無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン

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僅かな違和感

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 ユーリアとアロイスがFクラスと共に訓練場を訪れるようになって、五日が過ぎた。

 ブリュンヒルデ達は相変わらず目を覚ますことなく、そのせいもあってか最近のFクラスの授業は以前までのように実技だけである。
 そしてどうやら二人はFクラスの実技の授業には来ることになっているらしく、ここ五日の間は毎日どころか授業の間ずっと二人と一緒であった。

 ちなみに、ザーラにそれとなくFクラスが座学をすることになったらあの二人はどうするのかと聞いたことがあるのだが、その際にはあの二人はAクラスの授業に戻るということだ。
 逆に言えば、Fクラスが実技をやっていたら、あの二人……特にユーリアには得しかないということで。
 それもまたそれとなくザーラに聞いてみたら、返ってきたのは肩をすくめるという動作であった。

 つまりは、そういうことでもあるらしい。

「とはいえ……正直なところ公爵家が直接何かを言ってくるっていうのはあんま考えられないんだよねえ……」

 眼下を眺めながら、呟きを零す。
 視線の先にいるのは、今日もまた魔力供給のため色々と試しているユーリアとアロイスの姿だ。

 二日ほど前に魔力供給を行うことそのものには成功したらしいのだが、まだ効率が悪いらしい。
 それを改善するためだとは聞いていた。
 ……まあ、レオンが直接言われたわけではなく、半ば盗み聞きのような形で、ではあるが。

 ともあれ、しかしそれは騎士と従士の間ではよくあることである。
 そもそも魔力というのは個々人によって差があるもので、それを自分のものへと変換するのだ。
 むしろ効率が悪いのが当たり前で、一般的には受け渡した魔力の三割ほどを受け取れればいいと言われている。

 それ以上を望む場合はよほど相手との相性がいい場合のみで、理論上は完璧な相性ならば十割の譲渡が可能らしいが、あくまでも理論上の話であって実例はない。
 もっとも、今のユーリアとアロイスの変換効率は一割程度らしいので、二日前に初めてできるようになったばかりとは言っても、正直相性はいいとは言えないところだ。

 ただ、聞いた話によれば、それでも従士科の中でならば相性は最高らしい。
 だからアロイスが選ばれたのであり、それなのにその程度でしかないのは、元々ユーリアの魔力の波長が特殊だからだとか。
 ザーラが言っていた事なので詳しいことは分かっていないのだが……そういうこともあって、ああして努力をしているのだろう。

「見方次第では、こうなることが分かってたから先んじて手を回してた、とも捉えられそうだけど……多分そういうのは嫌いだろうからなぁ」

 昔からそういうところがあったし、五日だけとはいえここ最近はずっと努力し続ける姿を見てきたのだ。
 おそらくそういった部分は変わっていないはずだと、ある程度の自信を持って言うことが出来る。

 そして公爵家の現在の当主はユーリアだ。
 ユーリアがそうである以上公爵家が口を出してくることは考えづらい。

 元父も死んだわけではないので色々と手助けをしているとは思うものの、学院に口ぞえして優遇させるなどという手はむしろ元父の方が嫌いそうなものだ。
 尚更あるまい。

「他には学院から媚を売るため……ってのもまあないかなぁ。必要ないっていうか、意味ないしねえ」

 王立学院である以上、国から優先的に援助を受けることが出来るのだ。
 公爵家相手だとはいえ、わざわざ何かをする意味はない。

 個々人であれば、まあそういうこともあるかもしれないが、これは明らかに学院の方針として決定されている。
 となれば――と、眼下を眺めながら思考を続けていた時のことであった。

「こんなとこであんたは一体何してんのよ?」

「授業をサボるのは感心しませんわよ? まあ訓練場にいることは間違いありませんから、これをサボりと言えるのかは分かりませんけれど」

「……でもジッと見ているだけみたいだから、多分サボりになる」

 声に視線を向ければ、そこにいるのは当然と言うべきかイリス達だ。
 どうやらこんなところにまでわざわざ来たらしい。

 ちなみに、そこがどこなのかといえば、ユーリア達が眼下にいるということからも分かる通り、観覧席である。
 そう、レオンはその一角からユーリア達のことを眺めていたのだ。

 正直イリス達も来るとは思っていなかったが。

「サボってるとは失敬な。僕も一応騎士になるのを目指してる身だからね。従士から魔力を受け取るのはどんな感じなのかってのを参考にするために、今日はいつもとは違う視点で見てみようかなって思っただけだよ」

「なるほど、一理ありますわね」

「でしょ?」

「……本音は?」

「相変わらずまったく目が合わないし顔も向けてこないから、上から見たらどうするのかな、と思って」

「あんたね……」

 呆れたようなリーゼロッテの視線に、肩をすくめて返す。

 まあ、さすがに冗談である。
 半分ほどは。

「まあ最初に言ったいつもとは違う視点で見てみようと思ったってのは実際その通りだったんだけどね。こうして上から彼女達の頑張りを見てれば、誰がこの状況で最も得するのかが分かるかなと思って」

「ああ……あんたまだそれ気にしてたの?」

「確かに、どこからか圧力のようなものはあるようですけれど……そもそも特に誰かが不利益を被るわけでもなさそうなのですから、問題はないのでは?」

「むしろ思考の出発点としては、そこに疑問を覚えたこと、かな? 本当にこの状況は誰も損してないのかな、ってさ」

「……誰かが損をしてる? ……敢えて言うなら、Aクラスの人達?」

「なるほど……追いかけるべき上がいなくなることの弊害、か。面白い視点だと思うけど、ここに来るような人達なら特にそれでモチベーションがなくなるようなことはない気がする、かな。ま、ともあれそういうわけで、初心に帰ると言うべきか、結局誰の差し金なんだろうなってことを考えてたってわけなんだけど」

「何か分かったわけ?」

 その言葉に、再度肩をすくめて返す。

「とりあえず、公爵家と学院はなさそうだろうってとこかな」

「それ以外となりますと……学院に直接口を出せそうなのは、それこそ王国ぐらいな気がしますわね」

「王国かぁ……確かに王国側からすれば、公爵家の当主が従士を得て安定するようになれば万々歳だろうけど、それなら爵位を継ぐことを認める前にする気がするんだよね」

「確かにそんな気はするわね。でもそうなると、他に学院に口出せるようなとこってない気がするんだけど? 他の公爵家はわざわざ口出す理由がないでしょうし」

「なんだよねえ。だからこそ余計に考えちゃってるんだけど」

 単純にユーリアが従士を決めるというだけならばまだいい。

 だが現状にまでなると誰かが気を使ったとかいうレベルではなく確実に誰かが口を出しているし、ザーラもそんな様子を見せた。
 だというのに、肝心のその相手が見つからないというのは何とも気持ちが悪く――

「……なら、本人以外にない気がする」

「うん? ユーリアってこと? いや、ユーリアは多分性格的にないんだよね。昔からそういうところあったし、最近の様子を見てもその辺変わってないだろうし」

「……ならきっと、自分の考えを曲げてまでやらなくちゃならないと思っただけ」

「……随分本人説を押すわね? 何か根拠があるってこと?」

「……うん。多分、言われればリーゼロッテなら納得する」

「それは、わたくしでは納得出来ない、ということですの?」

「……厳密には、実感が湧かない、が近いと思う。アレは、実際に目にしなくちゃ分からないと思うから」

 随分とイリスの口数が多いが、それほど重要なことだということだろうか。
 実際レオンもピンと来るものはないのだが、どうやらリーゼロッテは心当たりがあったらしい。

「それってもしかして……? でも確かにそれが理由なら、性格的にどうとか言ってる場合じゃないわね。ああ、そっか、そういえば、もう当主の座を継いでるのよね……ならなるべく急ごうと思って……魔力は多い方がいいから、それで従士を……?」

「リーゼロッテ……? 何か分かったの?」

「っと。……まあ、そうね。多分アレのことなんでしょうけど……ま、別に言ったところで問題はないかしらね。二人とも存在自体は知ってるわけだもの」

「随分と意味深な言い方をされますわね? そのアレとは一体何なんですの?」

「……魔王の封印」

 一瞬視線を交わした後、口にすることにしたらしいイリスの言葉に、思わず眉をひそめた。

 意味が分からなかったわけではない。
 魔王を分割しそれぞれの封印を公爵家で受け持つこととなったというのは以前にも触れた通りだ。

 だからそのことなのだろうとはすぐに察せられたものの、正直それがどうしたのかとしか思えなかったのである。

「ん? ああ、いや、そっか……そういえば、アレって代替わりするごとに封印をかけ直すんだっけ?」

 厳密には重ねがけに近いらしいが、そうすることでより封印を解けづらくさせているのだとかいう話だ。

 だが確かに代替わりをするごとにしなければならないことだと分かってはいるものの、それがどうだというのだろうか。

「次期当主となるのが確定した時、あたしはその封印を直接目にしたわ。そして、だからこそ分かるのよ。当主の座を継いだんなら、一刻も早くアレの封印をかけ直したくなるでしょうね、と。少なくとも、あたしならそうだから」

「それはつまり、そこまで凶悪な代物だった、と?」

「あたしは目にした瞬間、何故それが魔王ってかつて呼ばれてたのか、今も分割してまで封印を続けてるのか、ってのを嫌になるほど理解させられたわ」

 そこまでのものだった、ということらしい。

 ちなみにレオンは見ていないが、貴族としてのお披露目が終わった後で見る予定ではあった。
 ということはユーリアはほぼ間違いなく見ているだろうし……そのため、ということなのか。

 封印は魔法で行なうものであるため、確かに魔力は多ければ多い方がいいと言われている。
 というか、公爵家を継ぐために高いレベルが要求されているのは、それだけの力が必要とされる立場だということもあるが、何よりも魔王の封印を確実に行うためでもあるのだ。

 そして生まれつき魔力が低いユーリアは、未だ封印を確実に行えるほどの魔力には至っていないと推測される。
 そのための従士でそのためのこの訓練だというのならば……確かにユーリアは、形振り構わず実行するかもしれない。

「んー……」

「……不満そう? 納得出来ない?」

「いや、納得は出来たんだけどね。でもやっぱり少しだけ違和感がある気がするんだよね……」

 そういうことならば、形振り構わなかった上で、だからこそ時間をかけるような気がするのだ。
 一刻も早く封印をかけ直したくなるがゆえに、完璧な封印を行うために。
 しかし今のユーリアからは、そういった様子は見られなかった。

 まあ、八年も離れていた上に、今では完全な無視をされるような有様だ。
 昔とは違うと言われてしまえばそれまででしかない。
 ただの考え違いであるならば、それが一番だ。

 だが。
 ひたすらに効率のいい魔力供給のやり方を試しているユーリア達の姿を眺めながら、レオンは目を細め息を一つ吐き出すのであった。
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