123 / 253
第五章:疑惑の女神と破壊神編
第百十六話 航海、二日目のルルカ
しおりを挟むミャー……ミャー……
「んあ……? 眩しいな……カーテン締め忘れたっけ……? なんか鳴き声がするな……」
俺は眩しさで目を覚まし、うっすらと目を開ける。すると、船の縁に白い鳥が羽を休めており、慌てて身を起こす。
「やべ!? 甲板でそのまま寝ちまったのか!?」
削夜……もとい昨夜レヴナントと話した後、寝転がって星を見ていたのだが、そのまま寝てしまったらしい。特に冷え込むといったこともなく快適だったせいだろう。
「よっと……!」
「おう、兄ちゃん起きたか。よー寝てたな」
起き上がって部屋に戻ろうとすると、小柄な爺さんに話しかけられた。赤と白の縞模様をしたシャツに赤いバンダナと、海賊って感じの服を着ていた。
「ああ、あんまり気持ちよくて……爺さんは? そういや、いつの間にか人が増えているな」
「カッカッカ! 全員で休んでおったのが一気に出て来たから驚いたろ? ワシはロウベじゃよろしくな兄ちゃん」
爺さん、ロウベさんが俺に握手を求めてきたので、握り返しながら自己紹介をする。
「俺はカケルだ。好きに呼んでくれ」
「そうか、ならカケルと呼ばせてもらうわい。さて、今から全力で飛ばすから酔わんようにな! カッカッカ、またのー」
ロウベさんは手を振りながらマスト付近へと歩いて行った。せわしなく人が動いているので、ここに立っていたら邪魔になりそうだ。予定通り、俺は部屋へと戻るため階段を降りていく。
すると今度は娯楽室でルルカに会った。
「あー! カケルさん見っけ! どこ行ってたの? 部屋に行ったらいないし、探してたんだよ」
「ちょっと甲板にな。俺を探していたってどうして?」
うっかり寝てしまったことは伏せ、俺はルルカに探していた理由を尋ねると、今まで保留にしていたことを言ってきた。
「三日、いや、もう二日かな。船の上だし、魔物もそう出て来るとも思えないからね。異世界のお話を聞かせてもらおうと思って!」
「そういやそんな話をしていたな。いいぞ、暇だし。ティリアとリファは?」
「むー。ボクとだけじゃ嫌なのかな? ……というのは冗談で、お嬢様はぐっすり気持ち良さそうに寝てて、リファは食べすぎでダウン、ってとこ」
あはは、と困り顔で笑うルルカは元気そうだった。
「ルルカは元気なんだな? 酒は飲んでたろ?」
「ボクは実験と称して色々やってるからね。お酒なんかも飲むからあの二人より全然耐性があるよ。というわけでカケルさんの部屋へゴー♪」
「俺の部屋でいいのか……?」
ルルカは俺の腕を引っ張り、上機嫌で廊下を歩き、すぐに部屋へと辿り着いた。
「……そういや教徒達の姿も見えないな」
レオッタは自業自得なので気にしないが、クロウの様子がおかしかった(面白いと言う意味で)ので部屋を覗いておく。
「……いるか、クロウ……?」
部屋に入ると、ベッドでクロウが寝ているのが見えた。
「この様子だとしばらく起きないか、ま、ベッドにいるならいいかな」
ただ、気持ち悪いくらいまっすぐ不動で寝ているので、息はしているものの不安になる寝方だった。まあ何かあったら言ってくるだろうとルルカと共に俺の部屋に入る。
「で、何を聞きたいんだ?」
「んー、そうだねえ。カケルさんの世界ってどんなところだったか聞きたいかな!」
ルルカがボフっとベッドへダイブしパンツが見える。無防備だ……襲われるとか思わないのだろうか……。それはそれとして、ルルカに日本のことを話す。
人口や、食べ物、仕事のことや、動物はいるけど魔物はいないといった違いに、電気やガス、通信といったインフラ関連など様々な話を。特に自動車や自転車、テレビの食いつきは凄かった。そして唯一持ち込んでいた電化製品、スマホをポケットから取り出す。
「……これが電話だ」
「へえー。これがあれば遠くの人と話すことができるんだ? あの時誰かと話していなかった?」
「そうだな。あの時は……いや、音がしただけだった。もう一つ必要だけど、例えばバウムさんに持ってもらっていたら、遠いエリアランドにいても話ができるんだよ」
アウロラのことは伏せておき、スマホの説明をする。一応、写真を見たり、音楽は聞けるので色々操作をしてやると、目を輝かせて見ていた。そういえば電池が減らないな? 電池マーク、こんなんだったっけ?
微妙に電池マークが違う気がするけど暇つぶしにはなるから使えなくなるまでいいか。そんなことを考えているとルルカがスマホに手を伸ばした。
「すごい……! ちょっと持ってもいい?」
「ああ」
俺はスマホを手渡すとしげしげと見つめながらぶつぶつ言う。
「……なるほど、鉄、もしくはもっと軽い金属ね……この世界だとセフィロトが近い? なら、セフィロトの通信装置を小型化すれば……」
顎に手を当てて呟くルルカは賢者の顔をしていた。キリっとしていると恐らくかなりモテそうである。
「……? どうしたの? ……ははあ、ボクにみとれていたのかな?」
「んー、まあそんな感じだ」
ニヤリと笑うルルカにそう言うと、顔を真っ赤にして俯いた。
「うーん……カケルさんってずるいよね……急にそういうこと言うんだから」
「ははは、からかわれたお返しだ。というかまたパンツ見えてるぞ……お前無防備だから気をつけろよ?」
「別にカケルさんならいいけどね。というか、ちゃんとそういうの見ている割には襲ってきたりしないから、信用してるんだよ?」
「そりゃ、どうも。ま、好きな相手にとっとけって」
何と返したもんかと、話を終わらせる感じの言葉を言いながら俺は椅子に背を預けた。しかし、ルルカはじっと俺を見ながら何かを思案しているようだった。
しばらく見つめ合っていると、ルルカが口を開いた。
「ボクはね、好きとか嫌い……恋愛感情っていうのが良く分からないんだよ。この人がダメ、とかそういうのはあるんだけど、いくらみんながカッコいいっていう人を見てもボクは何の興味も湧かない。それよりも面白い知識の方が全然いいね」
「そういう人もいるからそれはそれでいいんじゃないか?」
しかし以外にもルルカは首を振った。
「そういうわけにいかないよ! 恋愛感情がどういうものか、是非知りたい! ボクの知識に加えたいね。でもこればかりはねえ……」
「こればっかりはルルカ次第だもんな」
「ううん、そうじゃないんだ。多分、ボクの両親が関係している。ボクの両親は仲があまりよろしくなくてさ。小さい頃はいっつも喧嘩ばっかりしているのを見ていたよ。そんなに嫌いあっているなら何でボクを産んだのかって思ってた。そういうのを見ているから、もしかしたらどこかで恋愛をしたくないと思ってるのかもしれないね」
で、ルルカは実家から逃げるように学校へ入ったそうだ。魔力が高かったから。特待生として授業料も安くなったのがきっかけだったとか。
「学校は楽しかったよ。リファとはそこで知り合って、城で働けるようになったって訳。賢者は少数だからそれなりに優遇されてきたんだよ♪」
「へえ……」
「言い寄ってきた男の人もいたけど、一緒にいて楽しく無かったね。ボク、恋愛は分からないけど、子供は欲しいんだよね。ボクの記憶と技術を後世まで継いでいきたい。でも頭のいい人じゃないと嫌かなあ」
チラリと俺を見てほくそ笑むルルカ。またからかっているようだ。
「俺は頭が良くないからな、残念だ」
「んふふー、これが好きってことなのかどうかは分からないけど、今はカケルさんならいいかなって思ってるよ? ……試してみる……?」
何だか熱っぽい視線を投げかけてくるルルカだが、俺は俺で思う所がある。
「……風呂での話を聞いていたと思うけど、ウチはウチで最悪だったからな。子供をつくりたいと思わないんだよ」
「……そっか。んー残念! ボクと逆かあ!」
ベッドから降りて背伸びをするルルカの顔は妙に晴れやかだった。
「悪いな」
「悪くは無いよ! や、でもそう考えたら、カケルさんに子供が欲しいと思わせるのも面白い実験かもしれない……!」
何やら不穏なことをぶつぶつと言い始めるルルカ。
「おい……」
「あはは、なんてね! でも、気が向いたらボクはいつでもいいからね?」
「はあ……考え無しに言うな。それでも賢者か?」
「もちろん! それじゃ、そろそろお昼だし、二人を起こしてくるよ。それから、リファとも話してあげてね!」
「あ、おい」
「また後でね!」
何故か慌てて外へ出ていった。そんなに急がなくてもいいだろうに……何だってんだ……?
◆ ◇ ◆
「はあー……」
ルルカは少し廊下を走った所で息を吐いた。その表情は嬉しいような、悲しいような複雑な表情だった。
「カケルさんに拒否された時、胸が痛いって感じた……もしかしてボク、意外とショックだった? やっぱりカケルさんは面白いね。ボクの恋愛感情……手伝ってもらおうかな……?」
にまっと笑い、頭で色々と策を考える。
「向こうに着いたら夫婦の設定だし、楽しくなるかも……あ、その前にスマホを考えようっと。レヴナントさん、ガラクタとか持ってないかなあ。ユニオンに行って調達を……その前にセフィロトの仕組みを見せてもらいたい……」
ぶつぶつと呟きながらルルカは廊下を歩く。やはりまだまだ恋愛よりも研究の方が勝っているようであったとさ。
12
あなたにおすすめの小説
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
【第2章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む
凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……
ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。
そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。
※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。
※残酷描写は保険です。
※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる