俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪

文字の大きさ
128 / 253
第五章:疑惑の女神と破壊神編

第百二十話 村人の主張

しおりを挟む


 「さっきの悲鳴はティリアか!」

 <急ぎましょう!>

 俺は鍵のかかった小屋にいるメリーヌ師匠を一旦諦めて宿へと駆けつける。師匠の話だと夕食が危ない。間に合ってくれよ……!

 宿へと入り、食堂へと走りこむと、リファが入り口に立っていたので声をかける。

 「リファ! 何があった! ティリア!」

 「あ、ああ……カ、カケル……! ルルカが……クロウが……!」

 「二人がどうし……」

 リファを押しのけて中へ入ると、アヒルが二羽、自分の羽を見てわなわなしていた。

 「ガ……ガア……!?」

 「グア……!」

 マジ有り得ない、そんな感じの表情だった。テーブルには野菜炒めがあり口をつけた後があった。

 少し頭のてっぺんが緑がかったのは……恐らくルルカで、茶色っぽいのは……クロウだと思う。

 「カ、カケルさん!? ルルカが! ルルカが!?」

 「落ち着け、料理を食べたらこうなった、それであっているか?」

 俺がみんなに尋ねると、レヴナントが頷きながら口を開いた。

 「その通りだ。どうしてそれを?」

 「ちょっとな。お前達はどうして無事なんだ?」

 「私は食べましたが変化はありませんでした。リファは……」

 「わ、私は……その、ピーマンが入っていたから、食べるのを躊躇したんだ……」

 ティリアは魔王だから何か耐性があったのだろうか? リファは……子供っぽい好き嫌いが幸いしたな。で、恐らくレヴナントは……

 「お察しのとおり、私は怪しいと思ったから口をつけなかったんだよ。これでも大盗賊だからね、警戒はするさ」

 ということらしい。普段はお茶らけているけど、レヴナントは実力者だ、そこは疑いようがない。

 「クロウは最近料理にハマりつつあるからな……俺のミスだ」

 「グエ!」

 俺が呟くと、羽を使ってポンポンと俺の足を叩いてくるアヒルクロウ。ルルカはとぼとぼと歩いてきて俺を見上げていた。

 「ガア……」

 ルルカを抱き上げるティリアが疑問を口にする。

 「しかし一体なぜこのようなことを……」

 「分からんが、答え合わせは今からできそうだぞ」

 俺がそう言ったと同時に、ドタドタと宿へ入ってくる足音が聞こえてきた。

 「へへ……今日も冒険者共が大量……だあ!?」

 ガツン! 俺の拳が最初に入ってきた男……門番をしていたやつにクリーンヒットし悶絶する。続いて村長と数名の男達が入ろうとして驚いて固まっていた。

 「確保ー!!」

 「おおお!」

 「二人を元に戻しなさい!」

 「おっと、動くと首がちぎれるよ……?」

 「ひ、ひい……!?」

 「な、何故アヒルになっておらんのだ!?」

 逃げる間もなくあっという間に俺達に捕縛され、村長以下数名は食堂の床に転がることになった。俺達を睨みつけたり、目を泳がせたりと対応は様々だが、村長は目を伏せて諦めたような顔をしていた。

 「さて、質問だ。口答えとかはしない方がいいぞ? 俺とこっちの子は……魔王だからな。どうなるか分からないぞ?」

 「ま、魔王だって……!? どうして魔王がこんな辺鄙な村に……」

 「余計な口もきくなよ? 俺達の質問に答えろ。まずはどうしてこんなことをしているのか、からだな」

 「……」

 一番悪い顔をして聞いてみると、村長は口をつぐんで喋らない。俺はレブナントに目で合図をすると、レヴナントは頷き、ナイフを持って門番の男へと近づく。

 「な、何をする気だ……!?」

 「いや、ちょっと片方の耳をきろうかと思ってね? どうやら言葉が通じ無いようだから無くても構わないかなと思ったんだよ」

 今のレヴナントは結構な金髪美人である。それがうっすらと笑みを浮かべてそんなことを言うので、男は青ざめて震えだした。

 「わ、分かった! 喋る! 喋るから!」

 「……仕方あるまい……魔王相手に逆らう方が無理と言うもの。私はどうなっても構いません、どうか他の者にはご慈悲を……!」

 「ガア!」

 「グエ!」

 もぞもぞと動きながら村長のマルタさんが懇願する。クロウとルルカに突かれながらも必死にお願いをしていた。

 「分かった。なら話してもらおうか」

 「は、はい……あれは数週間前だったでしょうか……ボロボロのローブを纏った旅人が村へ迷い込んできたのです。この通り、何もない村ですが、折角きたのだからと歓迎しました」

 「あの野郎さえ来なければ……」

 門番が悪態をつくと、リファが村長へ続きを促す。

 「それで、その男は……?」

 「男は二日ほど大人しくしていました。しかし突然『実験場に丁度いい』と言い、村人を次々とアヒルに変えてしまったのです」

 「やっぱり料理でですか?」

 「いえ、その時は水でした。飲んだもの、かけられたものはアヒルに……」

 するとレヴナントが顎に手を当てて呟いた。

 「……魔法じゃないのかな? でも、アヒルに変えるなんて芸当は聞いたことがないね」

 「どちらかと言えば魔法薬の類のようでしたが、何ぶん私達はそういうものに疎いもので……一応、本人も魔法使いだと言っていました」

 封印されていたヤツみたいな感じじゃなさそうか? ならやりようはあるか。

 「で、協力していたからには何か弱みでも握られたのか?」

 すると別の男がぶすっとして口を開いた。

 「……ああ、村長は奥さんをアヒルにされた上、連れて行かれた。他の連中も嫁が連れていかれたり、子供がアヒルに変えられたりして迂闊に逆らえない」

 なるほどな……それともう一つ、気になる点がある。

 「それは分かったが、師匠もアヒルに変えられていた。それとさっき『今日も冒険者が大量だ』と言っていたが、どういう意味だ?」

 「実はアヒルの中には冒険者も居るのです。それも一人や二人じゃなく何十人も」

 「やっぱりか。でも冒険者が町じゃなくこっちに来たんだろうな……?」

 ユニオンの依頼はメリーヌ師匠以外受けた話を聞いていない。となると直接こっちに来ていたことになる。

 「それは私達にも分かりませんが……船着き場に仲間がいるのかもしれません。どうもあの男の口ぶりだと数人で何かをしようとしている感じでした。アヒルにする理由までは分かりませんが……」

 それが分かれば苦労は無い、か。

 だが、話は分かった。となるとこれからすることは二つ。

 「恐らく教えてもらっていないだろうけど、アヒル化を戻す方法は?」

 これがまず一つめ。

 「申し訳ありません……流石にそれは教えてはくれませんでした」

 まあそうだろうな。戻し方が分かっていたら、無理して取り返しに行く人も居るかもしれないしな。ならば二つ目だ。

 「その男はどこにいる?」

 「……」

 しかしこの問いには村長は答えなかった。するとレヴナントがため息をついて話しだす。

 「言うと家族を殺されると脅されているんだろう。しかし、村長、これはチャンスだ。こちらには魔王が二人いる、その男に嗅ぎつけられる前に取り返すことができるかもしれないよ? それに私も大盗賊だ、盗むのは得意だよ」

 「む、むう……」

 それでも歯切れが悪い村長に俺は言った。

 「俺は回復が得意な魔王だ、もし万が一があっても……このとおりだ」

 「カケルさん!?」

 俺は槍で自分の足を刺し、血を流す。ごくりと喉を鳴らす村の人間が見ている中で、俺は『原初の光』を使い、怪我をあっという間に治す。

 「す、すごい!? あなた方ならもしかすると……わ、分かりました、お教えしましょう」

 「村長!?」

 「言うな、こんなことを続けていて、妻たちが戻って来たときに顔向けができるか? 私はかけてみようと思う」

 「……村長がそう言うなら……」

 男達はざわざわしていたが、話はまとまったようで、村長が意を決して口を開いた。

 「あの男はここから北へ行ったところにある洞窟へ潜伏しております。アヒル化の薬を量産するつもりなのでしょう」

 「後、魔物が多くなったってのは本当だ。あの男が来てからだから、そっちの線も怪しい。注意した方がいいぜ」

 村長の後に門番の男がそう言いって注意を促してくれた。見知らぬ男を歓迎するあたり、本当はみんな良い人たちなのだろう。

 「夜も遅いけど、逆に奇襲になるかな? どうする、行くかい?」

 「ああ、さっさと終わらせてメリーヌ師匠を元に戻そう……戻す手段が無かったら……」

 「ガア!?」

 「グエ!」

 バンバンと俺の足を叩く二羽。それは耐えられないと言わんばかりだ。そろそろ声が聞こえてきそうだけどな。

 「ではすぐに出発しましょう」

 ティリアの言葉で俺達は頷く。

 それじゃ、厄介事を片づけに行きますかね。 


 




しおりを挟む
感想 586

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

前世で薬漬けだったおっさん、エルフに転生して自由を得る

がい
ファンタジー
ある日突然世界的に流行した病気。 その治療薬『メシア』の副作用により薬漬けになってしまった森野宏人(35)は、療養として母方の祖父の家で暮らしいた。 爺ちゃんと山に狩りの手伝いに行く事が楽しみになった宏人だったが、田舎のコミュニティは狭く、宏人の良くない噂が広まってしまった。 爺ちゃんとの狩りに行けなくなった宏人は、勢いでピルケースに入っているメシアを全て口に放り込み、そのまま意識を失ってしまう。 『私の名前は女神メシア。貴方には二つ選択肢がございます。』 人として輪廻の輪に戻るか、別の世界に行くか悩む宏人だったが、女神様にエルフになれると言われ、新たな人生、いや、エルフ生を楽しむ事を決める宏人。 『せっかくエルフになれたんだ!自由に冒険や旅を楽しむぞ!』 諸事情により不定期更新になります。 完結まで頑張る!

処理中です...