俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

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第四章:風の国 エリアランド王国編

第九十一話 いつもこうだと助かるご都合主義

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 「急な訪問、申し訳ありませぬクリューゲル様。そちらに光翼の魔王、ウェスティリア様がいらっしゃるとお伺いしたもので、是非国王がお会いしたいと……」



 光翼の魔王であるティリアが荷物検査の時に知られているのは分かっていたが、俺が思うより早く国王側が動いた。

 そう、翌朝早々に城からの使者がクリューゲルの屋敷へやってきたのだ。まあクリューゲルと一緒のところを見られているのでここに来るのは間違いではない。
 それに城へティリアが出向いたとしても、バウムさんの仲間だと警戒されて門前払いされるまでは考えていたので、向こうから会ってくれるなら願っても無いチャンス。

 ……なんだけど、こちらのことをどこまで掴んでいるかで吉と出るか凶と出るかが決まる。少なくとも俺は姿を隠しておく必要があるので、見えない所からやりとりだけ聞いておく。

 「……確かにいらっしゃるが、まだお休みになられている。急に来られてはウェスティリア様も驚かれるだろう、話はしておくので一度引き取ってはいただけないだろうか?」

 すると、人の好い笑みを浮かべた男は額の汗を拭く仕草をしながらクリューゲルへと確認を始めた。

 「そういうことならば……と、言いたい所ですが、手ぶらで帰っては私どもも何を言われるか分かりません。失礼だと思いますが、準備ができるまで待たせていただくことは可能でしょうか……?」

 「……今の国王なら死罪くらはやりかねんか。分かった。こっちで待っていてくれ」

 クリューゲルが昨日俺達と話しあいをした応接室へ案内しはじめた。男の後ろには槍を携えた騎士が二人、遅れて歩くのが見える。

 「(ご丁寧なことで……とりあえず魔王相手に戦いを起こす気はないと思いたいが……)」

 男達が入った後、俺は入れ違いで外に出る。

 少し手順は変わったけどやることは変わらない。俺は手早く『速』をフルにしておこうとステータスを開く。


 「デブリンを倒したら一気にレベル上がってたんだよな……」


 【ジュミョウ=カケル】

 レベル:10

 HP:1930

 MP:19220
 
 力:38

 速:35

 知:23

 体:34

 魔:52

 運:29


 【スキル】

 回復魔王(ヒール ハイヒール)

 魔法:炎弾 風刃 氷の楔 地獄の劫火

 剣技:斬岩剣

 能力値上昇率アップ 全魔法適正 全武器適性 ステータスパラメータ移動 全世界の言語習得:読み書き

 【特殊】

 寿命:99,999,687年

 魔王の慈悲:相手に自らの寿命を与えて回復させることができる。

 生命の終焉:触れた相手の寿命を吸い取る事ができる。スキルが強力になると一瞬で絶命させる事も可能

 ナルレア:レベルアップやスキルを覚えた際、音声で色々と知らせてくれる。(音声説明アシストとTIPSが合成されました)

 追憶の味:自身が飲み食いした料理について限りなく再現可能になり、食材を見極めることもできる。

 運命の天秤:死ぬ運命にあった人間を助けようとすると、自身の寿命が減る代わりに死の運命を傾ける事が出来る。ただし#$%&――
 
 今のステータスはこんな感じで、クラーケンを倒した時に1レベル。デブリンを倒した時に3レベル上がり、現在はレベル10だ。

 スキルは相変わらずだけど、魔法と剣技が別に振り分けられていた。

 <私が整理しました>

 と、ナルレアが言う。HPとMPがおかしい数値な気がしたけど、これで正常らしい。そしてチェルを救ったことで微妙に寿命が減っている。末尾が824だったはずだから137年減ったのか。チェル長生きだな……。バウムさんの分は減っていないところを見ると、ハイヒールで回復したのが良かったのか?

 「そういえば……」

 ふと、ステータスを見て気付いたことがある。『回復魔王(ヒール ハイヒール)』だ。この二つは何で魔法に分類されていないんだ?

 <……カケル様、そろそろ行きませんと>

 「ん? ああ、そうだな」

 ナルレアに言われて庭を見ると、丁度ティリア達が出てくるところだったので、サクっと『速』を60にしてから一気に駆け出す。

 「うわ!? 速っ!?」

 <100まで行くと残像が残りますよ>

 「マジでか!?」

 <多分!>

 嘘かよ!? 

 城が近くなってきたので、俺は見張りの居ない場所を選び、城壁を飛び越えて城の庭へと着地する。

 「さて、ここからが本番だな……こういう時、姿を消すスキルとかあると便利なんだけどなあ」

 草むらに隠れて兵士や騎士をやり過ごしていると、ナルレアがおもむろに言葉を発する。

 <作られては?>

 「はあ?」

 <『知』が20を越えてましたよね? 魔法かスキル、どちらか一つ作れますよ。次は30を越えたらまた一つできます>

 「そうなのか? ご都合主義というか何というか……一般の冒険者でもそうなのか?」

 <レベルを上げたのはカケル様自身の努力ですから、運が良かったと思えば。一般の方は作ることはできませんね。ジョブのスキルを覚えるくらいなので、カケル様独自のステータスとお考えください。さ、カケル様の思う潜入スキルを思い描いてください>

 ……やっぱりティリアに『真実の水晶』を使ってもらうべきか? 今更だけど、やっぱりちょっとオーバーステータスな気がする。アウロラの思惑は知っておいた方がいいかもしれないな……。

 とりあえずこの件は保留にして、スキルを考える。一番いいのはやはり姿が見えないというのが理想だろう。今回の場合に限らず、堂々と歩けるのが潜入スキルとしては優秀だな。

 「よし、決めた。相手の認識を逸らすスキルにしよう」

 <かしこまりました。名前はどうしますか? もぎたてスイーツとかでいいですか?>

 何でだよ!? しかもセンスないなお前!

 んー、名前……名前か……。

 「『存在の不可視』ってのはどうだ?」

 <問題ありません>

 ピロン

 ナルレアが一言発した時、レベルアップの時に似た音が聞こえてきたのでステータスを確認する。

 スキル:存在の不可視 一度使用すると、他者から一切認知されなくなり、24時間効果が持続する。ただし、状況を問わず『誰かに触れる』と解除される。一度効果が切れると、30分は使用不可。

 なるほど、いいスキルだ。デメリットもあるけど、触れなければ24時間は堂々と城を歩けるってことだな。気をつけないといけないのは、誰かに触れるのが自分からでも相手から偶然ぶつかってもダメだと言うことか。

 「『存在の不可視』」

 自分では分からないが、身体を何かが覆った感覚があった。これで大丈夫なんだろうか? 丁度そこへおあつらえむきに兵士が一人、あくびをしながら歩いてくる。

 「どきどきするな……」

 <まさか……恋?>

 ティリア達がいなくなった途端饒舌になるナルレアをとりあえず無視して、兵士が通る道の横に突っ立ってみる。

 「……ふあ……眠……朝っぱらから魔王を連れて来るとか面倒なことだな……」

 まったく俺には気付かず、素通りしていく兵士。おお、これはいいな!

 <覗きをし放題ですね!>

 「うるさいな!?」

 「誰だ!?」

 「っと……!」

 俺は口を手で押さえて冷や汗を出す。兵士は槍を構えてきょろきょろするが俺は見えていないようだ。声は聞こえるのか、注意しないといけないな。

 「……まだ寝ぼけてるのかね、俺……さ、見回り見回りっと……」

 のんきにあくびをしながらまた歩いていく。

 「危なかったな……ナルレア、少し黙ってろよ?」

 <申し訳ありません>

 反省しているのか分からないシレっとした声で謝罪をしてきたので、俺もそれ以上は追及しなかった。それよりも早いとこ城内へ入らないとな……!




 ◆ ◇ ◆



 城内:執務室


 「光翼の魔王が来るよ」

 「え? なんでまた? あたし達のことバレたの? まさか裏切りエルフさん……?」

 「俺は知らんぞ。どういうことか説明しろ」

 すると最初に声を発した男がニヤリと笑い、話はじめる。

 「町に入ったっていう報告が国王にあってね。興味があるから呼んだんだよ。僕たちの邪魔をするのかどうか確認をしないとね」

 「邪魔をするなら始末する、か? しかし魔王相手に我等では太刀打ちできんだろう」

 大きな体躯をしたローブの男が腕を組んでため息を吐きながら意見する。他の者もそれに賛同して頷いた。

 「まあ、そうだね。僕も勝てるとは思わないよ、でも戦うの僕たちじゃない。そうだろ?」

 「……国を使ってやるのか? いや、そんなことをしなくても追い返して封印を壊せばいいはずだ。私は反対だ」

 「あたしもよ。そんなことをしたら危険が危ないじゃない!」

 「それに魔王を倒す戦力はエルフ達に向けるはずだろ? 関係ない魔王相手に戦力を消費しちゃまずいんじゃないの?」

 「ふふ、それもそうだね。(まあ、僕はやる時はやるけどね)」

 そこで執務室の扉がノックされる。

 「……マ、マオウ、ガ、トウチャク、シマ、シタ……」

 「早かったね。向こうにも何か考えがあるのかな?」

 「風斬の魔王に頼まれた、とかかな。それじゃ、光翼の魔王様を見に行こうか」

 ローブの集団はそれぞれフードを被り直し、部屋から出て行くのだった。
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