どんな顔してるかわかってる?」
「へ?」

そんな変な顔をしていただろうか。と思った瞬間、彼はふっと笑って菜々香の額にちゅっと口づけた。

「そういう顔。俺以外に見せちゃダメだからね?」
「っ~!?」

(なんか、すごいデレてるんですけど!)

「…あっ…はっ…んんっ…」

集中的に乳首を責められて、意識が朦朧としてきた。

「なんで…そこばっかりっ…」
「だって、ここ好きでしょ?」
「っ、好きなんかじゃ…」
「嘘つき。こっちはぐちゃぐちゃになってるよ」
「…あっ」

股の間の蜜壺にそっと指を這わせたかと思ったら、中の蜜の音をわざと聞かせるようにくちゅくちゅと音を立てて指を出し入れされる。

「…っ、やだ…」
「ああ。可愛い。大好き」
「…私も…好き」
「っ、だからそういう顔…ああ、もうっ!」
「え?んっ」

食らいつくような乱暴なキスだけど、口内を撫でる舌の熱が優しくて、思わず目を瞑る。

(キス、気持ちいい)

「はぁっ」

唇が離れると、お互いの吐息が漏れる。

「もう限界。挿れるよ」
「え、あ、ちょっ!待って!…ああっ!!」

勢いよく杭を打たれて体が仰け反る。
顔を歪めると、遥希は菜々香の頭を優しく撫でながら言った。

「っ、痛いよね。…ごめん」

申し訳なさそうに言う遥希の顔を見て、数十分前のヤンデレ状態を思い出して思わず笑ってしまう。

「三原さん?」
「変なの。さっきは無理やりしてきたくせに」
「っ、それは…。頭に血が上って…つい」

不思議だ。
カッコイイだけじゃなく、嫉妬してヤンデレになる彼も、照れる彼も、全部全部可愛くて、愛しいと思ってしまう。
そっと彼の頭に手を伸ばして、そのサラサラの黒髪に指を絡ませた。

「痛いけど…嬉しいよ。吉川君と繋がれたから。初めてが吉川君でよかった」
「っ!?」

痛みに耐えながらそう伝えて笑うと、彼は何故か怒ったような顔をした。

「…三原さんって、ほんと、無自覚だよね」
「え?…ひあっ!?」

言われた言葉の意味を考えた時、突然ぐんっと体を揺らされて、膣内に入っていた彼のモノが内壁を擦る様に動いた。

「え、ちょっ!待っ!あっ!あっ!」

突然の事に、とっさに彼にしがみついて激しい揺れに耐える。

「…好きっ…好きだっ…菜々香っ!」
「ああっ!」

初めて呼ばれた名前に嬉しくて、きゅうっとナカが締まった刺激で、彼の熱がゴム越しに吐き出されたのがわかった。

***

「いい加減に機嫌を直してよ。俺が悪かったから」

ピチャンと水音が響くラブホテルの浴室。
抱きしめられた状態で浴槽に浸かる菜々香は、後ろにいる吉川を睨みつけた。

「絶対に悪いって思ってないでしょ?やめてって言ったのに見える位置に痕をつけるし!もう無理って言ったのに何回もするし!」

つい数時間前まで処女だったというのに、この男は加減というものを知らないらしい。

「菜々香が可愛いのが悪い」

いつの間にか呼び方が『三原さん』から『菜々香』に変わっていて、そんな甘い雰囲気も、恥ずかしいが心地いい。
愛しそうに見つめられると、全てを許してしまいそうになるから怖い。
惚れた弱みというやつかもしれない。

「そういえば、私の職場の先輩と知り合いだったんだね」
「ああ、うん。あの人、俺の大学時代の友達の元カノなんだ。前から菜々香に会わせて欲しいって頼んでたんだけど、今回、俺の職場の人たちとの合コンをセッティングするって約束で、ようやく連れて来てもらったってわけ」

確かに、先輩は出会いが欲しいとずっと言っていた。
合コンでも誰かと話していたようだし、いい出会いがあったのかもしれない。
数時間前までは、吉川との再会を作ったあの合コンを恨んでいたが、今は先輩に感謝すらしているから不思議なものだ。

「この後はどうする?俺としては、一日中ホテルに籠ってえっちしててもいいんだけど」
「却下!出かけます!」

なんて不健康な事を言い出すんだ、この男は。こっちの体力がもたない。

「じゃあ、菜々香が嫌じゃなきゃ、あの水族館に行かない?昔、約束したまま行けなかったから、いつか一緒に行きたいって思ってたんだ。コツメカワウソ、見に行こうよ」

コツメカワウソは菜々香が一番好きな動物で、吉川と約束していた水族館ではすごく近くで見れるので、以前から行きたかった場所だ。

(覚えていてくれたんだ)

何だか胸がきゅっと締め付けられる。
たまらない気持ちになって思わず彼の唇にキスを落として囁いた。

「行く!ありがとう、遥希君。大好き!」
「っ!?」

不意打ちの菜々香の行動に真っ赤になった彼が可愛く見えて、幸せな気持ちになる。

しかしこの後、また欲情したヤンデレ彼氏に足腰が立たなくなるまで求められ、念願のデートが延期になってしまい、菜々香が怒って彼と口をきかなくなるのは、数時間後の話。

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