俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

文字の大きさ
86 / 253
第四章:風の国 エリアランド王国編

第七十九話 前哨戦

しおりを挟む
 ガラガラガラ……

 名前も分からない獣人の女の子を乗せた檻を馬車が引きながら俺達は森の中を歩いていく。森の中とはいえ、町から村や他の町へ移動するための道はあるので、歩きにくいと言うことはない。だが、獣人の子は進むたび顔を青くして俯いている。


 総勢三十人。

 それがゴブリンの群れを討伐するのに集まった冒険者の数だ。本当はもっと欲しかったそうだが、緊急なので、城下町のユニオンから募るのも難しいのでとりあえず今いる戦力をかき集めたとか。俺以外はだいたいパーティを組んでいるそう、先程のゴウリキのような奴でも。

 「へっへ、成長すればいい女になりそうなのに残念だな」

 「どうせゴブリンの中に放り込まれたら死んじまうだけだし、休憩の時楽しませてもらいたいな、がははは!」

 ガシャガシャと檻を揺らしながら下卑た笑いをあげるゴウリキのパーティ。どうかんがえてもおっさんが少女を手籠めにしようとする図しかみえない……俺の考えが見透かされたのか、サンがボソリと声をあげる。

 「……ロリコン」

 「誰だ!? 今俺のことをロリコンって言ったやつあぁ!」

 大声をあげるゴウリキ。すかさずコトハの後ろに隠れるサン。そこで俺がゴウリキに声をかける。

 「別にあんたのことを言っている訳じゃないと思うが、何か心当たりでもあるのか?」

 「う、ぐ……な、なんでもねぇよ!」

 ガシャンと檻を蹴飛ばして前へ出ていき、慌ててメンバーも追いかけて行った。

 「良かったな」

 俺は檻に目を向けると、ジトっとした目で俺を見たあとふいっと顔をそむけた

 「ありゃ……うーん、何か嫌われている?」

 嫌われる程話した覚えはないが、触らぬ獣人にはなんとやら。俺は檻から離れ、ニド達の元へ戻ると、ニヤニヤ笑いながらアルが肩を叩いてくる。

 「わははは! いいねカケル、あいつの顔見たか? レッドスライムみたいに真っ赤だったぜ! なあ、サン」

 「……ぐっ。ロリコンは敵」

 アルの視線の先を見ると、サンがコトハの後ろに隠れながら親指を立てていた。ノリはいい子なのかもしれない。

 「まあ、可愛い子ではあるがな」

 「む。ごにょごにょ……」

 「ぐあ!? コトハ、やめろ!?」

 ニドが獣人の子を可愛いと言った瞬間、コトハが不機嫌になり、怪しげな呪文を唱え、ニドが頭を押さえて苦しんだ。なるほど、この二人はそういう関係か。

 「リーダー、あんまり迂闊なこと言うとコトハが拗ねるから気をつけてくれよ? オレ達にとばっちりがきたら困るぜ?」

 「うぐ、俺ならいいってのか……」

 「そりゃ、恋人でしょうが」

 「ふん」

 中々賑やかなパーティで悪くないと思いながら、雑談をしながら進む。ちなみに檻を引いているのはユニオンの職員で、ユニオンマスターのイクシルと並んでクリューゲルが歩いていた。

 「あのクリューゲルって人はどういう人なんだ?」

 気になって俺がドアールに話しかけると、陽気な彼にしては珍しく言い淀んだ。

 「……あの人か……オレも詳しくは知らないんだけど……」

 何かいいかけた時、ニドが手をひらひらさせながら言う。

 「やめとけやめとけ。詳しく知らない俺達が言っていいことじゃない。知りたいなら直接聞いてみた方がいい」

 「そうだな」

 ま、凄く気になる訳ではないし、とりあえず今はゴブリン退治が先決か。隠れてスマホで時間を確認すると、昼を回っている頃だった。

 「結構歩いたな……」

 俺が呟くと、待ってましたと言わんばかりにイクシルが全員に向かって止まれと声をかけてきた。

 「報告によると、目的地までまだかかる。一旦食事休憩を取るから各自休んでおけよ。一時間後に出発だ!」

 合図でそれぞれ座りやすい場所や木陰を探しに散り、俺も適当な石に腰掛けてカバンから食料を取り出して食べる。あまり重いものは食べないほうがいいだろうと思いリンゴやパンといったもので済ませる。

 遠目からブルーゲイルのメンバーも食事を広げて仲良く話しているようだった。休憩中、特に襲撃を受けたりすることもなくゆっくり休ませてもらった。

 再び移動を開始し、さらに奥へと進んだところで空気が変化したことに気付く。

 「ん? 何か嫌な感じがするな」

 「この辺は道があるけど、そこまで人通りが多い場所じゃないから魔物が出やすいんだ。その気配だな。というかレベル7だって言ってたけど本当? そのレベルでもう気配を悟れるんだ」

 アルが道の脇にある草むらをダガーでガサガサしながら俺の呟きに答えてくれた。魔物の縄張りじゃないけど、町に遠い所に魔物が集まりやすいようだ。するとクリューゲルが槍を構えて森の方を見据えていた。

 「なんだ……?」

 俺もそっちへ目を向けると、草むらから小さな人影が飛び出してきた!

 グォォォォ!

 「ゴブリンか! 気をつけろ、数が多い」

 ドス!

 「指図するんじゃねぇ! おぅら!」

 ザン!

 クリューゲルが先制してゴブリンの脳天を一撃で貫き、ゴウリキに飛び掛かったゴブリンは斧で首を飛ばされた。一応、口だけじゃないみたいだな。

 「≪縛鎖≫!」

 グエ!?

 「動きが止まったな、こいつめ!」

 コトハの呪術で体をびくんと震わせたゴブリンはニドによって脳天を割られ絶命する。その後ろにはドアールと斬り合うゴブリンと、杖を抱きかかえたサンがもう一匹のゴブリンの前をウロウロしていた。あれはマズイか? そういや、アルは? と思っていると、ゴブリンの腕と足に矢が突き刺さる。

 「サン、やっちまえ!」

 「……ええーい!」

 ゴツン、と鈍い音がしてゴブリンが気絶すると、木の上から矢を撃っていたアルが飛びおりて、心臓にダガーを突きたてた。

 「グランツ達よりは強いかな? おっと!」

 よそ見していた俺に草むらから飛び出てきたゴブリンが剣で斬りかかってきた。それを軸をずらして回避し、槍の背をゴブリンの腹に叩きつけて間合いを取った。

 グギャ!?

 「悪いな、討伐させてもらう!」

 がら空きの頭を刺し貫いて絶命させ、続けて別のゴブリンを、と目を動かすと、ゴウリキの背後に一匹振りかぶるヤツがいた!

 「危ないぞ! ≪炎弾≫!」

 ゴウ!

 ギェェェ……

 「チッ、余計なことを……うお!?」

 ゴウリキが毒づくが、ゴブリンの猛攻に先程までの勢いがない。前に出過ぎて囲まれたみたいだな、それでも五体倒しているのは凄いが、ここはもうあいつらのテリトリーだ、いつもと同じ感覚だと痛い目を見るってところだな。俺がフォローに入ろうとしたが、その前にクリューゲルが切り開いてくれた。

 「はあ!」

 グゲ!

 ギャア!?

 「す、すまねぇ……」

 「一旦下がるんだ、向かってくる奴だけ叩くぞ」

 おう、カッコいいな。あっちは大丈夫か、なら他のパーティを……

 「~! ~!!」

 キケケケケ!!

 ガッシャンがッシャン音がし、そっちを見ると檻を揺らしながら歓喜の声をあげるゴブリン達が獣人を見て舌なめずりをしていた。足元には職員や冒険者が倒れていたり、イクシルが押されていたりと苦戦していた。

 「案外頭がいいな!」
 
 戦力が集中した所で、別働隊が弱いところから崩す感じだろう。ゴウリキ達がおびき寄せられていたので、確信犯だったのかもしれないな。

 「たありゃぁ!」

 檻に組みついたゴブリン達を串刺しにして群れに投げつけると、やつらは少し怯み、様子をみるようにジリジリと動く。

 「む、新人か、あっちは?」

 「ブルーゲイルとクリューゲルがいるから多分大丈夫だ、手伝うぞ」

 「ならこいつらを回復させてやってくれんか? 雑魚でも戦力は多い方がいい」

 なるほど、嫌みな奴だがマスターだけあって冷静だし頭は回るか。だが、目の前の数はまだ二十はいる。こっちは俺を含めて十人程度だ、回復した端からボコられそうなので、俺は魔法を使うことにした。

 「先に何匹か潰してからそうしよう」

 「何?」

 イクシルが何かを言う前に俺は魔法をゴブリンの群れへ放った。
 
 「≪地獄の劫火≫」

 <威力まいるどバージョンです♪>

 ナルレアがいらん横槍を入れるが、構わずぶっ放す!

 ゴ……!

 「え?」

 冒険者が気の抜けた声をあげた瞬間、着弾と同時に大爆発を起こした!

 ドォォォォン……!

 ギィエギェ!?

 ギャァァァァ!

 ……!?
 
 ――!

 ……


 何匹か逃がしたけど、跡形もなくゴブリン達は消滅した。

 「な、なんだありゃ……」

 「フッ、やはりな」

 ゴウリキ達が相手にしていたゴブリン達も慌てて退散し、森に静けさが戻る。

 「お、お前は一体……」

 「ふう、何とかなったな。あれ? どうしたんだ、ボーっとして? おお、そうか回復してやらないとな」

 何故か呆然としている冒険者達を尻目に倒れていた冒険者をヒールで回復していく。全員回復させた後もイクシルが呆然としているので、俺は声をかけた。
 
 「おい、回復終わったぞ? どうするんだ、あいつらを追うか? それとも少し休むか?」

 ハッとしたように俺を見て、イクシルは眼鏡をくいっと上げてから声をあげた。

 「あ、ああ……一旦ここで休憩とする! まだ怪我人がいれば回復魔法を使える者に頼むかユニオンの薬を使え!」

 まあやっぱり休むよな。それぞれ腰を降ろしたりしているので、俺はニド達のところへ戻る事にした。

 「お疲れー、いやあニド達、強いな! 見てたけどいい連携だよな!」

 「……カケル一人でゴブリンをぶっ飛ばしておいてどの口が言うんだよ!?」

 よく見ればみんな目を丸くして俺を見ていた。

 あれ? もしかしてまたやっちゃった……?

 
しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。

いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。 そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。 【第二章】 原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。 原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...