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第一章:厳しい現実編
第五話 リンゴ泥棒は盗み先の女の子に助けられる
しおりを挟むリンゴ泥棒。
その言葉を聞き、声のする方へと顔を向けると歳の頃は十三~十四歳くらいだろうか? 明らかに怒っている雰囲気を隠しもせず、茶色の髪を揺らしながらもみくちゃになっている俺の所へやってくる。ボケッとしていたが、俺に絡んできた二人組が我に返り、女の子へと威圧をかけた。
「嬢ちゃん、ちょっと取り込み中だ。少しだけ待ってくれねぇか?」
「なあに、手間は取らせない」
すると女の子、まったく怯みもせずに男達に食って掛かる。
「うるさいわね、こっちにも事情があるのよ。 そこの男にリンゴの代金をもらいにきたの」
「へえ、そうかい。俺達もちょっと酒代を都合してもらうつもりなんだよ。ほら、兄ちゃん離してやるから金を出しな」
っと……急に手を離され、よろける。そしておもむろにリュックの口を開け、俺は……。
「……ウチのリンゴ……! ……え!? ちょ、ちょっと!? 何個入っているのよそれ!?」
俺は中に入っていたリンゴ(多分二十五個前後)を全てベンチに並べ、最後に片方しかない靴をそっと置いた。俺は胸に手を置いて深呼吸し、三人に告げた。
「無いんだ……」
「あん?」
「お金、無いんだ。これが俺の全財産……」
「へ?」
女の子がすっとんきょうな声をあげた、俺がへへ、っとはにかみながら笑うと次の瞬間、二人組が怒声を浴びせながら殴り掛かってきた。
「へへ……じゃねぇんだよ! ふざけんな! カバン見せろ! ……本当に何も入ってねぇ!」
「くっそ、無駄な時間を過ごした! こいつめ!」
「あ!? 痛い!? ちょ、お前等が勘違いしただけだろう!? ぐあ……! ぎゃああ!?」
「ハッ! だ、誰かー! ケンカ! ケンカです! 誰かきてください!」
結構マジに殴られて俺が呻いていると、女の子が我に返り大声をあげた。その声でざわざわと公園で散歩していた人などが集まってくる。
「チッ、騒ぎはまずい。行くぞ」
「しゃーねぇな……いい服着ているからカモだと思ったのによ!」
「ぺっ! リンゴだけ貰ってやらあ」
男達もまずいと思ったのか、最後に俺へ蹴りを入れた後に唾を吐き、フードを目深に被って逃げて行った。終わったのか、とやじ馬たちはすぐに散っていくのが見えた。
「げほ……ごほ……け、ケガは無いか?」
「それは私のセリフよ!? ほら、立てる?」
女の子が手を出してくれ、それを掴んで俺は何とか立ち上がって再びベンチへと腰掛け、女の子に声をかけた。
「ありがとう、助かったよ」
「うん、それはいいけど、ケガ大丈夫? やり返さないなんてそれでも男?」
「はは、耳が痛いな。まあ、ヘタに反撃して今後あいつらに目をつけられたら困るし、君も巻き込まれそうだったからな」
パラメータをいじればねじ伏せる事は可能だろうけど、逆恨みを買うよりはこっちの方がいいかと思ったのは事実だ。
「そ、そう、一応考えていたのね。それじゃリンゴのお金を……って払えないのよね……」
「すまん! 栽培しているものだとは思わなかったんだ。腹が減っていたし、お金が無かったからこの先不安にかられて備蓄にと……リンゴは返すよ」
とりあえずベンチの上で正座して女の子に説明をすると、目を瞑り、口をへの字に曲げて俺の話を黙って聞いてくれていた。しばらく何かを考えていたが、目を見開いて俺に言う。
「事情は分かったわ。でも、適当にちぎり取ったリンゴは返してもらっても売り物にならないから、やっぱり買い取って欲しい」
「そうか……悪いことしたなホント……だが、今は本当に持ち合わせが無くてなあ」
「嘘じゃなさそうだし、とりあえず代金は後でいいわ。仕事は? 決まっているの?」
「いや、さっきこの町に来たばかりで、路銀をどうやって稼ごうかと思っていたところであいつらに絡まれたんだ」
「なるほどね。そういえばあなたもさっきの二人組も、見ない顔……」
「あああああああああ!」
「ひっ!? な、何よ!」
「い、いや、何でも無い。急に声をあげて悪かった、続けてくれ」
落ち着け俺、たかがちょっとした言葉じゃな「お互いここらじゃ見ない顔だったから……」ああああああああ!」
「うるさいわね!」
「オクラアボカド!?」
ぐふう……女の子の蹴りが腹にクリーンヒットし俺はベンチからずり落ちる。さっきの傷も痛いし、そろそろ回復しておこう。
「≪ヒール≫」
「あ……」
ふわりと柔らかい光が俺を包み、切れた口や腫れた頬、打撲などを癒していった。やっぱり回復魔法を覚えておいて正解だったな……。
「あなた、魔法を使えるの? 冒険者、よね?」
「ん? ああ、回復魔法しか使えないけどな。冒険者でもない」
「そうなの? (でも、回復魔法が使えるなら……) ねえ、仕事欲しい?」
俺が痛いところが無いか体の感触を確かめていると、女の子が急に顔を覗き込みながらそんな事を言う。どうしてもリンゴ代を回収したいと思えば分からんでもない。となると、俺の答えは一つだ。
「もし都合がつくなら是非……!」
土下座せんばかりの勢いでベンチの上で頭を下げる俺。少し引き気味になったが、すぐに取り直し女の子は自己紹介をしてくれた。
「アンリエッタ。私はアンリエッタよ。あなたは?」
「カケルだ。ジュミョウ カケル。カケルが名前でジュミョウが苗字だ」
「苗字を持ってるの!? もしかして偉い人だったりする?」
「いや……この世界に来たのも数時間前だからそれはない」
「? 歩きながら聞いてもいい?」
俺達はリンゴと靴をリュックへ入れ、アンリエッタの案内を受けながら目的の場所へと歩き出す。道中、話していいものか悩んだが、元々この世界の人間ではないからお金も武器も食料もない事を告げることにした。一応、魔王がどういった立ち位置なのか分からないのでそこだけは伏せておいた。
「もっとマシな嘘をつきなさいよ……貴族のお坊ちゃんが身の程をわきまえず旅に出たとかそんなところでしょう? たまにいるのよ、そういう人」
勿論、信じてもらえなかった。何か可哀相な人認定されたけど、訂正するのも面倒なのでそう思ってもらう事にする。アンリエッタは立ち止まらずに言葉を続ける。
「ま、今重要なのは回復魔法を使える、ってところよ! 中央にある大きな街なら珍しくないけど、ここみたいな田舎なら活かす手は色々あるのよ」
「頼もしいお言葉で……お、ここか?」
アンリエッタが大きな家屋の前に立ちどまったので、俺はなんとなしに呟くと、何故かドヤ顔でアンリエッタが振り向いて叫んだ。
「ええ、『アドベンチャラーズ・ユニオン』カルモ町支店よ!」
銀行みたいな店名が澄んだ空気に響き渡った。
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