70 / 253
第三章:出会ってしまった二人編
第六十三話 不穏な空気?
しおりを挟むユーキの後をゆっくりとついていきながらも、俺は周囲に対して目を光らせる。手配書は撤去されたようだが、何かの拍子に通報されるのは面倒だからである。
「一応変装っぽいことをしておくか」
まあそれでもできるのは頭にタオルを巻いてみるくらいだが。
「ぷっ、どうしたのさ。似合ってないからやめたら?」
「そういう気分なんだ」
「兄ちゃんは変な人なんだな」
てくてくと港を離れ歩いていくと、広場へ到着した。天気もいいし、散歩や井戸端会議をしている主婦らしき人がいてとても平和だ……
「アウロラ様を一緒に称えませんか」
「アウロラ様に祈りを捧げて世界の崩壊を食い止めましょう!」
「アウロラ様! ばんざぁぁぁい!」
白いローブを着た一団が募金箱らしきものをもって何やら勧誘をしてるようだ。
正直、フードで顔が隠れているため怪しさ大爆発である。あ、女の人に引っぱたかれた。
それでもめげずに勧誘をしていると、顔色の悪い女性がフラフラとその一団に寄っていくのが見えた。
「……あの、アウロラ様を崇めれば救われますか……?」
「もちろんです! 入信希望ですか? 今なら特別価格1万セラ。特典として『幸せになれる羽毛布団』をおつけしますよ!」
「まあ……いいですね……それじゃ……」
すると、焦ったユーキが大声で叫びながら女性に駆け寄って行った。
「母ちゃんまた! ダメだってそういう胡散臭いのに頼っちゃ! お金は俺が何とかするから」
「ユーキ……?」
「胡散臭い、とは聞き捨て成りませんね。女神アウロラ様を崇める『デヴァイン教』の神官として。いいですか、この世界はアウロラ様がお創りになられたのです。全ての者はアウロラ様に感謝を……」
ずい、っとユーキに顔を近づけくどくどと説教をしだす神官とやら。涙目になってきたユーキを助けるため、俺はユーキを下がらせ、代わりに対応する。
「そこまでにしとけよ。宗教は自由だが、興味の無いヤツにしつこく言うのは迷惑でしかないぞ」
「ふむ、一理ありますね……無理矢理、というのはアウロラ様も望んではおられないと思うのであなたに免じてここはこちらが退き下がりましょう」
「そうしてくれ。俺は宗教ってやつが大嫌いでな」
「それは残念。しかし、話を聞けばきっとあなたのような方でもアウロラ様に感謝をすることになるでしょう」
「ふん……あの女神、あの世でもこの世でも絡んで来るんだな……」
「なんですと?」
俺がふいに呟いた言葉に反応する神官とやら。地獄耳め。
まあ会ったことがあるっていっても信じないだろうが、下手に刺激するのは良くないので適当にしらばっくれておくか。
「何でもない。行こうユーキ」
「う、うん。ほら、母ちゃんも」
「分かったわ……」
俺達が離れようとすると、表情は伺えないが口元をニコリとさせてデヴァイン神官は言う。
「気が向いたらいつでもどうぞ。アウロラ様は全ての人間の味方ですので……」
「へいへ……!?」
頭を下げた神官の首からじゃらりと鎖が垂れ、その先にあったモノを見て俺は胸中で驚いた。
「(あれは……メダリオン!? あれはこいつらの持ち物だったってのか……? しかしアウロラはいけ好かないが女神だ。メリーヌ師匠に渡した邪法を使うとは思えないが……)」
手がかりを偶然見つけた俺だが、今それを追及しても意味が無い。出したとしてもこいつらが知っているとは限らないし、しらばっくれられたらアウト。下手をすると目をつけられかねない。
デヴァイン教ね、覚えておこう。
「兄ちゃん、何してるんだ? 行こうよ!」
「今行く!」
ひとまず俺はこの場を離れることにした。
◆ ◇ ◆
「毎度ー!」
「ふう……美味しかったです……」
「流石におすすめだけのことはありましたね」
結局、ウェスティリア達は船乗りたちに連れられ、お店へと入り、昼食を奢ってもらっていた。船乗りたちは名残惜しそうにしていたが、酒盛りを始めた彼等に付き合うことはできなかった。
「それはいいですけど、魔王様はどうなりました?」
ウェスティリアとリファが満足そうにしていると、ルルカが呆れた声で腰に手を当てながら言うと、ウェスティリアがギクリと体を震わせてからこめかみに指を当てて唸り始めた。
「ムムム……ふう……また少し遠くなっていますね、こちらから感じます」
「船でどこかに行ったわけじゃないなら良かったですね。近いならすぐ会えるでしょう」
ホッとした様子でため息を吐き、ウェスティリアの指す方向へと三人は歩き出した。
「……天気が良いですね、食べた後だと眠くなります……」
「ダメですよ!? もうすぐなんですから! さっきまであんなに必死だったのに!」
「お嬢様、流石に今回は私も庇いきれないですよ。魔王様を探すなら早い方がいいでしょう?」
「……うん……」
リファに手を引っ張られながらてろてろと歩いていると、一時間ほど前にカケルがいた広場へとやってきた。まだ神官たちは勧誘を続けている。
「げ、デヴァイン教……」
「面倒だ、遠回りして行こう」
「アウロラ様を崇めませんか!」
「「ぎゃあああああ!?」」
ルルカとリファが同時に頷いたところで、先程の神官がぬっと目の前に現れた。だが、こちらも負けてはいない。
「出たな悪霊ー」
「ぶべら……!?」
寝ぼけたウェスティリアが杖を大きく振りかぶり、神官の脳天へと直撃させた!
「ぐぬう……」
「だ、ダメですお嬢様。いけ好かないデヴァイン教の人間だからと言って暴力はダメです」
「あんたも大概だよね……」
「ふあ?」
頭をフラフラと揺らしながら曖昧に返事をするウェスティリア。それを見て神官は口をへの字に曲げて呟いた。
「……これはこれは魔王様でしたか……どおりで野蛮な行動だと思いましたよ。まるで『ヘルーガ教』のようですね」
するとルルカが少しムッとして神官に指を突きつけながら言葉を返す。
「あいつらと一緒にされるのは心外ね。確かにお嬢様はちょっと……いえ、かなりアレだけど、犯罪はしていないわよ」
「ふん、我々からしてみれば似たようなものですがね。力を思うがまま振るって民に重圧をかけている自覚はおありではないのでしょうか? それこそ厚顔無恥というものでは?」
ああ言えばフォーユー……もといああいえばこういう。一人ならくだらない説教をして勧誘をしてきて、ウェスティリアという魔王と一緒ならこうやって難癖をつけてくるため関わりたくないと思っていたルルカだったが、ここで空気だったリファが神官に楯突いた。
「貴様、お嬢様を侮辱することは許さんぞ? 出るとこ出ても構わないんだがな、こちらは!」
「そうやって人を脅すということが野蛮だと言っているのです。その胸についたモノを少しは頭にまわせないものですかね? ぺっ!」
「う、うう……」
一秒で負けていた。
「はいはい、そこまでよ。ボク達は急いでるんだ、君達に関わっている暇は無いんでね。ほら行きますよお嬢様」
「うん……」
もう限界のようでがっくんがっくんと首が揺れているのを見て、リファが慌てて体を抑え、そのまま背負った。
「それじゃあせいぜい胡散臭い勧誘でも頑張ってね」
「痛み入ります。その魔王様に愛想をつかしたらいつでも入信を。アウロラ様はどんな者にも慈悲を与えてくれます」
「それはどーも。行くわよリファ」
「あ、ああ……べー」
「子供かあんたは!?」
ルルカがリファを小突きながらその場を離れていく。この調子では探すのは難しいか、と一旦宿屋へと戻る一行。
「というか……え? ボク達宿から出てお昼食べただけじゃない!? ちょっと、やっぱり起きなさいお嬢様! お嬢様ぁぁぁぁ!」
ルルカの叫びが陽気の中響き渡った。
一方、無事に鍛冶屋へと辿り着いたカケル達は――
25
あなたにおすすめの小説
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む
凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる