125 / 253
第五章:疑惑の女神と破壊神編
第百十七話 聖華の都アウグゼスト
しおりを挟む「気を付けてのう、頭領!」
「ああ、行ってくるよ。留守は任せたからね」
ボートでまずは俺、ティリア、ルルカ、リファの四人を。次に往復でデヴァイン教のメンバーとレヴナントを岸まで運び、ロウベの爺さんは船へと戻って行った。
乗りこむ際に見つからないようにと思っていたが、幸い霧が深く、先の見通しが悪いためその条件はクリアできたようだ。
「さて、霧が濃いがおかげで助かった。クロウ、ここからどれくらいで到着できる?」
「アウグゼストの町までならそれほどかからないよ。三時間ってところかな。こっちだよ、行こう」
クロウが指さし、デヴァイン教徒たちがクロウの横について歩き始め、俺達もその後を着いていく。しばらく歩くと霧が晴れ、穏やかな気候の草原に足を踏み入れた。
「島だって聞いていたけど広いなぁ。でもあの聖堂のおかげで道に迷わなくて済むね」
ルルカが遠くに見える聖堂を眺めながらそんなことを言う。ちょっと気になったことがあったので、クロウへ聞いてみる。
「他にも町はあるのか?」
「ちらほらと村はあるけど、町はアウグゼストと、船着き場のある町がある。ここの生まれでもデヴァイン教から遠ざかって暮らす人もいないわけじゃないってことさ」
村か……師匠がそっちに潜伏している可能性もあるな……道を急ぐ俺達だったが、久しぶりに冒険者としての仕事をすることになった。
キェェェィ!
ガルルッゥ!
そう、魔物退治だ。草原に足を踏み入れた途端、でかい鳥や、狼に襲われた。
「意外と魔物は多いんだな!」
「俺達もあまり町の外にでることぁないが、たまに来る冒険者は稼げるっていってたぜ」
大男が素手で狼を叩きながら俺に言う。封印のあった山へいけたのもうなずける強さだった。
「特に強くも無いが、うっとおしいな」
「≪大地の牙≫! これは早く移動した方がいいね。馬車を置いて来たのは失敗だったかも?」
「仕方ありません。ボートに馬車を乗せるのは無理ですから。 ≪光の槍≫よ!」
ブルモォォォ!
「≪漆黒の刃≫! あ! こいつは……デリシャスリッチボア!」
「何だそりゃ?」
ドサリと首を切り落とされたフォレストボアを少し小さくみたいな魔物を見てクロウが呟く。こいつが最後の一匹だったようで、他の魔物は仲間がやられてたのを見てそそくさと逃げて行った。
「この島にしか出ないレアモンスターだよ! その肉はとても稀少で、これを狙いにわざわざ来る冒険者もいるくらいだ! ……とても美味しいらしい」
クロウがチラリを俺とデリシャスリッチボアを交互に見ながら口を開く。
「……食べたいのか?」
「カケルなら普通と違う料理を作ってくれそうだし……」
すると横でうんうんとティリアが頷いていた。美味しいと聞いて涎を出し過ぎである。
「なら持っていくか……解体できなくはないけど、美味いならちゃんとした人にやってもらうか……ホイコーローとかいいかもな……いや、豚バラ串もシンプルでいいか……?」
「ホイコーロー!」
「豚バラ串!」
俺がメニューを考えていると、バンザーイ! と、ティリアとハイタッチをするクロウがそこにいた。から揚げの件ですっかり料理にはまってしまったようだ。豚バラ串はともかく、ホイコーローは知らないのにお祭り騒ぎだった。
リファ曰く、ティリアも上品な食事ばかりだったそうで、味付けの濃い料理やジャンクフードはとにかく興味深いらしい。
俺のカバンにD.R.B(デリシャスリッチボア)を血抜きもせず突っ込んでおき、後でユニオンあたりに解体してもらおうと先を急ぐ。ちらほら魔物は出るが、遠巻きに見ているだけで襲ってくることはもう無かった。
――そしてついに町へと到着した。
「ここは入り口に衛兵とかいないんだな」
「それは本来降りるはずの船着き場で確認するからここはフリーね。といってもお金払って乗る定期便だから身分まで確認はしないけど」
俺の問いにレオッタが答えてくれた。さっきクロウも言っていたけど船着き場は別にあるんだもんな。
「とりあえずどうする? ユニオンに行くかい?」
レヴナントが手を頭の後ろに組みながら聞いてきたが、俺は首を振って答える。
「いや、まずは拠点となる宿を取ろう。レオッタ達は?」
「リーダーをあなた達に預けるから、私達は一旦戻るわ。宿の場所まで分かっていたら何かあった時に報告するわね」
「オッケーだ」
で、一軒くらいしかないだろうと思っていたが、意外にも宿は複数あり、聖堂を訪れる信者のために建てられているらしい。
とりあえず俺達はそれなりにお値段のする宿を取った。ちなみに俺とルルカ、レヴナントにクロウが同じ部屋で、リファとティリアは俺達とは他人のふりをして部屋を取る算段である。
「おや、神官様もお泊りに?」
「ええ、こちらは旅先で知り合ったご夫婦で、是非入信したいとおっしゃるので連れてきました。よくよくはこの土地に骨を埋めたいと……こちらの方もそのつもりだそうです」
とは、クロウのセリフ。神官モードだと口調が変わるらしい。すると、宿屋のおっちゃん、目に見えて嬉しそうに
「そうですか! ではこちらにサインを……お代はチェックアウトの時で大丈夫ですよ!」
「ありがとう。それじゃ行こうか」
「はい♪」
と、町に入る前に眼鏡を装備をして、賢者服を脱いだルルカが答える。その後ろからティリア達がチェックインしようとしているのが耳に入った。
「いらっしゃいませ」
「二人、同じ部屋で頼む」
「はいはい、もちろ空いていますよ! ……あなた方もデヴァイン教へ?」
「いえ、私達は冒険者なので稼ぎに……」
と、ティリアが笑顔で答えると、おっちゃんの顔が真顔になった。
「あ、そうですか。ではこちらにサインを。何泊くらいで?」
「あ、あれ? さっきの人達は後払いと……」
「ははは、嫌ですねお客さん! あちらは神官様がいて、なおかつ信者候補ですよ? だけどあなた達は冒険者だ、いつ逃げられるか分かったもんじゃありませんからね」
口では笑っていたが目は笑っていなかった。
「そ、それもそうだな。ではとりあえず三日ほどで……」
「三日ですねー。ではお二人で6万セラになります」
「ちょ!? 高すぎませんか!?」
「はい? 嫌なら余所の宿へ行ってください。ああー忙しい忙しい……」
「くっ……」
信者以外にはあくどいのか……これはちょっと言っておかないと、と思っていた所でクロウが前に出た。
「いけませんよ。信者ではないからと無下にしては。アウロラ様がそのような行為を許すと思いますか?」
「し、神官様!? まだいらっしゃったので……ああ、いえ……へへ……」
おっちゃん、バツが悪そうに頭を掻きながら冷や汗を出しつつ、目を泳がせるという高度な技を披露し、言い訳も出ない。
「適性価格で、いいですね?」
「は、はい! ……三日で24000セラになります」
一人一日4000セラなら妥当だろう。安宿はこの半分くらいだし。二人が支払い、部屋の鍵を受け取ってから俺達のところへ来る。
「神官様、ありがとうございます」
「助かりました。さすがは神官殿ですね」
「……行きましょう。そしてできれば入信していただきたいものですね」
「良かったな、二人とも」
「ええ、ありがとうございます見知らぬ人!」
神官モードのクロウが顔を赤くしてスタスタと歩いていく。これで俺達とティリアは『顔見知り』になったので、たまに一緒に行動してもおかしくはなくなった。
クロウはこの宿の主人はこういうことをするのを知っていたので、利用させてもらったと言う訳だ。
しかし『見知らぬ人』と宣言するのは怪しいぞティリアよ……。
とはいえ、拠点は確保できた。
今はまだ昼だし、この後は町へ出てみるとするか。
12
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。
いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。
そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。
【第二章】
原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。
原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。
異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい
木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。
下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。
キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。
家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。
隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。
一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。
ハッピーエンドです。
最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる