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第三章:出会ってしまった二人編
第六十五話 出会ってしまった二人
しおりを挟む「台所借りるよ、ユーキ、それとノーラさんも手伝ってくれ」
「はーい!」
「……渋々ですがいいでしょう……」
身体弱いくせに口だけは達者だなこの人……。
さて、台所へ到着したのでタコ焼きを作るため、まずはタコを茹でる所から始めるとしよう。桶からタコを取り出し、まな板の上へと乗せる。
「うへ……ぬるぬる……」
ユーキが嫌そうに言うのを横目で見ながら、まず内臓を取って捨て、締める。
「へえ、そうやって取るのか……あ、スミ袋?」
「タコのスミは毒だから触るなよ? 洗い流せば大丈夫だけど。お次はぬめり取りだ」
「どうやるの?」
「こいつだ」
俺はカバンから塩を取り出し、台所へ置く。
「塩……?」
「これでタコを洗うんだ、見てろ?」
塩で揉み洗いし、泡立ったら水で流しまた塩で揉む。最終的にキュキュっとなったら完了である。
「……ぬるぬるしなくなりましたね」
最初は俺の近くに居るのを嫌そうにしていたが、興味が出て来たのか、近づいてきてタコを触る。
「後はこいつを茹でるだけだ。お湯にも塩を入れてっと……」
タコが茹で上がるまでタコ焼きの粉を作るなどの工程をその間に行い、やり方を二人にも教え、準備を進める。工房で簡易かまどを作っていると茹で上がったらしくユーキから声がかかった。
「そろそろいいみたいだよー!」
「よし≪氷塊≫」
レムルの魔法を参考に、俺は氷を出して氷水を作りタコを冷やすと、立派なゆでだこが出来上がった!
「上出来だ、このまま醤油をかけて食べてもうまいと思うけど」
「すげぇなあ。町の料理屋なんかぬめぬめしたまま茹でるからこんなに引き締まったのになってないよ。ねちゃねちゃしてるし……」
「下ごしらえは必要だからなタコは(スキルのおかげで知っているだけだけど)でもこれなら売れそうだろ?」
「うん! って、まさか俺達に売らせるために……?」
「ま、そういうこった。お前がやたら釣って来るなら材料は問題ないだろ? 続けて料理だ」
ゆでだこの足をブロック状に切り分け、お皿に盛って工房へ。溶いた小麦粉と卵を混ぜたものを熱していたタコ焼き鉄板へと流し込む。
「ふわあ……」
「へえ、小麦粉をねえ……」
ユーキとおっさんが珍しそうに見ているなかで、タコを一切れずつ小麦粉へと投入。じっくりと焼きながら串で転がしていく。
「……あ、凄い……ハッ!?」
「はは、ノーラさんもやってみるかい?」
「おおー……だんだん丸くなってきた……」
目を輝かせる二人に気をよくした俺は、ころころと転がしたこ焼きの形を作っていく。
そして――
「できたぞ、これがタコ焼きだ!」
「わー♪」
パチパチと大喜びのユーキが手を叩き、おっさんが「面白れぇもん見せてもらったぜ」と満足げにしていたのをみながらさらに盛り付けていると、そこで重大な事実に気付いた。
「あ!? そういやソースが無い!?」
「ソース? なんでもいいの?」
「う、うーん確か果汁とか野菜とかで煮詰めたやつだったよなあのソースって……あるかな?」
「……私が買ってきましょう」
「あ、お願いします」
いい匂いがするせいか、いそいそと外に出るノーラさんにお金を渡してしばらくすると何種類かのソースを買ってきてくれた。
「それじゃ、いただきます!」
「いやったー! 熱い!?」
ハフハフ、と口の中へ放りこんだたこ焼きを眉をしかめながら食べる。この熱さこそたこ焼きだ!
「お、これがオクトパスか? こりっとして美味いな。生臭さもないし、お前腕のいい料理人か?」
「いや、冒険者だ」
「……美味しい……」
結局、塩、ソース(偶然それっぽいのがあった)、魚のだし汁といったバリエーションを楽しみ、続いてたこ足のから揚げへと移った。これもシンプルながら、買っておいたレモン果汁をかけてお楽しみいただくと、おっさんが俺に言う。
「酒のつまみにぴったりじゃないかこれ! この鉄板少しまけてやるから作り置きしてくんねぇか?」
「気に入ったんなら作るよ、金はいいさ。ただ一つお願いがあってな……」
「何だ?」
「それは――」
◆ ◇ ◆
そして翌日のこと――
「お嬢様、今日はどうなさいますか?」
「はい、もちろん魔王を探しに行きます。今日で絶対見つけますから!」
結局、デヴァイン教とのいざこざの後、ウェスティリアは朝までぐっすり眠り、現在朝9時を過ぎたところだった。流石に寝過ぎたのを反省したのか、今日はやる気に満ちている。
「でも食べ歩きをしちゃうんでしょう?」
プチトマトを口に入れながらルルカが疑惑の眼差しをウェスティリアへと向け、ギクリと体を震わせるウェスティリアが口を開いた。
「だ、大丈夫です。今日は朝ごはんを食べました。昨日は朝ごはんを食べずに急にお昼を食べたのがいけなかったんです。最悪お昼を食べないで探しますから!」
「そんな悔しそうな顔をされても……」
到着すればすぐ終わるかと思っていたのでルルカはアテが外れたと渋い顔。それでも反省は見られるのでいいか、と気を取り直した。
「反応はどうですか?」
「ムムム……それなりに近いところに感じるので、船で出ていったりはしていなさそうです。早速行きましょう」
朝ごはんをしっかり平らげ、ウェスティリア達は宿を後にして再度感知をすると、市場の方向でそれらしい感じがすると歩き出した。
「ん、動いていませんね。今日は会うことができそうです」
「それは良かったです。研究をほっぽりだしてるから早く帰りたいんですよねー」
「ルルカ……最近本音がだだ漏れじゃないか?」
「いいじゃない! ボクだって愚痴を言いたいときはあるよ!」
「そうですね、ルルカのためにも早く……おや、あれは……?」
三人がじゃれあっていると、ウェスティリアが人だかりを目にする。市場において人だかりがあるのはおかしくないが、ちょっと多いような気がするのだ。
「なんでしょうね? お祭りでもないし。ん? 人だかりから出てくる人、何か手に持ってますね」
「私が聞いてみよう。もし、そこの御仁、少しいいか?」
「あん? 何だ? 俺は今からこのアツアツのたこ焼きってのを食べるんだ、邪魔しないでくんな!」
「たこ焼き? 食べ物、ですか?」
「おうよ、今日から屋台を出したらしいんだが、試食で一個食わせてくれるとか贅沢な客寄せをやってやがってよう。食って見たらこれが美味いのなんの……しかも一パック400セラで9個も入ってるんだが、商売もうめぇ、ちょっと足りなくてつい二パックめに手が出ちまう! これがそれなんだけどな! 売切れる前に嬢ちゃん達も買っておいた方がいいぜ!」
おじさんはアチチ……と顔をしかめながら口にボール状の食べ物を入れながら去って行くのを見届けていると、ルルカがハッとなって声をあげる。
「マズイ! お嬢様!」
「い、居ない!?」
「リファ、あそこよ!」
おじさんのたこ焼きはできたてで大層いい匂いを出していた。そこへウェスティリアが食いつかないはずはない。フラフラと吸い寄せられるように人だかりへ向かっていくのが見えた。
「だ、ダメですよ! 食べたらまた眠くなります! 今日はちゃんと探さないと……」
「大丈夫です。この人だかりに反応があります。この中の誰かが魔王のようです」
「涎を拭いてくださいよ……」
説得力の欠片も無いだらしない顔で力説をするウェスティリアを見て、呆れながら呟くが、ルルカは諦めたようにため息を吐いた。
「はあ……食べたら寝ないでださいよ? というか朝ごはん食べたばかりでよく食べる気になりますね」
ルルカは基本優しいので、こうなったら動くまいと仕方なく付き合うことにしたのだった。
「ルルカは話が分かりますね。先程のおじさまのを見る限り分けて食べることができそうでしたから、一パックだけ買いましょう」
「あー、なるほど。ま、確かに聞いたことない食べ物には興味がありますけどね……って、どうしたんです?」
ウェスティリアが近くに居る人の手をさりげなく触っていることに気づき尋ねた。
「いえ、直接触れば間違いなく分かるので、手当たり次第にあたっているところです」
「流石はお嬢様! きちんと目的を忘れておられませんでしたね!」
「だいぶ二の次だけどね……あ、次がボク達の番ですよ」
「ふう、どこにいるんでしょうか……」
ウェスティリアがため息を吐くと、順番が回ってきた。
「いらっしゃい、いくつ欲しいんだ?」
目の前に居たのは黒目黒髪の男がウェスティリアに微笑みかけながらいくつ欲しいのかを聞いて来ていた。目があった瞬間、ウェスティリアの心臓がドクン、と動いた。
「ひ、一パックお願いします!」
「一パックだな。熱いから気を付けて食べてくれ」
「あ、ありがとうござい……ち、違いますそうじゃなくて……」
しどろもどろで声をかけようとするウェスティリアにたこ焼きを差し出す男。そしてそれを反射的に受け取った時……。
「ビリッときた!?」
「バチってしたああ!?」
「や、やはり……あなたが……」
「な、何だ? 今あんたが何かしたのか?」
痺れた手を恐る恐るさすりながら、訝しんだ目をウェスティリアに向ける男に、ウェスティリアは告げた。
「あなたが探していた新しい魔王なのですね!」
「んな……!?」
ウェスティリアの大きな声が空に響き、男……カケルの顔は雲一つない空のように……青ざめていたのだった
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