俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

文字の大きさ
72 / 253
第三章:出会ってしまった二人編

第六十五話 出会ってしまった二人

しおりを挟む

 「台所借りるよ、ユーキ、それとノーラさんも手伝ってくれ」

 「はーい!」

 「……渋々ですがいいでしょう……」

 身体弱いくせに口だけは達者だなこの人……。

 さて、台所へ到着したのでタコ焼きを作るため、まずはタコを茹でる所から始めるとしよう。桶からタコを取り出し、まな板の上へと乗せる。

 「うへ……ぬるぬる……」

 ユーキが嫌そうに言うのを横目で見ながら、まず内臓を取って捨て、締める。

 「へえ、そうやって取るのか……あ、スミ袋?」

 「タコのスミは毒だから触るなよ? 洗い流せば大丈夫だけど。お次はぬめり取りだ」

 「どうやるの?」

 「こいつだ」

 俺はカバンから塩を取り出し、台所へ置く。

 「塩……?」

 「これでタコを洗うんだ、見てろ?」

 塩で揉み洗いし、泡立ったら水で流しまた塩で揉む。最終的にキュキュっとなったら完了である。

 「……ぬるぬるしなくなりましたね」

 最初は俺の近くに居るのを嫌そうにしていたが、興味が出て来たのか、近づいてきてタコを触る。

 「後はこいつを茹でるだけだ。お湯にも塩を入れてっと……」

 タコが茹で上がるまでタコ焼きの粉を作るなどの工程をその間に行い、やり方を二人にも教え、準備を進める。工房で簡易かまどを作っていると茹で上がったらしくユーキから声がかかった。

 「そろそろいいみたいだよー!」

 「よし≪氷塊≫」

 レムルの魔法を参考に、俺は氷を出して氷水を作りタコを冷やすと、立派なゆでだこが出来上がった!

 「上出来だ、このまま醤油をかけて食べてもうまいと思うけど」

 「すげぇなあ。町の料理屋なんかぬめぬめしたまま茹でるからこんなに引き締まったのになってないよ。ねちゃねちゃしてるし……」

 「下ごしらえは必要だからなタコは(スキルのおかげで知っているだけだけど)でもこれなら売れそうだろ?」

 「うん! って、まさか俺達に売らせるために……?」

 「ま、そういうこった。お前がやたら釣って来るなら材料は問題ないだろ? 続けて料理だ」

 ゆでだこの足をブロック状に切り分け、お皿に盛って工房へ。溶いた小麦粉と卵を混ぜたものを熱していたタコ焼き鉄板へと流し込む。

 「ふわあ……」

 「へえ、小麦粉をねえ……」

 ユーキとおっさんが珍しそうに見ているなかで、タコを一切れずつ小麦粉へと投入。じっくりと焼きながら串で転がしていく。

 「……あ、凄い……ハッ!?」

 「はは、ノーラさんもやってみるかい?」

 「おおー……だんだん丸くなってきた……」

 目を輝かせる二人に気をよくした俺は、ころころと転がしたこ焼きの形を作っていく。

 そして――


 「できたぞ、これがタコ焼きだ!」

 「わー♪」

 パチパチと大喜びのユーキが手を叩き、おっさんが「面白れぇもん見せてもらったぜ」と満足げにしていたのをみながらさらに盛り付けていると、そこで重大な事実に気付いた。


 「あ!? そういやソースが無い!?」

 「ソース? なんでもいいの?」

 「う、うーん確か果汁とか野菜とかで煮詰めたやつだったよなあのソースって……あるかな?」

 「……私が買ってきましょう」

 「あ、お願いします」

 いい匂いがするせいか、いそいそと外に出るノーラさんにお金を渡してしばらくすると何種類かのソースを買ってきてくれた。

 「それじゃ、いただきます!」

 「いやったー! 熱い!?」

 ハフハフ、と口の中へ放りこんだたこ焼きを眉をしかめながら食べる。この熱さこそたこ焼きだ!

 「お、これがオクトパスか? こりっとして美味いな。生臭さもないし、お前腕のいい料理人か?」

 「いや、冒険者だ」

 「……美味しい……」

 結局、塩、ソース(偶然それっぽいのがあった)、魚のだし汁といったバリエーションを楽しみ、続いてたこ足のから揚げへと移った。これもシンプルながら、買っておいたレモン果汁をかけてお楽しみいただくと、おっさんが俺に言う。

 「酒のつまみにぴったりじゃないかこれ! この鉄板少しまけてやるから作り置きしてくんねぇか?」

 「気に入ったんなら作るよ、金はいいさ。ただ一つお願いがあってな……」

 「何だ?」

 「それは――」




 ◆ ◇ ◆



 そして翌日のこと――

 
 「お嬢様、今日はどうなさいますか?」

 「はい、もちろん魔王を探しに行きます。今日で絶対見つけますから!」

 結局、デヴァイン教とのいざこざの後、ウェスティリアは朝までぐっすり眠り、現在朝9時を過ぎたところだった。流石に寝過ぎたのを反省したのか、今日はやる気に満ちている。

 「でも食べ歩きをしちゃうんでしょう?」

 プチトマトを口に入れながらルルカが疑惑の眼差しをウェスティリアへと向け、ギクリと体を震わせるウェスティリアが口を開いた。

 「だ、大丈夫です。今日は朝ごはんを食べました。昨日は朝ごはんを食べずに急にお昼を食べたのがいけなかったんです。最悪お昼を食べないで探しますから!」

 「そんな悔しそうな顔をされても……」

 到着すればすぐ終わるかと思っていたのでルルカはアテが外れたと渋い顔。それでも反省は見られるのでいいか、と気を取り直した。

 「反応はどうですか?」

 「ムムム……それなりに近いところに感じるので、船で出ていったりはしていなさそうです。早速行きましょう」

 朝ごはんをしっかり平らげ、ウェスティリア達は宿を後にして再度感知をすると、市場の方向でそれらしい感じがすると歩き出した。

 「ん、動いていませんね。今日は会うことができそうです」

 「それは良かったです。研究をほっぽりだしてるから早く帰りたいんですよねー」

 「ルルカ……最近本音がだだ漏れじゃないか?」

 「いいじゃない! ボクだって愚痴を言いたいときはあるよ!」

 「そうですね、ルルカのためにも早く……おや、あれは……?」

 三人がじゃれあっていると、ウェスティリアが人だかりを目にする。市場において人だかりがあるのはおかしくないが、ちょっと多いような気がするのだ。

 「なんでしょうね? お祭りでもないし。ん? 人だかりから出てくる人、何か手に持ってますね」

 「私が聞いてみよう。もし、そこの御仁、少しいいか?」

 「あん? 何だ? 俺は今からこのアツアツのたこ焼きってのを食べるんだ、邪魔しないでくんな!」

 「たこ焼き? 食べ物、ですか?」

 「おうよ、今日から屋台を出したらしいんだが、試食で一個食わせてくれるとか贅沢な客寄せをやってやがってよう。食って見たらこれが美味いのなんの……しかも一パック400セラで9個も入ってるんだが、商売もうめぇ、ちょっと足りなくてつい二パックめに手が出ちまう! これがそれなんだけどな! 売切れる前に嬢ちゃん達も買っておいた方がいいぜ!」

 おじさんはアチチ……と顔をしかめながら口にボール状の食べ物を入れながら去って行くのを見届けていると、ルルカがハッとなって声をあげる。

 「マズイ! お嬢様!」

 「い、居ない!?」

 「リファ、あそこよ!」

 おじさんのたこ焼きはできたてで大層いい匂いを出していた。そこへウェスティリアが食いつかないはずはない。フラフラと吸い寄せられるように人だかりへ向かっていくのが見えた。

 「だ、ダメですよ! 食べたらまた眠くなります! 今日はちゃんと探さないと……」

 「大丈夫です。この人だかりに反応があります。この中の誰かが魔王のようです」

 「涎を拭いてくださいよ……」

 説得力の欠片も無いだらしない顔で力説をするウェスティリアを見て、呆れながら呟くが、ルルカは諦めたようにため息を吐いた。

 「はあ……食べたら寝ないでださいよ? というか朝ごはん食べたばかりでよく食べる気になりますね」

 ルルカは基本優しいので、こうなったら動くまいと仕方なく付き合うことにしたのだった。

 「ルルカは話が分かりますね。先程のおじさまのを見る限り分けて食べることができそうでしたから、一パックだけ買いましょう」

 「あー、なるほど。ま、確かに聞いたことない食べ物には興味がありますけどね……って、どうしたんです?」

 ウェスティリアが近くに居る人の手をさりげなく触っていることに気づき尋ねた。
 
 「いえ、直接触れば間違いなく分かるので、手当たり次第にあたっているところです」

 「流石はお嬢様! きちんと目的を忘れておられませんでしたね!」

 「だいぶ二の次だけどね……あ、次がボク達の番ですよ」

 「ふう、どこにいるんでしょうか……」

 ウェスティリアがため息を吐くと、順番が回ってきた。

 「いらっしゃい、いくつ欲しいんだ?」

 目の前に居たのは黒目黒髪の男がウェスティリアに微笑みかけながらいくつ欲しいのかを聞いて来ていた。目があった瞬間、ウェスティリアの心臓がドクン、と動いた。

 「ひ、一パックお願いします!」

 「一パックだな。熱いから気を付けて食べてくれ」

 「あ、ありがとうござい……ち、違いますそうじゃなくて……」

 しどろもどろで声をかけようとするウェスティリアにたこ焼きを差し出す男。そしてそれを反射的に受け取った時……。

 「ビリッときた!?」

 「バチってしたああ!?」


 「や、やはり……あなたが……」

 「な、何だ? 今あんたが何かしたのか?」

 痺れた手を恐る恐るさすりながら、訝しんだ目をウェスティリアに向ける男に、ウェスティリアは告げた。

 「あなたが探していた新しい魔王なのですね!」

 「んな……!?」

 ウェスティリアの大きな声が空に響き、男……カケルの顔は雲一つない空のように……青ざめていたのだった

しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...