俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

文字の大きさ
80 / 253
第四章:風の国 エリアランド王国編

第七十三話 穏やかな船旅

しおりを挟む


 ――出航から一日が経った。

 とりあえず現時点ではトラブルも無く快適な船旅を満喫できており、このままフエーゴまでのんびり過ごさせてもらうことができそうだった。

 「……というかこの世界にきてからトラブルしかなかった気がするな……」

 思い返してみれば死にかけるか追い回されるかばかりだった。この世界にきてようやく周りの目を気にせずゆっくりできる。一応、『運命の天秤』で船員やティリア、ルルカ、リファを見てみたけどトラブルになりそうな感じは無かったということも付け加えておこう。

 そんな俺は今、甲板にあったベンチシートのようなものに寝転がって太陽の光を浴びながらむにゃむにゃしているのだ。

 「たまにはステータスを見ておくか……」


 【壽命 懸じゅみょう かける

 レベル:6

 HP:383

 MP:3797

 ジョブ:回復術士(主:槍 副:剣)+回復魔王

 力:26

 速:23

 知:12

 体:22

 魔:32

 運:17

 【スキル】

 回復魔王(ヒール ハイヒール)

 地獄の劫火

 炎弾
 
 能力値上昇率アップ

 全魔法適正

 全武器適性

 ステータスパラメータ移動

 【特殊】

 寿命:99,999,824年

 魔王の慈悲:相手に自らの寿命を与えて回復させることができる。

 生命の終焉:触れた相手の寿命を吸い取る事ができる。スキルが強力になると一瞬で絶命させる事も可能
 
 ナルレアレベルアップやスキルを覚えた際、音声で色々と知らせてくれる。(音声説明アシストとTIPSが合成されました)

 追憶の味:自身が飲み食いした料理について限りなく再現可能になり、食材を見極めることもできる。

 運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&――

 

 「『ナルレア』と『追憶の味』、それと寿命が少し減ったくらいか。相変わらず運命の天秤は良く分からんし、レベルも上がってないな。新しい町に着いたらユニオンに行って魔物を倒してレベリングしとくか? 師匠に会う前に鍛えておかないと色々言われそうだし……あれ、そういえばジョブがついて消費MPの表記が消えた?」

 <はい、回復魔法ばかり使っていたので回復術死……もとい術士として認識されたようです。消費MPはカケル様の魔法は消費を変えることで効果も変わるためあえて標準値を消しました>


 ナルレアが声をかけてきて説明してくれた。物騒なワードはスルーしておこう。

 「とりあえずあまり変わり映えしないことは分かったから、まあ次の町へ着いてからだな……ふあ……」

 <まだ寝られるのですか?>

 「ああ、たこ焼き屋は仕込とかで割と朝早かったからな。後一日くらいがぐだぐだしておきたい……」

 俺がベンチシートで寝返ると、眼前にビーチソファのような椅子で寝転がっている三人を見つけた。鎧を外したリファとルルカの足が眩しい。

 <……声をかけないのですか?>

 「勿論だ。あいつらとは行き先が同じなだけだからな。あえて面倒事に首を突っ込む必要もないだろ。話し相手ならお前が居るし」

 <そ、そうですね! では、そっとしておきましょう……あ、寝ないでくださいよ。話相手ですよ、ほら!>

 「少しだけでいいから……」

 ナルレアとそんな押し問答をしばらく繰り返していると体を揺すられた。

 「カケルさん? 寝ているんですか?」

 ティリアだった。目を瞑っているが、影が差したことを感じられるのでおそらく覗き込んでいるのだろう。しかしあえて俺は寝たふりを続行する!

 「……寝てますか……」

 「いえ、お嬢様、カケルは起きているはずです。さっきボク達の方へ嫌らしい目を向けていましたから」

 見られていた!? 恐るべしルルカ。お前本を読んでいただろうに……!

 「リファ」

 「分かった」

 リファが返事をすると、同時に俺の鼻と口がふさがれた!?

 「ふむ!? ふむむむむ!?」

 「あ、起きてますね!」

 「フフフ、顔が真っ赤だぞカケル! うひゃあ!?」

 「そら、鼻と口を塞がれたそうなるわ!? お前も仲間に入れてやる!」

 「あ、ちょ……ふごごご!?」



 カンカンカン!



 「ふう……で、どうしたんだ、リファをけしかけたりして?」

 ベンチシートにぐったりしたリファを寝かせながら俺はティリアに尋ねると、ティリアは念のために、と前置きをして聞いてきた。

 「一つ気になったんです。カケルさんの能力、それを聞いておきたくて。例えば私なら光翼の魔王なので、光属性の能力は十全に使えます。今から行くフエーゴの炎烈の魔王は火や炎全般といった感じですね。属性はすべて埋まっているのでカケルの能力はなんだろうと思いまして」

 「能力、か? ジョブで見ると『回復魔王』ってなっているな」

 「回復魔王、ですか?」

 「ああ。アウロラがこっちに送ってくれる時に何でも好きな能力をくれるってんで『回復魔法』って書いたんだよ。でも、到着してみたら『回復魔王』になっててな……スキルについては弱点になるから教えられないけど、ヒールとかハイヒールが使えるぞ」

 すると今度はルルカが聞いてくる。

 「じゃあカケルさんはアウロラ様が遣わした異世界人ってことなんだ。魔法と魔王を間違えた、ってのは考えにくいけど……スキルをちょっと教えてくれない?」

 賢者だけあって知識欲が勝るのか、キラキラした目で俺を見てくるルルカ。ここで全適性とかを言うと「やっぱりついて来て欲しい」などと言われそうなのでここははぐらかしておこう。

 「いや、レベルも6だし、回復魔法と簡単な攻撃魔法しか使えないな」

 「……『魔王の慈悲』」

 ティリアがボソリと呟き、ギクリと俺の体が強張る。こいつ……覚えていたのか……。

 「……忘れろ」

 「ちょっとだけ」

 「ダメだ」

 「私だけになら」

 「……言うなよ?」

 コクコクと頷くティリアの耳に口を近づけ、能力について教える。

 「エグイですね……それは何にでも使えるのですか?」

 「試したのは人間だけだなあ。あんまり使いたくはないとは思ってるけど、脅しになるから丁度いいんだよ」

 「えーずるいずるい。ボクにも教えてよー」

 「はは、俺と次の町で別れてからティリアに聞きなー」

 「……やっぱりついて来てくれませんか?」

 ルルカが可愛く食い下がり、ティリアがポツリと呟くが、それをスルーし、俺は手を上げて自室へと戻った。食い下がって来ないので何となく口にしただけなのかもしれない。

 夕飯、就寝を経てさらに二日が経過。ティリア達と話す機会も無く、穏やかに過ごしていたが、三日目にまさかの事態が起きた。

 
 「緊急事態ー!! クラーケンが出たぞ!!!」

 朝っぱらからけたたましい鐘の音が鳴り響き、強制的に目を覚まさせられ、俺は慌てて甲板へと駆け出す。すると、すでに来ていたティリア達と合流し、後からぞろぞろと数名の冒険者が躍り出てくる。

 そして目の前には……

 「イカ、か?」

 「いえ、クラーケンです。海の暴れん坊とも言われるAクラスの魔物ですね」

 まあイカだな。そのイカが巨大な頭を海から突き出し、さらに触手で船を抑えている。そのせいで前に進まないようだ。それより気になるのは攻撃してくる素振りが無く、でかい目をぎょろぎょろと動かして何かを探しているようだった。

 「何だ? 攻撃してこないのか?」

 「ならばこちらから仕掛けましょう! なあに、行きでも倒したんですし、今回も……」

 と、リファが叫んだところで、こちらと目があった。ティリア、ルルカ、リファを順番に見た後、白かった体がみるみる内に赤く染まっていき、触手を叩きつけてきた!

 ビターン!!

 「うわ!? な、何だ?」

 俺は横っ飛びで回避して、触手を目で追うと、他の人間には目もくれず、何故か執拗にティリア達を攻撃していた。

 「ほ! っは! せい!」

 「あ!? も、もしかしてこのクラーケン……来るときに倒したクラーケンの親、だったりして……」

 「言われてみれば……そうであれば私達を狙うのは分かりますね」

 リファが剣で器用に触手をあしらっていると、ルルカが何かに気付いた様に小さく呻きながら声を出した。

 「ルルカ! どういうことだ!」

 「実は行きの船でもクラーケンに襲われたんだよ。その時、めっためたにして海の藻屑に変えちゃったんだけど、どうやらこのクラーケン、そいつの親みたいなんだよねー……」

 「マジか……!? おわ!?」

 狙いはティリア達だけのようだが、とばっちりは充分にあるくらいこいつはデカイ。このままじゃ船が沈んでしまうだろう。

 「はあ……レベルアップの足しにさせてらもうか……」

 仕方なく俺は槍を取り出し、クラーケンへと向かっていった。

 
 南海の大決戦が始まる……!

 
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

処理中です...